チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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オリガミに夢中になっていました(懺悔)


いい方向には中々行けない

オペラハウスの地下。

エキゾチックな美女『カリオストロ』に、ぬいぐるみを抱えた少女『プレラーティ』。

そして、男装の麗人『サンジェルマン』の三人はいた。

歴史的価値のありそうな、悪く言えばいまいち価値の量れない骨董品の中を。

探し物を見逃さぬよう、慎重に進んでいけば。

ほどなくして、見つけることが出来た。

通路の突き当りの分岐点、結晶に閉ざされ、琥珀の様な佇まいでそこに()()『そいつ』。

四百年ぶりに見るその姿に、サンジェルマンは特に感慨を感じる様子を見せず。

ただそっと手をかざして、真偽を確かめる。

束の間沈黙した後、やがて小さく頷いた。

 

「やっと見つけたわ、ティキ」

(ティキ・・・・それがあの聖遺物の名前なのか・・・・?)

 

――――物陰からその様子をうかがっていた藤尭達。

ふと、カリオストロ(と、呼ばれていたのを覚えている)がこちらを振り向こうとしたので。

覗き見ていた面々は、咄嗟に隠れたのだが。

 

「――――まったく、ここまでお見通しだなんて」

 

目が合ってしまったのか、隠れきれなかったのか。

とにかく最悪の予想が一瞬で駆け抜けて。

 

「本当に、ヤな女ッ!!!!」

「ッ、派手に退避ッッ!!」

 

光弾らしき何かと、レイアが飛び出すのは同時だった。

指から弾きだされたコインが、そのほとんどを撃ち落としてくれるが。

 

「うわああああああ!?」

「藤尭君ッ!っく!」

 

撃ち漏らしたいくつかが階段や壁に当たり、藤尭は腰を抜かしてしまった。

動けない彼を庇うように立った友里は、他のエージェントに混ざって発砲。

仲間が逃げ切る時間を稼ごうとする。

・・・・幸い、

 

ビービービー!!

「うっひゃ!あッ!動くッ!?」

 

うっかりミュートにし忘れていたパソコンの、解析完了のアラームに驚いたおかげで。

藤尭の腰は早めに戻ったようだった。

レイアや友里達の必死の弾幕で、何とか退路を作って逃げ切れたエージェント達。

一方のサンジェルマン達は、障壁で難なく防ぎ切った後。

S.O.N.G.の面々が大わらわで出て行った先を見つめて、ふと踵を返した。

 

「せっかくだ。実験ついでに、大統領の望みを叶えることにしましょう」

 

向き合ったのは『琥珀』ではなく、恐らく龍を象ったらしい彫像。

かざした手には、先ほど大統領達から搾取した光が。

 

「抽出した荒魂を基に錬成すれば――――」

 

仕掛けを施された彫像の、両の目が怪しく煌めいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

びっくらこいた。

まさかステファン君が、あの、えっと、名前忘れたけど。

未来を売っ払おうとした組織に、一緒に捕まってたなんて。

で、あの時睨んでしまったことを、律儀に謝ってきたステファン君が言うには。

プラント襲撃のどさくさに逃げた工場長は、近くにある彼の村に潜伏しているかもしれないそうな。

と言うわけで、ステファン君が運転してくれるトラックに乗って、現地に急行している次第。

いや、その年で結構多芸だね?キミ。

 

「見えてきた!」

 

なんて考えていたら、目的地に到着したようだ。

拙速を尊んで、トラックが止まるか否かのタイミングで飛び降りる。

 

「――――動くなッ!!」

 

そのまま村の中へ入っていけば。

片手に怯えた女の子を、もう片手にアルカノイズの制御装置らしきものを握っているおっさんがいた。

間違いない工場長だ。

奴の周囲には、当たってほしくなかった予想通りの光景が広がっている。

 

「動けば村人達がどうなるか、分からないお前達じゃあるまい!」

 

アルカノイズに囲まれている村人たちを横目に、せめてもの抵抗で工場長を睨みつけた。

『あの日一緒に逃げ出した』というステファン君の話通り、子どもがたくさんいるんだ。

なるべく穏便にするのがベストだろうけど・・・・ちくしょう。

どうしようもなく、奴を逃がしたわたし達の落ち度だ。

 

「要求はただ一つ、私を見逃せッ!!」

 

工場長の要求は、非常にシンプルで厄介なもの。

村人達は助けたい、だけど、アルカノイズで味方すらも蹂躙したこいつを逃がすわけには・・・・。

どうしたもんかと、攻めあぐねている時だった。

視界の隅に見えた人影で、そういえば後ろにいるはずのステファン君が居なくなっていることに気付いて。

 

「でりゃッ!」

「な、ぐはッ!?」

 

果敢にもアルカノイズの合間から現れたステファン君は、手作り感あふれるボールを蹴り飛ばす。

綺麗な放物線を描いたボールは、見事、吸い込まれるように工場長の頭にクリーンヒット。

 

「ッ立花続け!雪音はアルカノイズを!」

「はいッ!」

「分かった!」

 

まるで風の様に駆け抜けた翼さん。

あっという間に工場長の懐に入り込むと、右ストレートからの鮮やかな三連撃で意識を刈り取ってしまう。

一方のわたしは、それを横目に女の子を確保。

ノイズからなるべく遠い場所に退避させてから、ギアを纏ってとんぼ返り。

翼さんが、ノイズを片づけているクリスちゃんに合流するのを確認しながら。

わたしは村人を囲っているノイズへ向かう。

 

「頭を守って、なるべく伏せて!」

 

村人さん達が指示通りにしてくれているのを見ながら、一閃。

まずはノイズを吹っ飛ばして引き離し、一番効率のよい順番で殴りつぶしていく。

時に、刃を飛ばして縫い留めるようにするのも忘れずに。

本当に縫い留められるんじゃなくて、多少足止めするだけなんだけど。

そのタイムラグ程度の隙で十分だ。

 

「ぜいッ!はッ!そぉーりゃッ!」

 

震脚に発勁等々、一気に吹き飛ばせるインパクト技で千切っては投げ。

村人さん達には近づかせないよう頑張ってるけど、倒した後の塵がちょくちょくかかってしまっている。

ごめんなさーい、もうちょっとで終わるのでー!

 

「ていッ!!」

 

指に挟めた刃を飛ばす、後ろに仰け反るくらいの勢いでノイズに突き刺さる。

上手いこと村人から離れてるのをしっかり、かつ手短に確認して。

指をパッチン。

瞬間、ノイズは狙い通り爆散した。

 

「『汚ぇ花火だ』、とでも言うべきかな?」

 

なんておどけながら、村人さん達の怪我の具合を確認。

ぱっと見た感じ、軽傷者はいれども、重傷はないみたい。

翼さんクリスちゃん達の方も、危なげなく終わりそうだ。

と、思っていたら。

 

「っきゃあ!」

 

離れた場所に退避させていた女の子に、ノイズが向かってしまった。

距離がある、脚のジャッキを使えばスピードは出るけど。

発進点近くの村人さんとか、着地点の女の子とかが、衝撃波で大変なことになってしまう。

くそ、間に合え、間に合え・・・・!

 

「こっちだ!」

 

哀れ、文字通り塵と消えてしまいそうな女の子を助けたのは。

隣の鉄火場を必死に通り抜けてきたらしいステファン君だった。

恐怖で硬直してしまった女の子の手をひったくるように握って、とにかく距離を取ろうと走り出した足は。

だけど無情に、絡め取られて。

 

「――――ッ!!」

 

咄嗟に取り出した刃は、彼の右足に狙いを定める。

 

「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!」

 

悲痛な声が、夜空に響いた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「のあああああ!!なんだアレッ、なんだアレェッ!!?」

「うるっさい!ベロ噛みたいのッ!?」

「アッハイ」

 

藤尭達別動班が、オペラハウスから脱出した直後。

現れたのは巨大な蛇の様な怪物。

怪獣といっても差し支えのない巨体が、存分に体をくねらせて襲い掛かって来る。

日々の業務で見慣れていると言えども、やはり怯えずにはいられない藤尭。

友里はそんな彼を叱咤しながら、軽トラックを駆る。

荷台に乗ったレイアが、向かってくる怪物へコインを飛ばして牽制し続けているものの。

効果があるようには見えなかった。

仲間の車を、あえてパンクさせるなどして逃がしきれたのは幸いだが。

最後に自分達がやられてしまったのでは意味がない。

市街地をとっくに抜け出した現在。

遥か谷底に鉄道を望む崖際を、なおも追われながら移動している。

 

「ッ、地味に腹立たしい・・・・!」

 

レイアのバッテリーは、戦いが激化すればするほど消費が激しくなる。

エルフナインのためと言えど、そんな仕様になってしまった己へのいら立ちを募らせながら。

それでもコインを撃つ手を緩めない。

と、怪物が上空へ踊り上った。

マシンガンも凌駕するような連射を浴びせるが、焼け石に水。

もはや車を捨てるべきだと、友里達を確保しようとした時。

 

「軌道計算!暗算でええええええッ!!」

 

そんな声が聞こえたと同時に、軽トラックが一気に減速。

姿勢を崩したレイアの目の前で、こちらを仕留め損ねた怪物が地面に潜っていった。

 

「なるほど、派手な奇さ・・・・ッ!?」

 

運転席の屋根に手を掛けながら、ほっとしたのも束の間。

次の瞬間には逃れたはずの難が、足元から襲い掛かってきて。

横転する軽トラックから、大きく放り出されるレイア。

身体は無機物なので、この程度でどうにかなるわけなないが。

人間である彼らはそうもいかない。

接してきたことによって、憎からず思い始めた者達が。

横転した車体から這い出してきたのを見たレイアは、人間で言う『安堵の息』をついたのだった。

だが、状況は依然不利なまま。

 

「追い詰めた」

 

その声に高台を見上げれば、オペラハウスからわざわざ追ってきたらしい錬金術師達。

 

「その命、革命の礎に使わせてもらう」

「ッ派手に止める!!」

 

怪物を傍らに従えながら、サンジェルマンが手をかざしたところに。

阻止するように躍り出たレイアが、両腕を前に突き出す。

すると、肘から先が細かく展開。

大ぶりの大砲として一体化すると、エネルギーを充てんする。

 

「本来ならば、使うべきではないが・・・・マイスターの利益の為、彼らはやらせん!!」

 

ダメ押しに足が固定されたのを見た友里と藤尭が、咄嗟に身をかがめるのと。

同時だった。

雷と間違えそうな轟音が、空気を振動させる。

ノートパソコンで顔を閃光から庇いながら、藤尭が見たのは。

レイアの放った砲撃が、錬金術師たちに直撃する様。

 

(これは、いけるか・・・・!?)

 

なんて、思ってしまったのがいけなかった。

油断なく構える友里の隣で見上げたのは、展開した障壁ごと煙を払う様。

錬金術師達は、当然の様に無傷だった。

 

「木偶にしてはなかなかの威力じゃなーい?」

「ああ、我々でなければ危うかったワケだ」

「そ、そんな・・・・!」

「派手に、無念・・・・!」

 

とうとうバッテリーを切らして倒れたレイアが、さらに焦燥を駆り立てる。

こちらの武器と言えば、友里や藤尭の持つ拳銃のみ。

もちろん、怪物や錬金術師に聞くかと言えば・・・・。

 

(ここまで、なのか・・・・!)

 

ぐ、と。

奥歯をかみしめた時だった。

聞こえたのは、激しいクラクション。

明らかに自分達とは別の軽トラックが、猛然と突っ込んできて。

 

「――――seilien coffin airget-lamh tron」

 

降り立つ、三つの人影は。

まるで、希望の星のようだった。




ステファン「バルベルデは南米、本編一話の舞台は南米のどこか。そんなわけで思いついたのが、俺と響との接点だって・・・・クリスのこともあるから、スパイス程度の要素にとどめたいと考えているそうだぞ・・・・がくっ」

ソーニャ「ステファーンッ!!」

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