誠にありがとうございます。
い、妹が・・・・。
自力で脱出したと思ったら・・・・。
ワンワン王国の主になっていた件について(白目)
「だ、大丈夫!?白目むいてるよー!?」
「っは!!」
そーだった!
思わず現実逃避しかけたけど、まだ事件は終わってない!!
わんこ?攻撃してこないならいいや(諦観)
「状況は!?フレイムノイズはどうなっているんです!?」
『幸い、まだ裂け目は開ききっていないわ。だけど、このままじゃ時間の問題よ・・・・!』
『現に今も、フレイムノイズが湧き出してきている。速攻で決着をつけないと、不利になるのはこちらだ・・・・!』
うーん!相変わらずまずい状況!
翼さん達と合流すべきか、いやそもそも合流できるか。
頭を抱えて悩ませていると。
「お、姉ちゃん」
「ッ香子」
「大丈夫!?」
まだふらついている香子が、わたしのマフラーをきゅっと握ってくる。
ガングニールって袖とか無いし、そこくらいしか掴みようが無いよね・・・・。
「あの、ね。クロが」
「クロ?クロがどうしたの?」
「クロというか、みんなが、任せてって」
「みんな?」
えっ、『みんな』?
ばっと香子の後ろを見れば、こちらをじっと見てくる
いや、なまじでかいのが揃いも揃って目を合わせてくるもんだから。
一種のプレッシャーを感じて、逸らしそうになってしまうけど。
それよりも、なんだか妹を取られた悔しさが勝っていたので、姉のプライドを込めてぐっと見返す。
妹が欲しくば、まずはわたしを倒してもらおうか!?
・・・・ごほん、そんなことより。
「任せてって、戦うってこと?」
「多分、そういうことだと思うんだけど・・・・」
どこか困った顔をしている香子。
まだまだ子犬のイメージが強いのか、さすがに戸惑っているみたい。
とか言ってる間に、迫って来るノイズの群れ。
アルカにフレイムという嬉しくないチャンポンが押し寄せてくる。
元々裂け目の所で集合するつもりだったので、翼さん達は別ルートで進行中。
・・・・くっそ、やむを得ないか!!!!
「わたし!!!」
「見えてる!四の五の言ってる場合じゃないね!!!!」
手甲のアンカーを引き上げながら、首だけでクロ達を見やる。
「やるっていうなら、しっかり頼んだ!ここを突破されたら、香子だって無事で済まないんだからね!!!!」
「ッガアウ!!」
「バウバウ!!」
「オオオオオオオオオ!!」
発破をかければ、やる気十分とばかりに吠えたてるブラックドッグ達。
「わふ」
「え?わわわ!」
そんな中、ずっと香子の傍に控えていたクロは。
鼻先を器用にひっかけて、香子を背中に乗せる。
一方の香子は、束の間おろおろしていたけど。
視点が高くなったことで見えた、ノイズの群れに。
覚悟を決めたようだった。
「クロ!やばくなったら、香子を連れて逃げること!!返事ィ!!」
「オォーン!!」
クロが元気よく咆えた時には、もうノイズが到達していた。
香子が乗ってるクロを守る布陣で、ブラックドッグ達が前に。
わたしとハナちゃんが数体片づける間に、雷光と雷鳴が何百と屠っていく。
『すごい、この勢いなら・・・・!』
『いや、油断は禁物だ!相手は際限なく出てきてるんだぞ!』
耳元の通信に、内心で『そうだそうだ!』と同意しながら目の前の二体を駆除。
まだまだ立ち塞がる群れに、神砂嵐を放った。
その時、
「その風、借りるぞ!!」
「翼さん!」
やってきた翼さんが、風の上を滑走。
一気に切り込むと、軽く飛び上がって多方面に斬撃。
たまたま高度が低かった飛行型も含めて、文字通り斬り捨ててしまう。
「デデデース!まとめて伐採デスよー!!」
「除草のし甲斐がある・・・・!」
切歌ちゃんは縦にぎゅるんと、調ちゃんはフィギュア選手みたいに。
それぞれの回転切りが、ノイズを次々片づけていく。
「いくぜ!犬っころにゃ当てんなよ!」
「分かってる!全部まとめて、ハチの巣だッッ!!」
ダブルクリスちゃんも駆けつけてくれて、器用にブラックドッグの間を縫って狙撃していってる。
すげぇ、こんなドンパチパーティの中を、どうやって当ててるんだ・・・・。
あっ、今ボウガンの矢がカーブした!
ヒューッ!!
「キョウちゃん!」
「無事でよかった!」
「未来ちゃん!マリアさん!」
「ふふ、私は並行世界の人間よ。マルタと呼んで頂戴」
「は、はい!」
香子のとこに、未来とマルタさんも駆けつけてくれた。
これであっちは気にしなくてよさそう。
「おっと!」
身体を捻って、ノイズを回避。
すれ違いざまに切り付けて両断、続けてきた奴も蹴りで吹っ飛ばす。
さらにひっつかんでぽーい!と投げると、クリスちゃんズの弾幕で溶けてしまった。
・・・・並行世界含め、装者が勢ぞろいした上。
ブラックドッグという思わぬ援軍もいてくれてるこの状況だけど。
やっぱり無限に湧き出てくるノイズを、中々打ち払えない。
くっそ、このままじゃ、本当に裂け目が開ききっちゃうぞ・・・・!
「こうなったら、S2CAで・・・・!」
「早まるな!未だ出現点から離れている以上、消耗の激しい技は却下だ!!」
「けど、このままじゃジリ貧だぞ!なんかでかいのぶっ放さねぇと、不利になるのはこっちだ!!」
ハナちゃんの提案を、翼さんとクリスちゃんが却下するのを聞きながらサマーソルト。
「じゃ、じゃあクリスちゃん!スカイタワーの時のあれは!?」
「出来るっちゃ出来る!だが、はっきり言って焼け石に水でしかないぞぉ!!」
「そんな・・・・!」
ユキちゃんの奥の手の一つも、さすがに太刀打ちできないらしい。
そもそもチャージに時間がかかるだろうし、それまでに裂け目が開ききったら目も当てられない。
とはいえ、打開策がないのも事実。
どうする・・・・どうする・・・・!?
◆ ◆ ◆
「うううううう・・・・!」
響達と違って、何も防御手段がない香子は。
押し殺せない恐怖に震えながらも、必死にクロの背中にしがみついていた。
毛並みから見える、色とりどりのノイズの群れ。
その中で暴れている姉達の姿も良く見える。
ノイズはまだまだあふれ出てきていて、一向に減る気配がない。
「・・・・ッ」
風に舞う赤と黒の粉、断続的に響く怒号、敵味方から発せられる熱気。
こんなところで、戦い続けてきたのかと。
幼いながらに戦慄を禁じ得ない。
ごう、と聞こえたのは、咆哮か爆風か。
時折顔をうずめてしまう香子には、判断が出来なかった。
「数が、多い・・・・!」
終わりの見えない攻防に、音を上げ始めたのは誰だったか。
気付けば、響達との距離も近くなっているように思う。
押されているんだと、直観した。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・!)
考えても考えても、打開策なんて欠片も思いつかない。
何もできない事実に、胸が痛い位に締め付けられる。
・・・・改めて、自分が如何に無力かを痛感した。
これなら、姉に遠ざけられても仕方がないと。
ぼろぼろ涙を零した。
その時だった。
「・・・・うぉふっ」
「――――えッ?」
大きく傾く視界。
落ちたというか、落とされたと気づくのに時間はかからない。
運よくマルタに受け止めてもらえたが、困惑を隠しきれなかった。
「く、クロ?どうし――――」
漠然と伸ばした右手に、大口が迫って。
――――不思議と、痛みはなかった。
代わりに、何か、バチバチと帯電するものが咥えられていて。
すぐに、噛み砕かれてしまう。
『切れた』と、確信めいた直観が告げた。
ただ、今まで漠然と感じていた繋がりが、文字通り感じられなくなった。
「・・・・何をするつもり?」
呆然と右手を見つめる香子に代わって、マルタが問いかける。
視線が鋭いのは、『もしも』に備えての事。
「くぅん」
「クロ?」
しかし、そんな心配事を他所に、クロは香子に顔を寄せる。
恐る恐る撫でてくれる手への、甘える声。
・・・・まるで、別れを惜しんでいるかのようだった。
やがて、後ろ髪を引かれながら、足早に離れていく。
「あ、クロ!待って!どこに行くの!?」
引き留める声を振り払うように、駆け出す足。
叫んだ香子に気付いた面々が、そちらを振り向いた時には。
既に駆け抜けた背中が見えていて。
「オオオオオオーン!」
遠吠え一つ。
続けざま、応える声が響き渡ると同時に。
各地で応戦していたブラックドッグが、次々迅雷と化して飛び立っていく。
その跡地は、余波で吹き飛んだノイズの残骸で散らかっていた。
「グルルル・・・・ガファ・・・・カフ・・・・!」
飛び立ってきた同胞たちを吸収し、体内に溜まっていく膨大なエネルギー。
その代償が、負担が、意識を抉り取っていく。
明滅する視界で、それでも尚、己と目標を見失わず走り続けられたのは。
後ろに、大好きな人がいるから。
更に加速する。
光速で流れていく風景は、もはや自分がどこにいるのかすら分からない。
だのに、目標である裂け目は、はっきりと見えている。
――――走れ、走れ、走れ。
危険に晒したのだから、迷惑をかけてしまったのだから。
何より、帰る場所をくれたのだから!!
未だに思い出せるとも、肌寒い中抱き上げてくれた温もりを。
怪我を労わってくれた手を、向けてくれた笑顔を。
欲しくても手に入らなかった、願っても叶わなかった。
だからこそ、それがどれほど尊いか、如何に守るべきなのか。
痛いほどに、分かっている!!!!
「―――――――――」
――――その、
咆哮だったのか、雷鳴だったのか。
固唾を吞む面々には、判断がつかなかった。
ただ一つ言える、確かなことは。
この先の人生で、二度と聞かないだろう雷声が。
裂け目も、それを開こうとしたアルカノイズをも。
一瞬のうちに消し飛ばしたことだけだった。
次回、最終回。
閑話をちょこちょこ上げたあとは、ついに・・・・!