チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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連日投稿です。
八話の興奮冷めやらぬ・・・・!

9/3:詳しい方が指摘して下さったので、響とエルフナインちゃんのお話を一部修整。
ご教授ありがとうございます。


閑話:小ネタ8

『幻影』

 

「おねーちゃん!」

 

――――びくり、と。

響の肩が跳ね上がった。

思い切り振り向けば、小さな女の子が、小学生くらいの少女に飛びついているのが見えた。

 

「おててー!」

「もう、しょうがないなぁ」

 

大きく、見開かれた目が。

小さな手と手が、握られる様を凝視して。

一緒にいた調と切歌は、互いを見あう。

響の様子は明らかに尋常ではない。

心なしか、震えているようにも見える。

間の悪いことに、未来は現在別行動中。

こうなれば、と、改めて互いを見あって。

頷いた。

 

「響さん?」

「どうしたデスか?」

「ふぇっ?・・・・あ、あー・・・・あはははっ」

 

一方の響は、意を決した二人に声を掛けられたことで。

やっと我に返ったようだった。

心配げな調と切歌の顔を目の当たりにした彼女は、咄嗟に笑顔。

 

「なーんでもないよ、行こう」

 

微笑ましい姉妹を背にして、歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

『耳かきでよく見る』

 

「ほぁー・・・・」

 

執行者事変がひと段落したころ。

弦十郎に呼び出された響は、ある鉱物を見せられていた。

 

「これが、わたしから出てきたんです?」

「ああ、あの起動実験の後でな・・・・」

「あぁー・・・・」

 

土塊の中に、金色の金属光沢が見られる鉱物。

ネフィリムの起動実験の際、体の半分以上を失った響。

その後再生した際に、胸元の古傷から採取されたということだった。

といっても、響からすればやろうと思ってやったものでもないため。

ただただ感嘆の声を上げて、まじまじと見つめるだけであった。

 

「なんだか、耳かきでとれたものを見てる気分ですねぇ」

「ああ・・・・いや、言わんとしていることは分かるのだが・・・・」

 

――――この後、特級の危険物が納められる『深淵の竜宮』への搬入が決まっている物体。

そんな貴重な品に、のほほんとそんなことを言う響に。

弦十郎は何とも言えない感情を抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『風鳴画伯』

 

キャロル一味の決起直後、S.O.N.G.休憩スペース。

 

「――――で、こいつがセンパイをやったっつーノイズか」

 

新たに出現した『アルカ・ノイズ』。

翼がその中の一個体を、イラストに書き起こしたということで見てみたものの。

 

「ああ、上手く描けたと思うん、だが」

 

渡されたスケッチブックに描かれていたのは、なんと言うか。

にこやかなサムライだった。

人間的なようで、そうでもなくて。

この、何・・・・?

いや、本当に何なんだろう・・・・?

 

「アバンギャルドにもほどがあるだろッ!!現代美術の分野にも手ェ出すつもりかッ!?」

「な、なんだと!?これ以上に無いくらい特徴を捉えているではないかッ!!」

「特徴だらけで逆にわかんねーよ!!」

 

何名かはコメントに困りきり、乾いた笑みを零している中。

クリスだけは果敢に突っ込みを入れていく。

なお、響はずっと腹を抱えて爆笑していた。

 

「響さん・・・・」

「はははははははっ!だっへ!!だっ!ひへ・・・・・!!!くふふふふふふふ・・・・ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

『ついてるの?ついてないの?』

 

「先日保護したエルフナインちゃんの、メディカルチェックの結果ですが」

 

エルフナインが保護された直後。

仮にも『敵側から来た』と主張しているので、当然ながら身体検査も兼ねたメディカルチェックが行われた。

その結果を朗々と報告していく藤尭と友里だが。

 

「彼女・・・・ええ、彼女の身体面には、なんら問題点は見られませんでした」

「メンタルの方もオールグリーン、嘘を言っていないと断定してよいものと、思います・・・・」

 

何だか、特に性別を示唆する辺りで、歯切れが悪い。

 

「どうしたんだ?」

「何か、気になる点が?」

 

当たり前だが、疑問の声が次々上がる。

クリスとマリア以外にも、首をかしげる面々が多い。

そんな現状を見かねてか、あるいは元から言うつもりだったのか。

了子が何の気なしに、さらっと口を開いた。

 

「性別がないのよ、この子」

「えっ?」

 

上がった困惑の声。

観念したように、藤尭が続ける。

 

「エルフナインちゃん曰く『自分はホムンクルスなので性別がないだけであって、怪しいものでは決してない』と・・・・」

 

――――いや、十分怪しいわ。

全員の心が一つになった瞬間であった。

この何とも言えない抜けた部分により、エルフナインへの懐疑が一瞬で瓦解したのだが。

それはまた、別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

『コレクション』

 

「ひゃー・・・・これ全部が?」

 

S.O.N.G.本部の一角。

所狭しと並ぶのは、歴史的価値が高そうな物品の数々。

 

「ほとんどはF.I.S.にいた頃に開発したものだけどね」

 

聞けば、数多の英雄が振るった武器や乗り回した生き物を。

錬金術などを応用して再現してみた品々、ということだ。

その中でも、自爆で廃棄できたり、戦闘向きではないものだったりを。

国連は特別に配備することを許可したらしい。

 

「英雄の・・・・そういえば了子さん、実際にあったことのある英雄とかいます?」

「んー、正直まちまちってところかしら。側近であれた時もあれば、少し離れた部署で遠目に見れた時もあったから」

「へぇー・・・・」

 

話しつつも、目録を記す手を止めない。

 

「ん?あの、了子さん。もう一ついいです?」

「なぁーに?」

 

言う通り、もう一つ気になった響。

首だけで振り返り、話しかける。

 

「フィーネだった頃って、だいたいシュメールとかの時代なんですよね?」

「・・・・語られる伝説と同じ名前はいたかしらね」

 

少し陰った了子の声に、いくばくかの申し訳なさを覚えながら。

降りそうになった暗い空気を払拭すべく、明るく語る。

 

「じゃあこの中に、ギルガメッシュとか、エルキドゥに関係するものがあったりは」

「しないわ、残念ながら」

 

返事は、割と早く来た。

地雷を踏んでしまっただろうかと心配して、今度は体ごと振り向く響。

見える了子の肩は、プルプル震えていて。

 

「仮にも元上司だから恐れ多いってのもあるけど。真似なんてしようものならあの世から狙撃されそうで・・・・」

「あぁー・・・・」

 

あのあたりの時代は、神の息吹が濃いことでも有名だ。

『前世の記憶』の影響で、某金ぴかがちらつくこともあり。

あの世からこの世に干渉するくらい出来そうだなと思った響であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『考えるな、感じろ』

 

「響さん、ちょっと聞きたいことがあるのですが」

「なぁーに?」

 

ある日の午後。

カフェオレを飲みながらまったりしている響へ、とてとて歩み寄ってくるエルフナイン。

 

「その、融合症例時代について少し」

「ああ」

 

了子を始めとした技術班の面々に、あらかたの概要を聞いていたのか。

ほんのり申し訳なさそうに下がった目尻。

『優しいなぁ』と、響が微笑ましさを感じていると。

 

「聞くところによると、二年前の年末、F.I.S.時代のマリアさんと接触する直前まで、シンフォギアを使っていなかったんですよね?」

「うん、ノイズに追い込まれて、やむなく」

「でも、その時点ですでに、融合症例由来の、重度の感覚障害を発症していた」

「色々無理してたからねぇ・・・・未来にも辛い想いさせちゃったっけ」

 

あの時は大変だったと想起する響へ、エルフナインは本題をぶつけた。

 

「それで、響さんはどうやって、歌を使わずに聖遺物の力を引き出していたんですか?」

「それが聞きたいこと?」

「はい、歌や想い出以外のアプローチ手段が気になって・・・・」

「知的好奇心はいいことだ」

 

かわいいやつめ、と頭を撫でまわしつつ。

響は考えをまとめて。

 

「端的に言うと、『気』の応用かなぁ」

「『気』・・・・オーラともいわれるものですか?確か、東洋武術の概念でよく登場してますね」

「そう、それ」

 

そこから響が語るには。

武術の師匠の教えがきっかけだったという。

八極拳と『気』は切っても切れない間柄。

まずは自分の『気』を感じ取る訓練・・・・というところで、内側に眠るシンフォギアの力を、偶然引き出してしまったということだった。

 

「へぇ、それであの超人的な身体能力を手に入れていたんですね」

「でもそのせいで大変な目にあったのは事実だし、散々心配させた側としてはオススメしないかな」

 

曰く、『ディーゼル車に灯油を入れた上に、無免許で運転するようなもの』と言われて。

エルフナインは大いに納得したのだった。

 

「こんな話だけど、どうだったかな?」

「はい!興味深かったです!」

「素直でよろしい、そんなエルフナインちゃんにはジュースおごっちゃろ」

「あ、ありがとうございます・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『らびゅー』

 

「好きだよ」

 

突然の言葉に、未来の手元から洗っていた茶碗が落ちた。

 

「き、急に何・・・・!?」

「んー・・・・」

 

ぼちゃん、と水に沈む横で、顔を真っ赤にしてねめつければ。

一緒になって皿を洗っていた響は、間延びした声で返事した後。

 

「いや、そういえばちゃんと告白してなかったなって」

 

そんなことをのたまいながら、しれっと未来が落とした茶碗も回収。

一方で今までをさっと思い出していた未来は、確かにそうかもしれないと一応納得していた。

 

「だからね」

 

手を拭き終えた響は、同じく拭き終えた未来の手を取って。

贈り物を届けるような、優しい声で。

 

「好きだよ、未来」

 

あんまり嬉しそうに、楽しそうに言うものだから。

さすがの未来も、文句を言うに言えなくなり。

かといって、こんな不意打ちのような仕打ちに、好き勝手されるのもなんだか癪で。

だから、

 

「・・・・そんなの、改めて言わなくても分かるわよ」

 

そんな悪態をつきながら、唇を食んでやれば。

響は結局、幸せそうにはにかむのであった。


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