チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ででにー男子のゲームをやっていました(懺悔)
一番の推しはグリム親分です。


炎が揺れた

「三人とも無事!?」

「ええ!私も藤尭君も無事!レイアもただのバッテリー切れよ!!」

「間に合ってよかったデス!」

 

動かなくなったレイアを引きずりながら後退する二人を見て、喫緊の怪我は追っていないと確認したマリア。

牽制する調と切歌と並び立ち、頭上を陣取る錬金術師達を見上げる。

一人、銀糸の様な髪を夜闇に靡かせる、男装の麗人。

一人、腿や胸元など、露出の高い服装をしたエキゾチックな美女。

一人、ベレー帽にメガネ、そして抱いたカエルのぬいぐるみが目を引く少女。

当然、見た目通りの人間ではないことくらい分かっていた。

 

「あーらあら、勢ぞろい」

「どうするワケだ?サンジェルマン」

 

美女がからかうように前かがみになれば、少女は麗人を『サンジェルマン』と呼んで一瞥する。

麗人ことサンジェルマンは、冷静にマリア達を見下ろして。

 

「ちょうどこいつの成果を確かめたかった所だ、是非お相手願おうじゃないか」

 

不敵に笑ったと思ったら。

上がった手を号令に、あの蛇の様なバケモノが鎌首をもたげて控えた。

 

「ッ来るわよ!調と切歌は、藤尭さん達を!それまで私が抑えるッ!!」

 

ダガーを取り廻して構えたマリア。

それを合図に、『蛇』が突っ込んでくる。

噛みつきを散開して避けると、調と切歌は後方へ。

マリアは前方へ飛び出す。

永く大きい体を存分にくねらせて迫る『蛇』に臆さず、まずは飛び上がって上空へ。

手始めにダガーの雨を振らせて牽制。

咥えて着地と同時に腹を鋭く切り付け、意識をこちらへ向けさせる。

しなり迫る胴体を回避して、再び一閃。

飛び散る小石すらも足場に、縦横無尽に駆け巡る。

 

「はああああああッ!!」

 

腰のブースターを吹かし、横っ面へ蹴りを叩き込めば。

『蛇』は頭から波打つように地面に倒れ込むが、撃破には中々遠い。

だが、マリアにはそれで十分だった。

顎に追撃を叩き込んで距離を取ると、今度は頭上にダガーを展開。

激しく旋回させれば、竜巻が発生する。

暴風を纏ったマリアがそのまま突撃すれば。

噛み砕こうとして失敗した『蛇』が、大きく引き裂かれた。

身を翻して着地したマリアは、油断なく『蛇』が倒れる様を見届けようとして。

 

「――――ッ!?」

 

瞬間、『蛇』の異変に体を硬直させた。

まるでフィルムが広がるように、錬金術の陣が並んだと思えば。

瞬きの間に無傷となった『蛇』が、こちらを睨んでいた。

 

(自己治癒!?いや、再生か!?どっちにしたって、回復が速すぎるッ!!)

 

驚愕に目を見開いたものの、再びうねり迫る巨体を前に。

苦い顔をして回避する。

 

「マリア、一旦交代デス!」

「友里さん達は、物陰に退避させてる!」

「ッええ!」

 

調と切歌に『蛇』の相手を任せ、一抹の望みをかけて錬金術師達へ。

神速を以って駆け抜けると、牽制のダガーを雨あられと放つ。

美女が不敵に笑いながら前に出て、障壁を展開。

防ぎにかかるが、マリアの攻撃が一つ上手だったようで。

 

「ッやだ、顔に傷」

 

わずかに欠けた障壁の隙間を、刃が一つすり抜ければ。

美女の頬を掠めて怯ませた。

好機と取ったマリアは、更に攻め込もうとしたが。

 

「デースッ!?」

「なっ、くぅ・・・・!?」

 

『蛇』に弾き飛ばされた、切歌達に衝突してしまった。

痛みに怯んでいる間に、麗人が手を上げて『蛇』がマリア達を見下ろす。

決定打が見当たらない中で、いかにして生き残るか。

マリアが奥歯を噛み締めた時だった。

 

『お前達!今より五秒後にそこから飛び降りろッ!!活路はそこにあるッ!』

 

聞こえたのは、本部の通信。

疑問を浮かべた耳に、汽笛がかすかに聞こえてからは速かった。

 

「はああぁッ!!!」

 

砲身に変形させた左腕から、極太の極光を発射。

十分な目くらましを仕掛けてから、踵を返す。

 

「失礼するデスッ!!」

「うわわッ!?」

 

切歌が藤尭、調が友里、そしてマリアがレイアを担ぎ。

なおも必死で走る先には、ぱっくりと口を開けた断崖絶壁。

 

「ま、まさか・・・・!?」

「しゃべっていると、舌を噛むッ!」

 

それぞれのブースターを、思いっきり吹かした跳躍。

藤尭の情けない悲鳴をBGMに、うまく着地したのは貨物列車だ。

一気に距離が離れていく中、見下ろしてくる錬金術師達を見返しながら。

マリアは固唾を吞む。

油断したつもりはなかった、だが、奴らの策に後れを取ってしまった。

 

(いや、後ろに未来を控えさせているからと、気が緩んだのでしょうね)

 

自嘲を含んだため息をつきながら、錬金術師達が見えなくなるまで視線をそらさないマリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしが投げた刃よりも早く。

クリスちゃんのボウガンが、ステファン君のノイズに捕らわれた足を打ち抜き切断した。

ちなみにわたしの刃は、打ち抜かれたステファン君がうまく傾いたことで。

背後にいたノイズを切り裂くだけに終わった。

もうとっくにノイズを片づけ切った現在、もちろんステファン君に応急処置は施しているんだけど。

 

「・・・・こうでもしなきゃ、ステファンが助からなかったのは。分かっている・・・・だけどッ・・・・!!」

 

絞り出すような声を出したのは。

応急処置で足を縛り上げている間も、片時も離れようとしなかった。

ステファン君のお姉さん。

ソーニャさんと言うらしいその人は、涙を散らしながら。

迷いなく切ろうとしたわたしと、切ってしまったクリスちゃんを睨みつけて。

 

「あなた達が、ステファンの足をッ!」

 

・・・・遠巻きに同じく睨んでくる村人のひそひそ話から。

ステファン君はサッカーが大好きで、将来は選手を目指しているんだと知った。

ボールを工場長にクリーンヒットさせたことから見ても、素質は十分にあったんだろう。

そんな彼にとって、足が命であることは。

容易に想像が出来た。

 

「分かっている!・・・・言い訳はしねぇ、けどこいつは、響はまだ実行はしてなかっただろ」

 

クリスちゃんは少しばかりの罪悪感を見え隠れさせながら、口を開く。

 

「やったのはあたし一人だ、言い訳はしない」

 

ソーニャさんの睨みつける視線を、真っ向から見返して。

わたしを庇ってくれた。

・・・・ああ。

庇われてしまったわたしが、もう少し早く動いていれば。

そもそも、ステファン君や、人質にされていた女の子をもっと気にかけていれば。

こんなことにはならなかったはずなのに。

 

「・・・・ッ!?」

 

ネガティブになっているところへ、頭に衝撃。

視界に星が弾けて、思わずよろけてしまう。

一番熱を持った、段々痛いと感じ始めた場所を触ると。

指が、赤く濡れていた。

飛んできた方を見れば、ソーニャさんと同い年くらいの男の人が。

腕を振り下ろした姿勢で、ものすごい顔をしている。

・・・・『お前らさえ来なければ』か。

その通りだよ。

 

「や、やめて!」

 

それを皮切りに、爆発しそうになった村人達を引き留めたのは。

人質になっていた女の子だった。

 

「この人達、村のみんなを連れて行って、返してくれなかった嫌な人を、捕まえに来てくれたじゃない!!ノイズから一生懸命、守ってくれたじゃない!」

 

小さい体をめいいっぱい広げて、必死に語り掛けている。

 

「それにッ、ステファンの怪我だって!!わたしが、わたしが人質にさえならなければぁッ・・・・!!」

 

ステファン君のことで、責任を感じていたのか。

とうとう泣き出してしまえば。

その涙を見た、元々悪人じゃなかったらしい村人達は。

バツの悪そうに互いを見たり、俯いたりしていた。

石を投げつけてきたおにーさんは、顔を蒼くして口をぱくぱくさせていたので。

『お気になさらずー』という意味を込めて、薄く笑い返しておく。

 

「・・・・とにかく、彼を病院へ連れて行くぞ。人質解放の功労者、みすみす死なせるわけにはいかん」

 

確かに。

言っちゃ悪いが、ここは衛生状況が良いと言えない。

感染症などの心配が拭えない以上、きちんとした病院で診せるべきだ。

翼さんの言葉に、ひとまず頷いて。

乗ってきたトラックに乗り、今度は翼さんの運転で都市部を目指すことにした。

その前に、

 

「こちらに来い立花、お前も立派な怪我人だ」

「はーい」

 

ステファン君を荷台に乗せる横で、翼さんに手招きされて。

大人しく手当てを受けることにした。

後のことはS.O.N.G.のエージェントさん達に任せて、今度こそ出発する。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、おかえりなさい」

 

本部に帰還したマリア達を、未来が医療スタッフと共に出迎えた。

先んじて戻っていたエージェント達の、応急処置を手伝っていたらしい未来は。

そのまま友里達の手当てをてきぱきこなす。

幸いにして全員が軽傷であったため、医療スタッフが大仰な検査も不要だろうと判断していた。

レイアも、充電すればまた動けるらしい。

 

「留守をありがとう、おかげで気兼ねなく戦えた」

「いえ、出来ることをやっているだけですから」

 

マリアの感謝の言葉に、微笑んで答える未来。

装者達はそのまま連れ立って、司令室へ向かった。

 

「みんな、ご苦労だった」

 

まず出迎えた弦十郎は、真っ先に労いを口にする。

 

「オペラハウスへの潜入任務、収穫があったようだな」

「はい、命賭けた甲斐がありましたよ」

 

対する藤尭は、ノートパソコンを軽く掲げて得意顔。

口元が若干引きつっているのはご愛敬である。

 

「パヴァリア光明結社の構成員と思しき人物も、肉眼で確認できました。やはり、活動を本格化させたようですね」

「四百年もあれば、立て直しもできているか・・・・」

 

友里の口頭報告にぼやいたのは了子。

月の破壊に意欲的だった頃、異端技術の独占を狙って大ダメージを与えたのだと。

出発直前のミーティングで語られていた。

 

「とにかく、奴らの姿も確認したのだし、情報を共有したいわ。響達は今どこに?」

 

マリアが、問いかけた途端。

しん、と静まり返ってしまう司令室。

未来も、沈痛な面持ちで俯いてしまっている。

 

「・・・・何かあったの?」

 

尋常ではない様子に、問いを重ねた時だった。

 

「ッ!?」

「ノイズのアラート!場所は!?」

 

直ちに定位置に飛びついた友里と藤尭が、素早くキーボードを操作する。

 

「位置出ましたッ!!バルベルデ国際空港です!!」

「監視カメラからの映像、来ます!」

 

そして大画面に映し出されたのは。

滑走路を我が物顔で所狭しと闊歩するアルカノイズ達。

 

「ッ、戻って早々にすまない。今度は未来君も出てくれ!!」

「はい!」

「合点デース!」

 

切歌の元気な声を号令に、それぞれが飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

揺らめく炎を見つめる。

樒を振り、炙る亀甲の亀裂を確かめる。

・・・・己の知る未来と当てはめながら、結果を吟味して。

 

「・・・・」

 

黙したまま、立ち上がった。




別に義務ではないけれど、うまっていないとなんか落ち着かない。
それが『あとがき』というものだと思うの。

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