チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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前回、ならびに先日の小話へのご反応。
誠にありがとうございます。


雷響

い、妹が・・・・。

自力で脱出したと思ったら・・・・。

ワンワン王国の主になっていた件について(白目)

 

「だ、大丈夫!?白目むいてるよー!?」

「っは!!」

 

そーだった!

思わず現実逃避しかけたけど、まだ事件は終わってない!!

わんこ?攻撃してこないならいいや(諦観)

 

「状況は!?フレイムノイズはどうなっているんです!?」

『幸い、まだ裂け目は開ききっていないわ。だけど、このままじゃ時間の問題よ・・・・!』

『現に今も、フレイムノイズが湧き出してきている。速攻で決着をつけないと、不利になるのはこちらだ・・・・!』

 

うーん!相変わらずまずい状況!

翼さん達と合流すべきか、いやそもそも合流できるか。

頭を抱えて悩ませていると。

 

「お、姉ちゃん」

「ッ香子」

「大丈夫!?」

 

まだふらついている香子が、わたしのマフラーをきゅっと握ってくる。

ガングニールって袖とか無いし、そこくらいしか掴みようが無いよね・・・・。

 

「あの、ね。クロが」

「クロ?クロがどうしたの?」

「クロというか、みんなが、任せてって」

「みんな?」

 

えっ、『みんな』?

ばっと香子の後ろを見れば、こちらをじっと見てくる犬の軍勢(ワンオニオンヘタイロイ)・・・・。

いや、なまじでかいのが揃いも揃って目を合わせてくるもんだから。

一種のプレッシャーを感じて、逸らしそうになってしまうけど。

それよりも、なんだか妹を取られた悔しさが勝っていたので、姉のプライドを込めてぐっと見返す。

妹が欲しくば、まずはわたしを倒してもらおうか!?

・・・・ごほん、そんなことより。

 

「任せてって、戦うってこと?」

「多分、そういうことだと思うんだけど・・・・」

 

どこか困った顔をしている香子。

まだまだ子犬のイメージが強いのか、さすがに戸惑っているみたい。

とか言ってる間に、迫って来るノイズの群れ。

アルカにフレイムという嬉しくないチャンポンが押し寄せてくる。

元々裂け目の所で集合するつもりだったので、翼さん達は別ルートで進行中。

・・・・くっそ、やむを得ないか!!!!

 

「わたし!!!」

「見えてる!四の五の言ってる場合じゃないね!!!!」

 

手甲のアンカーを引き上げながら、首だけでクロ達を見やる。

 

「やるっていうなら、しっかり頼んだ!ここを突破されたら、香子だって無事で済まないんだからね!!!!」

「ッガアウ!!」

「バウバウ!!」

「オオオオオオオオオ!!」

 

発破をかければ、やる気十分とばかりに吠えたてるブラックドッグ達。

 

「わふ」

「え?わわわ!」

 

そんな中、ずっと香子の傍に控えていたクロは。

鼻先を器用にひっかけて、香子を背中に乗せる。

一方の香子は、束の間おろおろしていたけど。

視点が高くなったことで見えた、ノイズの群れに。

覚悟を決めたようだった。

 

「クロ!やばくなったら、香子を連れて逃げること!!返事ィ!!」

「オォーン!!」

 

クロが元気よく咆えた時には、もうノイズが到達していた。

香子が乗ってるクロを守る布陣で、ブラックドッグ達が前に。

わたしとハナちゃんが数体片づける間に、雷光と雷鳴が何百と屠っていく。

 

『すごい、この勢いなら・・・・!』

『いや、油断は禁物だ!相手は際限なく出てきてるんだぞ!』

 

耳元の通信に、内心で『そうだそうだ!』と同意しながら目の前の二体を駆除。

まだまだ立ち塞がる群れに、神砂嵐を放った。

その時、

 

「その風、借りるぞ!!」

「翼さん!」

 

やってきた翼さんが、風の上を滑走。

一気に切り込むと、軽く飛び上がって多方面に斬撃。

たまたま高度が低かった飛行型も含めて、文字通り斬り捨ててしまう。

 

「デデデース!まとめて伐採デスよー!!」

「除草のし甲斐がある・・・・!」

 

切歌ちゃんは縦にぎゅるんと、調ちゃんはフィギュア選手みたいに。

それぞれの回転切りが、ノイズを次々片づけていく。

 

「いくぜ!犬っころにゃ当てんなよ!」

「分かってる!全部まとめて、ハチの巣だッッ!!」

 

ダブルクリスちゃんも駆けつけてくれて、器用にブラックドッグの間を縫って狙撃していってる。

すげぇ、こんなドンパチパーティの中を、どうやって当ててるんだ・・・・。

あっ、今ボウガンの矢がカーブした!

ヒューッ!!

 

「キョウちゃん!」

「無事でよかった!」

「未来ちゃん!マリアさん!」

「ふふ、私は並行世界の人間よ。マルタと呼んで頂戴」

「は、はい!」

 

香子のとこに、未来とマルタさんも駆けつけてくれた。

これであっちは気にしなくてよさそう。

 

「おっと!」

 

身体を捻って、ノイズを回避。

すれ違いざまに切り付けて両断、続けてきた奴も蹴りで吹っ飛ばす。

さらにひっつかんでぽーい!と投げると、クリスちゃんズの弾幕で溶けてしまった。

・・・・並行世界含め、装者が勢ぞろいした上。

ブラックドッグという思わぬ援軍もいてくれてるこの状況だけど。

やっぱり無限に湧き出てくるノイズを、中々打ち払えない。

くっそ、このままじゃ、本当に裂け目が開ききっちゃうぞ・・・・!

 

「こうなったら、S2CAで・・・・!」

「早まるな!未だ出現点から離れている以上、消耗の激しい技は却下だ!!」

「けど、このままじゃジリ貧だぞ!なんかでかいのぶっ放さねぇと、不利になるのはこっちだ!!」

 

ハナちゃんの提案を、翼さんとクリスちゃんが却下するのを聞きながらサマーソルト。

 

「じゃ、じゃあクリスちゃん!スカイタワーの時のあれは!?」

「出来るっちゃ出来る!だが、はっきり言って焼け石に水でしかないぞぉ!!」

「そんな・・・・!」

 

ユキちゃんの奥の手の一つも、さすがに太刀打ちできないらしい。

そもそもチャージに時間がかかるだろうし、それまでに裂け目が開ききったら目も当てられない。

とはいえ、打開策がないのも事実。

どうする・・・・どうする・・・・!?

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「うううううう・・・・!」

 

響達と違って、何も防御手段がない香子は。

押し殺せない恐怖に震えながらも、必死にクロの背中にしがみついていた。

毛並みから見える、色とりどりのノイズの群れ。

その中で暴れている姉達の姿も良く見える。

ノイズはまだまだあふれ出てきていて、一向に減る気配がない。

 

「・・・・ッ」

 

風に舞う赤と黒の粉、断続的に響く怒号、敵味方から発せられる熱気。

こんなところで、戦い続けてきたのかと。

幼いながらに戦慄を禁じ得ない。

ごう、と聞こえたのは、咆哮か爆風か。

時折顔をうずめてしまう香子には、判断が出来なかった。

 

「数が、多い・・・・!」

 

終わりの見えない攻防に、音を上げ始めたのは誰だったか。

気付けば、響達との距離も近くなっているように思う。

押されているんだと、直観した。

 

(どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・!)

 

考えても考えても、打開策なんて欠片も思いつかない。

何もできない事実に、胸が痛い位に締め付けられる。

・・・・改めて、自分が如何に無力かを痛感した。

これなら、姉に遠ざけられても仕方がないと。

ぼろぼろ涙を零した。

その時だった。

 

「・・・・うぉふっ」

「――――えッ?」

 

大きく傾く視界。

落ちたというか、落とされたと気づくのに時間はかからない。

運よくマルタに受け止めてもらえたが、困惑を隠しきれなかった。

 

「く、クロ?どうし――――」

 

漠然と伸ばした右手に、大口が迫って。

――――不思議と、痛みはなかった。

代わりに、何か、バチバチと帯電するものが咥えられていて。

すぐに、噛み砕かれてしまう。

『切れた』と、確信めいた直観が告げた。

ただ、今まで漠然と感じていた繋がりが、文字通り感じられなくなった。

 

「・・・・何をするつもり?」

 

呆然と右手を見つめる香子に代わって、マルタが問いかける。

視線が鋭いのは、『もしも』に備えての事。

 

「くぅん」

「クロ?」

 

しかし、そんな心配事を他所に、クロは香子に顔を寄せる。

恐る恐る撫でてくれる手への、甘える声。

・・・・まるで、別れを惜しんでいるかのようだった。

やがて、後ろ髪を引かれながら、足早に離れていく。

 

「あ、クロ!待って!どこに行くの!?」

 

引き留める声を振り払うように、駆け出す足。

叫んだ香子に気付いた面々が、そちらを振り向いた時には。

既に駆け抜けた背中が見えていて。

 

「オオオオオオーン!」

 

遠吠え一つ。

続けざま、応える声が響き渡ると同時に。

各地で応戦していたブラックドッグが、次々迅雷と化して飛び立っていく。

その跡地は、余波で吹き飛んだノイズの残骸で散らかっていた。

 

「グルルル・・・・ガファ・・・・カフ・・・・!」

 

飛び立ってきた同胞たちを吸収し、体内に溜まっていく膨大なエネルギー。

その代償が、負担が、意識を抉り取っていく。

明滅する視界で、それでも尚、己と目標を見失わず走り続けられたのは。

後ろに、大好きな人がいるから。

更に加速する。

光速で流れていく風景は、もはや自分がどこにいるのかすら分からない。

だのに、目標である裂け目は、はっきりと見えている。

――――走れ、走れ、走れ。

危険に晒したのだから、迷惑をかけてしまったのだから。

何より、帰る場所をくれたのだから!!

未だに思い出せるとも、肌寒い中抱き上げてくれた温もりを。

怪我を労わってくれた手を、向けてくれた笑顔を。

欲しくても手に入らなかった、願っても叶わなかった。

だからこそ、それがどれほど尊いか、如何に守るべきなのか。

痛いほどに、分かっている!!!!

 

「―――――――――」

 

――――その、『声』(おと)が。

咆哮だったのか、雷鳴だったのか。

固唾を吞む面々には、判断がつかなかった。

ただ一つ言える、確かなことは。

この先の人生で、二度と聞かないだろう雷声が。

裂け目も、それを開こうとしたアルカノイズをも。

一瞬のうちに消し飛ばしたことだけだった。




次回、最終回。
閑話をちょこちょこ上げたあとは、ついに・・・・!

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