あんまり突っ込まれると困る推理パートであります(白目)
「『では始めに、何故卜部さんばかりが狙われるのか』」
響を眠らせたまま、コナンは推理を語り始めた。
「『今回の事件、どうも卜部さんを執拗に狙っている印象です。最初の発覚時ならまだしも、譲二おじさんや従業員が巻き込まれた現場にも必ず関わっている』」
「付け加えるなら、三度目の事件においては強い催眠状態に入っていたことを報告させていただきます」
『どうしても開けてほしかったようですね』。
了子に目を向けられた卜部は、バツの悪そうに逸らす。
「『そもそもの話は、綾部造船の事件に遡ります』」
そう切り出して、コナンは哀から聞いた綾部造船の経緯を語る。
調査で知っていたらしい警察関係者などは、程度が違うものの。
やはり、一般の人々と同じように痛ましい顔をしていた。
「・・・・やはり、切っても切れないのですね」
重々しく口を開く龍臣が、印象的だった。
「『辛いことを思い出させてしまって、すみません』」
当事者達のあまりの落ち込み様に、思わず一言詫びたコナン。
「『ですが、このことを誰よりも悔やんでいる人がいる』」
それでも、推理を止めるわけにはいかない。
「『そうですよね?現社長秘書にして、当時の経営戦略の要だった』」
その人物の反応に、十分な手ごたえを感じながら。
「『――――滝本敦さん』」
名前を、呼んだ。
「・・・・な」
「はっ?」
龍臣と乾は、『思いがけず』で声が出たらしい。
予想だにしなかった名前が出て、一周回った間抜けな反応をする。
「『二十年前、デマのターゲットにされてしまったあなたは、その顛末に大いに苦しんだのでしょう。そして、憎しみをくすぶらせていたところへ、二つの不幸がやってきてしまった』」
名を呼ばれた滝本の表情は硬い。
だが、否定も反論もしなかった。
「『一つは、当時の仇が、デマを流した犯人が目の前に現れたこと。もう一つは、今回の犯人に、その憎しみに付け込まれたことです』」
「・・・・と、いうことは」
「滝本さんは、あくまで犯人の協力者である、と」
「『そうなります』」
その結論に、龍臣と乾はほっとした顔。
観念した滝本は、肩を落として俯いてしまった。
「『悪くて傷害未遂か、器物破損でしょう。ツタンカーメンの間の柱に細工をしたのは、あなたなんですから』」
「・・・・ええ、その通りです」
『子ども達を遠ざけるためにやったのだ』と、滝本は語った。
展示品の点検と偽って、あの柱に風船を仕込んで。
乾と合流する前のことだったため、知らなくても無理はないとも。
まるで、乾を慰めるような付け加えは、いっそ痛々しさすら感じた。
「『とはいえ、重ねて言いますが、彼はあくまで協力者。今回の犯人ではありません』」
改めて滝本は主犯ではないことを強調して、推理は続く。
「『時に当事者の皆さん、このデマを流した犯人については?』」
「・・・・いえ、見つかりはしたものの、未成年だったので。詳細を聞かせてもらえず」
「当時は犯人と同い年であると聞いていたので、何とか接触できないかと悔しい思いをしたことを覚えています」
それぞれ答える龍臣と乾。
特に乾は、拳を握って当時を思い出している様だった。
二人の返答を聞いたコナンは、ふむ、と一息ついてから。
「『だ、そうですよ。卜部さん』」
――――何でもないように、話を振った。
ぎょっとした面々が目を向けると、目に見えて『やばい』という顔をした卜部。
慌てて取り繕おうとしていたが、後の祭りだった。
「・・・・なるほど、ゴシップ好きは昔からということなのね」
マリアにひと睨みされて、委縮する卜部。
尤も、強烈な視線を浴びせているのは彼女だけではないが。
「どっ、どこで!?」
「『S.O.N.G.の情報網は、大変優秀でしてねぇ』」
というのは、響の言である。
「『この船に目的があった主犯は、卜部さんを仕留めることを条件に、滝本さんへ協力を仰いだのでしょう。会社を興した親友の、仇を取りたくないかと、甘い言葉で誘惑して』」
縮こまっている卜部に若干の同情を感じながら、それでも続けるコナン。
「『何のきっかけかは分かりませんが、あなたの軽はずみな行動が、人一人を死に追いやり、幾多の人生をひっかきまわし。挙句、時を経た今、多くの人間を危険にさらしている』」
そして、自分の命をも。
指摘された卜部は、今度こそがっくりと項垂れてしまった。
かつての被害者であった、元綾部造船の面々は。
怒りや悲しみよりも、衝撃の方が勝っているらしい。
心ここにあらずといった様子で、呆然としていた。
「・・・・だが、卜部さんもまた、あくまで二十年前の犯人。今回の犯人ではないんだろう?」
「『はい、もちろんです』」
目暮の言う通り、卜部も犯人ではない。
コナンは肯定して、続けた。
「『そもそも、犯人はどうやって卜部さんを殺害しようとしたのか?何故捜査線上に浮上しなかったのか?そのヒントとなるのはやはり、あのバラバラ死体なのですよ』」
次に取り掛かるのは、バラバラ死体の謎解き。
コナン自身も、響に聞かされて一番驚いた考察だ。
「『一度、服部君やコナン君との考察で疑問に思ったことなのですが、どうしてバラバラなんでしょう?ワイヤーでの殺害ともなれば、首を締め上げたり、それこそ切断すればいい話です』」
――――何故、派手な方法を使ったのか?
改めて浮かんだ疑問に、一同は確かにと頷く。
「『占星術による儀式的なものも視野に入れましたが、これは了子さんによって否定されています』」
「ええ、遺体の部位と位置に、占星術を含めた様々な異端技術の法則は、当てはまらなかったわ」
調査の現場にいたのか、警察関係者たちも首肯で同意していた。
「『ならば、この場合はバラバラにすること自体が目的であるとみるべきです』」
「で、でも、バラバラにしてどうしようっていうのよ」
蘭の疑問も尤もである。
コナンだって抱いたそれに対する答えを、響は持ち合わせていた。
「『呪いですよ』」
「の、呪いぃ?」
「いくら異端技術が関わっているからなんて、そんな無茶苦茶な・・・」
素っ頓狂な声を上げる小五郎に、頬を引きつらせる高木。
「『そんな、がまかり通るのですよ。今回の場合は、特にね』」
だが、話してくれた響も、そして今語っているコナンも至って真剣だ。
「『今この船には、とびっきりの触媒が乗っていますから』」
「今のこの船と言えば、ツタンカーメンのマスク・・・・そうか、王家の谷の!!」
ヒントを出せば、マリアはすぐに理解した。
了子も、納得の首肯をしてくれている。
「えっ、でも、響さん。ツタンカーメンの呪いは、迷信だって・・・・」
「いいえ、この場合は一度でも信じられたものであればいいのよ」
戸惑う光彦を主に見ながら、了子は解説を始めた。
「今回の犯人がやろうとしているのは、『哲学兵装』の作成。『そうであれ』あるいは『そうである』と信仰を集めた現象を、現実のものにする技術」
「つまり、本来は迷信であるはずの王家の呪いを、実現させようとしたと?」
「ええ」
目暮に答えながら、指を立ててさらに続ける。
「ミイラ作りで来世の復活を願った古代エジプトにおいて、遺体の損壊がタブーであったことは明白。さらに辱めようだなんてもってのほかです」
今回、バラバラ死体を作るために仕掛けられたトラップは三つ。
うち二つは、響とコナンの活躍によって解除されている。
犯人の思惑通りに発動させて、なおかつ遺体を辱めたのはただ一人。
「卜部さん、あなただけということですわ。残念ながら」
「ふ、ふざけんな!そんなわけのわからんオカルトでっ、こ、殺されるだなんて!!」
激情する卜部。
威勢よく大声を上げているものの、震えているのが手に取るように分かった。
「どうにか出来ないのかよ!」
「呪い、と一口に言っても、その種類は様々です。その場しのぎで十全に防げるものではありません」
もっと言うならば、儀式とは入念な準備を行うもの。
場を整え、道具を揃え、呪文を覚え。
そうやってしっかりとした術式を組み上げることで、望んだ効果を手繰り寄せるものなのだと、了子は説明する。
「今回は、犯人の方に圧倒的なアドバンテージがあります。まあ、人死には望まないので、こちらもやれることはやりますが、無傷で終わるとは思わないことですね」
「そ、そんな・・・・」
再び肩を落とした卜部の姿は、なんとももの悲しいものであった。
「『ここまで語りましたが、バラバラ死体にはもう一つ役割があります』」
「もう一つ?」
「まだ何かあるのか・・・・」
もうお腹いっぱいと言わんばかりに、疲れた顔をする小五郎と高木。
「『先ほども語った通り、卜部さんの殺害は、あくまで滝本さんに協力を取り付けるための条件でしかありません。と、なれば、もっと別の目的があったものと考えるのが自然となるわけです』」
「龍臣社長や、卜部さんのメールアドレスを手に入れたんも、本命の足掛かりでしかあらへんからな」
服部はさらに、会社用のメールサービスアカウントが、龍臣と滝本の共有であること。
滝本はそこから、犯人へ龍臣と卜部のメールアドレスを渡したことを付け加えた。
アカウントの所有者本人が行うので、疑われないという寸法だ。
「じゃ、じゃあ、一体なんだっていうのよ?」
ついていくのでいっぱいいっぱいの園子が、疑問の声を上げる。
「『――――そもそもの話』」
そんな彼女への返事代わりに、コナンは質問を一つ。
警察関係者へぶつけた。
「『――――遺体は本物だったんですか?』」
事件の根幹に関わる、決定的な質問を。
「あ、当たり前じゃないか!どう見たって生きてないでしょう!」
「現場に持ち込めるキットでも、それが人間かどうかくらいは判別出来るもの。鑑識含めて、私達全員が確認しています」
「『ええ、通常の遺体であればそれでいいでしょう』」
ありえない、と声を張り上げる高木。
佐藤も強い口調で付け加える。
コナンも、決して否定したいわけではないらしい。
「『ですがここに、異端技術が加わればどうなるでしょうか?』」
「えっ?」
その上で続いた言葉に、怪訝な顔をした佐藤。
問い詰めようとする彼女を、引き留めるように答えたのは。
「――――なるほど、
やはり、了子だった。
彼女が口にした、おとぎ話や漫画などでよく出てくる単語に。
全員の注目が集まる。
「本来ならば、特に魂にあたるものの作成が困難を極めるため。人造生物の中では、難易度が非常に高いのですが・・・・
「『その通りです。もっと言うなら、自身の血液を材料にすれば、万が一DNA鑑定をかけられても問題ありません』」
そうやって、一見本物と変わりない。
いや、確実に見間違える分身を作り出して。
『死人』として、真っ先に捜査線上から消えたのだと。
コナン自身も、めまいを覚えた推理を唱えたのだった。
「『《ファフニール》の名前を使って、外部との接触を制限したのもその為でしょう』」
困惑する目暮達を見て、『分かる分かる』と内心で深く頷くコナン。
「『精巧に作られているとはいえ、所詮は作り物。科学捜査班などに送られて、精密な検査を行われてしまえば、見破られる可能性がありますから』」
「そ、そこまでして、一体何をやろうとしてるんだ。犯人は・・・・」
思わず額を押さえて、グロッキー状態になっている高木を見て。
頃合いか、と判断した。
「『そうですね・・・・ここからは、本人も交えてお話しましょうか』」
――――響の予想通りなら。
きっと、この場の会話が届く範囲にいるに違いない。
こちらが危惧している『いざ』を、発動させるかさせないかを。
息を殺して、考えながら。
「『ここまで話したんです、そろそろ出てきたらどうですか?』」
自分とは違う視点を持った、同じく守る者の志を持つ彼女を信じながら。
コナンは語気を強める。
「『自称《博物館学芸員の香港人》、リュウ・シャンファさん!』」
他に呼びようが無いので。
その人が名乗った偽名を、高らかに叫べば。
「――――ふ」
「ふふふふふふふふ・・・・ッ!」
控えていたウェイターの一人が、笑いだした。
そろそろ未来さんが書きたい・・・・。