チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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コナン編と同じく、なるべくさっくり終わらせたいけど。
少し展開が速かったか・・・・?
いや、でもあのまま日常を続けてもぐだぐだしそうだし。
(´・ω・`)ぬーん


妖精と宝物庫

「――――何が、あったんですか」

 

自分がどんな顔をしているか、嫌でも分かった。

みんなは悪くないのに、眉間にしわが寄ってしまう。

 

「落ち着け」

 

そんなわたしを宥めるように、司令さんは真っ向から見返して。

静かに口を開いた。

いかんいかん・・・・本当にクールダウンしないと・・・・。

 

「端的に言うなら、ハウリングもクロ君と同じ能力を持っていた」

 

――――わたし達が駆けつけて助けた調査班達が、本部に帰還した途端。

一人の足元、というか、影からハウリングが現れて。

香子のところへ一直線。

一方の香子も、検査が終わって解放されたことや。

怪我を心配する元来の優しい性格と、子どもならではの好奇心が相まって。

近くに来てしまっていたらしい。

結果として、待機していた装者達や、エージェントが何かを講じる前に。

あっという間に連れ去られてしまったということだった。

・・・・本部に戻った時、未来はわたしの顔を見た途端泣き出して。

静かにはらはら涙する姿は、二年前を想起してしまうほど痛々しかった。

 

「クロ君もまるごと連れていかれたのは、一応幸運かもしれないわね。まだまだちっちゃいけど、立派な番犬だから」

 

それでもぬぐえない不安には、了子さんがフォローを入れてくれて。

お陰で、何とか平常心に戻り切れた。

まあ、当然っちゃ当然だよなぁ。

クロは幼体なんだから、成体であるハウリングが同じ能力を持ってるのは当たり前なのに。

なぁんですっぽ抜けちゃってたかなぁ・・・・。

 

「当然だが、現在諜報部の総力を挙げて捜索している」

 

――――わたし達よりも幼い子が、よからぬ輩に攫われたということもあって。

諜報部の皆さんは、些末な証拠も見逃さぬような気合で探し回ってくれているらしい。

 

「司令、我々にも助太刀出来ることがあるなら、是非」

「未だ子ども扱いされるあたしらが言えた義理じゃないが、ちびっこが危険にさらされてんだ。じっとしてられっかよ」

「そういうことだから!」

 

平行世界のみんなも気合を入れる中、ハナちゃんが徐に手を取ってきて。

 

「わたしも、絶対にあきらめちゃダメだよ!」

 

そう、まっすぐで綺麗な目で。

励ましの言葉をかけてくれた。

 

「・・・・うん、頑張る」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぶえ」

 

べっと乱暴に吐き出された香子は、顔面から床に落ちた。

ずっと頬張られた状態での移動だったので、満遍なくよだれまみれとなってしまい。

不快感にただ顔を歪める。

 

「くぅーん」

「わ、と・・・・ありがと、クロ」

 

クロが一緒に来てくれていたのは幸いだろう。

足元から現れた彼は心配げに近寄ると、よだれを拭うように舐めてくれた。

 

「ここ、どこだろう・・・・?」

 

クロが居てくれたことで余裕が生まれた香子は、あたりを見渡してみる。

薄暗い屋内に窓はなく、外の景色はうかがえない。

何となく地下施設だろうかと予想を立てながら、立ち上がってみた。

視点が高くなっても、相変わらず景色は同じ。

ここがどこだか分からず、香子は頭を抱えてしまった。

連れてきた『犬』(確か『はうりんぐ』と呼ばれていた)は、香子を吐き出して早々に立ち去ったので。

もはやお手上げ状態だ。

 

「とにかく、歩いてってみよう」

「わん!」

 

立ち止まっていては埒が明かないのと、不安でどうにかなりそうだったので。

クロに声をかけ、歩き出そうとした。

その時。

 

「おや、ずいぶん幼いお嬢さんを選んだね」

 

カツ、コツと、足音が響いた。

弾かれたように振り向けば、白いローブを纏った恐らく女性が。

ハウリングを引き連れ、ゆったりと歩いてきている。

 

「もう少し年を食っていた方がよかったんだが・・・・まあ、最低条件は満たしている」

 

『良しとしよう』と、混乱する香子をおいてけぼりにして、勝手に納得する女性。

観察するその目つきはまるで、宅配で届いた物品に向けるような無機質さ。

 

「・・・・ッ」

「おっと、失礼」

 

言い様のない恐怖を感じた香子が、せめてもの抵抗に顔をそむけると。

そうされたことで、女性はやっと香子を認識する。

 

「ひとまずはようこそと言っておこうか、お嬢さん。私は『ノア』、とくに覚えなくてもいい」

「・・・・街にノイズを出したのはあなた?」

「ストレートに行くね、直接的手段で害されると思わなかったのかい?いや、あわよくば彼らに情報を伝えようとしているのか」

 

崩れない笑みに、再び寒気を覚えながらも。

香子は『負けてたまるか』と眉を吊り上げる。

 

「なるほど、勇ましい・・・・よほど愛情を受けたと見る」

「悪いですか?」

「とんでもない、素晴らしいことだよ。私にとっても、君にとっても」

 

喉を鳴らして笑うノアは、しかし、怪しく目を細めて。

 

「いや、君にとっては、もしかしたら不幸だろうけどね」

「・・・・どういうことですか?」

「そうだねぇ、これから君には否が応でも働いてもらうのだし。うん、いいだろう、話してあげよう」

 

口元をむっとさせたまま、香子がクロと一緒に睨みつけながら問いかければ。

ノアは特に気にした素振りを見せず語りだした。

 

「お嬢さんは、妖精というものを知っているかい?」

 

急な問いかけに、香子はきょとんと固まってしまった。

その直後に再起動して、おずおず首を横に振る。

 

「はは、いいよ。こちらも語りがいがある」

 

ノアはとくに気にした様子もなく、ただにこやかに笑うだけ。

 

「では、少しばかり授業と行こうか」

 

指を立てられた香子は、何となくバカにされた気がして。

せめてもの抵抗に、むっとしてみせた。

 

「そもそも妖精とは、ヨーロッパにおける精霊の呼び名だ。中国では妖怪のニュアンスでも使われている」

 

止める間もなく勝手に話し出してしまったので、大人しく耳を傾けることにした。

 

「歴史をさかのぼっていくと、ゴブリンや小人のような、ずんぐりむっくりな姿が多かったようだね。羽がついたイメージは、ごく最近になって出てきたものだよ」

「へぇ・・・・」

 

思わず声が出た口を押さえると、ノアがにこにこ微笑んできて。

何だか悔しくなった香子は、またそっぽを向いて抵抗した。

 

「さて、そんな妖精に関する伝承の中には、『洗礼を受ける前の子供が変化した姿』だというものがある」

「洗礼・・・・?」

 

同じく気にしないまま、ノアは続きを語りだす。

一方耳慣れない言葉を聞いた香子は、再び思わずの反応をした。

 

「生みの親や神からの祝福・・・・そうだね、いわば愛とでも言おうか。それを受けられなかった子供の魂が、妖精になってしまう、という話だ」

「愛・・・・」

 

その単語に、家族や友達の顔を思い出した香子。

不意打ち気味に勇気をもらって、口元を引き締めた。

対する幼子の様子を、相変わらずの上機嫌で観察していたノアは。

『さて』と話題を切り替える。

 

「妖精にも、様々な種類がある。レプラコーンやノームあたりは有名だろう」

 

ちらりと動かした目が、クロを収めて。

いやな、予感がした。

 

「――――その中に、ブラックドッグというものがいる」

 

喉が引き絞るのを感じる香子。

神経が無駄に研ぎ澄まされて、声がするする入ってくる。

 

「基本的には怨霊の一種として伝えられていて、死の予兆を告げるとも言われているねぇ」

 

二人の視線が、同時に滑る。

香子を守るように立ちはだかっている、クロへと。

 

「ウェールズでは墓守として重宝されているようだけど、まあ、今は置いておこう」

 

そんなことより、と。

香子の様子を愉しむノアの顔は、笑みが深くなっていく。

 

「この度私が作り出したブラックドッグ達は、これまで語った伝承を元にした『哲学兵装』だ」

「哲学、兵装・・・・?」

「そう」

 

テンションが上がってきたらしいノア。

呆然とした呟きに、小躍りしながら頷いた。

 

「愛されなかった子供の魂を、同じく愛されなかった犬の体に入れる・・・・いやぁ、日本もいい国だ」

 

吠えるクロを無視して、震えだした香子を見下ろして。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――どちらの材料も、容易く手に入る」

 

もう待ちきれないと言わんばかりに、口元に三日月を描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香子が攫われて、一晩明けた。

見つからないのは予想通りだけど、やっぱり堪えるものは堪えてしまう・・・・。

だけど、そう落ち込んでばかりもいられない。

今朝もまた、新たな情報がもたらされることになった。

 

「と、いうわけで!香子ちゃんの捜索で忙しい櫻井主任と、チップ解析でお疲れ気味なエルフナインちゃんに代わって、不肖水瀬がご説明させていただきマス!」

 

わたしにとってはなじみの技術班の一人、水瀬さんが言った通り。

いくら頭が良くても、子どもぼでーなエルフナインちゃんは言わずもがな。

了子さんは、異端技術の一つで香子の捜索に精を出してくれている。

なんでも、『アリアドネの道標』という、毛糸の哲学兵装を使っているらしい。

アリアドネの名前は知らなくても、ギリシャ神話のテセウスが、ミノタウロスの迷宮攻略に使ったことで知られているんじゃなかろうか。

その伝説をもとに、行方不明を『迷宮』、香子の居場所を『その出口』と定めることで探してくれている。

さらにわたしの血液を媒介にして縁を辿ることで、発見率を上げているとか、なんとか・・・・。

 

「先日、響ちゃんとマリアさん、そしてフウさんが盛大に破壊してくれた、フレイムノイズの召喚門についてなのですが」

 

閑話休題(はなしをもどそう)

水瀬さんはハイテンションから一転、真面目な様子でモニターを見るように促したので。

大人しく倣って目をやった。

 

「特に要である装置を調査した結果、恐るべき事実が判明しました」

「恐るべき事実?」

「はい・・・・みなさんの死に物狂いを、水泡に帰してしまう、残酷な事実です」

 

・・・・なんだろう。

すごくいやな予感。

 

「あのフレイムノイズ、バビロニアの宝物庫から出てきた様なんです」

 

・・・・・・・・・・・・・!!??!?!?!?!?!?

 

「なんだとォッ!?」

 

司令さんが怒鳴ってしまうのも無理はないと思う。

『ひえっ』と怯んだ水瀬さんが、すぐに持ち直して続けるには。

昨日壊した装置には、次元に干渉する術式が使われていて。

その接続先が、バビロニアの宝物庫になっていたということ。

出現したノイズが燃えているのは、あの時閉じ込めたネフィリムの炎を纏っているからだろうという話だった。

 

「なんてこと・・・・!」

 

こっちはもちろん、平行世界のみんなも驚愕を隠しきれないらしい。

特に閉じた現場にいたこっちのマリアさんは、反応がひとしおだ。

ま、まさか、あの時のアレが今頃になって影響してくるとか・・・・。

くっそ、さっきから最終形態のネフィリムが、いい笑顔で手を振ってて・・・・。

うぅ、お前、そこが顔なんか・・・・。

 

「他の召喚手段があるのか、これ一つだけなのかは、現在も調査中です」

 

水瀬さんの報告が、一区切りしたときだった。

 

「と、取り込み中、しつれ・・・・げほっ・・・・」

 

ドアが開く音。

みんなで目を向けると、だいぶ疲れた様子の了子さん。

走って来たのか、息が上がっている彼女は。

 

「香子ちゃん、見つけた」

 

呼吸を整えつつ、朗報を告げてくれたのだった。




今回登場の水瀬さんは、ある意味中の人ネタです。

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