チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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いや、だって。
あんな、あんな供給受けたら。
書くしかないやん?

というわけで、一日二話更新デース!


ただいま

「――――派手に理解不能」

 

S.O.N.G.本部、隔離区画。

四肢を失ったまま拘束されていたレイアは、やや呆れた目でエルフナインを見下ろす。

 

「何故私を破壊しないのか・・・・」

「あはは・・・・」

 

何とも言えない苦笑いを零すエルフナイン。

了子や警備が目を光らせる中、機材と機材の間をてけてけと歩き回り。

足りないパーツをレイアの近くに持っていく。

 

「国連や日本政府からすれば、異端技術を知るための貴重の資料ですから。起動した状態で捕獲できた以上、あまり壊したくないそうで・・・・」

「・・・・なるほど、地味だが派手に合理的だ」

「そうですね・・・・でも」

 

コードの一つ一つをより合わせ、あるいは半田ごてで接着。

その傍らで、レイアの『まだ何かあるのか』という視線を、横目で受け止めながら。

 

「キャロルの体を受け継いだボクには、パパの命題を引き継ぐ使命があります」

 

あまり目を離せないので、すぐに手元に集中したが。

レイアが少なからず驚いているらしい様子が、手に取るように分かった。

 

「世界の分解以外の方法で、ボクは世界を知りたい」

 

話している内に、腕を一本繋ぎ終えたエルフナイン。

次に取り掛かる前に、改めてレイアをまっすぐ見上げる。

 

「君には、その見届け人になってほしいんです。いつか、キャロルにこの体を返す時・・・・一緒に見てきた世界の話を、するために」

 

ふと、エルフナインの表情が変わる。

レイアの記憶にあるような、どこか儚げなものではない。

 

「いやとは言わせませんよ?ボクに何かあったら、キャロルに会えなくなるんですからね」

 

まるで、主を彷彿とさせるような。

得意げな笑顔。

 

「――――」

 

何故だろうか。

別人だと分かっているのに。

面影を感じてしまった。

それに気づいたからこそ、我に返ったレイアは。

鼻を鳴らして気合を入れるエルフナインを、呆然と見つめて。

 

「――――ええ、良いでしょう」

 

戦闘力もない相手に、派手に敵わないと思ったのは。

これが初めてだった。

新たな右手を動かすと、警備達が役割を果たすべく銃口を向け、あるいはエルフナインを退避させようとする。

だが、了子が彼らを見渡しながら片手を上げて制する。

疑問に視線に、様子見をしようと頷いて答えた。

 

「マスターが戻るその日まで、あなたと共に・・・・マイスター・エルフナイン」

「はい、よろしくお願いします!」

 

レイアは小さな手を取り、唇を寄せる。

そして(こうべ)を垂れれば、溌剌とした返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

柄の悪いおにーさんに、背中をぐさーっと刺されてから、さらに一週間。

未来はもちろんのこと、了子さんや弦十郎さん。

果てにはマリアさんや翼さんにまでお説教をくらったとしても、世界は回っていく。

キャロルちゃんの体を譲渡されることで一命をとりとめたエルフナインちゃんは、そのままS.O.N.G.の技術者として籍を置くことに。

しれっと生き延びていたレイアさんも、エルフナインちゃんを新たな主として、主に護衛を担うらしい。

マリアさんと翼さんは、当然ながらイギリスに戻って歌手活動を再開した。

調ちゃんと切歌ちゃんは、初めての夏休みにうっきうきを隠しきれないようで。

何をやろうかなとワクワクしていた。

かわいい(確信)

なお、クリスちゃんが目を光らせているので、だらけた生活にはならないはず。

一方で、キャロルちゃんがどこからあれだけの設備を調達したのか、気になる部分も残っている。

当面は、その調査が主なお仕事になりそうだ。

 

で、今。

わたしはどうしているのかと言えば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考え事から戻って、前を見る。

相変わらず建っているのは木造平屋。

お父さんの友達が、お仕事の拠点として使っていただけあって。

どことなく、お上品な雰囲気だ。

 

「ここ?」

「うん」

 

分かっているけども、意味なく確認すれば。

隣の香子は、こっくり頷いた。

・・・・ここまで来たというのに、いまだにしり込みしている自分に呆れるほかない。

いや、だって。

何を話せばいいの?

いやいや、あのね。

あのね?あのねのね?

帰っておいでって言われてるから、歓迎されないってことはないんだろうけど。

だから香子も、あんなにアグレッシブに迎えにきたわけだし。

でも、でも、でも、でも。

んむあああああああ、今更になって。

乗り越えたはずのあれこれがぶり返してきて、暗闇に引き戻そうとしてきて。

そうやって、頭が真っ白な状態で突っ立っていたからだろう。

 

「ただいまー!連れてきたよー!」

「えっ、ちょっ、待っ・・・・!?」

 

『いいやッ!限界だッ!押すねッ!』と言わんばかりの香子に、先手を取られてしまった。

あばあばと取り繕うまでの間に、家の中からあわただしい足音。

泡食った様子のお母さんが飛び出してくるのに、時間はかからなかった。

 

「響・・・・!」

 

見るなり、泣きそうな顔で駆け寄ろうとするお母さん。

それに対してわたしは、身を強張らせて後退するという、最悪のリアクションを取る。

 

「・・・・ぁ」

 

気付いた時には、もう後の祭りだ。

抱きしめようとしたのか、伸ばされた手が。

残念そうな顔と共に、下がっていく。

・・・・完全に、しくじった。

暗闇達が『それみたことか』と嘲笑ってくる。

黒い手達が、こちらへ戻れと誘ってくる。

・・・・罪人らしく、踵を退こうとして。

 

「・・・・ッ!?」

 

ぱちん、と、弾ける音。

開けた視界で見下ろすと、香子に手を握られていた。

逃がさないと言わんばかりに、わたしの震えた手を両手で包み込んでいて。

・・・・温もりが、優しさが。

引き戻そうとした暗闇を、あっと言う間に追い払った。

わたしは何も言うことが出来なくて、ただただ見下ろし続けるだけだ。

 

「――――こうすることが正しいって、信じているから、握っている」

 

そんな沈黙を破ったのは、やっぱり香子で。

 

「繋いだこの手は、簡単に離さないよ!!」

 

そう、得意げに笑いかけられてしまっては。

わたしに出来ることなんて、白旗を上げることだけ。

こうなってしまっては、もう、腹を決めるしかない。

 

「――――ただいま」

 

せめて、最初の一歩は自分から。

お母さんと、見守っていたおばあちゃんが。

泣きながら駆け寄って、抱きしめてくれたのは。

そんな意地を張った結果だと、自惚れたかった。




大分長かった三章も、やっとこさ完結です。
この後はまた例の如く小話をちょこちょこ出した後、皆さん(?)お待ちかね(?)のXDU編を予定しております。
どうぞ、お楽しみに!

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