チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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南米に向かってこんにちは

ここは南米。

近年の森林開発で、環境調査が進みつつあるという皮肉な場所。

その熱帯雨林の中、息をひそめている部隊がいた。

特に書くこともない、典型的な独裁政権の犬である彼らは。

次なる闘争に備えていたのだが。

 

「ッ隊長、この陣地に、高速で接近する反応アリ!」

「何?」

 

観測班の報告に、部隊長が怪訝な顔をする。

 

「何者だ?」

「解析・・・・終わりました、パターン青!シンフォギアです!」

「ッ何だと!?」

「映像出ますッ!」

 

促されて見るモニターには、バイクで疾走する姿が見えた。

 

「一番槍が英雄とは・・・・!」

「ッ仕方があるまい!例の兵器を使え!」

「はッ!」

 

即座に、最近導入された新兵器の使用を指示。

彼女ならば鎧袖一触に出来るだろうが、だからといって無視できないのは事実。

効果的な足止めになるはずだ。

・・・・だが。

 

「ダメだ、速すぎる!」

「進軍、止められませんッ!」

 

その討伐速度が、常識的であればの話だが。

 

「ッ対空砲には近づけるな!!」

 

すれ違う度に両断されていく新兵器『アルカノイズ』を目の当たりにした部隊長は、せめて対空砲への攻撃を防ごうと指示を飛ばしたが。

時はすでに遅く、華麗なバイク捌きで片づけられた後だった。

 

「クソッ!上空を警戒しろッ!敵の航空戦力が来るぞッ!!」

「もう来ています!部隊上空の飛行物体、目視で確認!!」

「モニター、出ます!」

 

モニターを見上げてみれば、そこに映っていたのは。

悠然と空を飛ぶ凧の姿が。

確認できるだけでも、三人の人物が見えた。

そのうちの二人が、シンフォギアであることも。

 

「ジャパニーズニンジャ!?嘘だろ!!?」

「なんで堂々としてるんだ!?忍べよッッ!!」

「Why Japanese people !!?」

 

だが、彼らにとっては凧を操る男性の方が衝撃的である。

そもそも当たれば死ぬノイズが闊歩する中で、シンフォギアと肩を並べている人物。

只者でないことくらい、とっくのとうに明白だった。

 

「ッええい、戦線を死守しろ!ここを突破されれば、今後の作戦に支障をきたすッ!!」

「yes,sir!!」

 

即座に部隊を展開。

百鬼夜行と人車入り乱れた戦力を構えるが。

しかし、それで止められる彼女達ではない。

ノイズは切り裂かれ、戦車は制圧され、兵士は昏倒させられ。

そして機銃は噛んで止められる。

 

「・・・・ッ!」

 

爆発を背負い、向かってくるシンフォギア達。

もうこの場には、彼女達を見た目通りに捉える者はいなかった。

 

「こうなったらアレを・・・・!」

「部隊長!?どちらに!?」

 

部下の声を無視し、『奥の手』の保管庫へ。

パスコードを入力の上起動させて、乗り込んだ。

 

「あれは・・・・!?」

 

見下ろせば、驚いた様子のシンフォギア達。

彼女達からすれば、巨大な戦艦が突如現れたように見えるだろう。

とある組織の支援ありきと言えど、己の国が手に入れた強力な力だ。

いくら彼女らでも、一筋縄ではいくまい。

期待通り、シンフォギアを手古摺らせるミサイル群。

奴らはヘリに乗ってこちらに向かっている様だが、思い通りにさせてやる義理はない。

だが、さすがはシンフォギア。

あちらもミサイルを展開すると、あろうことかそれを伝って接近してくる。

ヘリに当たりかけたものも、連中の機転でかわされてしまった。

 

「ならば、非常識には非常識だッ!!」

 

艦の一部を切り離し、ぶつけんと試みる。

膨大な質量は、人間など一溜りもないだろうが、しかし。

彼女達はそれすらも乗り越えてきた。

英雄の一人が、剣を高々と掲げれば。

刀身が長く、広く、巨大化していき。

あれよあれよと言う間に、天を衝くような。

もはや『剣』と呼んでいいのか、分からなくなるほどのサイズに変わる。

そして、人に扱えぬはずのそれが、軽々と振り下ろされて。

自慢の戦艦を両断、ついでに部隊長のサングラスも切り裂いた。

 

「ぐう・・・・はっ!?」

 

目の前を刃物が通り過ぎた動揺に怯んでいると、何かが接近してくる音に気付く。

弾かれたように見上げれば、ちょうど音源が。

両断された艦の切れ目から飛び込んできた、シンフォギア装者が。

片腕をドリルの様に回転させ、こちらに手を伸ばして。

――――それが、最後の記憶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「配給を受ける方はこちらへどうぞ!」

「一人一つずつ、ご家族の場合は二つまでです!」

「物資は十分にあります!余裕を持ってお並びください!」

 

バル=ベルデ共和国、海に近い市街地。

周囲のパトロールがてら、意外と対応が速かった国連軍の、人道支援の風景を眺めていた。

フェンス越しに見る現地の人たちは、みんな俯いた暗い顔をしている。

中には、怪我を負った父親に、必死に呼びかけている女の子の姿もあって。

・・・・いつか来たときと、そんなに変わらない光景が広がっていた。

 

「・・・・おい」

「ん?」

 

呼ばれたので目を向けると、圧されたらしいクリスちゃん。

すぐに持ち直して、おずおず口を開いて。

 

「お前、大丈夫か?こっちに来てからずっとピリピリしてんじゃねぇか」

 

・・・・あー、そのことかぁ。

 

「大丈夫っていうなら、クリスちゃんこそ。何かあったら頼ってよ」

「いや、そりゃそうだけどよ・・・・」

「だが、雪音の言う通りだ。何があった?」

 

何でもないことなので、なんとかやり過ごそうとしたけど。

翼さんにまで問い詰められてしまっては、さすがに罪悪感の方が上回る。

んー、でも、こんなどうでもいいことで気を揉ませたままなのもなぁ。

んにゃー!

 

「・・・・その、笑わないでくれます?」

「笑うものか、お前がそこまで思い詰めているんだぞ」

「いや、本当に、しょーもない理由でして」

 

もう、腹をくくるしかない。

 

「えっと、わたし。虫が苦手で」

「ああ・・・・ぅん?」

 

切り出すと、相槌を打った翼さんがきょとんとする。

 

「コバエとか、蚊とか、ゴキブリはそうでもないんですけど。蝶とか蛾の『第一形態』が本当に、どうしようもないくらいダメで。ジャングルは正直地獄なんですよ」

「・・・・だから?」

 

もう察したらしいクリスちゃんの、じとーっとした視線を受けながら。

恥を忍んで、言う。

 

「精神テンションを、それどころじゃなかった頃に戻して。何とか耐えているんです」

「本当にしょーもない理由だったな」

「ああ、そんな荒療治は初めて聞いた」

 

何にもなかったことにほっとしてくれつつ、何だか呆れた視線を二人に向けられたのだった。

うう、御心配おかけしてマス・・・・。

なんて落ち込んでるところに、車のクラクション。

そろってそっちを見ると、マリアさんが運転する軽トラが寄ってきた。

 

「市街地のパトロール、完了デス!」

「乗って、本部に戻るわよ」

 

異論はないので、わたし達も荷台に乗り込む。

走り出した軽トラから見えるのは、やっぱり戦火の爪痕が残る街。

銃弾の跡や血痕を見送りながら、地球の反対側に来た経緯を思い出していた。

 

 

そもそもの話は、キャロルちゃんの騒動にまで遡る。

いくら長生きと言えど、チフォージュ・シャトーやらオートスコアラーやら。

個人でそろえるには難しいものを準備していたことから、彼女に支援した組織があると判断した司令さん達。

お兄さんである八紘さんの情報網や、マリアさん翼さんによる調査が功を奏した結果。

『パヴァリア光明結社』の名前が浮上した。

歴史の影に潜み、その影響力は世界中に及んでいるという。

・・・・『執行者事変』のきっかけである、アメリカへのハッキングも。

こいつらの仕業であることが濃厚なのだそう。

というか、『いたずら』されたパソコンに、でかでかとエンブレムが表示されていたとか、何とか。

で、最近の話。

政府が『反乱軍』を鎮圧する新兵器と称して、アルカノイズを始めとした、異端技術の軍事転用を始めた『バル=ベルデ共和国』が。

連中が次に行動を起こすであろう場所だと推測されたのだ。

 

 

「――――ん?」

 

スマホに通知が来ていたので見てみると、弓美ちゃんからメッセージが届いていた。

『レアチーズケーキ!』と、タイトルまんまの写真に。

にこにこ顔のみんなが写っている。

バル=ベルデ行きが決まった日、ちょうどクロの検査に来ていた香子。

拙速を尊べとばたばたした結果、弓美ちゃんに任せてそれっきりだったんだけど。

何とか元気そうでよかった。

『この前は香子の事ありがとう、おいしそう!』と返事して、視線を景色に戻せば。

ちょうど本部が見えてきた。


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