チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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前回の後半を大幅加筆しておりますので、そちらを見てからの方が分かりやすいです。


チャリで来た

意気込んだはいいものの。

 

「誰にも、会わない・・・・」

 

迷わない程度の範囲をうろついてみたが、ものの見事に誰にも出くわさない。

人っ子一人見当たらない事実に、早速心が折れそうになっていた。

もう大人しく戻ろうかと考え始めた時、ざわざわと人の気配を感じる場所を見つける。

他に比べてなんだか厳つい感じがしたが、もはや一刻も早く用事を済ませたかった香子。

意を決して、扉を開けてみれば。

 

「シャトーより放たれたエネルギー波は、レイラインを伝って世界中へ伝播!」

「同時に、各地で建物や一般人の消失など、被害報告が相次いでいますッ!!」

 

予想通り、せわしなく指を動かし、大声を張り上げる職員達。

――――一瞬で、入ってはいけない場所だと理解した。

幸い誰もこちらには気づいていないようだし、このまま回れ右してお暇しようと考えるのは当然の帰結。

そうと決まればと、とっとと背を向けようとして。

 

「ッ香子さん!?どうしてここに!?」

 

緒川の素っ頓狂な声に、足を止めざるを得なかった。

 

「ご、ごめんなさい!お姉ちゃんがどうなってるか気になっちゃって、我慢できなくなって・・・・!」

 

気まずさを隠せず振り向くと、案の定戸惑った顔が緒川含めて複数向けられていた。

 

「すぐに出ていきます!お邪魔しました!」

 

こうなった以上、素直に頭を下げるしかあるまい。

その通りに大きく頭を下げた香子は、今度こそ出ていこうとしたものの。

 

「――――いえ、ちょっと待って」

 

女性の声に引き留められた。

見ると、床に直接座り込んでいる白衣の女性が。

 

「立花香子ちゃんだったかしら?私は櫻井了子、よろしく」

「よ、よろしくお願いします・・・・」

「ちょうどよかったわ、こっちに来て頂戴」

「は、はい」

 

手招きされたので、従って寄っていく。

すると、女性に膝枕されている少女がいた。

わき腹に決して浅くない傷を負った、同い年くらいの女の子は。

顔色悪そうに呼吸している。

 

「ちょーっと野暮用が出来たから、その間この子を引き受けてほしいのよ」

「え、でも・・・・」

 

まだ状況を飲み込めない香子は、『自分でいいのか』という戸惑いを見せる。

それに対し、白衣の女性こと了子は、柔和に微笑んで返す。

 

「あなたでいいのよ、まあ、勝手に入ってきちゃった罰とでも思ってちょうだい」

「う・・・・」

 

香子としてはやろうと思ってやったことではないが、それはそれとして罪悪感はあった。

まだ状況を飲み込めない不納得はあるものの、頼み事は基本的に断らない性格である。

故にこっくり頷いて、女の子を引き取った。

膝にずっしりとかかる重みが、まるで命を体現しているようで。

一抹の緊張を覚える。

 

「というか、あなたはどこにいくんですか?」

「ええ、ちょっと」

 

白衣をひるがえして立ち上がる了子。

いつの間にか向けられている、仲間達の心配そうな視線を受けながら、ウェルと並び立って。

 

「世界を救いにね」

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

シャトー内部を進んでいたマリア、調、切歌、未来の四人。

ノイズの群れで賑わっていた外とは違い、不気味なほどに静かだ。

様々な策略を巡らし、今もなお手の上で転がし続けているだろうキャロル一味。

何も仕掛けていないとは思えなかった。

やがて、開けた空間に出る。

中央には制御装置らしき台座。

奪われたヤントラサルヴァスパが納められ、怪しく発光していた。

 

「ひとまず、あれをどうにか出来たら・・・・!」

「そうね、本部に連絡を。櫻井教授なら何かわかるかも――――」

 

言いかけて、気配。

マリアが振り向いた時には、視界いっぱいに拳が見えていて。

 

「――――ッ!?」

 

仰け反って回避すれば、追撃の()()()が伸びるのが見えた。

体を捻って蹴りを叩き込み、距離を取らせる。

・・・・誰もが、驚愕していた。

右袖から見える刃、揺れる黒いコート。

そこにいるのは、対峙しているのは。

未来の震える口元が、名前を紡ぐ。

 

「・・・・ひび、き?」

 

まるで時間が逆行したように、緊迫と殺意で疲弊した目つきを向けた『響』は。

再び身構えて、突撃してくる。

 

「ッ未来さんは下がるデス!」

「ここは私達がッ!」

 

仲間に手出しさせないと、調と切歌が突っ込んでいく。

鎌による連撃と、丸鋸が描く変幻自在の軌道。

生身(?)であるにも関わらず捌いた『響』は、まず切歌の鼻っ柱を打ち、続けて調を蹴り飛ばした。

怯んだ二人の合間を抜けて、マリアが攻め込んでいく。

その合間に何とか立ち直った未来は、攻防の隙をついて、制御装置を直接狙う。

破魔の輝きが、ヤントラサルヴァスパを穿とうとして。

直前で、阻まれる。

はっとした時には、『響』が目の前にいて。

 

「――――ッ!!」

 

咄嗟に、鉄扇で拳を受け止める。

ぎりぎり迫り合ってから、何とか弾き飛ばした。

再び向かおうとする『響』を、短剣と鎌と丸鋸が阻んで。

進みだした足を止めさせる。

 

「――――どうやら、我々の知る響ではないようね」

 

トラウマに硬直している未来を、肩を叩いて引き戻しつつ。

マリアは冷静に分析する。

そもそも、熟年夫婦もかくやという関係を知っている側なので。

今目の前にいる『響』について、あり得ない以外の感想も感情も沸いてこないのである。

 

「ようするに偽物ってやつデスね!」

「あの響さんは、私達に共通した『過去の因縁』・・・・キャロル、性格が悪い」

 

同じく見破っていた調と切歌も、肩を怒らせたり、口をむっと結んだりして。

それぞれ不快感をあらわにしていた。

三人の話を聞いて、未来は改めて前を見る。

 

「・・・・無理は、しなくていいのよ」

「・・・・いえ」

 

震えが治まったとは言えない肩を案じて、マリアが語り掛けるも。

未来は首を横に振る。

 

「大丈夫です」

 

構える『響』を前に発した声は、微塵も怯んでいなかった。

その様子を見て、安堵の笑みを浮かべたマリア。

数歩前に出て、短剣を構える。

当然目の前には、拳を握った『響』。

 

「さあ、リベンジと行きましょう」

 

不敵な笑みを吊り上げて、過去の苦い思い出へ突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「ッだああああああああああああ!」

 

キャロルちゃんの障壁をバキバキ砕きながら連打。

意外といけるもんだね。

例の『ヘルメス・トリスメギストス』とやらにはさすがに手古摺らされたけども。

何とか攻撃は通っている。

でも所詮は『何とか』『どうにか』レベル。

笑えるくらいに決定打が足りない、そりゃあ、もう圧倒的に。

だけど、それでも。

ここで退くのは、この世の全てに負ける気がして。

すっごく嫌なんだよなぁ!!

 

「はああああッ!」

 

キャロルちゃんが、もう何度目か分からない錬金術を発動させる気配。

相手の腕を蹴りつけて飛びのくと、入れ替わるように翼さんが突っ込んでいく。

クリスちゃんの援護を受けた翼さんは、見事、一太刀で発射された烈風を斬り払ってしまった。

っていうか、シンフォギアありきとはいえ、自然現象叩き斬っちゃう翼さんの技量ェ・・・・。

なんてボケてる合間に、無数の鞭のような風が飛んでくるのが見えて。

 

「っとぉ!!」

 

三人一緒に飛びのけば、地面に刻まれる細い打撃痕。

ひぇっ・・・・直撃したらひとたまりもないべよ・・・・。

頭を振って冷や汗をごまかしながら、前を見据える。

空中には、依然キャロルちゃんが健在。

・・・・未来達の方も気になる。

早いとこ手傷を負わせるなりして、大きな隙を作りたいところだ・・・・!

顎を伝ってきた汗を拭う。

意識は胸元に、翼さんやクリスちゃんも同じ考えらしい。

 

「たとえてめぇの策だとしてもッ!」

「エルフナインがくれた希望を、信じるともッ!」

 

――――抜剣ッ!!

もう聞きなれた掛け声とともに、イグナイトを起動させる。

一度発動してしまったからか、さっきみたいな『重さ』は感じられなかった。

早速放たれたクリスちゃんのミサイルを足場に、キャロルちゃんへ肉薄。

拳を叩きつければ、ぎりぎりと火花が散った。

 

「イグナイトの最大出力は把握しているッ!その上で捨て置いたのだと何故分からないッ!?」

「知るもんかッ!!あんたがやんちゃやめない限り、お姉さん達だって何度でも立ち向かうからねッ!?」

「ほざけッ!」

 

弦が向かってきたので、大きく飛びのく。

と、見せかけて、弦をよけ切ってから、足のジャッキと腰のブースターで突撃。

『手』も加えた拳をお見舞いする。

顔面にクリーンヒット、おっしゃ。

はっきりしたダメージに、重圧がほんの少しだけ解消された。

放たれた炎や土塊を避けて、今度こそ離脱。

翼さんの『千ノ落涙』に、しれっと投擲した刃を混ぜながら着地する。

そのまま飛び出していく翼さんの援護をしながら、クリスちゃん狙いの錬金術を対処。

 

「はああああああああッ!!」

 

剣を、弦で次々絡め取られていこうとも、翼さんの猛攻は止まない。

でも、絡まった剣が増えてきているような。

うーん、なんだか嫌な予感。

とか思っていたら、キャロルちゃんはにやっと笑って、手元を引いた。

途端に、いつの間にか張り巡らされてた弦が絞られて、狭まって。

絡まった剣で、翼さんをくし刺しにせんと迫ってくる!!

ぎゃー!!ピンチ!!

 

「翼さんッ!」

「先輩ッ!」

 

思わずクリスちゃんと一緒に飛び出そうとしたけど、同じく思わず足を止めてしまった。

だって翼さんの口元には、いっそかっこいい位の笑みが浮かんでいて。

瞬間、剣が振られる。

振った剣が、絡まった剣を打つ。

打たれた剣は回転して、回って弦を斬るついでに他の剣を打って。

その剣がまた回るついでに、と連鎖が広がって。

あっという間に、周囲の弦を切り裂いてしまった。

キャロルちゃんが呆けた隙を縫って、号令を出すように剣を振り下ろせば。

解放された剣達が、『千ノ落涙』に早変わりして飛び掛かった。

さすが技巧派・・・・御見それしました・・・・!!

なーんて、図らずとも見てしまった先輩のかっこいいところに感動していると。

バリバリゴロゴロ、と、空気を裂くような音。

っていうか、雷の音。

 

「な、なんだァ!?」

 

ど、怒涛の展開が次々と・・・・。

なんだか牛の鳴き声みたいなのも聞こえるし。

とか考えていたら。

ビルの合間からシャトーへ、空中を爆走する物体が現れた。

よく見なくても、誰かが乗っているのが分かる。

定員は二人、操っているのは・・・・ッ!?

 

「了子さぁん!?」「了子ォ!?」「櫻井女史!?」

 

ついでにウェル博士!!!

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!!!」

 

雄々、と咆哮を上げ、突進してくる『響』。

体の所々に竜の特徴を発現していく奴に、マリア達は苦戦を強いられていた。

 

「速攻で決めなければならなかったとはね・・・・!」

「でもでも!あんなにすばしっこいの捕まえらんないデース!」

 

勢い良い殴打を蹴り飛ばしていなしたマリアは苦い顔。

切歌も似たような顔で、半ば駄々のようにごちる。

 

「どっちにしろ、時間がないのは私達の方。このままじゃ相手がどんどん強く・・・・!」

 

そんな二人(どちらかというと切歌)を宥める調の目の前で、まさに左腕が鱗に包まれ切った所だった。

頭に角、甲殻に覆われた口元、変貌しきった手足。

この調子だと、そろそろ羽が生えてきてもおかしくない。

 

「――――!」

 

待ちきれないと言わんばかりに飛び出す『響』。

剥き出しの爪が狙うのは、未来。

 

「っ・・・・!」

 

鉄扇で数度打ち合い、何とか攻撃をしのぐ未来。

一回ぶつかる度に、手首が痺れて痛んだ。

動きが鈍ったところへ豪速の攻撃を叩きこまれ、咄嗟に防ぐ。

大きく押し込まれた鉄扇が、胸を強く打った。

咳き込む目の前でもう片手が振り上げられる。

鉄扇を捻って突き放す。

迫る拳が耳元を掠める。

勢いあまって足元に転がってしまった所へ、容赦ない踏みつけ。

 

「やあぁっ!!」

 

もう一度転がって避ければ、調の援護で距離を取ることが出来た。

続いて切歌も突っ込んでいくが、振り下ろした鎌をひっつかまれ、投げ飛ばされる。

何とか受け身を取って立て直したことで、調への激突を免れた。

再び未来へ飛び掛かる『響』の前に、マリアが立ちふさがる。

鱗に覆われた頑丈な手足と、激しい衝撃波を散らしながらぶつかり合い。

 

「はああ――――ッ!」

 

複数の短剣を代わる代わる持ち替えながら、剛腕に対抗するマリア。

中々退かないマリアに、しびれを切らした『響』。

攻防の中で腕ごと握り込んで捕らえると、腕を大きく引いて。

思いっきり、叩きつけた。

 

「ぐううッ・・・・!」

 

派手に吹っ飛ばされたマリア。

紙一重で防御が間に合ったものの、衝撃までは緩和できず。

びりびりと肌を刺すプレッシャーに、顔を歪ませてしまった。

――――先ほどから、『響』は未来を重点的に狙ってきている。

最初に、奴の護衛対象である制御装置を害そうとしたのが原因らしい。

体を段々化け物に変化させながら、敵意と殺意を剥き出しにして襲ってくる。

 

「・・・・ッ」

 

違うと分かっていても、大切な人と寸分違わぬ姿でそんなことをされては。

未来のメンタルが疲弊するのは、仕方のないことだった。

 

(・・・・いや!今はそれどころじゃない!)

 

頭を振って、前を見る。

今こうやって手古摺っている間にも、世界はどんどん分解されて行っている。

もしかしたら、もう手遅れになっているところもあるかもしれない。

何より、この東京を、響以外にも守りたい人達がいる場所を中心とされている以上。

怯んでいる余裕はなかった。

さっと視線を巡らせて、考える。

最優先目標はシャトーの停止、その為には制御装置への接触が不可欠。

現状一番の障害である『響』を、取り除くには・・・・。

 

(やっぱり・・・・)

 

鉄扇を握りしめる。

やはり、自分が対応するしかないのか。

腹を決めようとして、唇を引き締めた時。

 

 

ごん、と轟音を立てて。

シャトーの壁に、大穴が開いた。

 

 

「・・・・はっ?」

 

呆ける目の前。

あれよあれよと飛び込んできたものが、『響』を盛大に跳ね飛ばした。

 

「うわああああッ!!響さーん!!」

「およよよーッ!?」

 

突然の事態に、調も珍しく大声。

違うと分かっていても、知っている顔が吹っ飛ばされて壁に激突する様を見てしまっては。

思わず叫んでしまうのは仕方のないことだった。

 

「――――あら、何かぶつかった?」

 

土煙の中。

雷鳴や牛の鳴き声と共に、覚えのある声が聞こえる。

 

「それよりもこっちを気にかけて・・・・ごふッ」

「言ったじゃないの、『あたしのドラテクは凶暴よ』って」

 

車輪を帯電させ、ゴーレムの牛に引かれた戦車。

その荷台に堂々と佇んだ了子は、ダウンしているウェルを呆れて見つめていた。




了子「チャリで来た!!!!」\ドンッ!/

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