チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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最弱の

機能を失ったシャトーが、今度こそ都庁に突き刺さる。

大穴からは太い黒煙が昇っており、被害の大きさを物語っていて。

だからこそ、中にいる人はまず助からないだろうことが、容易に想像できた。

 

「み、未来ちゃん・・・・!」

 

エルフナインを支えたまま、モニターを見つめる香子。

脳裏では、最悪の可能性が激しく自己主張していることもあって。

顔色は芳しくない。

現場では、クリスに助け起こされている響も似たような表情をしているのも、拍車をかけていた。

 

『シャトーが・・・・命題が・・・・』

 

ふと聞こえたのは、キャロルの声。

シャトーを吹っ飛ばし、未来を生死不明にした下手人ということもあり。

香子はやや鋭い瞳と所作で顔を上げた。

 

『パパ・・・・!』

 

キャロルは背を向けているので、どんな顔をしているのか分からないい。

だが、今にも泣きそうな声と、震える肩に。

何故か、あの頃の響が重なって見えた。

 

「・・・・キャロル」

 

エルフナインが、一度閉じていた目を開けた。

 

「キャロル・・・・もう、やめよう・・・・」

『なんだと・・・・?』

 

パスはまだつながっているのか、振り向くキャロル。

モニター越しに、エルフナインと相対する。

 

「パパは、こんなこと望んでないよ・・・・」

『ふざけるな!ここでやめたら、裏切られたパパの無念はどうなるッ!?託された命題はどうなるッ!?』

 

弱々しい説得に、怒鳴り声の返事。

 

「でも、これで答えが得られるの?・・・・パパは本当に、この方法を喜ぶの?」

『・・・・ッ』

 

言葉は依然弱々しい。

しかしキャロルにも思うところがあったのか、眉が上がって目が見開かれる。

 

『・・・・ならば』

 

しばしの沈黙の後。

 

『ならば、お前はなんとする』

 

・・・・モニターを隔てているはずなのに、圧し掛かってくる威圧。

 

『何を以って、答えを得る』

 

怯んで身を引きかけた香子とは対照的に、エルフナインは真っ向から見つめ返して。

 

「世界を知って、理解して・・・・そうして、得る答えは」

 

命を紡ぐ様に、くべる様に。

告げられた『答え』。

 

「――――『赦し』」

 

今度こそ、まあるく開くキャロルの目。

その顔はまさしく、驚愕という他なく。

 

「村人たちに、世界にされた仕打ちを・・・・パパは『赦せ』と言っていたんだ・・・・!」

 

わなわな震える体。

爛々と光る眼に、食いしばった口元。

 

『赦し・・・・だと・・・・!?』

 

その通り、納得がいかないと言わんばかりに。

牙を剥くように口が開いて。

 

『赦せと?村のために薬を作ったパパを殺したッ!!あの連中を!?この世界を!?』

「そう、だよ・・・・けほっ」

 

途中、咳き込むエルフナイン。

口元の血を香子に拭われながら、それでもキャロルから目をそらさない。

 

「・・・・錬金術が目指すのは、世界の理を知ること、それによって、人と人とがつながれるようになること」

 

明らかに狼狽えているキャロルを、まっすぐに見据えて。

 

「それこそが、パパの娘である君と、パパの想い出を受け継いだボクが、やるべきことだったんだよ」

 

精神的形勢は、逆転していた。

なおも見つめ続けるエルフナインに、動揺を隠しきれないキャロル。

オペレーター達が、思わず固唾を吞んで成り行きを見守っている中。

沈黙を、破ったのは。

 

『――――ここらが止め時ってやつじゃない?』

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

疲労が抜けてきた体を立たせて、響はキャロルを見上げた。

 

「投降の勧告だよ、ただちに武装を解除しなさい」

 

吹きすさいで来た風にかき消されないよう、よく通る声でそう告げる。

 

「シャトーは壊れて、君の目的は潰えた」

 

ふと、まばたきの間に。

響の顔が、泣いている子供を憐れむような、痛ましいものに変わる。

 

「・・・・そんな、泣きそうな顔してまで、やるこたないでしょ」

 

事実、キャロルの頬は涙で濡れていた。

指摘されて、泣いていることに気付いたらしい彼女は、乱暴に顔を拭う。

 

「・・・・今更止まれると思うか?」

 

射抜くような目が、殺意を以って向けられる。

 

「灯った復讐を、ここでやめられると思うか?」

「・・・・まあ、簡単には無理だろうね」

 

叩きつけられる威圧をものともせず、ただ参ったなと言いたげに肩をすくめた響。

 

「でも、放置なんて選択は取らない・・・・取れないよ」

「そうだな・・・・仲間達のためにも、立ち止まってやる道理はない!」

「そぉーいうこった!」

 

握った拳が鈍い音を立てれば、賛同した翼とクリスが得物を突き付ける。

二人の頬にはそれぞれ涙の跡があったが、とっくに乗り越えた(あるいは切り替えた)ようだった。

 

「・・・・勝てるとでも?ただの独りで、七十億の絶唱を凌駕する、このオレにイィッ!!!!」

 

あざ笑いながら、キャロルは陣を展開。

ありったけの想い出を焼却した砲撃を放つ。

対する装者達はと言うと、まず響がひるむことなく駆け出した。

翼とクリスがそれに続き、三人一様に胸元へ。

イグナイトモジュールへ手を伸ばして。

 

「イグナイトモジュールッ!!」

「「トリプル抜剣ッ!!」」

 

第二段階(アルベド)をすっとばした、第三段階(ルベド)の開放。

赤黒いオーラを纏った両手が、伸ばされた。

その上で、奏でるのは。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal !!」

 

命を燃やす、うた。

キャロルが放ったフォニックゲインの嵐を、束ねようとしていた。

旋律を紡ぎ終えるか否かのタイミングで、ごん、と圧し掛かってくる衝撃。

瓦礫をさらに踏み砕きながら耐えるも、響の表情は芳しくない。

同じく絶唱を口にした翼とクリスも、苦悶を隠しきれていないようだった。

――――たった三人では、足りないか。

見えてきた『無謀』の文字に、知らず歯を食いしばろうとして。

 

「...Gatrandis babel ziggurat edenal」

「Emustolonzen fine el zizzl」

 

ふいに聞こえた、歌声。

はっと振り向けば、肩を支えてくれているマリアと。

曲げてしまいそうな腕に手を添えてくれる、未来が。

もう少し後ろを見てみれば、調が翼に、切歌がクリスにそれぞれ寄り添っていのが見える。

 

「・・・・ッ」

 

自然と、吊り上がる口角。

比喩でもなんでもなく、『もう何も怖くない』という思いに満ちていた。

 

「ガングニールで束ねてッ!!!!!」

「アガートラームで、制御するッ!!!」

 

吹き荒れるエネルギーの嵐の中。

握った拳が、高く、高く。

天を向いて。

 

「ジェネレイトッ!!!!!」

「エクスッ!!!!ドラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイブッッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破壊の跡が痛々しい街並みを、身を隠すように進んでいた了子。

空に翻る虹霓を見上げて、ほっと安堵のため息を吐き出した。

 

「・・・・」

 

しかし、それも束の間。

表情を曇らせると、徐に握っていた手を開いた。

掌に載っていたのは、小さなメモリーチップ。

・・・・ウェルに託された、小さな希望だった。

シャトーが大破したあの時。

あまりの威力に、シンフォギア装者達は自身を守るのに一瞬で手一杯となり。

距離が離れていたばかりに無防備となった了子とウェルは、あわやこれまでかという状況だった。

そして、『フィーネ』としての力を前面に出すことを視野に入れ始めたと同時に、ウェルが飛び出したところで。

一度意識が途切れている。

次に目覚めた時には、瓦礫に押しつぶされたウェルが、かろうじて虫の息を保っていたのだった。

もう長くないことは一目瞭然だった彼は、一つのチップを了子に託す。

それこそが、今彼女の手の中にある。

『モデルK』はもちろん、『モデルF』すらも凌駕する。

さらに改良されたLiNKERのレシピが記録された、データチップ。

 

――――フィーネ

 

――――ボクは、英雄になれましたか・・・・?

 

再び握り込みながら、ろくな設備もないであろう『深淵の竜宮』で研究を続けた手腕と度胸に感服していると。

彼の、今わの際を思い出す。

返事をする前に事切れてしまったものだから、結局伝えそびれてしまった。

 

「・・・・ああ、認めよう」

 

「貴様は私が出会った中で、最弱の英雄だよ。ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス」

 

せめて天に届くようにと、言葉を風に託して。

了子は再び、歩き出した。




一応、原作の大まかな流れは変えないように心掛けている拙作です。(マムの死亡とか、神獣鏡ズドーンとか)

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