チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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短めですが、キリがいいので投稿。


あと、前回言いそびれたことをここで。

>お前が寝るんかーい!
寝かせたかったんじゃーい!!!!!!!!!!


暴かれたのは

「あはははははははっ!はははははははッ!」

 

突然響いた笑い声に、全員の注目が集まる。

視線の先、ウェイターだとばかり思っていた人物。

 

「ここまで見抜かれると、いっそ清々しいですネ。ふふふっ」

 

腹を抱えて笑うシャンファは、さも楽しそうに体を震わせている。

そんな彼女の格好は、初対面の時の、ふわっとしたスカートスタイルから一変。

ウェイターの、黒を基調とした制服を身に着けているからか。

悪っぽい雰囲気が、全面的に醸し出されていた。

 

「『呪いだけならまだしも、人造人間(ホムンクルス)に哲学兵装ともくれば。何者かくらいは当てられる・・・・あなたは、錬金術師ですね?』」

「ええ、その通りです」

 

特徴的だった中国訛りをなくした口調で、コナンの問いを肯定すれば。

マリアが前に躍り出て構える。

超常技術を悪用する輩というだけのことはあると、再確認してから。

推理を続ける。

 

「『あなたの目的は、ズバリ窃盗です』」

「せ、窃盗!?」

「ここまでやっておいて、目的がそれ・・・・?」

「『いえいえ、彼女と、そしてわたし達にとっては割と大事なのですよ』」

 

信じられないと言わんばかりに叫ぶ高木に、難しい顔をする佐藤。

彼らの反応も無理はないが、しかし。

そうならない理由が、響とコナンにはあった。

 

「『何せ今のこの船には、あなたが求める《当たり》が乗っているのですから』」

「まさか、聖遺物!?励起前のものがあるということ!?」

 

マリアが思わず振り向けば、驚愕が全体に広がる。

 

「聖遺物って、確かシンフォギアの材料になるっていう、あの!?」

「マリアさん持ってますよね!?」

「そうだけど、私が持っているのは正確には欠片。経年による劣化で著しく損傷したものを、歌で引き出せるようにしたのがシンフォギアよ」

 

シャンファに向き直って、再び拳を握りつつ。

声を上げる蘭と園子に、マリアは解説する。

 

「だけど、特性や良好な保存状態で、当時の姿と能力を保っているものがある。それを完全聖遺物と呼ぶ」

「付け加えると、完全聖遺物であってもそうでなくても、歌で起動させない限りS.O.N.G.でも見つけることは難しいわ」

「そうか、このアレクサンドリア号には、展示企画で持ち込まれた発掘物がたくさんある!」

「なるほど、その中に狙っているものがあるから、犯行に及んだ・・・・そういうことか!」

 

了子も加わった説明で、なんとか理解が出来たらしい。

表情を引き締めた警官達は、マリアと並んでシャンファを睨みつけた。

 

「窃盗って盗むってことですよね?」

「まさか、ツタンカーメンを狙ってんじゃねーだろな!?」

「そんなぁ!やめて!シャンファさん!」

「いや、それはあらへんで」

 

光彦を皮切りに、誰もが思いつく目標を予想して。

『盗まないで』と抗議する少年探偵団達。

だが、それを否定したのは平次だった。

 

「あら、どうして?」

「『有名すぎる』、理由はこれに尽きるで。大々的に宣伝されとるさかい、なくなれば当然大騒ぎや」

「『何より、世界的にも考古学的にも非常に価値のある品物です。各国から追われかねない以上、まずありえない』」

 

からかうように問いかけるシャンファに、平次と共に答えるコナン。

付け加えるなら、鈴木相談役の、怪盗キッドと何度も対決した経験を生かした仕掛けが。

ツタンカーメンのみならず、展示室のあちこちに施されていることを明記しよう。

 

「『あなたの狙いは、もっと別の遺物でしょう。厳重な警備に守られたものではなく、比較的手薄なバックヤードに保管されている物だ』」

「そう、例えば、開場してからお披露目予定のモンとかなぁ?」

 

ここで、平次が問いかけるように龍臣へ目をやれば。

心当たりがあるらしい彼は、目を見開いていた。

そして、次郎吉と見合って、頷きあう。

 

「アンティキティラの、歯車・・・・!」

「あ、聞いたことある!それってオーパーツよね、おじ様!」

 

知っている単語に反応した園子。

これまでの話で、キャパオーバーになっていたからか。

えらく食いついた。

 

「あんちきー?」

「違うよ元太君、『あのてきてら』だよ!」

「二人とも、『アンチャキチラ』ですよ」

「全員違う・・・・」

 

微笑ましい子ども達を横目に、次郎吉はこっくり首肯を返す。

 

「ギリシャのアンティキティラ島の海で発見された、歯車の遺物です。当時の技術では作り得ないはずの物品なので、オーパーツと呼ばれるようになりました」

「もともとはサプライズ企画として、展覧会の後半に出す予定だったんだが・・・・よもや、それを逆手に取られるとは」

 

龍臣が丁寧に説明すれば、次郎吉は難しそうに唸り声。

 

「資料からの推察ですが、歯車の保存状態から、完全聖遺物と定義しても問題無いでしょう・・・・装備の材料か、はたまた儀式の触媒か」

「どちらにせよ、優秀な素材であることに変わりはない・・・・!」

「『その通りです、了子さん、マリアさん』」

 

より一層警戒を強めたマリアと了子を見て。

聖遺物を始めとした事情に明るくない面々も、事態の重要性に気が付けている。

 

「なるほどなるほど、『高校生探偵』ともてはやされるだけのことはある」

 

そんな一同を見渡したシャンファは、また面白そうに笑い、軽く手を打ちながら。

 

「ただ、少し付け加えさせてください」

「『ほう?』」

 

指を、一本立てた。

 

「卜部さんの殺害も、今回の目的の一つでした。私も彼には苦い目を見せられまして」

「『もしや、あなた自身も何か・・・・?』」

「いえ、私ではなく・・・・『恋人』が」

 

首を振った彼女から、意外な単語が飛び出して。

園子や蘭など、年頃の少女たちは目を見開く。

 

「・・・・人殺しに走るだなんて、よっぽど大切な人だったのね」

「ええ、それはもちろん」

 

佐藤の問いかけに、即座に答えたその顔に。

テーブルの陰からずっとうかがっていたコナンは、ひっかかりを覚えた。

 

「とても、とても・・・・大切でした」

 

だって、まるで。

懺悔をするような、罪を告白するような。

この場に、その対象者がいるとしか思えないような。

そんな、痛みを堪える顔をしていたのだから。

 

「――――ファフニールを名乗ったのも、それが関係しています」

 

自嘲の笑みを浮かべたまま、シャンファはもう一つ告白する。

 

「だって、そうでしょう?手段は暴力的でも、自分が守りたいと思ったものを・・・・たった一つの大切なものを、確かに守り抜いたんですから・・・・!!」

 

言いながら手を掲げれば、あっという間に霜がまとわりついて。

文字通りの手刀となる。

 

「例え、名前を聞けば震えあがるようなテロリストであっても、そこだけは、それだけは、認められて、称えられてしかるべきです」

 

凶器の出現に、全員が身を強張らせる中。

切っ先が狙うは、卜部。

 

「・・・・わたしにも、それだけの覚悟があれば」

 

過去を、思い出しているのか。

彼女の肩は、小刻みに震えていて。

 

「人を手にかけるだけの覚悟が、あの頃のわたしにあったなら・・・・!」

 

ここで一度、落ち着いたらしい彼女は。

肩の力を抜いて、切っ先を少し下げた後。

 

「――――ここまでバレてしまったのなら、もう呪いだなんて手段はいりませんよね」

 

言うなり、突進。

立ちはだかるマリアをするりと避けて、獲物へ。

腰を抜かして後ずさりする卜部へ。

警官達も駆け出すが、いかんせんシャンファが速すぎる。

 

(まずい、このままじゃ・・・・!)

 

コナンとて、犯罪や犯人は許せないものの。

だからといって、死ねばいいだなんて思っているわけではない。

咄嗟に麻酔銃を構えたものの、やはり、間に合いそうにはなくて。

――――だからこそ。

 

「――――そんなに大したもんじゃないですよ、わたしは」

 

その声は、よく聞こえた。

 

「――――ッ」

 

風が吹いたと思った刹那。

シャンファの腕が掴み上げられる。

何事かと目を見開いた彼女を、鋭い眼光と、ニヒルな笑みが見据えていて。

 

「――――最初は死にたくなかったんです」

 

腕を放られて、後退するシャンファ。

 

「その次は奪われたくなかったから、そのまた次は、腹が立ったから」

 

構えられる拳。

握りしめられ、ぎゅ、と音がする。

 

「そうやって好き勝手暴れていたら、いつのまにか」

 

立ちはだかる響を、何故か呆然と見ていたシャンファは。

 

「――――『ファフニール』と、呼ばれていました」

 

まるで、執行人を前にした罪人のようだった。




この世界のシンフォギアに関して、自分用の覚書も兼ねて。
存在は公表されていますが、翼さん、マリアさん以外のメンバーは機密扱いの設定です。
開発者が了子さんであることも公表事項ですが、細かいアレコレはやっぱり秘密。

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