あと、前回言いそびれたことをここで。
>お前が寝るんかーい!
寝かせたかったんじゃーい!!!!!!!!!!
「あはははははははっ!はははははははッ!」
突然響いた笑い声に、全員の注目が集まる。
視線の先、ウェイターだとばかり思っていた人物。
「ここまで見抜かれると、いっそ清々しいですネ。ふふふっ」
腹を抱えて笑うシャンファは、さも楽しそうに体を震わせている。
そんな彼女の格好は、初対面の時の、ふわっとしたスカートスタイルから一変。
ウェイターの、黒を基調とした制服を身に着けているからか。
悪っぽい雰囲気が、全面的に醸し出されていた。
「『呪いだけならまだしも、
「ええ、その通りです」
特徴的だった中国訛りをなくした口調で、コナンの問いを肯定すれば。
マリアが前に躍り出て構える。
超常技術を悪用する輩というだけのことはあると、再確認してから。
推理を続ける。
「『あなたの目的は、ズバリ窃盗です』」
「せ、窃盗!?」
「ここまでやっておいて、目的がそれ・・・・?」
「『いえいえ、彼女と、そしてわたし達にとっては割と大事なのですよ』」
信じられないと言わんばかりに叫ぶ高木に、難しい顔をする佐藤。
彼らの反応も無理はないが、しかし。
そうならない理由が、響とコナンにはあった。
「『何せ今のこの船には、あなたが求める《当たり》が乗っているのですから』」
「まさか、聖遺物!?励起前のものがあるということ!?」
マリアが思わず振り向けば、驚愕が全体に広がる。
「聖遺物って、確かシンフォギアの材料になるっていう、あの!?」
「マリアさん持ってますよね!?」
「そうだけど、私が持っているのは正確には欠片。経年による劣化で著しく損傷したものを、歌で引き出せるようにしたのがシンフォギアよ」
シャンファに向き直って、再び拳を握りつつ。
声を上げる蘭と園子に、マリアは解説する。
「だけど、特性や良好な保存状態で、当時の姿と能力を保っているものがある。それを完全聖遺物と呼ぶ」
「付け加えると、完全聖遺物であってもそうでなくても、歌で起動させない限りS.O.N.G.でも見つけることは難しいわ」
「そうか、このアレクサンドリア号には、展示企画で持ち込まれた発掘物がたくさんある!」
「なるほど、その中に狙っているものがあるから、犯行に及んだ・・・・そういうことか!」
了子も加わった説明で、なんとか理解が出来たらしい。
表情を引き締めた警官達は、マリアと並んでシャンファを睨みつけた。
「窃盗って盗むってことですよね?」
「まさか、ツタンカーメンを狙ってんじゃねーだろな!?」
「そんなぁ!やめて!シャンファさん!」
「いや、それはあらへんで」
光彦を皮切りに、誰もが思いつく目標を予想して。
『盗まないで』と抗議する少年探偵団達。
だが、それを否定したのは平次だった。
「あら、どうして?」
「『有名すぎる』、理由はこれに尽きるで。大々的に宣伝されとるさかい、なくなれば当然大騒ぎや」
「『何より、世界的にも考古学的にも非常に価値のある品物です。各国から追われかねない以上、まずありえない』」
からかうように問いかけるシャンファに、平次と共に答えるコナン。
付け加えるなら、鈴木相談役の、怪盗キッドと何度も対決した経験を生かした仕掛けが。
ツタンカーメンのみならず、展示室のあちこちに施されていることを明記しよう。
「『あなたの狙いは、もっと別の遺物でしょう。厳重な警備に守られたものではなく、比較的手薄なバックヤードに保管されている物だ』」
「そう、例えば、開場してからお披露目予定のモンとかなぁ?」
ここで、平次が問いかけるように龍臣へ目をやれば。
心当たりがあるらしい彼は、目を見開いていた。
そして、次郎吉と見合って、頷きあう。
「アンティキティラの、歯車・・・・!」
「あ、聞いたことある!それってオーパーツよね、おじ様!」
知っている単語に反応した園子。
これまでの話で、キャパオーバーになっていたからか。
えらく食いついた。
「あんちきー?」
「違うよ元太君、『あのてきてら』だよ!」
「二人とも、『アンチャキチラ』ですよ」
「全員違う・・・・」
微笑ましい子ども達を横目に、次郎吉はこっくり首肯を返す。
「ギリシャのアンティキティラ島の海で発見された、歯車の遺物です。当時の技術では作り得ないはずの物品なので、オーパーツと呼ばれるようになりました」
「もともとはサプライズ企画として、展覧会の後半に出す予定だったんだが・・・・よもや、それを逆手に取られるとは」
龍臣が丁寧に説明すれば、次郎吉は難しそうに唸り声。
「資料からの推察ですが、歯車の保存状態から、完全聖遺物と定義しても問題無いでしょう・・・・装備の材料か、はたまた儀式の触媒か」
「どちらにせよ、優秀な素材であることに変わりはない・・・・!」
「『その通りです、了子さん、マリアさん』」
より一層警戒を強めたマリアと了子を見て。
聖遺物を始めとした事情に明るくない面々も、事態の重要性に気が付けている。
「なるほどなるほど、『高校生探偵』ともてはやされるだけのことはある」
そんな一同を見渡したシャンファは、また面白そうに笑い、軽く手を打ちながら。
「ただ、少し付け加えさせてください」
「『ほう?』」
指を、一本立てた。
「卜部さんの殺害も、今回の目的の一つでした。私も彼には苦い目を見せられまして」
「『もしや、あなた自身も何か・・・・?』」
「いえ、私ではなく・・・・『恋人』が」
首を振った彼女から、意外な単語が飛び出して。
園子や蘭など、年頃の少女たちは目を見開く。
「・・・・人殺しに走るだなんて、よっぽど大切な人だったのね」
「ええ、それはもちろん」
佐藤の問いかけに、即座に答えたその顔に。
テーブルの陰からずっとうかがっていたコナンは、ひっかかりを覚えた。
「とても、とても・・・・大切でした」
だって、まるで。
懺悔をするような、罪を告白するような。
この場に、その対象者がいるとしか思えないような。
そんな、痛みを堪える顔をしていたのだから。
「――――ファフニールを名乗ったのも、それが関係しています」
自嘲の笑みを浮かべたまま、シャンファはもう一つ告白する。
「だって、そうでしょう?手段は暴力的でも、自分が守りたいと思ったものを・・・・たった一つの大切なものを、確かに守り抜いたんですから・・・・!!」
言いながら手を掲げれば、あっという間に霜がまとわりついて。
文字通りの手刀となる。
「例え、名前を聞けば震えあがるようなテロリストであっても、そこだけは、それだけは、認められて、称えられてしかるべきです」
凶器の出現に、全員が身を強張らせる中。
切っ先が狙うは、卜部。
「・・・・わたしにも、それだけの覚悟があれば」
過去を、思い出しているのか。
彼女の肩は、小刻みに震えていて。
「人を手にかけるだけの覚悟が、あの頃のわたしにあったなら・・・・!」
ここで一度、落ち着いたらしい彼女は。
肩の力を抜いて、切っ先を少し下げた後。
「――――ここまでバレてしまったのなら、もう呪いだなんて手段はいりませんよね」
言うなり、突進。
立ちはだかるマリアをするりと避けて、獲物へ。
腰を抜かして後ずさりする卜部へ。
警官達も駆け出すが、いかんせんシャンファが速すぎる。
(まずい、このままじゃ・・・・!)
コナンとて、犯罪や犯人は許せないものの。
だからといって、死ねばいいだなんて思っているわけではない。
咄嗟に麻酔銃を構えたものの、やはり、間に合いそうにはなくて。
――――だからこそ。
「――――そんなに大したもんじゃないですよ、わたしは」
その声は、よく聞こえた。
「――――ッ」
風が吹いたと思った刹那。
シャンファの腕が掴み上げられる。
何事かと目を見開いた彼女を、鋭い眼光と、ニヒルな笑みが見据えていて。
「――――最初は死にたくなかったんです」
腕を放られて、後退するシャンファ。
「その次は奪われたくなかったから、そのまた次は、腹が立ったから」
構えられる拳。
握りしめられ、ぎゅ、と音がする。
「そうやって好き勝手暴れていたら、いつのまにか」
立ちはだかる響を、何故か呆然と見ていたシャンファは。
「――――『ファフニール』と、呼ばれていました」
まるで、執行人を前にした罪人のようだった。
この世界のシンフォギアに関して、自分用の覚書も兼ねて。
存在は公表されていますが、翼さん、マリアさん以外のメンバーは機密扱いの設定です。
開発者が了子さんであることも公表事項ですが、細かいアレコレはやっぱり秘密。