チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

147 / 199
毎度のことながら、評価、閲覧、ご感想等々。
誠にありがとうございます。

今回初めて楽曲コードを使ってみました。


陽動は基本

「はぁー・・・・」

 

港に停泊しているS.O.N.G.本部、そのシャワールーム。

シャワーで砂埃やら汗汚れやらを落としてさっぱりしてしまえば。

しょうもない理由でピリピリしていた心も、ほっと緩んでしまう。

次いで、足元にうっすら出来てる茶色い筋に、どんだけ埃っぽかったんだと戦慄する・・・・。

クリミアの天使が気合入れて掃除するレベルやでぇ・・・・。

 

「S.O.N.G.が国連の直轄と言えど、本来であれば、武力での干渉は許されない」

「だが、異端技術を行使する相手を、見過ごすわけにはいかないからな」

 

そんな横で、翼さんとマリアさんの会話が聞こえてきた。

 

「アルカノイズの、軍事利用・・・・!」

 

・・・・クリスちゃんの、絞り出すような声も。

 

「LiNKERの数さえ揃っていれば・・・・」

「こんなところに来てまで、結局は足手まといなんて・・・・」

 

次いで、調ちゃんや未来の。

どこか弱々しい発言が聞こえたものだから。

何だかほっとけなくなって。

 

「ラスト一発の虎の子です、そう簡単に使うわけには・・・・」

「まー、そう落ち込みなさんなー」

「デデデース!?」

 

ちょうど出てきた切歌ちゃんに絡みに行く。

 

「別にギアやらなんやらが不可欠と言うわけでもなし。っていうか、さっきのヘリを守った機転は超絶ナイスだったよ!さっすが『虎の子』!」

「な、なんだか照れくさいデスよ・・・・」

 

肩を組んで褒めちぎると、切歌ちゃんは赤くなったほっぺをかいていた。

そのまま視線をずらした先には、どこか羨ましそうにしてる調ちゃんの姿が。

 

「め、目のやり場に困るくらいデス・・・・」

 

微笑ましいやり取りを見守っていると、ふと、クリスちゃんの方が気になって。

 

「クソったれな思い出ばかりが、領空侵犯してきやがる・・・・!」

 

何となく目を向けると、トラウマを堪えるような声が聞こえた。

 

 

 

 

「ところで、あなたはいいの?」

「はい、いつも通りの響で安心しています」

「相変わらずだな・・・・」

 

 

 

 

で、夜。

新しい軍事拠点が発見されたらしい。

化学薬品の工場だとかで。

周辺でアルカノイズの反応はもちろん、肉眼での目撃証言もあるらしい。

ちなみに肝心の化学薬品も、安全基準を満たしていない扱いをされているとか、何とか・・・・。

 

「川を遡上して奇襲を仕掛ける。三人とも、心してかかれッ!」

 

――――と、言うわけで。

 

「ぅおらあ!!!!」

 

件の工場に乗り込んでいる次第。

ノイズはいつも通り、戦闘員は銃を破壊の上どついて昏倒。

翼さんは流れるように銃だけを切り裂きながら、クリスちゃんは番えた弓をミサイルに変えて。

それぞれ、不殺を貫いて圧倒していく。

おらおらおら!!

 

「帰れ帰れッ!トゲアリトゲナシトゲトゲみたいに帰れェッ!!」

「いやどうしろと!?ぐへぇ!!」

 

顔を踏みつけて飛び上がると、逃げ惑う人々がよく見えた。

と、横目に見えた建物が倒壊。

倒れる先に、香子と変わらないような年の、男の子がいて。

 

「うわっ、え!?」

 

その子を含めて救助しつつ、次のグループを蹂躙する。

 

「そいやっ!!」

 

サマーソルトで、前方を一気に刈り取った時だ。

建物の向こうが赤く光ったと思うと、いつぞやのバ〇タン型が現れた。

奴はハサミの間から蛍光レッドの液体を垂れ流すと、そこから小型がボロボロ現れて。

くっそ!敵も味方もお構いなしか!!

 

「デカブツまで出すなんて!!」

「みんな頑張れは作戦じゃなーい!!」

早く逃げて!!(get away !! hurry up !!)

 

逃げ惑う兵隊さん達へ声を張り上げて、また新たなノイズに飛び掛かった。

 

「手あたり次第にッ・・・・!!」

「誰でもいいのかよォッ!!」

 

特にクリスちゃんは、怒りを込めた弓サイルをバル〇ンに放つ。

回避もままならなかった〇ルタンは、翼さんにぶつ切りにされてしまった。

後は小物を片づけるだけだと思っていたけど、そう簡単にいかないのが現実である。

 

「おいアレ!」

「プラントに突っ込ませる気か!?」

 

兵隊さんが指さす先。

バドミントンの羽を凶暴化させたみたいな奴が、今まさに落下しようとしている。

 

「このままじゃ、辺り一面汚染されちまうぞ!!」

 

聞くや否や、だったと思う。

考えるよりも先に体が動いていた。

まずは雑魚を殲滅するべく、両手の刺突刃を展開。

続けて、マフラーにフォニックゲインを込める。

そのまま群れの中に突っ込んで駆け巡れば、刃とマフラーで鎧袖一触にされていくノイズ達。

勢いを殺さぬまま、ちょうど真上にきた凶暴バドミントンへと飛び掛かる。

 

「ぶっ飛べえええええええええええええええええええええええええッ!!!!」

 

腰のブースターだけじゃなく、マフラーをも推進機にして拳を繰り出せば。

凶暴バドミントンは体を貫かれて、爆発四散した。

身体をひるがえして受け身を取り、着地。

残りも翼さんとクリスちゃんで片づけちゃってるみたい。

兵隊さん達も軒並み両手を上げて投降してるし、状況は終了でいいかな?

 

(それにしても・・・・)

 

次に考えるのは、本部の事。

いかにほっとけないとしても、(冷たく言って)大した収穫もない施設を制圧したところで何もないはずだ。

パヴァリア光明結社の手がかりをつかみたいっていうなら、なおさら。

ということは、この戦闘は陽動である可能性が高い。

 

「あの」

「うん?」

 

他所で頑張ってるだろう、スタッフさん達の無事を願っているところへ。

さっき助けた男の子がおずおず話しかけてくる。

 

「さっきは、ありがとう・・・・それと、その・・・・悪かった」

「ああ、気にしないで。好きでやってるお仕事だし」

「そうじゃなくて!」

 

何だか緊張している様子の男の子に笑いかけると、彼は声を張り上げて。

 

「俺の名はステファン、あんたに助けられたのはこれが二度目なんだ。『ファフニール』」

 

 

 

 

 

 

えっ?

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

バル=ベルデ共和国、首都。

おおよそ防衛機能がないはずのオペラハウスに、大統領とその補佐官たちはいた。

 

「ダミーの専用機の手配、完了しました」

「うむ」

 

何気に最前列をキープしている大統領へ、補佐官の一人が恭しく報告する。

 

「大統領も、そろそろご移動を」

「要らん」

 

その横から、また別の補佐官が身を乗り出して提案するものの。

にべもなく断られてしまう。

 

「しかし・・・・」

「亡命将校の技術を応用して、ディーシュピネの結界を張ったこの地こそ、一番安全な場所なのだ。動くわけにはいかん」

「ッ、失礼しました・・・・」

 

己を慮っていると分かっているからこそ、それ以上の苦言を告げなかった大統領だった。

 

「忌々しい国連の狗共め、どうしてくれよう・・・・」

 

続けて、ここからどう持ち直すかと。

苦い顔を抑えることもせず、頬杖にて思案に暮れかけて。

 

「――――つまり、ここに目的の者があるのは本当の様ね」

「ッ何者だ!?」

 

この緊急事態に、誰とも知れぬ声。

その場の全員が神経を尖らせて、聞こえ振ってきた先を見上げる。

 

「シンフォギアを焚きつけて、花園を暴く作戦は、成功だったワケだ」

「慌てふためいて自分で案内してくれるなんて、かわいい大統領♪」

 

月明りに照らされた窓。

ちょうど三つあるそこに、三人の女性が佇んでいた。

 

「サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ!」

「大統領、彼らは・・・・!?」

「パヴァリア光明結社の錬金術師だ、我が国に異端技術をもたらした者達でもある」

「あの者達が・・・・!?」

 

狼狽える部下達を宥めるように説明した大統領。

座っていた椅子から立ち上がると、窓に立つ彼らを見上げて。

勲章だらけの上着につけている、カフスボタンを指し示した

 

「同盟関係の条件には、危機的状況に手を貸すことも含まれている!!国連軍がすぐそこまで迫っているのだッ!国内を荒らす連中を、蹴散らしてくれ!!」

 

対する三人組は、束の間沈黙を保った後。

 

「――――Lied der Befreiung verbrennt ein Leben um Dunkelheit.」

 

歌を以って、答えとした。

 

「wie der Abgrund des Todes durch die Flamme zer bohren.」

「Und,die Glocke der Befreiung spielt das Ende.Geben Sie」

 

男装の麗人を皮切りに、エキゾチックな女性と、ぬいぐるみを抱えた少女が歌声を奏でる。

 

 

「Einen Schrei des Siegs zur Freiheit.Machen Sie」

 

「 die Zukunft, zur Ewigkeit dauert,durch den Tod an.」

 

 

艶めかしく、美しく、荘厳な歌声に。

かすかな期待と畏れを以って見上げていた大統領は。

 

「ひ、ひいぃっ!?」

 

部下の悲鳴に、我に返った。

弾かれたように振り向けば、一人が全身をかきむしっている。

まるで何かに抗うようなその様は、しかして何の意味を為さず。

次の瞬間には、光となって消えてしまう。

 

「か、かゆい!!」

「なんだこれは!?」

「ぃ、いやだ、俺にこんな趣味は・・・・!!」

 

彼を皮切りに、次々消えていく補佐官達。

 

「な、何が起こって・・・・ひ」

 

そして、一人残された大統領も。

例外なく同じ現象に襲われる。

 

「かゆい、かゆいかゆいかゆい!!!」

 

全身をかきむしり、のたうち回り。

得体のしれない恐怖に恐れおののく。

だが、ふと。

 

「・・・・で、でも」

 

恐怖以外のものを感じて。

 

「ちょっと、キモチイイ・・・・!!」

 

浮かべた恍惚な笑みが、彼の最期だった。

部下と同じ末路を辿った大統領も含めて、光の粒子を一所に集めた男装の麗人。

 

「73,788・・・・」

 

手にした宝玉を見つめながら、覚え込むように呟いたのだった。

 

(――――調査部からの報告通り。このオペラハウスを中心に、衛星からの捕捉が不可能だ)

 

さて、その騒ぎを物陰から見ている集団がいた。

友里、藤尭、そしてレイアを中心に構成された、S.O.N.G.の別動隊である。

 

(この結界のようなものは、指向性の波形を全て無効化しているのか)

 

響達の作戦を囮に、一番怪しいここへ乗り込んでみれば。

とんでもない拠点に来てしまったと、息を吞みそうになる。

 

「奴らが・・・・!」

 

友里の限界までひそめた声に、我に返った藤尭も一緒になってのぞき込めば。

大統領一味を手にかけた三人組が、床の隠し扉を開けているのが確認できた。

と、そのうちの一人。

エキゾチックな女性が、ため息をついて。

 

「ここまであいつの読み通りだなんて、ありがたいけどなんか癪ねぇ」

「癪なのは同意見だが、背に腹は抱えられんワケだ」

「その通り。目標は眼前、気を抜かないことね」

「はぁーい」

 

もらした愚痴に、残り二人からそれぞれお小言をもらいながら。

地下室へと消えていった。

 

(あいつ・・・・まさか、あの時の?)

 

藤尭が一人、彼女達の会話に、言いようのない心当たりを感じていた時だ。

 

「・・・・ッ」

 

敵の目的を知る好機ととらえたらしい友里が、レイアや他のエージェントにGOサインを出す。

彼らも異論は無かったようで、次々動き出す仲間達。

 

「ちょ、ちょっと・・・・!」

 

『バレたらどうするんだ』とか、『無茶をするのはどうか』とか。

様々な意味を含めた、短い抗議を上げる藤尭だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。