誠にありがとうございます。
いただいたご感想も目を通しております、重ね重ねありがとうございます。
>了子さんの乖離剣
了子「(前回の戦車やらはあくまで真似て作ったものだし、というか仮にも元上司の持ち物なので恐れ多すぎて持って)ないわよ」
「あら、バッテリー切れ」
駆けつけた直後。
ぶすん!と音を立てて機能を停止してしまう戦車。
光の失った牛ゴーレムの目が、なんとももの悲しい。
「な、なんでここに・・・・!?」
「なんでって、ここを止めるために決まってるじゃない」
ぎょっとなる未来にあっけらかんと答えながら、慣れた足取りで戦車から降りる了子。
その後ろから、へろへろのウェルが続く。
「っぐ・・・・対聖遺物が十八番なのは、未来さんだけではないということです」
頼もしいといえば頼もしいのだが、すでに満身創痍の状態ではいまいち伝わらなかった。
「ともかく、このままではキャロル達の思惑通りよ。早くなんとかしないと・・・・」
制御装置を見据える傍ら、瓦礫が崩れる派手な音。
一同が見ると、『響』が一層殺意をたぎらせて復活しているところだった。
「ッそっちは任せていいのね!?」
「もちろん」
一緒ににやりと笑う了子とウェルを庇うような位置に、マリアは立つ。
彼女に続いて、調や切歌、そして未来も並んで。
改めて、『響』と対峙した。
「■■■■■■■―――ッ!!!!!」
もはや人でなくなった声を上げ、『響』が突進してきた。
容赦の欠片もない開幕の一撃を、マリアが足元を陥没させながら受け止め。
その両脇から調と切歌がすかさず襲い掛かる。
マリアの障壁を軸に転換した『響』は、挟み撃ってくる刃を素手でひっつかむ。
そうやって動けなくなったところへ飛び込んだ未来が、ゼロ距離での閃光を発射。
『響』に軽くないダメージを与え、マリアから引きはがす。
やられてばかりではない『響』は、悶えながらも足を叩きつける。
間に合わないながらも防御した未来は、何とか直撃を避けた。
ふらついたところへ追撃を加えようとして、飛び掛かってきた切歌に邪魔される。
数度打ち合って足止めすると、調が巨大な丸鋸を二枚放った。
体を捻って避ける『響』だが、無防備を狙ってマリアが雄叫びを上げて突っ込む。
短剣による一閃は、確かにその体を傷つけた。
「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ――― ッ !!!!!」
いよいよもって激昂した『響』。
とうとう両翼を背中に携えると、見た目通りの飛行能力を発揮。
爪の斬撃と、拳の殴打が、雨あられと襲い来る。
「了子さん!ウェル博士!」
「うわぁッ!?」
「ッ通信で聞いてたけど・・・・!」
標的は、今まさに制御装置に手を出すウェルと了子にも及び始めて。
間一髪のところで未来が間に合い、反射を利用したバリアで何とか守り切った。
「止められそうですか!?」
「かっこつけといてなんだけど、今すぐは難しそうね・・・・」
「アクセス自体は出来ますが、ロックに阻まれてしまっています!」
『響』の猛攻をしのぎながら未来が問いかけると、そんな悔しそうな返事。
左腕でヤントラサルヴァスパに触れたウェルも、その隣で解析を試みている了子も。
苦い顔を隠しきれていない。
「シャトーの構造データがあったなら、あるいは・・・・!」
それでも、打開のための手は止めなかった。
◆ ◆ ◆
S.O.N.G.本部。
雄叫びを上げてキャロルに立ち向かう姉から、香子は目を離せないでいた。
いや、離してはいけないと、必死に耐えていた。
一度は離別した姉の末路から、目を逸らすわけにはいかないと。
目の前で人が傷つく怖さに耐えながら、何とか向き合おうと神経をとがらせていると。
「・・・・ぅ、ぁ?」
もはや怒号にも思えるオペレーター達の声の中。
やけにはっきり聞こえた、うめき声。
我に返って目を下ろせば、エルフナインのうっすら開いた目とかちあった。
「だ、大丈夫?聞こえる?」
「・・・・ぁ、なたは・・・・ここは・・・・どうなって・・・・?」
視線を巡らせたエルフナインだったが、直後には痛みに顔を歪める。
苦しそうな様子に動揺を隠せない香子だったが、エルフナインはむしろそのおかげで様々なことを思い出したようだった。
「そう、だ・・・・キャロルは、シャトーは・・・・?」
「む、無理しちゃダメだよ・・・・!」
不安げに身を起こすエルフナインに、香子は手を貸す。
モニターが見えるようになったところで、エルフナインはようやく状況を理解した。
「あの・・・・えっと・・・・」
「ッわたし香子、お姉ちゃん、立花響さんの妹」
「ぁ、はい・・・・・それじゃあ、香子さん・・・・ボクを、あそこへ連れて行ってください・・・・」
なんと呼べばいいか戸惑った彼女へ、香子は手短に自己紹介。
こっくり頷いて答えたエルフナインは、本来了子が着いている席を指さした。
「でも、いいの?酷い怪我だよ・・・・?」
「行かなきゃいけないんです・・・・ボクは、キャロルを止めるために・・・・だから・・・・!」
「わわっ、と・・・・わ、分かった!」
連れて行ってもらえないならと、怪我を押してでも動こうとするエルフナイン。
そんな彼女の危なっかしい様を見せられた香子は、たまらず了承してしまった。
傷口が開かないよう、慎重に立ち上がって歩き出す二人。
途中、こちらに気が付いた
「どうするの?」
「錬金術の段階は、理解、分解、そして再構築・・・・全世界に干渉するシャトーのシステムを使って、分解された世界を再構築できれば・・・・!」
見慣れぬ機器に一抹の不安を覚え、思わず問いかけてしまった香子。
それに対し、エルフナインは律儀に答えながらせわしなく操作を続ける。
「・・・・ッ」
傍ら、香子はモニターを見た。
半分では姉が、もう半分では未来が。
それぞれの仲間達と並んで、それぞれの敵と戦っている。
優勢に立っているときもあれば、押し返されて苦痛の声を上げることもある。
傷つき、傷つけ、下手をすれば命を失いかねない状況が。
今この時、そう遠くない場所で起こっている。
(――――なのに)
だというのに。
姉と未来、共通しているのは。
瞳に宿した炎だけは、決して消えていないということであって。
だからだろうか。
戸惑いや困惑はあっても、恐怖だけは不思議と感じなかった。
「っよし・・・・これで・・・・!」
口元を引き締める隣で、エルフナインは一層キーボードを叩く。
◆ ◆ ◆
『――――聞こえますか!?』
「っええ、聞こえているわ!!怪我はいいの!?」
『響』との激戦が続く中、エルフナインの声がする。
突如として進んだ解析に戸惑っていた了子は、彼女のおかげかと冷静に分析した。
『それよりも、チフォージュ・シャトーへの干渉、こちらでも補助します!その通信機を、制御装置へあててください!』
「了解!ウェル博士!」
「聞こえてたとも!」
了子から通信機を受け取ったウェルは、指示通り画面へ押し当てる。
すると、送られてきたらしいデータが、通信機を、そしてヤントラサルヴァスパを通じて。
制御装置へ注がれていく。
「ロックが解除された、これなら・・・・!」
ここで仕留めると言わんばかりに指を速めた了子。
自身とウェルの足元に錬金術の陣を加えながら、更に作業を進めていく。
「はああああああッ!」
もちろん、戦っているのは彼女達だけではない。
すっかり『ドラゴン怪人』と化した『響』の猛攻へ立ち向かう未来。
殴打を捌き、受け止めながらあらわにする表情は、怒り。
初めこそ、罪の象徴たる姿やバケモノに変化する様を見て動揺していた未来だったが。
マリア達と連携できることや、時間経過による慣れなどで、余裕が出来たこともあるのだろう。
しかめられたその顔は、胸中の不機嫌を隠そうともしていない。
「ッ・・・・!」
「ギャッ!!」
いなしてつんのめった背中へ、レーザーを発射。
放たれた追撃がクリーンヒットし、『響』は悲鳴を上げた。
「み、未来さん・・・・?」
言いようのない、しかし明らかな変化。
戸惑いを隠せない調は、恐る恐る名前を呼ぶ。
「・・・・ぃで」
マリアすら困惑を隠しきれない中、なお沈黙を保った未来。
よく見ると、その肩は小刻みに震えていた。
「バカに、しないでッ!!」
歯を剥いて放った、彼女らしからぬ怒号。
「さっきから何なの!?それが響だとでも言うの!?そんな、何もかも見境なく壊す姿が!!響だと言うの!!?」
思わず仰け反る味方にかまわず、未来は叫び続ける。
「ふざけないで!!バカにしないで!!わたしが大好きだと思った人はッ!!わたしが愛した『ファフニール』はッ!!」
激情のままに脚部アーマーを展開。
今更危機を覚えて後ずさる『響』を睨みぬいて。
「誰よりも優しい、臆病者なんだからぁッ!!!!!」
ため込んだ極光を、叩きつけた。
「ひぇ・・・・」
「これが愛・・・・?」
いつになく怒りをあらわにする未来を前に、無意識に身を寄せ合う調と切歌。
そんな二人を微笑ましく思いながらも、マリアはすかさず飛び出す。
直撃を受けてもなお立ち上がる『響』、いや、敵。
響の姿では勝ち目はないと判断したのか、向かってくるマリアを見上げて、今度はセレナの姿を取る。
「・・・・なるほど、これは腹立たしいわね」
だが、思惑通りに踏みとどまってやる道理はない。
「お生憎様ッ!」
抜剣、イグナイトを起動。
握った直剣を、左腕と一体化させて。
「もう弱い私じゃないのよ!!セレナアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
さんざん手古摺らせてくれた幻影を、真っ二つに叩き斬った。
「すさまじいというか、何というか・・・・」
「うちの子達、頼もしくってたまらないわ」
攻防を間近で見ていたウェルや了子は、気圧されるやら頼もしく感じるやら。
「こっちも負けてらんないわよ」
「ええ、もちろんですとも!」
そんな彼らの役目も、大詰めを迎えている。
了子が最後の入力を終えれば、展開された陣に呼応して、ウェルの左腕が輝いて。
「仕上げは頼んだわよ!『英雄』!!」
「当ッ!然ッ!!応えてこその
◆ ◆ ◆
「やめろ・・・・やめろ・・・・」
シャトーの音が、変化している。
再び走った翡翠の光。
キャロルちゃんの表情から、システムは了子さん達が掌握したというのが分かって。
だったら、この後に何が起こるのかというのも。
「やめて・・・・やめてよぉ・・・・」
ラスボス然とした態度はどこへやら。
今のキャロルちゃんは、まるで泣きじゃくる子どもの様だ。
だけど、やっていることは。
背後に抱えた陣は。
確実にシャトーの中のみんなを捉えていることが分かって。
・・・・あの規模だ。
脱出は、多分間に合わない。
間に合っても、きっと無事ではないだろうことは分かっていて。
『・・・・翼。あなたとはいつか、夜まで歌い明かしたかった』
「マリア、何をッ・・・・!?」
『クリスさん、先輩として手を引いてくれて、ありがとデス!』
「そんなの、当たり前だろ!だから・・・・!」
『響さん、あなたを一方的に攻撃してしまったこと、ずっと謝りたかった』
「・・・・そんなことない、悪いのはわたしだ」
まるで、遺言のようなことを言うマリアさん達。
・・・・目を、そらすな。
考えろ、考えろ。
『――――響』
『
『大好き』
未来を守る方法を、一刻も早く思いつけッ!!!!!!!!!!!
「パパとの約束をッ!!!!」
――――もう、がむしゃらだった。
両手にジャマダハルを構えて、飛び出す。
引き留める翼さんとクリスちゃんの声を無視する。
「壊さないでよおおおおおおおおッ!!!!」
「うおおおおおおおおおおおッ!!!!」
放たれた砲撃の前に躍り出て、腕を交差させる。
一瞬でもいい、一秒でもいい。
やけっぱちでもいい、死力を尽くせ。
ここで、こんなところで。
――――失わずに、済むようにッ!!!!!
だけど。
「うわああああああああああああッ!!!!」
同じがむしゃら同士がぶつかった場合。
火力がある方に、軍配が上がるのは。
必然、の、こと、で。
だか、ら。
「――――ぁぁ」
吹っ飛ばされた頭上。
止めきれなかった砲撃が、シャトーを貫くのが見えた。