チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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先日は、日刊ランキングの総合、ならび二次創作にお邪魔させていただきました。
日頃のご愛顧、重ねてお礼を申し上げます。


ストッパーって大事よね

「・・・・?」

 

熱気の中で、クリスは意識を取り戻した。

背中に乗っていた瓦礫を退かしながら、砂埃から庇った目を開く。

 

「・・・・了子?」

 

開いた端から乾く眼球でとらえたのは、熱風にたなびく白衣。

そして、何か黒いものを天高く掲げている了子。

 

「了子、何があったんだ?バカは?先輩は・・・・!?」

「くりす・・・・?」

 

痛む節々に喝を入れながら立ち上がると、力のない返事が返ってくる。

首を傾げそうになったクリスだったが、同じく倒れている翼と、一際大怪我を負っている響を見て吹き飛んだ。

 

「っ先輩!!バカ!!おい、生きてるか!?起きてくれ、返事してくれ!!」

「・・・・ぐ」

「ぁ、ぅ・・・・」

 

翼は遠慮なく揺さぶり、響は傷を労わり軽く叩いて。

二人の覚醒を促すクリス。

未だ背を向けたままの了子は、その声を聴いたことがトリガーになったようだ。

 

「ぁあ・・・・よかった・・・・」

 

全身の力を抜き、ぐらりと体を傾けて。

 

「了子ッ!?」

 

骨まで炭化した左腕を砕きながら、倒れ伏したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G.は、まごうことなき敗北を喫した。

次々繰り出された敵の手札に対応しきれず。

その結果が技術主任である了子と、シンフォギア装者の一人である響の負傷。

そして、風鳴機関の文字通りの消失だった。

あの時上空に出現した、パヴァリア光明結社の首魁らしき男性。

彼が放ったツングースカ級の、理不尽極まりないまでの暴力的な火力によって。

跡形もなく消えたのである。

幸い異常に気付いた職員が、即座に風鳴本家が管理する別サーバーへ避難させたため。

電子化されていたデータは全滅を免れたものの。

紙媒体のものや、もちこまれていたバルベルデ文書。

更にはそれを解読していた装置は、塵一つ残らず蒸発してしまったのである。

了子が決死の覚悟で装者を守り抜いた区画は無事だったが、データ保管とは全く関係のない場所だ。

はっきり言って、無意味な事だった。

 

――――さて。

 

そんな始末に、誰よりも腹を立てている人物がいる。

『防人の中の防人』『日本の真の支配者』『怪物』『牙』。

最後の世界大戦から百年余り、今もなお現役にて日本国土を守護せし防人。

『風鳴訃堂』、その人である。

 

「――――聞くに堪えんッ!!」

 

現場の責任者であった弦十郎、ならびに、作戦を認可した八紘。

二人の息子達の報告を聞いた訃堂は、開口一番に吐き捨てた。

 

「風鳴機関の使用を許したのは、国連に借りを作る為。だというのに、何という為体かッ!!」

 

齢百を超える御老公の一喝に、口を結んで怯む弦十郎。

横目で兄八紘が涼しい顔をしているのを見て、『さすが兄貴だ』と一瞬現実逃避してしまう。

 

「夷狄の手がかりを失うばかりか、『被災地松代への支援』という形で借りを作りおって!!これを足掛かりに他国から干渉されれば――――!!」

「――――お言葉ですが」

 

そんな大噴火に、割って入る声があった。

弦十郎達と、訃堂のちょうど相中。

障子側に座っている女性だった。

小豆色に菖蒲や柊、そして千鳥が踊る振袖が。

障子からの陽光に当たって煌めいている。

 

「現在S.O.N.G.が相対しているパヴァリア光明結社は、未だその実態を未知数としております。櫻井了子という生き字引がおりましても、出方の全てを把握しろなどと酷というもの」

「・・・・ではなんとする、生剣(いするぎ)

「作戦自体を隠蔽致します」

 

『生剣』。

そう呼ばれた女性は、訃堂の眼光など意に介さず。

問いかけに即答した。。

 

「風鳴翼以下二名がバルベルデより帰国した際の襲撃にて、連中の先んじた来日は明確になっておりました」

 

確認の様に目を向けれられた弦十郎は、気圧されながらもこっくり頷く。

 

「であるならば、その時点でこちらの手札をある程度把握されてしまっていると考えるべき。風鳴機関本部の居所も割れていたことでしょう、あるいは、我々では対処しようもない方法で尾行されていたやもしれません」

 

『そもそも』と、今度は切れ長の目を訃堂へ滑らせて。

 

「『自衛隊による大規模作戦』などと騒ぎ立てたまでは良いのです。ただ、バカ正直に風鳴機関を中心に据える必要などなかったはず。現に、夷狄に容易く捕捉された挙句、蹂躙されてしまったではありませんか」

「それは、愚息率いる組織が――――」

「敵方の情報が不足しているとさきほど申しましたが、聞こえなかったようですね」

 

目の前にいるのが怪物と呼ばれた男であっても、関係ないらしい。

二の句を一刀両断して、言葉を続ける。

 

「何より、名目上は『善意』にて差し出された手を、『邪な企み』などと罵ってしまえば、日ノ本の敵は益々増えるというもの。よもや、その道理が分からぬ貴方ではございますまい」

「・・・・ッ」

「どこに目耳があるか分からぬのです、発言には十二分にお気をつけなさいませ、御前様」

 

言い切った生剣が恭しく一礼するのと、訃堂が出ていくのは同時だった。

 

「・・・・」

 

御老公の気配が遠ざかってから、もう用はないとばかりにゆっくり立ち上がった生剣。

残された八紘や弦十郎に何を言うでもなく立ち去ろうと、従者が開けた障子をくぐった時。

 

「――――あのッ」

 

背後からの声に、足を止めた。

止めたが、それだけだ。

振り向くことはしない。

 

「・・・・沙汰もなく、すみませんでした」

 

声をかけた本人、翼は。

震えながらも三つ指をついて、必死に言葉を絞り出す。

束の間、両者微動だにしなかったものの。

 

「・・・・本家へ」

「はっ」

 

一方の生剣は、黙したまま何も返さず。

結局、礼儀として一礼する付き人を伴って、去っていくのだった。

 

「・・・・さすが、だな」

「・・・・ああ」

 

やり取りを見ていた弦十郎が一人ごちれば、思うところがあるらしい八紘は静かに同意した。

生剣があそこまで訃堂に意見を出来たのには、その家柄にある。

――――『生剣家』。

その歴史は風鳴に並び、天皇と深く関わってきた名家だ。

風鳴と同じく皇族を主としているものの、別勢力として扱われており。

普段は要人の身辺警護はもちろんのこと、政界や警察、自衛隊などを中心に。

日本の防衛や運営に幅広く携わっている。

風鳴と活動の場が被っているのは、彼らだけに与えられた特別な役目が故。

『防人の監視』を行うためである。

如何に風鳴が優れた守護者と言えど、その権力に溺れ、日本に混乱を招いては元も子もない。

なので、普段は一段格下として膝をつきながらも。

風鳴が国賊となった暁には、即座に首を撥ねる責務が与えられているのだ。

例え、敗戦をきっかけに軍隊を失くした日本を、百年余り守り切った猛者であろうと、である。

もちろん殺すのは最終手段であり。

そもそもそうならないように忠告するなど、基本は穏便な手段を用いているのだが。

畏怖を込めて『防人殺し』『風鳴殺し』とも呼ばれるのは、当然のことと言える。

さきほど訃堂に物申した女性は、そんな一族の本家に名を連ねる一人だった。

 

「翼、大丈夫か?」

「叔父様・・・・ええ、すみません。取り乱しました」

 

弦十郎と八紘も部屋を出れば、暗い顔で何か思い詰めている翼。

先んじて弦十郎が話しかけると、すぐに何でもないように取り繕う様が痛々しい。

 

「・・・・あれに関しては、お前が責められる謂れは欠片もない」

 

言いながら、八紘は手を伸ばして。

立ち上がった翼の頭へ、そっと乗せた。

 

「仮に罪があったとて、それを雪いでなお有り余るほどにお前はよくやっている・・・・風鳴のお役目を、心を、立派に受け継いでいるよ」

「お父様」

 

それから撫でてやれば、翼は照れくさそうに俯いてしまった。

 

(そうだとも、よくやってくれている)

 

これ以上はいい年だからと言われてしまいそうなので、ほどほどにして。

今度は弦十郎に励まされている娘を見守りながら。

八紘は、一人思いふける。

 

(翼はノイズ根絶の英雄として、日本が一目置かれる要因となっているし。弦もまた、特異災害に立ち向かう指揮官として名をはせている)

 

何より、と。

眩しいものを見るように、目を細めて。

 

(敵であった者をも味方に引き入れるという天性の才に、弦は恵まれている)

 

事実、一度は混乱を生み出した櫻井了子然り、キャロルの配下であった自動人形(オートスコアラー)然り。

人を惹きつけ、味方を増やす力があると、八紘は弟を評価していた。

 

(――――私などとは、大違いだ)

 

馳せるのは、一人の女性。

守り切れなかったことが、今なお尾を引く(ひと)

 

(だからこそ)

 

いつの間にか閉じていた目を開く。

翼と弦十郎を視界に収める。

 

(いつか、生剣と事を構える時が来たならば、彼らだけでも逃がさねばならん)

 

今や日本の希望である彼らを、何としても守らねばならない。

 

(それが私に出来る、数少ない事なのだから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるリゾートホテル。

ワンフロアを貸し切った、その一室。

広いダブルベッドのど真ん中に陣取り、ゴロニャンと全力で甘えるティキを侍らせている男性がいる。

 

「お久しぶりです、統制局長」

「ああ、何よりだよ、元気そうで」

 

サンジェルマン達幹部を従える彼こそが、パヴァリア光明結社の創始者にして。

その全てを束ねる統制局長。

無欠の人『アダム・ヴァイスハウプト』だった。

 

「しかし、昨夜の黄金錬成についてはご説明を頂きたく」

「確かに、あのままだとあーし達、『こんがり、サクッ、ジュワッ』だったわよねー」

「何より、あのまま攻めていても勝てたワケだ」

 

三者三様に攻め立てられても、悪びれずに笑うだけ。

強者ゆえの余裕なのだろうか。

 

「みんな!せっかくアダムが帰ってきたんだよ!ギスギスするんじゃなくて、キラキラしようよ!!」

「どうどうティキ・・・・何、しまったのさ、張り切ってね。思ったのさ、あわよくばと」

「まったく・・・・」

 

困った顔をするサンジェルマンに、目に見えて呆れた顔をするカリオストロにプレラーティ。

 

「それで」

 

『参ったねぇ』と、やはり人ごとの様にごちたアダムは。

その目を、膝をついて控えているイヨに向けた。

 

「君か、イヨは」

「はい、お初にお目にかかります」

 

声を掛けられ、より一層頭を下げるイヨ。

アダムは、顔を徹底的に隠す装いについて。

特に思うところがないらしい。

 

「結社の中では一番の新参ではありますが、占いや(まじな)いに秀でているので重宝しています。ティキや風鳴機関の位置を、占いで絞り込んだのも彼女です」

「拾い物だね、とても良い」

 

サンジェルマンの評価に、カリオストロやプレラーティの二人も頷かざるを得ない様だ。

目を細めたり、口を結んだり。

突然転がり込んできた新参者への警戒は、未だ解けていないようだが。

周囲の態度を知ってか知らずか、イヨは『お言葉ですが』と口を開いて。

 

「わたくし一人の力に非ず、すべては御身の威光が導きました結果故に」

「そのとーり!アダムの周りに女の子が増えるのは()だけど、アダムとのキューピッドになったことは褒めてあげる!!」

 

アダムをひたすら立てる彼女の様子に、ティキもご満悦だ。

 

「使ってくれ、力を、これからも。為だからね、悲願の」

「は・・・・付きましては離席をお許し頂きたく、彼奴らの動向を、また探らねばなりません」

「許すよ、もちろん」

 

切りのいいところで断りを入れ、退出したイヨ。

 

(もうすぐ、もうすぐだ)

 

用意された託宣用の部屋へ、足早に向かいながら。

ふと、笑みを浮かべた。

 

「待ってて、■■■」




XVを見てから登場させたかったオリジナル勢力『生剣家』の登場でした。
本格的に動くのは、おじじと同じくXV編になってからです。





P.S.
訃堂おじじ、個人的に一番書きにくい人かもしれません。
一概に悪と言えるかどうかと言うと、『うーん』となってしまうので・・・・。
筆の技量が試される・・・・!

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