チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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AXZ編、開幕・・・・!


AXZ事変
遥か『未来』の貴女へ


――――目を覚ます。

大岩になったように体が硬く、重い。

痛む節々を叱咤して、なんとか起き上がれば。

記憶とはかけ離れた、随分古ぼけてしまった部屋が。

それほどの時間が過ぎたのかと、喜びと共に呆れが込み上がってくる。

無論、やるべきことがあるのですぐに振り払った。

散らばっていた衣服の欠片に、力を籠める。

すると、一糸まとっていなかった体に、服が復活した。

仕上げに腕を振り、足を動かし。

五体の満足を確認して。

歩き出そうとして、立ち止まる。

自らの隣に眠っている、恩師。

もう開くこともない棺桶を眺めた後、深々と頭を下げて。

その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――女だ。

始めはそうとしか思わなかった。

続けて、遺跡の中から出てきたのかとか、よみがえった古代人とか。

意外と美人だなんて考えて。

だけど。

だけど、女がくゆりと笑みを浮かべた。

その時には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねむれ ねむれ」

 

抉れた石灰岩、へし折れた木々、飛び散った血。

 

「母の胸に」

 

転がる、放られている、事切れている。

屍と、死体と、亡骸達。

 

「ねむれ ねむれ」

 

ゆったり、ゆったり、散歩のような歩調。

 

「母の手に」

 

口ずさむのは、惨状に相応しくない歌。

 

「こころよき 歌声に」

 

安寧を祈る、子守歌。

 

「結ばずや 楽し夢」

 

地獄の中で、柔く、愛おしく、ほがらかに笑うその姿は。

まごうことなき、

 

「m...Monster(バケモノ)...!」

 

瞬間、こちらを見たそいつは。

穏やかな笑みから一転、めいいっぱい破顔させて。

 

「ありがとう、誉め言葉よ」

 

――――それが、最期に見たものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・・酷い・・・・」

「一体何が・・・・?」

「倉太博士!こっちに来てください!」

「こんな状況だけど・・・・すごいわよ、楽々!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでどうですか?」

「えーっと、うん、いい感じ!」

「こっちもナイスに仕上がりましたわ」

「わんッ!わんッ!」

 

板場家。

弓美、詩織、創世、それから香子を加えた四人に。

クロも入れたメンバーは。

キッチンに集まってくるくる動いていた。

 

「それで、ヒナのレシピだとどうなってるの?」

「えっと、次は・・・・」

 

柔らかくしたクリームチーズを練って、さらになめらかにする。

次に、別のボウルに生クリームと砂糖を入れ、角が立つまで泡立てる。

 

「ハンドミキサー使ってると、文明のありがたみを感じるよね」

「何を言ってるの・・・・」

 

それとレモン汁を、先ほどのクリームチーズのボウルに入れて混ぜ合わせる。

この時、水を加えてレンジで温めたゼラチンも忘れずに。

 

「さっきのケーキ型持ってきました!」

「ありがとー」

 

ビスケットの土台生地を敷いた型に、作ったチーズ生地をざるで濾しながら流し込んで。

平に均してから、冷蔵庫で2~3時間。

 

「その間にソースも作っちゃいましょう」

「出来るの?」

「ジャムで作れる、ナイスな方法を見つけたんです。簡単なので、何種類か用意してみましょうか」

「さっすがテラジ、やってみよう!」

 

と、まああれこれやっている間に。

 

「レアチーズケーキ、出来たー!!」

「アオーン!」

 

綺麗に型から外れたケーキを前に、思わず万歳をしてしまう面々なのであった。

 

「あ、食べる前に写真いい?響と未来に送るよ」

「じゃあ、切る前と後とで撮ってみようか?」

「いいですね、せっかくだから、私達のも送りましょうか」

「香子ちゃんも一緒にね」

「えへへ、ありがとうございます」

 

ちょっとした撮影会を挟んで、いざ実食。

優しい甘みと、引き締める酸味、アクセントを加えるビスケット生地。

そして、それぞれの好みで作ったフルーツソース。

全部が合わさればどうなるかと言えば。

 

「おいしー!!」

「さすがヒナレシピ・・・・!」

「元々料理下手だったとか、うそでしょ」

 

一口含んだだけで、この破顔。

おいしいものとは、かくも幸せを生むものなのである。

ちなみにクロは、その横で犬用のおやつを食べていた。

 

「響も食べられたらよかったのにね」

「今は地球の裏側なんだっけ?」

「はい、この前未来ちゃんとバタバタ出かけて。それっきり」

「そうそう、それでうちに泊まったもんね」

「弓美さん、お世話になりました」

「いえいえー♪」

 

話す傍らで、やはり気になるのか。

明後日の方向へ視線を滑らせた香子。

 

(せめて、怪我しないでくれるといいなぁ)

 

そう願いながら、また一口頬張ったのだった。




民謡や童謡は、楽曲コード要らなかったはずなので、そのままで。
いるなら後から付けます。

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