大変ありがとうございました。
これからも拙作をよろしくお願い申し上げます。
今回の更新から、R15タグをつけさせてもらいます。
ボソボソッ(これ以降書く予定はないけども、公開停止が怖いでござる)
『団らん』
「えっ?ナイフ?」
久方ぶりに、一家そろっての夕飯づくり。
餃子の皮を準備していた香子は、姉の言葉にきょとんとする。
「そそ、スプーンだと空気が混ざって旨味が逃げちゃうからね。バターナイフでぺたっとやるのがいいんだよ」
『本場だと専用のへらがある』と解説しながら、響は席について。
早速餃子を包み始める。
「包むときも一緒、なるべく空気を含ませないように」
「はい、せんせー!」
元気に手を上げておどける香子を微笑ましく見つめて、響は作業を進める。
「焼くのもなんかコツあったりするの?」
「一度蒸してからの方が、肉汁が出ておいしいかな。フライパンに、ちょっと多いかなってくらいのお湯を足すだけでいいよ」
「あ、ならいつものやり方だ」
姉妹そろって、自炊の機会に恵まれていたからだろうか。
軽快な雑談の脇で、次々餃子が作られていく。
「仕上げのごま油も忘れずに」
「マストアイテムだもんね」
一拍の後、笑い声。
まるでつい昨日から続いているようなやりとりは、穏やかに流れていた。
――――その後ろで、
「かわいい・・・・うちの子かわいい・・・・」
「戻ってきてくれてよかったぁ・・・・」
父母が我が子の可愛さに悶え、祖母が宥めるという一幕があったのは。
全くの余談である。
『こんなに大きくなりました』
「お待たせ―!」
「来た来た、おーい!こっちー!」
海沿いの町なだけあって、釣りは子ども達の日常的な娯楽だ。
すっかり町に馴染んだ香子は、竹竿を片手に同級生と合流したのだった。
すでに各々針を垂らす彼らに続いて、香子も早速始めようとして。
「あ、餌」
しまった、と渋い顔をしたものの、それだけだ。
すぐにあちこちを見まわして、
「お、みっけ」
目当ての茂みを発見する。
躊躇いなく入り込むと、草木をかき分けてまた何かを探し始める。
と、サンダルをはいた足に違和感。
見下ろすと、丸々太った芋虫が張り付いていた。
普通の少女なら、ここで悲鳴なりなんなり上げるところだが。
「よーっし」
かつて経験した修羅場や、港町に来てからも鍛えられたメンタルは。
そんなことで揺らいだりしないのであった。
笑顔で芋虫をつまみ上げ、満足げに頷く香子。
しかし、そんな彼女にも困ったことが一つ。
「ちょっと大きすぎるかなぁ」
放せと言わんばかりにうねる芋虫を見て、また難しい顔。
「おっ、立花ー!それ分けてー!オレの取られたー!」
「うーん、いいよー!」
すると、釣り糸を引き戻した同級生の一人が、その様子を発見して近寄ってくる。
香子もちょうどいいと言わんばかりに了承して、刃物を取り出す彼の下へ。
暴れ続ける芋虫を、地面に押さえつけて―――――
ぶちっ!
「っていうのがこの間付き添った釣りであってなぁ・・・・」
「ヒエッ・・・・」
魔法少女事変がひと段落した後の、親子のひと時。
響が何の気なしに香子のことを聞くと、そんなエピソードが語られたのだった。
「そうして釣ってくれた魚、美味かったぞ・・・・」
「採れたてぴちぴちだもんね、おいしそうだね・・・・」
ちなみに、全くの蛇足だが。
この親子、意外なことに虫が弱点なのであった。
『今日も平和な技術班』
修復作業が終わり、四肢を取り戻したレイア。
様々なリミッターに加え、エネルギー源をバッテリーに変えられるなど。
様々なスペックダウンを施されたものの。
エルフナインの有能な副官として、派手に活躍する日々だ。
今日も今日とて、お茶酌みや書類整理などの雑務をそつなくこなし。
また、覚えている限りのキャロルの記憶を述べて、錬金術研究の助言をしたりなど。
大きなお姉さんと、ちっちゃな主のほほえましい主従を見守りながら。
ふと、ある職員が疑問を口にした。
「そういや、エルフナインちゃんって普段はどこに?」
「基本的には
「そうなんですか?てっきりクリスちゃんみたいに、了子さん家に住んでると思ってました」
了子が答えると、また別の職員が会話に加わってきた。
「現状で、私含めて二人しかいない。異端技術に明るい技術者だから」
「ああ、狙われやすいってことですか」
「了子さんと違って、自衛が出来るわけでもなし」
「下手にレイアさんを戦わせたりしても、いちゃもんつける輩はつけてきますからね・・・・」
「世知辛いけどそういうこと」
『それに』と、了子は伸びを一つ。
「雑務要員が増えて助かるわ、おかげで研究に専念出来ちゃって」
「いやいやいや、あんたまずは休みなさいよ」
「そうですよ主任、こないだも徹夜明けに騒ぎ起こして、司令に怒られたじゃないですか」
・・・・ルナアタックの際、いろいろ暗躍していた罪悪感からか。
それとも生来の研究者気質か。
了子は一度集中しだすと、一区切りしても止まらない節があるというか。
早い話、徹夜などの無理をしがちだ。
「なぁーによう、あなた達も一緒に盛り上がったじゃない」
「そりゃあ、俺達も徹夜明けでしたし・・・・」
「あれだけ怒られたら自重しますって」
「とはいえ、魔法少女事変の事後処理、大変だったなぁ・・・・」
少し前を想起した面々が、しみじみしていると。
「あのッ」
当のエルフナインが、駆け寄ってきて。
「この項目で、確認したいことがあるんですけど」
「はいはーい、何かなー」
見た目が幼いだけあって、湿っぽい空気が浄化されて霧散する。
技術班の新たなマスコットは、今日も元気に働いていた。
「たまには休んで、遊んできてもいいんだよ?」
「響ちゃんとか、クリスちゃんとか、頼んだら連れてってくれると思うな」
「えっと、余裕が出来たら・・・・」
『抱っこちゃんセカンド』
都内、響と未来の自宅。
遊びに来た香子が真っ先に行ったのが、響の膝に陣取ることだった。
しかも即座に宿題を取り出して、長時間居座る準備も万端で。
響も一度は諦めて、香子の背中を台替わりに勉強していたものの。
かれこれ一時間近く続けば、足に痺れを覚えるのだった。
「きょーこ、まだやるの?」
「まーだまーだ♪」
グロッキーになる前に、と様子を窺えば。
香子はまだ続行したいらしい。
久しぶりに触れあう妹が、かわいいことにはかわいいのだが。
それはそれ、これはこれ。
というか、いい加減足が限界に達しつつある。
「あれ、止めなくていいの?」
「いーの」
たまたま同じタイミングで遊びに来ていた弓美が問いかけると、未来はにこにこしながら人数分の麦茶を持ってくる。
「もう六年生でしょー」
「まだ小学生だもーん」
仰け反って見上げてくる顔は、まさにご満悦。
溢れた音符がぱちぱち当たるような幻覚を見ながら、響はしょうがないとため息をついて。
せめてものお返しにと、思いっきり撫でまわしてやった。
――――やっぱり足は痺れた。
立花 香子
・12歳、小学六年生。
・『本来の響の魂』をもっているであろう少女。
・性格も原作響のまんま・・・・と、思いきや、グレ成分もほんのり入っている。
・いざという時には前に出て啖呵を切るほどの度胸持ち、一方でまだまだ子供な部分も。
・たらし。
改造レイア
・なんやかんやで生き残ってしまったオートスコアラー。
・さんざんっぱら暴れた危険物の扱いに困った各国が悩んだ結果、S.O.N.G.
・エネルギー源は想い出からバッテリーに、一回の充電で一週間は動ける(戦闘となると二日くらい)(技術班がんばった)。
・大幅な弱体化もされており、主に膂力や脚力など、身体的な面が目立って弱っている。
コインを撃ち出したり、束ねてトンファーなどの鈍器を作ることは以前同様可能。
・現在はエルフナインを主として、主に護衛と補佐を務める。
基本的に『マイスター』と呼んでいる(『マスター』と語呂が似ているので)。
『抱っこちゃんアナザー』
(どう、したもんかな)
キャロルを庇った傷が癒えて、やっと帰ってこれた数日後。
背中の痛みもどうにか収まってきた日の夜に、響は押し倒されていた。
相手は言うまでもないだろう。
いつになく据わった目を向けてくる未来に、響はのんびり『まいったな』なんて考えていると。
「――――ねぇ、響」
長い沈黙を破って、口火が切られた。
「すきよ」
「・・・・うん、わたしも好きだよ」
「すき、すき・・・・だいすき」
「・・・・うん」
「だから、ね」
言いながら。
握った響の手を、あろうことか自らの胸に触れさせた。
「んみぃ!?」
仰天して、がばっと起き上がった響が見たのは。
はらはらと、大粒の涙を零す顔。
「・・・・『死なないで』って言っても、あなたは約束してくれないでしょ?」
「そ、そんな、こと、は・・・・」
離そうとしても、離れない。
手のひらから伝わる体温にドギマギしたせいか、返事も歯切れ悪くなってしまう。
「ほら」
気付いた時には、遅かった。
「・・・・何度言っても、聞いてくれないなら。だったらせめて、あなたを覚えさせて」
涙声を堪えることなく、零れる雫を拭うことなく。
「生きていた証拠を、ちょうだいよ・・・・!」
肩口に顔を埋めたっきり、静かに嗚咽を漏らし始める未来。
声も、体も震えていた。
実際、未来の胸中は恐怖で荒れ狂っていた。
もう大丈夫だろうと油断した矢先の今回の事件。
何より、(イグナイトの影響もあるとは言え)愛する人が、虚ろに『死にたい』と言う様を見せつけられてしまえば。
もはや、気丈に振る舞うなど出来はしなかった。
「・・・・ッ」
そんな未来を前に。
『絶対に死なない』なんて、響は軽々しく口に出来なかった。
だって、結局は、命を投げ出してしまう自分を自覚していたから。
それを選択した場合、腕の中のこの人がどれほど悲しむか分かっていても。
それで誰かが、未来が助かるのなら。
きっと、躊躇いなく選んでしまうだろう。
――――それなら。
自分の死を恐れてくれる人を。
どうせ、裏切ってしまうのなら。
「・・・・みく」
柔く抱いて、名前を呼ぶ。
上がった泣き顔へ、キスを送る。
「・・・・痛かったら、ごめん」
「ひび、んっ・・・・」
その言葉を皮切りに、何度も唇を啄みあいながら。
ベッドの上へ、雪崩れ込んだ。
次回、XDU編『呪われた
始動・・・・!