少し短めですが、キリがよいので投下。
8/14:加筆
「――――これで、ひとまずは大丈夫ですよ」
「よかったぁ・・・・」
S.O.N.G.本部。
仮眠室に医療品一式を放り込んで作られた、即席の医務室にて。
包帯や輸血、点滴を施され、呼吸もずいぶん落ち着いた父を見下ろして。
香子はどっと安堵した。
「ありがとーございます、先生」
「いえいえ、本来ならもっと設備の整ったところで治療するべきなんですが・・・・」
変わった左腕の持ち主、ウェルに頭を下げると。
彼は眉をひそめて申し訳なさそうにした。
「今病院にいくのは難しくて大変だし、そもそも保健室がふっとんじゃったんですよね?なら、こうやって、包帯と点滴してもらえるだけで、安心しないと」
「ははは、まだ小さいのにお強いレディだ」
微笑ましい目で告げられた誉め言葉に、香子は照れくさそうにはにかんだ。
が、すぐに不安げに陰ってしまう。
「・・・・お姉さんのことですか?」
「は、はい。未来ちゃんや、マリアさん達が来てくれたから、大丈夫とは思うんですけど」
語るにつれ、だんだん声も落ち込んでいく。
そんな様子を見たウェルは、少し困ったように再び眉をひそめた。
「すみません、基本的にS.O.N.G.の活動は一般人に知らせるわけにはいかないのです。君のご両親は例外中の例外なんですよ」
「あ、いえッ!こっちこそ、なんか変なこと言っちゃってごめんなさい」
それきり、『戦闘管制があるから』と部屋を出て行ったウェル。
姉の勇ましい姿を見た影響か。
いかにもインドア派に見える彼でも、忙しいことがあるんだなと意外に思いながら。
「・・・・お姉ちゃんが、怪我しませんように」
静かになった部屋で父の手を握る。
◆ ◆ ◆
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
・・・・なん、や。
なんや、これ?
なんやコレェ!!?
イグナイト重ッ、むっちゃ重ッ!!!
雄叫びでごまかしてるけど、重ーッ!!!!
あの、ほら!!
エンジンかかった鈍器を振り回しているというか!!!むしろ振り回されている感覚というか!!!
油断してると!!!スポーンっとどっかにいっちゃいそうな危うさー!!!
ごめーん香子ー!!お姉ちゃんちょっと怪我しちゃうかもしれません!!
「っだぁ!!!」
「ちぃっ・・・・!」
そんな焦りをなんとかごまかし続けるために、ストレート一閃。
拳を、ワイヤーを束ねて受け止めるキャロルちゃん。
表情こそひやっとしているようだけど、当てられてないこっちとしてもよろしくない心境なんだよなぁー。
「・・・・ッ!」
なんてよそ見してる間に、背後から錬金術。
生み出されたでっかい土塊が、頭をかち割ろうと狙ってくるけど。
「響ッ!!」
未来が援護射撃で退路を確保してくれたおかげで、何とか距離を取れた。
着地と同時に、イグナイトを解除する。
いやぁ、ほんとに重たかった・・・・!
「響、大丈夫?すごい汗・・・・!」
「大丈夫っちゃあ大丈夫だけども、いやぁ、なーんでだろうねぇ」
ちらっと足元を見れば、水溜りが出来るくらいに落ちる汗。
今が夏だってことを考えても、大分異常な量だ。
「バカッ!先輩!無事か!?」
「響さん!マリア!」
わたしがひいひいしてると、駆けつけてくれたクリスちゃん達。
頼れる仲間達が勢ぞろいしたことに、一抹の安堵を覚えた。
と、思えば、クリスちゃんがやけに焦った顔してる。
どしたん?
「どういうこった!?あたしは確かにレイアを生け捕りにしたぞ!!なのになんでそいつが、チフォージュシャトーが起動してやがる!?」
えっ?そうなの!?
そんな気持ちを込めて見上げると、息が整ったらしいキャロルちゃんは得意げににやっとして。
「何、造作もない。見抜かれている可能性が浮上したので、策を練り直しただけのこと」
キャロルちゃんの言を丸々信用するのなら、万が一に備えて、レイア妹にも譜面を作成する機能を追加したのだそう。
オートスコアラー四機のうち、どれか一つが破壊されないまま無力化された場合。
レイア妹が代役になるよう設計したとか、何とか・・・・。
「櫻井了子が一度派手にぶち壊してくれたお陰で、追加も容易だったよ」
くっくっく、と、悪役さながらににやにやするキャロルちゃん。
あっ、いや。
さながらっつか、悪役だったわ、この子。
「改めて見ると、シンフォギアに似てる・・・・」
何とか調子が戻ってきたので立ち上がっていると、調ちゃんのつぶやきが聞こえた。
・・・・確かに。
『
っていうか、イグナイトモードの胸回りとかまんまだよね。
とか考えてたら、
「見てくれだけだと、思うてくれるなッ!!」
言うなり、まるで翼のようにハープを展開したキャロルちゃんは。
息を、吸い込んで。
音色を、歌を、奏で始めた。
みんなが面食らう間もなく、陣を次々展開して。
術による怒涛の連撃が荒れ狂う。
平然と抉られる地面に背筋をヒヤッとさせながら、一度物陰に退避。
「この威力・・・・!」
「すっとぼけが利くものか、こいつぁ絶唱だッ!!」
翼さんとクリスちゃんのやりとりを小耳にはさみながら、近くにいた調ちゃんを抱えて飛びのく。
さっきまでいたところに溝が彫られて、またぞっとした。
「シャトーが・・・・!」
着地したところで、未来のそんな声が聞こえたので見上げる。
気が付けば、仏具のお鈴を鳴らすような済んだ音が聞こえた。
よくよく見ると、シャトーがキャロルちゃんの歌に、共鳴するように明滅していて。
・・・・そういえば下の方のデザインといい、音叉っぽいよね。
陣取ってる都庁の形も相まって、余計にそう見える。
・・・・破壊、は、無理っぽい。
っていうか無理。
七人全員で突撃しても、外装の一部を剥ぐだけで終わるだろう。
そもそも、キャロルちゃんが許すわけがない。
ああ、なるほど。
こりゃ、一度は敵の思惑通りになっちゃうわけだ。
「来るぞッ!!」
クリスちゃんの喝ではっとなって、ほぼ反射的に跳ぶ。
烈風にきりもみしながら見渡せば。
ちょうどわたし、翼さん、クリスちゃんの『LiNKERいらない組』と、マリアさん、調ちゃん、切歌ちゃん、未来の『LiNKERいる組』に分断されてしまった。
その一方で、輝きが最高潮に達したシャトーが、とうとう本領を解き放って。
空も大地も、何もかもを分けて
東京を中心に、縦横無尽に駆け巡ったのが分かった。
今頃世界各地で、あのオーロラのような悪魔の光が。
牙を剥いて、世界を食いちぎっていることだろう。
「ッ私達でシャトーを止めるわよ!!」
「はいッ!」
「わかった!」
「合点デース!」
なお続くキャロルちゃんの猛攻の中、マリアさんが声を張り上げた。
続けて応える声の中には、未来も入っている。
思わずそっちを見ると、『なんでもない』と言いたげに微笑んでくれていた。
・・・・本当は、嫌だ。
行ってほしくない。
この後なにが起こるのか、分かっているから。
・・・・万が、一も、あるから。
出来るなら、こっちに残ってほしい。
(だけどッ・・・・!)
だけど、それじゃあダメだ。
未来だって、わたし達ならキャロルちゃんをどうにかしてくれるって。
信じて託してくれてるんだ。
だから、引き留めようものならば。
それこそが、彼女の信頼に対する侮辱になってしまうッ・・・・!
「――――世界を壊すッ、歌があるッ!!」
歌声の中、わたし達を見下ろすキャロルちゃんを、見据える。
わたしの胸中には、未だに未来への心配事がささくれ立っていて。
けど、引き留めることを選んだとしても。
結局は、状況と、何より自分自身の弱さがそれを叶えさせてくれない。
――――嗚呼、信じるって。
こんなにも痛くて、怖いものだったんだ。
◆ ◆ ◆
「ぅ、わ・・・・!」
ごん、と。
遠くで鈍い音が聞こえるたびに、かすかな振動が部屋を揺らしていた。
今のは一際大きく、香子は危うく椅子から転げ落ちそうになる。
なんとか踏みとどまると、手を握ったままの父が気になって慌てて確認。
心配とは裏腹に、父は穏やかに眠ったままだった。
具合が悪化したわけでもないと、素人目ながら判断した香子は、ほっと一息。
落ち着いたところで、なんだかそわそわしてしまう。
「・・・・大丈夫かな、お姉ちゃん」
いや、ウェルにも語った通り、頼れる味方が続々駆けつけてくれたので。
早々簡単に負傷しないだろうことは、容易に想像できる。
が、実際に『待て』を続けられるかどうかと言えば、残念ながら難しかった。
手を握った父が、未だに目を覚まさないのも後押ししてしまったこともあり。
香子はとうとう、部屋から出てしまった。
開いたドアから廊下を覗けば、なんだか重苦しい空気。
気圧されそうになるが、今は姉の安否が優先的だった。
「・・・・ごめん、お父さん。すぐに戻るから」
一言告げてから、今度こそ部屋を出ていく。