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「あーら、やっと来てくれたぁ」
押取り刀で駆けつけた、バルベルデ国際空港。
貨物倉庫の屋根に陣取ったカリオストロは、装者達を見下ろしてにやりと笑う。
その隣には、プレラーティがいた。
「傷の借り、返させてもらうわよッ!!」
「ついでにお前の手並みも拝見というワケだ、神獣鏡」
言うなり、アルカノイズの結晶がばら撒かれた。
すでに暴れていた分も含めて、人間を鏖殺せんと動き始める。
「ここは引き受けるッ!あなた達は速く引きなさいッ!!」
怒鳴るように指示を飛ばすマリアを横目に、他の三人は一気に攻め込んだ。
「はあぁッ!」
未来が散発で牽制し、調と切歌がその隙間を縫うように駆ける。
仕留め損ねた個体を次々斬り捨て、片づけていく。
と、未来の背後にノイズ。
手鏡を展開して周囲を警戒していた未来は、難なく反応する。
ホバー機能も駆使して頭上を取り、飛び掛かってきた個体へ射撃。
止めに、鉄扇で頭を殴打した。
「やああッ!」
一方マリアは、錬金術師達に果敢に挑んでいた。
時に二方向以上から来る錬金術を、かわし、いなし、見切りながら。
彼らへの攻めの姿勢を崩さない。
「侮られては困るワケだッ!」
「ふわっと蒸し焼きにしてあげちゃうッ!」
声を荒げたプレラーティが、氷を雨あられと降り注がせれば。
カリオストロが炎を鞭のように振るい、氷礫を不規則に爆発させる。
熱気と衝撃の乱発が踊り狂おうとも、マリアが退くことはない。
身を翻し、衝撃波を裂き、時には礫すらも足場にして。
まず、カリオストロへ肉薄したマリアは。
「だあッ!」
「がはッ!?」
その横っ面へ、拳を叩き込んでやった。
続けて短剣を振るい、カリオストロを援護しようとしたプレラーティを牽制。
ダメ押しにカリオストロを、展開された障壁ごと蹴り飛ばした。
という所で、やられっぱなしではない彼女は、岩をも切り裂く暴風を放ち。
マリアを引き離すことに成功した。
「切ちゃん!あれ!!」
そのまた一方。
人のいる方へ進撃するノイズを片づけていた調と切歌は、離陸を強行している機体に気付いた。
彼らとしても、ここでただ死を待つよりはという判断なのだろうが。
案の定、進行方向にノイズの群れが居座っている。
「ッ調ちゃん、切歌ちゃん!ここは引き受けるから!」
同じく把握した未来の言葉に、頷きを一つずつ返した二人。
善は急げとばかりに、一目散に滑走路へ。
「――――離陸急げ!せめてここの乗客だけでもッ・・・・!」
機内の操縦士達は、懸命に機器や操縦桿を動かし。
既に乗り込んでしまった乗客達を逃がそうとしていたが。
無情にも、迫ってきたアルカノイズに車輪を破損させられてしまう。
足元から火花を散らし、大きく蛇行する機体。
「ここまでか・・・・!」
あわや観念すべきかと、覚悟を決めようとした時だった。
「き、機長!あれを!」
「今度はなんだ!?」
副操縦士が指さす先を、機長が目で追ってみれば。
「滑走路の上に、割とかわいい女の子達がッ!?」
何を隠そう調と切歌であることは、聡明な読者の皆々様にはご存知のことだろうが。
このままではビルにぶつかると気づいた操縦士達は、彼女達の正体など気にかけている余裕などなかった。
「今度は機体の下に?」
「あの子達、一体何を!?」
何とか激突だけでも避けようと四苦八苦している横で。
粗方ノイズを倒したと思えば、今度は徐に機体の下に潜り込んでいく少女達。
すると、機体がどんどん上昇していく。
「まさか、離陸の手助けを・・・・!?」
「ッぼやぼやするなッ!エンジン出力、最大!」
「ら、ラジャー!!」
副操縦士が機長の発破を受け、操縦桿を思い切り引けば。
シンフォギアの補助を受けた機体は、ビルのすれすれを通過して無事に離陸した。
「――――は」
ノイズを相手にする傍ら、その様を見届けていた未来は安堵の息を吐く。
人の避難もほぼ終わったところと報告も来た目の前で、時間切れとなったマリア達のギアが解除されていく。
敵はまだ健在。
もうひと踏ん張りと、唇を絞めたところで。
足元から、揺れ。
あの長い躯体が現れたのは、ホバーを駆使して振動から逃れるのと同時だった。
「時間切れだなんて好都合~♪」
「仲間と人間を庇いながら、この『ヨナルデパズトーリ』と戦えるか。見せてもらうワケだ」
好機とばかりに笑う錬金術師達の傍で、控えるように『蛇』が鎌首をもたげる。
「・・・・ッ」
簡単には負けてやらないと意気込んだ未来は、鉄扇を構えて。
しゃん、と。
布が擦れる音がした。
「え」
目の前に何かある。
巨大な一つ目模様が、顔を隠す布面だと気付く頃に。
衝撃を感じて、吹き飛ばされていた。
「ッ未来!?」
「未来さんッ!!」
地面を錐揉みし、やっと止まって立ち上がってもなお。
何をされたのか、理解が追い付かない。
少し離れて立っていたマリア達だけが、彼女が蹴り飛ばされたのを知っていた。
「く・・・・!」
やっと新手が登場したと気づいて、鉄扇を握り直す未来。
油断なく見据える視線を、新手のそいつは真っ向から見返している。
沈黙の合間に吹いた風が、水干をベースにした衣装と、顔どころか頭をすっぽり覆う頭巾を揺らしていた。
物言わぬまま、風に靡かされるがまま。
じいっとこちらを凝視してくる様に、言いようのない威圧感を覚えた。
いや、それよりも。
(マリアさん達から離れちゃった・・・・!)
よろしくない状況に、未来は奥歯を噛む。
どう打開するかと、思考を巡らせようとして。
「――――ッ」
その前に、奴の足元が狙撃された。
刃が突き立てられたのを皮切りに、雨あられと降り注ぐ弾丸。
「うおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
続けて轟く雄叫びは。
マフラーをたなびかせて『蛇』に飛び掛かると。
暴風も加えた一撃で、頭を殴って消し飛ばす。
「は、効くワケが・・・・」
一度は嘲笑った錬金術師だったが、しかし。
さきほどと同じようにフィルムを展開しても、『蛇』は再生することなく。
地響きと共に、巨体を横たえる。
「どういうワケだ!?」
「無敵はどこにいったのよー!!」
これにはさすがの彼女らも動揺を隠せないらしい。
カリオストロが文句を零す中、一つ、二つ、三つと人影が降り立つ。
「響・・・・!」
マフラーを靡かせるその姿に、一抹の安堵を覚えた。
貫く視線に、気付かないまま。
◆ ◆ ◆
ステファン君を病院に送り届けるべくトラックで走って、やっと街明かりが見え始めた頃。
空港が襲撃されていると本部から教えられた。
まだLiNKERの効力が残っているマリアさん達と、さっきの小競り合いであえて待機にしていた未来が対応に当たっているけれども。
時間切れ近いのが三人もいるからと、ステファン君を送ったその足で空港へ直行した。
で、いざ着いてみれば、報告に聞いてた蛇っぽい何かと。
カエルを抱っこしたかわいこちゃんに、豊満なボディのおねーさんが。
・・・・未来を出会い頭に蹴り飛ばした、和装の人はまた初遭遇みたいだけど。
「うおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
まずは、蛇っぽい何かをとりあえず殴ってみた。
ら、呆気なく倒せちゃってちょっと拍子抜け。
なんか、大分厄介な自己再生能力を持ってるって話だったけど・・・・。
いや、あれかな?
ガングニールことグングニルは、投げれば必中的な伝説があったはずだから。
そんな感じのサムシングでなったんじゃないかな、うん。
ところで、
「お久しぶりですねシャンファさん」
「・・・・ええ、お久しぶり」
知っている気配だったのでカマをかけてみたら、ビンゴだった。
というか、あっさり認めた。
見えているのか真面目に気になってしまう布面の下で、隠している意味がない位に未来をガン見していたシャンファさん(仮名)。
「また随分なイメチェンをなさったようで」
「こちらが元来なの、『イヨ』と呼んで頂戴」
「イヨ・・・・?」
・・・・・一瞬80年代のアイドルの方を連想してしまったけれど。
そうじゃなくて。
「確か、邪馬台国の女王卑弥呼の後継とされた女性では?」
「あら、よく知っているのね・・・・速攻で国を傾けた、愚か者の名前なんて」
歴史やら神話やらの知識が豊富なシンフォギアのみんなは、すぐに結び付けたのだった。
一方のシャンファさん(仮名)改めイヨさんは声こそ笑っているけど、やっぱり顔がすっぽり隠れているせいか表情が読めない。
不気味というか、何を考えてるか分からない。
なんかもにゃるというか、言いようのない不安を感じる・・・・。
「何でもいい!こちとら虫の居所が悪くてネーェ!?手加減はナシだッ!!」
「抵抗は止め、神妙に縄に着けッ!!」
こっちに合流した未来と一緒に構えていると、目の前に錬金術の陣。
まだ誰か来るのか・・・・!?
身構えるわたしの予想通り、また新たな人物が出現する。
銀色のボリューミーな髪に、凛とした目元。
身にまとった衣装と雰囲気は、まさに『男装の麗人』の言葉がふさわしい。
「サンジェルマン!?」
「サンジェルマン様」
おねーさんやお嬢ちゃんが驚く一方で、流れるような動作で膝をつくイヨさん。
なるほど、この『サンジェルマン』とやらがイヨさんの上司か。
アレクサンドリア号で泥棒するように指示したのも、多分この人だろう。
こっちを、というかわたしをじぃっと見てきたサンジェルマンさんは。
やがて、息を小さく吐き出して。
「全員、ここは撤退するわよ」
「ちょっ、そりゃあ、ヨナルデパズトーリはやられちゃったけど・・・・!」
「雌雄を決するのは、ここでなくても良い」
何だか不満げなおねーさんを、静かに諫めたサンジェルマンさんは。
次にこちらに視線を滑らせて、
「そういうわけだ、この勝負は預ける」
「ッはいそーですかって頷くとでも!?」
「頷くだろう、お前達なら」
そう、噛みつくクリスちゃんを涼しい顔で一瞥したと思ったら。
かざした手が、無数の陣を展開して。
わたし達の遥か後方、空港本体を含めた、一般人達がいる建物達へ狙いを定めた。
あと一モーションすれば、暴風や業火が襲い掛かるだろうと、簡単に想像できる。
なんて速さ、了子さんと渡り合えるんじゃなかろうか・・・・!?
「・・・・ちえッ」
「そこまで言うのなら、従うワケだ」
わたし達の戦意が揺らいだのを見た錬金術師達は、各々テレポートジェムを使って撤退していく。
それは、サンジェルマンさんやイヨさんも例外ではなく。
「――――お前が歩んできた軌跡、掴み取った答え」
テレポートの赤い光に包まれながら、サンジェルマンさんが口を開いた。
「次にでも聞かせてもらうわ、立花響」
何だが意味深なことを呟いて、完全に撤退する。
一方のイヨさんはというと、
「・・・・」
終始無言でこっちを凝視すると、同じくテレポートジェムで去ってしまった。
・・・・終始顔を隠していたから、確信はないんだけど。
あの人が見ていたの、わたしとか、翼さんマリアさんじゃなくて。
「どうしたの?」
「ん?いや、怪我はないかなって。みんなに言えることだけどさ」
「わたしは大丈夫、蹴られたのもバイザーのお陰で何とか」
「そっか、ならよかった」
AXZ編は書きたいとこが多くて、心のヘドバンが止まりません(笑)