チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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先日の日刊ランキング5位。
大変ありがとうございました。
これからも拙作をよろしくお願い申し上げます。



今回の更新から、R15タグをつけさせてもらいます。






ボソボソッ(これ以降書く予定はないけども、公開停止が怖いでござる)


閑話:小ネタ9

『団らん』

 

「えっ?ナイフ?」

 

久方ぶりに、一家そろっての夕飯づくり。

餃子の皮を準備していた香子は、姉の言葉にきょとんとする。

 

「そそ、スプーンだと空気が混ざって旨味が逃げちゃうからね。バターナイフでぺたっとやるのがいいんだよ」

 

『本場だと専用のへらがある』と解説しながら、響は席について。

早速餃子を包み始める。

 

「包むときも一緒、なるべく空気を含ませないように」

「はい、せんせー!」

 

元気に手を上げておどける香子を微笑ましく見つめて、響は作業を進める。

 

「焼くのもなんかコツあったりするの?」

「一度蒸してからの方が、肉汁が出ておいしいかな。フライパンに、ちょっと多いかなってくらいのお湯を足すだけでいいよ」

「あ、ならいつものやり方だ」

 

姉妹そろって、自炊の機会に恵まれていたからだろうか。

軽快な雑談の脇で、次々餃子が作られていく。

 

「仕上げのごま油も忘れずに」

「マストアイテムだもんね」

 

一拍の後、笑い声。

まるでつい昨日から続いているようなやりとりは、穏やかに流れていた。

――――その後ろで、

 

「かわいい・・・・うちの子かわいい・・・・」

「戻ってきてくれてよかったぁ・・・・」

 

父母が我が子の可愛さに悶え、祖母が宥めるという一幕があったのは。

全くの余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんなに大きくなりました』

 

「お待たせ―!」

「来た来た、おーい!こっちー!」

 

海沿いの町なだけあって、釣りは子ども達の日常的な娯楽だ。

すっかり町に馴染んだ香子は、竹竿を片手に同級生と合流したのだった。

すでに各々針を垂らす彼らに続いて、香子も早速始めようとして。

 

「あ、餌」

 

しまった、と渋い顔をしたものの、それだけだ。

すぐにあちこちを見まわして、

 

「お、みっけ」

 

目当ての茂みを発見する。

躊躇いなく入り込むと、草木をかき分けてまた何かを探し始める。

と、サンダルをはいた足に違和感。

見下ろすと、丸々太った芋虫が張り付いていた。

普通の少女なら、ここで悲鳴なりなんなり上げるところだが。

 

「よーっし」

 

かつて経験した修羅場や、港町に来てからも鍛えられたメンタルは。

そんなことで揺らいだりしないのであった。

笑顔で芋虫をつまみ上げ、満足げに頷く香子。

しかし、そんな彼女にも困ったことが一つ。

 

「ちょっと大きすぎるかなぁ」

 

放せと言わんばかりにうねる芋虫を見て、また難しい顔。

 

「おっ、立花ー!それ分けてー!オレの取られたー!」

「うーん、いいよー!」

 

すると、釣り糸を引き戻した同級生の一人が、その様子を発見して近寄ってくる。

香子もちょうどいいと言わんばかりに了承して、刃物を取り出す彼の下へ。

暴れ続ける芋虫を、地面に押さえつけて―――――

 

 

 

 

 

ぶちっ!

 

 

 

 

 

「っていうのがこの間付き添った釣りであってなぁ・・・・」

「ヒエッ・・・・」

 

魔法少女事変がひと段落した後の、親子のひと時。

響が何の気なしに香子のことを聞くと、そんなエピソードが語られたのだった。

 

「そうして釣ってくれた魚、美味かったぞ・・・・」

「採れたてぴちぴちだもんね、おいしそうだね・・・・」

 

ちなみに、全くの蛇足だが。

この親子、意外なことに虫が弱点なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日も平和な技術班』

 

修復作業が終わり、四肢を取り戻したレイア。

様々なリミッターに加え、エネルギー源をバッテリーに変えられるなど。

様々なスペックダウンを施されたものの。

エルフナインの有能な副官として、派手に活躍する日々だ。

今日も今日とて、お茶酌みや書類整理などの雑務をそつなくこなし。

また、覚えている限りのキャロルの記憶を述べて、錬金術研究の助言をしたりなど。

大きなお姉さんと、ちっちゃな主のほほえましい主従を見守りながら。

ふと、ある職員が疑問を口にした。

 

「そういや、エルフナインちゃんって普段はどこに?」

「基本的には本部(ここ)だけど、たまにうちに連れてってるわね」

「そうなんですか?てっきりクリスちゃんみたいに、了子さん家に住んでると思ってました」

 

了子が答えると、また別の職員が会話に加わってきた。

 

「現状で、私含めて二人しかいない。異端技術に明るい技術者だから」

「ああ、狙われやすいってことですか」

「了子さんと違って、自衛が出来るわけでもなし」

「下手にレイアさんを戦わせたりしても、いちゃもんつける輩はつけてきますからね・・・・」

「世知辛いけどそういうこと」

 

『それに』と、了子は伸びを一つ。

 

「雑務要員が増えて助かるわ、おかげで研究に専念出来ちゃって」

「いやいやいや、あんたまずは休みなさいよ」

「そうですよ主任、こないだも徹夜明けに騒ぎ起こして、司令に怒られたじゃないですか」

 

・・・・ルナアタックの際、いろいろ暗躍していた罪悪感からか。

それとも生来の研究者気質か。

了子は一度集中しだすと、一区切りしても止まらない節があるというか。

早い話、徹夜などの無理をしがちだ。

 

「なぁーによう、あなた達も一緒に盛り上がったじゃない」

「そりゃあ、俺達も徹夜明けでしたし・・・・」

「あれだけ怒られたら自重しますって」

「とはいえ、魔法少女事変の事後処理、大変だったなぁ・・・・」

 

少し前を想起した面々が、しみじみしていると。

 

「あのッ」

 

当のエルフナインが、駆け寄ってきて。

 

「この項目で、確認したいことがあるんですけど」

「はいはーい、何かなー」

 

見た目が幼いだけあって、湿っぽい空気が浄化されて霧散する。

技術班の新たなマスコットは、今日も元気に働いていた。

 

「たまには休んで、遊んできてもいいんだよ?」

「響ちゃんとか、クリスちゃんとか、頼んだら連れてってくれると思うな」

「えっと、余裕が出来たら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『抱っこちゃんセカンド』

 

都内、響と未来の自宅。

遊びに来た香子が真っ先に行ったのが、響の膝に陣取ることだった。

しかも即座に宿題を取り出して、長時間居座る準備も万端で。

響も一度は諦めて、香子の背中を台替わりに勉強していたものの。

かれこれ一時間近く続けば、足に痺れを覚えるのだった。

 

「きょーこ、まだやるの?」

「まーだまーだ♪」

 

グロッキーになる前に、と様子を窺えば。

香子はまだ続行したいらしい。

久しぶりに触れあう妹が、かわいいことにはかわいいのだが。

それはそれ、これはこれ。

というか、いい加減足が限界に達しつつある。

 

「あれ、止めなくていいの?」

「いーの」

 

たまたま同じタイミングで遊びに来ていた弓美が問いかけると、未来はにこにこしながら人数分の麦茶を持ってくる。

 

「もう六年生でしょー」

「まだ小学生だもーん」

 

仰け反って見上げてくる顔は、まさにご満悦。

溢れた音符がぱちぱち当たるような幻覚を見ながら、響はしょうがないとため息をついて。

せめてものお返しにと、思いっきり撫でまわしてやった。

――――やっぱり足は痺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立花 香子

・12歳、小学六年生。

・『本来の響の魂』をもっているであろう少女。

・性格も原作響のまんま・・・・と、思いきや、グレ成分もほんのり入っている。

・いざという時には前に出て啖呵を切るほどの度胸持ち、一方でまだまだ子供な部分も。

・たらし。

 

 

 

 

改造レイア

・なんやかんやで生き残ってしまったオートスコアラー。

・さんざんっぱら暴れた危険物の扱いに困った各国が悩んだ結果、S.O.N.G.の預かりに(に、押し付けた)

・エネルギー源は想い出からバッテリーに、一回の充電で一週間は動ける(戦闘となると二日くらい)(技術班がんばった)。

・大幅な弱体化もされており、主に膂力や脚力など、身体的な面が目立って弱っている。

コインを撃ち出したり、束ねてトンファーなどの鈍器を作ることは以前同様可能。

・現在はエルフナインを主として、主に護衛と補佐を務める。

基本的に『マイスター』と呼んでいる(『マスター』と語呂が似ているので)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『抱っこちゃんアナザー』

 

(どう、したもんかな)

 

キャロルを庇った傷が癒えて、やっと帰ってこれた数日後。

背中の痛みもどうにか収まってきた日の夜に、響は押し倒されていた。

相手は言うまでもないだろう。

いつになく据わった目を向けてくる未来に、響はのんびり『まいったな』なんて考えていると。

 

「――――ねぇ、響」

 

長い沈黙を破って、口火が切られた。

 

「すきよ」

「・・・・うん、わたしも好きだよ」

「すき、すき・・・・だいすき」

「・・・・うん」

「だから、ね」

 

言いながら。

握った響の手を、あろうことか自らの胸に触れさせた。

 

「んみぃ!?」

 

仰天して、がばっと起き上がった響が見たのは。

はらはらと、大粒の涙を零す顔。

 

「・・・・『死なないで』って言っても、あなたは約束してくれないでしょ?」

「そ、そんな、こと、は・・・・」

 

離そうとしても、離れない。

手のひらから伝わる体温にドギマギしたせいか、返事も歯切れ悪くなってしまう。

 

「ほら」

 

気付いた時には、遅かった。

 

「・・・・何度言っても、聞いてくれないなら。だったらせめて、あなたを覚えさせて」

 

涙声を堪えることなく、零れる雫を拭うことなく。

 

「生きていた証拠を、ちょうだいよ・・・・!」

 

肩口に顔を埋めたっきり、静かに嗚咽を漏らし始める未来。

声も、体も震えていた。

実際、未来の胸中は恐怖で荒れ狂っていた。

もう大丈夫だろうと油断した矢先の今回の事件。

何より、(イグナイトの影響もあるとは言え)愛する人が、虚ろに『死にたい』と言う様を見せつけられてしまえば。

もはや、気丈に振る舞うなど出来はしなかった。

 

「・・・・ッ」

 

そんな未来を前に。

『絶対に死なない』なんて、響は軽々しく口に出来なかった。

だって、結局は、命を投げ出してしまう自分を自覚していたから。

それを選択した場合、腕の中のこの人がどれほど悲しむか分かっていても。

それで誰かが、未来が助かるのなら。

きっと、躊躇いなく選んでしまうだろう。

――――それなら。

自分の死を恐れてくれる人を。

どうせ、裏切ってしまうのなら。

 

「・・・・みく」

 

柔く抱いて、名前を呼ぶ。

上がった泣き顔へ、キスを送る。

 

「・・・・痛かったら、ごめん」

「ひび、んっ・・・・」

 

その言葉を皮切りに、何度も唇を啄みあいながら。

ベッドの上へ、雪崩れ込んだ。




次回、XDU編『呪われた聖遺物(マテリアル)』(仮題)。
始動・・・・!

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