チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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今年最後の投稿です。
一足お先に、『良いお年を』の言葉をお送りします。


お蕎麦食べたい!!!!

トレーラーの窓から、『ぞろぞろ』じゃ利かない数の群衆が歩いているのが見える。

現在わたし達がいるのは、長野県は松代。

翼さんや司令さんのご実家が舵取りする国防の大黒柱、『風鳴機関』の本部が置かれている。

この前命辛々持ち帰ったバルベルデ文書の暗号を解析するべく、ここの演算器で解読しようということらしい。

で、仮にも諮問機関というワケで、一般人の皆さんには一時的に疎開してもらっている次第だ。

一応安全確保のためという建前はあるけれども、『正直ここまでやるか?』なんて感想が無いわけではない。

 

「『風鳴機関』が守ろうとしているのは、人ではなく国だからな」

 

どうやら調ちゃんが似たようなことを口にしたのか、翼さんがそう零したのが聞こえた。

人ではなく国、かぁ。

そりゃあ、領土がなきゃ住む場所がなくて困るし。

実際、それが理由で起こっている紛争は星の数ほどあるけどさ。

だからって、国土を、土地ばかりを大事にして。

そこに住む人に無理を強いるのは、なんというか違う気がする。

国民が居なきゃ、『国』って名乗れなくない?

二千年近い歴史を持つ日本だって、ただの無人島になっちゃうよ。

 

「さあ、そろそろ任務を開始してくれ。敵影はもちろんのこと、些細な不審点も見つけ次第報告すること」

 

なんて素人考えを巡らせている間に、時間になった。

これから人払いした区域の見回りだ。

肝心のLiNKERがない今、マリアさん達(+未来)は二人組を作って繰り出すことになる。

ちゃんと2・2で別れるから、あぶれる悲しい人もおらんで!

 

「一緒に回ろうか」

「はい」

 

調ちゃんに話しかけている未来にほっこりしながら、わたしも外に出た。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

誰もいなくなった松代の町並みを、シンフォギア装者は一人、あるいは二人組を組んで巡回していた。

木々が青々とする中に、住宅や畑が点在する景色は。

のどかな田舎のはずなのに、どこか言いようのない緊張感が漂っている。

 

「こっちは大丈夫そう、そっちはどうかな?」

「えっと・・・・はい、大丈夫です」

 

その中を、未来と調は双眼鏡片手に歩いていた。

今のところ不審な物や人影は見かけていない。

さすがに田舎にはありふれた建造物や設置物に偽装させられていたら、どうしようもないのだが。

忘れがちであるが、彼女達はまだ十代半ばの少女なのである。

なので、シンフォギア装者以外にも巡回している職員がいた。

今はまだすれ違うなどしていないが、頼もしいことに違いはない。

 

「お仕事じゃなくて、観光とかで来たかったね」

「そう、ですね。長野だから、お蕎麦とかがおいしいって聞きました」

「ふふふ、切歌ちゃんなら山賊焼も好きそう」

「スーパーの、焼くだけで出来るやつで食べたことあります。あれ、長野の名物だったんだ」

 

周囲警戒を怠ら無い程度に、緊張しすぎないよう世間話を展開させていく。

 

「長野と言えば、虫料理もそうだね」

「・・・・あの、それって調理法とかではなく?」

「うん、蒸しじゃなくて虫だね。イナゴの佃煮って聞いたことない?」

「ああ、あれ長野(ここ)だったんですか・・・・」

「ほっといたら田んぼを食べつくしちゃう厄介者だから、逆に食べて退治しちゃおうってなったんじゃなかったかな」

「な、なるほど・・・・?」

 

ちなみに件の佃煮、味はエビに近いそうな。

話がひと段落したので、そろそろ職務を全うしようと。

二人一緒に歩みを早めようとした、その時。

 

「デェーッス!!!!!!!」

 

空気を引き裂かんばかりの、悲鳴。

特徴的なその声の主と言えば。

 

「切ちゃん?」

「何かあったのかな?行ってみよう」

「はい!」

 

聞こえた声から判断したところ、幸い切歌とマリアのペアとは近いようだ。

互いを見あって、頷き一つ。

未来と調が急ぎ足で駆けつけてみれば。

農作業用の籠を背負った、老齢の女性と。

彼女に何故か餌付けされている切歌の姿があった。

 

「マリアさん、あの」

「さっきの切ちゃんの叫び声は・・・・?」

「ああ、あなた達。心配させてしまったわね」

 

苦笑いを浮かべたマリアに曰く。

人影を見つけた切歌が『252デース!』と突貫したのが始まり。

ただのカカシであったショックで上げた叫び声が、未来と調が聞いたものだった様だ。

その後カカシと畑の持ち主である老女と遭遇。

この緊急時の中、畑仕事を続けていた老女へ口頭注意をしている最中。

『おひとつどうぞ』と、収穫したトマトをおすそ分けしてくれたそうな。

 

「スーパーで売ってるものより、甘い!」

 

未来が話を聞いている間に、調もおすそ分けをもらったらしい。

普段の落ち着いた雰囲気とは裏腹の、輝かんばかりの笑顔を浮かべている。

採れたての野菜は旨味が格別だと言うし、今回もその例に漏れなかったんだろうなと。

感動を一生懸命伝えようとしている調と切歌を、未来とマリアが見守っていると。

 

「あーら、三色団子に羊羹まで揃い踏みだなんて」

「ッ何者!?」

 

突如振ってきた声に、警戒を露わにした面々が振り向けば。

バルベルデでも遭遇した、パヴァリア光明結社の幹部が。

確かカリオストロと呼ばれていた女性が、こちらを不敵に睨んでいた。

 

「ギアのない装者なんて、簡単に潰せちゃうのよネェー?」

「ッ逃げるわよ!」

 

悔しい限りだが、実際その通りだ。

ギアも何も意味を為さない相手に、マリア達が何か出来るわけではない。

老女を背負ったマリアを筆頭に、一斉に駆け出した。

カリオストロもすぐにアルカノイズを召喚の上、追跡を始める。

本部に連絡は入れた、後はひたすら逃げるだけだ。

・・・・相手もそう簡単に逃がしてはくれないだろうが。

 

「あはははッ!どこまで逃げ切れるかしらーッ!?」

 

大分高揚した様子で追いかけてくるカリオストロ。

彼女が振るう腕に合わせて襲ってくるアルカノイズは、まるで指揮棒に従うオーケストラの様だ。

細々と煽ってきたと思えば、時に大胆に追い詰めてくる。

それに対して装者達は、一緒に蛇行して走ったり、時々散開して攪乱することで抵抗するものの。

やはり、だんだんとジリ貧になっていく。

 

「あ、あなた達、私だけでも置いて――――」

「その提案はナシよ、おかあさん!!『英雄』を見くびらないで頂戴!」

 

自分が荷物になっていると判断した老女が、意を決して口を開けば。

マリアは毅然と却下を称えた。

 

「その通りデス!」

「頼れる仲間はもう呼んでありますから!」

「もうちょっとだけ、一緒に頑張りましょう!」

 

切歌に調、未来も口をそろえて鼓舞するものの。

残念ながらそんなことで現実は好転しない。

 

(ッ引き離せない・・・・!)

 

相手の攻撃が、足元スレスレに迫ってきた。

投擲された分解器官の一つが、とうとう直撃しそうになって。

その全てが、降り注いだ弾幕に貫かれた。

 

「クリスッ!!」

「早く逃げろッ!!」

 

カリオストロを通せんぼする為に降り立ったクリスは、それだけを手短に伝えると。

即座に戦闘へ移った。

ノイズの一匹も逃さないとばかりの弾幕を張り、マリア達が逃げる隙を確保。

一方で、目の前の敵を仕留める腹積もりで攻め込む。

対するカリオストロもまた、アルカノイズを撒く手を止めて応戦。

錬金術で生み出した光弾を負けじと連射しながら、クリスと対峙する。

鉛玉と光が何百と行き交う中、激しく競り合う両者。

攻防の最中、弾丸をすり抜けてきたカリオストロ。

片手に燐光を掲げ、クリスへ肉薄してきた。

 

「ッ近すぎんだよ!!」

 

グレネードによる、一等強い一撃。

爆発に巻き込み引き離したクリスは、アームドギアを弓に変えてつがえたが。

 

「油断は大敵よん♪」

 

あっという間に煙から飛び出してきた、カリオストロが一歩早かった。

不敵な笑みと共に、火炎を叩き込もうとして。

 

「――――ああ、油断大敵だな」

 

真横の気配に気づいたのは、目の前の口角が上がった時だった。

振り向いた時には、すでに拳が胴体に突き刺さっていて。

 

「ゥオラァッ!!!」

「ぐ、はっ・・・・!!?」

 

響の一撃は、カリオストロの体を刹那のうちに吹き飛ばしていた。

その様、大砲から打ち出された砲弾の如し。

 

「ッ・・・・!」

 

地面を水きりの様に跳ねながらも、何とか体勢を立て直すカリオストロ。

高台に揃い立つ響とクリスを見据えながら、立ち上がろうとして。

何の気なしに伸ばした手が、あるはずのないものに触れたことに気付く。

 

「壁?」

「壁とは不躾なッ!(ツルギ)だッ!!」

 

動揺した頭で口を開けば、憮然とした声が振ってきた。

見上げると、壁だと思ったものは巨大な剣であり。

動ける装者の最後の一人である、翼も駆けつけたことの証明でもあった。

 

「飛んで火にいる夏の虫とは、このことだ。――――大人しくお縄につきな、お・ね・え・さ・ん?」

 

口元をぱっくり三日月に割って、悠然と迫る響に気圧されるカリオストロ。

背後には翼も控えているし、よしんば逃げたところでクリスの狙撃に手傷を負わされるだろう。

万事休すか、と、冷や汗を流したその時だった。

 

「――――こんなところにいらしたんですか、カリオストロ様」

 

しゃらん、と布が揺れる音。

 

「あんた・・・・!」

「まだ何も整っていないのに飛び出されて・・・・サンジェルマン様がお困りですよ」

 

カリオストロの背後を庇うように降り立ったイヨは、知己に向けるような口調でたしなめる。

 

「『ご自分に嘘をつかない』、ええ、素晴らしいポリシーですし、理解も示します。ですが、此度貫くのは些か違うのでは?」

「ッ・・・・正論なのがまた腹立つ・・・・!」

 

どうやら彼女達の間には蟠りがあるようだが、サンジェルマンの名前が出ると協力せざるを得ないらしい。

苦々しく歯を剥いたカリオストロが、胸元からテレポートジェムを取り出した。

 

「逃がすか!!」

 

相手の逃走に気付いた装者達。

クリスがグレネードを放ち、響はその牽制に乗じて一撃を叩き込もうとする。

 

「それこそさせません」

「な、ぐあぁ!?」

「バカ!?」

 

が、煙から躍り出たイヨが、まぁるい障壁を展開。

拳とグレネードを受け止めるばかりか、くらったはずの衝撃をそのまま反射。

咄嗟の反応も出来なかった響は、仲間の攻撃を受けたも同然に吹き飛んで行った。

 

「立花!?おのれ・・・・!」

 

地面をバウンドした響に、クリスが駆け寄っているのを横目に。

手傷だけでもと翼が切りかかる。

だが、狙われていたカリオストロとの間にイヨが割り込めば。

案の定斬撃が翼に返されてしまう。

 

「ぐッ・・・・!」

 

防御が間に合ったものの、後退せざるを得ない翼。

追撃を繰り出す余力は十分にあったが、障壁を展開したイヨを前に足踏みをする。

 

「カリオストロ様」

「分かってる!あんたも遅れないでよね!」

「承知しております」

「ッ待ちやがれ!!」

 

今度こそテレポートジェムを叩きつけ、撤退を始める両者。

クリスが、手の届きにくい足元を狙って発砲するも、一歩遅かった。

 

「・・・・ッ!!」

 

彼女らの去り際、少しでも情報を得ようと睨みを利かせていた翼は。

転移の際に発生した突風で、イヨの布面が激しく煽られたのを見た。

 

「・・・・・?」

 

――――刹那。

瞳の色や鼻の位置などを、覚えようもない一瞬に。

何とも言えぬ既視感を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、今の・・・・・!」

「ああ、間違いない」

 

S.O.N.G.本部では、また別の既視感が確認されていた。

呆然とする友里に、弦十郎ははっきり頷く。

 

「今観測されたアウフヴァッヘン波形を調べろ!未知の敵、イヨの手がかりがつかめるかもしれん!!」

「はいッ!!」

 

指示を飛ばす一方で、素早く思考を巡らせる弦十郎。

パヴァリア光明結社の目的は、依然として掴めぬまま。

男装の麗人(サンジェルマン)エキゾチックな美女(カリオストロ)眼鏡の少女(プレラーティ)の三人ならまだ分かる。

サンジェルマンの目的に、他の二人が賛同し協力しているのだと予想が出来るからだ。

だが、イヨは。

たった今、装者達を圧倒せしめた彼女の存在は。

異質と言う他なかった。

彼女ら三人を上司と仰ぎ、アレクサンドリア号事件での下手人であるということ以外。

何もつかめないのである。

 

(お前は、何を考えている・・・・?)

 

S.O.N.G.の優秀なカメラで、辛うじて捉えた布面の下。

靡く銀髪の下の、爛々と輝く目を見返しながら。

弦十郎は眉をひそめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ねむれ、ねむれ」

 

喉を震わす、歌を紡ぐ。

 

「母の胸に」

 

冷えていく体を無視して、空いた風穴を見なかったことにして。

無くなった片腕を頭の隅に追いやって、乾き始めた赤い水溜りに気付かないふりをして。

 

「ねむれ、ねむれ」

 

ずっとずっと頑張ってきた、諦めないで手を伸ばし続けた。

その果てに、望んだものを掴み取った英雄が。

 

「母の背に」

 

少しでも、ほんの少しでも。

安らかに眠れるように。

 

「こころよき、うたごえに」

 

もう頑張らなくていいのだ、泣かなくていいのだ。

苦しまなくていいのだ。

 

「結ばずや」

 

――――喜ばしいことの、はずなのに。

 

「た、の、し・・・・ゅ、め・・・・」

 

こらえきれなかった涙が。

土気色の頬に落ちていった。




来年もどうぞよろしくお願いします。

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