チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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トリックオアトリートッ(感想か評価か)!!


備えあれば患いなし、備えられない場合は・・・・頑張れ

白い砂浜と、蒼い海、そして吸い込まれそうなほどに晴れ渡った空。

最高のロケーションに建つ、リゾートホテルの一室。

せっかくのスイートルームを暗く締め切った中で、サンジェルマンはオペラハウスで手に入れた『者』を。

オートスコアラーをベッドに横たえさせた。

次にテーブルの上に置かれた遺物を、シャンファを名乗ったイヨが無事盗み出してきた『アンティキティラの歯車』へ指を振る。

刹那、纏った石くれを弾けさせて浮き上がる歯車。

そのまま術式を展開させて、オートスコアラーの眠るベッドへ近づけた。

当然の様に開いたオートスコアラーの胸元が、歯車を受け入れれば。

頭部を覆っていたヘッドギアの、部分が光りだす。

途端に、部屋中にあふれ出したのはプラネタリウム。

時間、季節、月や各惑星の周期を示す様々な時計に囲まれて、星空が瞬きの間に巡っていく。

 

「う・・・・ぁ・・・・ぉ・・・・」

 

オルゴールに似た、ポン、ピンという音。

ベッドに横たわっていたオートスコアラーが、ゆっくり起き上がった。

機械じみた、いっそ気味悪くも見える所作の後。

ヘッドギアを自ら取り外して、呆然と前を見る。

 

「久しぶりね、ティキ」

 

サンジェルマンに話しかけられると、なおぼんやりとした後で。

急にぱっと笑顔を浮かべて。

 

「ああ、サンジェルマン!久しぶり!四百年ぶりねッ!」

 

まるで少女の様にからからはしゃぎながら話しかけるオートスコアラーこと、『ティキ』。

 

「相変わらず辛気臭い顔で、辛気臭い夢を追い続けているの?」

「ええ、簡単に諦められない悲願だもの」

「あははッ!」

 

梃子でも動かなさそうなサンジェルマンの横顔に、また楽しそうに笑った。

が、ここでようやく部屋の全貌に気付いたのか、表情を陰らせて。

不満げにサンジェルマンを見上げる。

 

「アダムは?アダムはどこなの?アダムがいないと、あたしはあたしでいられないー!!!」

 

にっこにこだった先ほどとは一転。

己を身を抱き、まるで悲劇のヒロインの様によじらせた。

 

「局長は今――――」

 

サンジェルマンが口を開いたその時。

一際大きな風が、カーテンを吹き飛ばして。

部屋にたっぷりの陽光を取り入れる。

常夏のさわやかな空気が駆け巡る中、聞こえてきたのは。

電話の、音。

ベランダの手すり、眩しい日の光を浴びて。

いつの間にか、クラシックな電話が鎮座していたのだった。

 

「何あれー?」

 

『うるさーい』と零すティキを置いといて、徐に電話へ歩み寄るサンジェルマン。

 

「局長」

『久しぶりだね、サンジェルマン』

 

なり続ける電話の受話器を取って、話しかければ。

返事をする男の声。

 

『成功したようだね、バルベルデでの実験は』

「はい、しかし。せっかくのサンプルを喪失してしまいました」

『だが出来たんだろう? 顕現は。神の力のね』

「はぃ――――」

「なになにー!?もしかしてアダムと話せるのー!?」

 

『局長』と呼ぶ相手との会話へ割り込んでくるのは、ティキだ。

サンジェルマンからあっという間に受話器をひったくると、真似をして耳に近づける。

そもそも電話自体を初めて見たのか、聞き取り口と通話口が逆さまだ。

 

「アダムー!ティキだよ!アダムの為ならなんでもできるティキだよー!」

『相変わらず姦しいね、ティキ。だけど今は代わってくれないか、サンジェルマンと。話があるのさ、大切なね』

「むー、いけずぅー・・・・そーいうところも、好きなんだけどねッ」

 

受話器から顔を話すなり、年頃の女の子の様な笑顔から一転。

つまらなさそうにサンジェルマンへ返す。

 

「局長、今後敵対することになるシンフォギアについてですが・・・・」

『フィーネの置き土産・・・・いや、彼女は未だ健在か』

 

忌々しい、と吐き捨てて。

次の瞬間には元の調子に戻る声。

 

『いいさ、難しく考えなくとも。壊してしまえば解決さ、シンプルにね』

「・・・・分かりました」

 

正直言いたいことは山ほどあったが、戦闘はもはや決定事項なので。

サンジェルマンに出来ることと言えば、頷くだけだった。

 

(幸いと言うべきか、対処法の案はある)

 

相変わらず晴れ渡った空の下、苛立つ自分に言い聞かせながら。

最近手に入れた、『球体』の淡い光を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

さーてさて、あれから更に一週間とちょっとバルベルデに滞在していた。

途中、未来達学生組が帰ったりもしたけど。

まあ、おおむね順調に目的を達成。

現在はその成果である『バルベルデ文書』を入れたアタッシュケースを携えて、プライベートジェットにて帰国中である。

接触ほやほやのパヴァリアが狙ってくるかもしれないってんでの判断だけど、初めて乗る機体に大分わくわく。

太平洋を無事に通過した今は、日本の街並みを眼下に望んでいる。

そろそろなんぞありそうだけど・・・・・。

 

「ッ何!?」

 

とか思っていたら機体が思いっきり揺れたー!!

ごめんなさい、フラグ立てたばっかりに!!

物陰から伺うように窓の外を確認してみれば、お空を所狭しと闊歩するアルカノイズの群れ。

君達とも随分顔なじみになったよね、全く以てこれっぽっちも嬉しかないけどな!!!!!

操縦席を見てみれば、パイロット達はとっくにやられた後。

知ってた(白目)

 

「ッ我々も早く・・・・!」

 

翼さんが、シートベルトを放るように外した時。

飛行型の一体が、機体の側面を掠るように分解させてきた。

一気に流れ込んできた外の気流で、暴れる前髪の間から。

巻き上げられたアタッシュケースを掴んで、そのまま外に飛んでいくマリアさんが見えた。

・・・・・・・・・・・ッ!?!?!?!?!?

 

「マリアさーん!?!!??」

 

マリアさーん!?!!??

あかんあかんあかん!!ギアも無いのにノイズの真っただ中に放り込まれるとか!!!?

こうなったら・・・・!!

 

「翼さん、お先しますッ!」

「待て立花!お前まさかッ・・・・!」

「アイキャンフラーイ!!」

「立花アアアアアアアアアッ!!!!」

 

制止する翼さんの絶叫をBGMに、わたしも同じ裂け目から外へ。

即座にギアを纏って、早速寄ってきたノイズを殴り飛ばす。

 

(マリアさんは・・・・!?)

 

刃を投擲しながら辺りを見渡して・・・・・ッいた!!

だけど、ノイズの方が近い。

どうする!?

巡りかけた思考を制止したのは、

 

『――――加速してやり過ごせぇッ!!』

 

本部からの、そんな信じられない指示だった。

・・・・・いやいやいやいや!!!?

そんな無茶苦茶な!?一歩間違えたら海面に強打されちゃうって!!

とか突っ込みを入れる前に、マリアさんったら両手両足を閉じて加速しちゃうし!!

あーもう!ええままよ!!

駆けつけようにも駆けつけられないところにまで行ってしまったので、諦めて対処に専念する。

マリアさんも、飛行機の爆発を背負った翼さんがあっという間に回収していた。

よっしゃ、これで懸念事項はなくなった!

ぎゅるんと体を翻して、360度満遍なく刃を放つ。

近づいてきた奴はジャマダハルでバッサバサ。

それにしても翼さん、『喉元掻っ捌く』だなんて。

限定解除するごとに歌の殺意上がってません?

 

「でりゃあッ!!!」

 

なんてことを考えながら、一体を踏みつけにして刃を投げつければ。

ノイズは全部片付いてしまった。

・・・・もっと早く動けたなら、パイロットさん達も助けられたのだろうけど。

過ぎたことを悔やみすぎても仕方がない。

今は、空港にいるであろう、大勢の人達が死ななかったことを喜ぶとしよう。

――――ところで。

 

「ッ誰か!!翼さーん!わたしを回収しtッ――――!!!!!」

 

叫び、虚しく。

わたしは派手な水柱を立てて、海に落ちたのである。

これがほんとの『ジャパン』だってか?やかましいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの、とある武家屋敷。

 

「――――あれの重要性は確かに高いとはいえ、大げさな」

 

誰に言うでもなく、その小言は零された。

 

「これでは、『何か』あると声高に叫んでいるも同然でしょうに」

「は、しかしながら、あの演算装置の機能性は、頷かざるを得ない点で溢れかえっております」

 

その原因である報告をしたらしい従者が付け加えれば、物憂げに口元に手を当てる。

数呼吸の間、思考。

 

「如何なさいますか」

「・・・・致し方ありませんね。視覚障碍者の誘導や手話に覚えがあるものを招集し、バリアフリーに努めなさい」

 

やがて開いた口が、指示を飛ばす。

 

「せめて押しのけられる彼らが、不自由を覚えないように。よいですね?」

「御意に」

 

頭を下げた従者が出て行った後で。

夕日を取り込む障子越しに、過去を想起した瞳が。

静かに細くなった。




書きたいシーンが思ったよりも遠い・・・・。

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