チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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シンフォギアライブが当たったので、舞い踊りながらの投稿です。


知的好奇心

本当は、昨日の夜中のうちに見つけていたということなんだけど。

敵地の通信妨害が大分高性能で苦戦したとかで、捉えた途端に気絶してしまったらしい。

糸電話の要領で聞いた敵の情報を、誰かに伝える間もなかったというのだから。

どれほどの抵抗を受けたのかよく分かった。

で、今。

装者みんなだとさすがに多いので、ヘリに分かれて乗って。

急行している次第だ。

・・・・香子。

どうか無事で・・・・!

 

「見えた!」

 

未来の声に顔を上げれば、森の中にそびえる『いかにも』な廃墟が。

なんでも、かつてはテーマパークだったとか、なんとか。

上空に差し掛かったところで、飛び降りつつ変身。

着地すれば、出迎えたのはフレイムノイズの群れ。

 

「邪魔すんな!!群れ雀共オォッ!!」

「あたしら様のお通ぉーりだアァッ!!」

 

クリスちゃんとユキちゃんが開いてくれた道を駆け抜けて、一番反応があるという管理棟を目指す。

 

「活路を切り開くッ!!」

「負けずに突貫しますッ!!」

 

ハナちゃんがちぎっては投げする横で、わたしも、刃を投擲してばら撒き。

それから両手をジャマダハルに変形させて、せまるノイズを叩き斬っていく。

そうして露払いしたところへ、未来が大きな一撃をお見舞い。

清々しいほどに目の前が開けた。

 

「香子ちゃぁーんッ!!」

「助けに来たデスよーッ!!」

「どこにいるの!?返事をちょうだい!!」

 

ハナちゃんに続いて、声を張り上げる調ちゃんと切歌ちゃん。

だけど、答える者は誰もいない。

・・・・外れてほしかった、予想通りだ。

自分でも、余裕がなくなっていくのが分かる。

目の前の一体をがむしゃらにサマーソルト。

同時に放った刃で次々片づけていく。

夢中になっている内に、管理棟はもう目の前だ。

 

「ッ香子オオオオオォォォ―――!!!」

 

もうこらえきれなくなって、ありったけに叫びながら扉を蹴破ろうとして。

 

「響ッ!!ダメ、右ッ!!」

「――――ッ!?」

 

横合いから、雷撃に吹き飛ばされた。

 

「ぐ・・・・!」

 

派手に転がる中で見えたのは、案の定ハウリング。

だけど、なんだか様子がおかしいというか。

纏っている気配が、尋常じゃない・・・・!

 

「――――おやおや、ずいぶん大勢な」

 

さすがに飛び出し過ぎたことを反省しながら、体勢を立て直してると。

覚えのない声が聞こえる。

顔を上げると、蹴破ろうとした扉から誰かが出てきている。

 

「来るとは思っていたが、存外遅かったね。昨日の時点で、こちらを捕捉していただろうに」

 

歩くたびに揺れる白いローブ。

ウェーブのかかった薄い赤毛は、マリアさんのものよりも赤が濃い。

そして片手には金属製の何かを握っている。

 

「まあ、せっかく来てもらったんだ。悪役らしく口上でも述べさせてもらおうか」

 

現れたその人は、髪へ気だるげに手櫛をかけてから。

改めてこっちを見た。

 

「私はノア、この騒動の主犯だよ」

 

・・・・あんまりにもあっさりした自白に。

うっかり呆けてしまったのはしょうがないと思う。

 

「あっさり白状するんだな」

「今のところ、隠れる気はさらさらないからね」

 

ユキちゃんの睨みもどこ吹く風な主犯こと『ノア』は、肩をすくめた。

この余裕な感じ・・・・自分の手札に、よっぽど自信があると見た。

 

「・・・・貴様の企み『ブラックドッグ』については、こちらも把握している」

 

そんな中で口を開いたのは、翼さん。

 

「犬の遺体に、子どもの魂・・・・斯様な外法を用いて、一体何をするつもりだッ・・・・!!?」

「別にいいよ?教えてあげよう」

 

・・・・ブラックドッグ。

了子さんの『糸電話』で判明した、ノアの手札の一つ。

こらえきれない怒りを滲ませて、怒髪天を衝く翼さんの様子に対しても。

ノアは怯む素振りすら見せなかった。

 

「善悪の基準を、知りたいのさ」

「善悪の、基準・・・・?」

 

片手を広げながら告げられた言葉を、ハナちゃんがオウム返しする。

 

「君達日本人にも、『天罰』という言葉はなじみ深いはずだ。その通り、法や人道に背く『悪』は、必ず裁かれなければならない・・・・だというのに」

 

変わった、と感じた。

ノアの目つきが、剣呑な気配を纏った。

 

「世の中を見てみろ、のうのうと大手を振る連中がどれほどいる?裁きを卑しく逃れてのさばっている?」

 

・・・・いかん。

ぐっさり来た。

心当たりしかない言葉に怯んでしまっていると、隣の未来が手を握ってくれた。

 

「『基準』があるはずだ、裁きを下すための可否の基準が。そうでなければ、バカな人間に救いがないじゃないか」

「随分不遜な言葉ね、己が高位だとでも言いたいの?」

「ああ、高位だとも。私は人より頭がいい、錬金術や呪術にも精通している」

 

マリアさんが睨みつけながらの問いにも、どこ吹く風。

 

「だからこそ知るべき、知らせるべきなんだよ。それこそが、高位である私の責務だ」

「・・・・人間をバカだと言い切った割には、随分世話を焼くんですね」

 

思ったことが、口をついて出てしまった。

 

「頭がいいと言っただろう?見ていて好感を持てる『良いバカ』と、直ちに死んで社会貢献すべき『救いようのないバカ』の違いくらいわかるとも。もちろん、前者を圧倒的に庇護すべきことも、後者を徹底的に処分すべきこともね」

 

そこで言いたいことを言い終えたのか、ノアはいったん話を区切った。

 

「さて、目的に関してはここまでとしよう・・・・お嬢さんを救出に来た君達にとっても、その方が良いだろう?」

 

やっとか・・・・。

妙な雰囲気のブラックドッグが無視できなくて、結局耳を傾けてしまったんだよね・・・・。

 

「香子を、妹をどこへやった?」

 

まあ、向こうが話題を振ってくれたので。

こっちも遠慮なく追及できるってもんよ。

 

「ああ、やっぱりご兄弟だったか、いやはや、よく似ているね」

「御託はいいから」

「随分せっかちだなぁ」

 

ぐぬぬ、挑発なのは分かってるんだけど。

クスクス笑う声に、イライラせざるを得ない・・・・!

 

「安心してくれ、丁重に扱っているよ。こちらとしても死なれては困るからね」

 

『死んではいない』。

まだチャンスはあるということ。

一瞬気が緩みそうになるのを、慌てて持ち直す。

 

「君も彼女を大分可愛がっていた様じゃないか・・・・おかげで、こちらも大助かりだ」

「・・・・どういうこと?キョウちゃんに何をしたの!?」

 

未来の怒鳴るような問いかけ。

それすらも、ノアは笑って返して。

 

「ご存知の通り、ブラックドッグは、愛されなかった犬の体と、同じく愛されなかった子供の魂で作られている・・・・そこへ、溢れんばかりの愛を受け取った記憶を注げば、どうなると思う?」

 

・・・・・・・・・・・・・・ま、さか。

まさか。

 

「自身と他者の、境遇の違い、立ち位置の違い。その認識の差が生み出す感情は、『虚無』と『苦痛』、そして『嫉妬』だ」

 

頭が、理解を拒む。

だけど、現実は否応なく迫ってくる。

 

「そのエネルギーは、ブラックドッグを強くする」

「ゥウ、オオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

開戦の合図は、唐突だった。

ノアが語った通り、今までとは比べ物にならないプレッシャーを放つブラックドッグ。

一見高ぶるように首を振る様が、今となっては苦しんでいるようにも見えて。

 

「そして私の下にいるのは、この一体だけじゃない・・・・先日と同じように、市街地に放てば・・・・さて、どうなるかな?」

 

なんて言っているけど、反応する余裕なんてもうなくなっている。

爪や牙、巨体による突進のみならず。

雷撃はもちろんのこと、実体化させた影による攻撃も多彩で・・・・!

 

「ッ左様なことをさせるわけにはいかん!」

「その通りだ!まずはこの窮地を・・・・!」

 

花の細い花弁の様に広がった影が、わたし達をまとめて叩き潰そうとしてくる中。

翼さんとフウさんが張り上げた声に、その通りだと返事したり、頷いたりしていると。

 

「んんん?大分のんびりした対応だね?」

 

どこか揶揄うような声で、ノアが話しかけてきた。

 

「いや、頼もしい限りでいいことなんだけど。これはカートゥーンでもフィクションでもない現実なんだよ?・・・・ところで」

 

徐に、耳元を指さして。

 

「随分静かじゃないか、君達の銃後は」

「――――ッ!?」

 

驚愕で思わず振り向いた目の前で、ノアが指を鳴らした刹那。

 

『返事をしてくれ!お前達ィッ!!』

 

司令さんの、切実な大声が聞こえた。

 

「司令!?」

『よかった!繋がりました!』

『聞こえているな!?市街地に多数のブラックドッグとフレイムノイズが出現した!』

「何だって!?」

 

・・・・やられた。

やられた!

やられた!!

完全にしてやられた!!!!

市街地の方が本命だったんだ!!

 

「早く戻らないと!」

「おやぁ?妹さんはいいのかい?」

「ならば隊を分けるのみ!調と切歌、翼とクリスは、私と!!残りはノアの拿捕を!!」

 

そう言って、マリアさんはみんなを引き連れて踵を返す。

ノアは特に追いかけることをせず、ただにやにやとわたし達の攻防を見ていた。

くっそ、余裕ぶっこきやがって・・・・!

前足での叩きつけを散開して回避する中、ハナちゃんが連撃の一つを受け止める。

そのまま投げ飛ばそうとしたみたいだけど、横合いから鞭のような音に襲い掛かられる。

見ると、細く長く伸びた影が、弾き飛ばしたのが見えた。

影はそのまま蛇のように鎌首をもたげると、突っ込もうとしていたわたしと、翼さんを打ち据える。

ちらっと見た地面が、大きくひび割れているのが分かった。

もしかしなくても、当たったらひとたまりもない。

 

「ッ邪魔すんなァ!犬っころオォ!!」

 

ユキちゃんが咆えたと思ったら、大きなミサイルを二つ背負った。

なるほど、爆発の煙幕に紛れてノアをひっ捕らえる寸法か・・・・。

確認のため、目線で目的地を指してみると案の定。

ハナちゃんやフウさん、そして未来も気付いた様で。

それぞれの動きが変わった。

 

「寝んねしなッ!!」

 

コンマのやり取りの後で、叩き込まれるミサイル。

狙い通り、当たりが煙幕に包まれる。

これなら・・・・!

ノアの位置は把握済み。

 

「ぅおおおおおおおおおおおおおお!」

 

何も見えない煙の中を、一気に駆け抜けて、飛び出して。

 

「香子をッ!!(かぁえ)せぇッッ!!」

 

ノアに拳をぶつける、刹那。

奴が、にやりと笑ったのが見えた。

 

「――――こうも予想通りだと、一周回ってつまらないね」

 

瞬間、体が止まる。

手足が動かせなくなる。

何事かと見てみれば、四方八方から鎖が伸びていた。

これは、錬金術か・・・・!

 

「まあ、ここまで届いた褒美に、教えてあげよう」

 

抜け出そうと藻掻いている間に、ノアの体がブラウン管のテレビ画面みたいにぶれる。

 

「私も、妹さんも、始めからここにはいないんだよ」

「ッま、待て!」

「それから」

 

怒鳴りつけるも、消えていくのを止められない。

それでも、怒鳴りつけずにいられない。

 

「今まで散々殺した分際で、今更『家族に手を出すな』?随分虫のいい話をするじゃないか、『ファフニール』」

 

・・・・結局、止められないまま。

ノアは姿を消してしまった。

 

「――――」

 

・・・・だ、けど。

だけど、それどころじゃない。

胸に渦巻くのは、自責と、自蔑と、後悔で。

体が一気に重くなって。

だから、

 

「響ッ!!!」

 

未来の、悲鳴のような声。

振り向くと、ブラックドッグが大口をかっぴらいて迫ってきていて。

だけど。

牙が突き刺さる瞬間、割り込んできたのは。

 

「翼さぁんッ!!!!」


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