チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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エルザちゃんもふもふ(挨拶)
少し短めですが、キリがよいので投下。

8/14:加筆


世界を壊す、歌がある

「――――これで、ひとまずは大丈夫ですよ」

「よかったぁ・・・・」

 

S.O.N.G.本部。

仮眠室に医療品一式を放り込んで作られた、即席の医務室にて。

包帯や輸血、点滴を施され、呼吸もずいぶん落ち着いた父を見下ろして。

香子はどっと安堵した。

 

「ありがとーございます、先生」

「いえいえ、本来ならもっと設備の整ったところで治療するべきなんですが・・・・」

 

変わった左腕の持ち主、ウェルに頭を下げると。

彼は眉をひそめて申し訳なさそうにした。

 

「今病院にいくのは難しくて大変だし、そもそも保健室がふっとんじゃったんですよね?なら、こうやって、包帯と点滴してもらえるだけで、安心しないと」

「ははは、まだ小さいのにお強いレディだ」

 

微笑ましい目で告げられた誉め言葉に、香子は照れくさそうにはにかんだ。

が、すぐに不安げに陰ってしまう。

 

「・・・・お姉さんのことですか?」

「は、はい。未来ちゃんや、マリアさん達が来てくれたから、大丈夫とは思うんですけど」

 

語るにつれ、だんだん声も落ち込んでいく。

そんな様子を見たウェルは、少し困ったように再び眉をひそめた。

 

「すみません、基本的にS.O.N.G.の活動は一般人に知らせるわけにはいかないのです。君のご両親は例外中の例外なんですよ」

「あ、いえッ!こっちこそ、なんか変なこと言っちゃってごめんなさい」

 

それきり、『戦闘管制があるから』と部屋を出て行ったウェル。

姉の勇ましい姿を見た影響か。

いかにもインドア派に見える彼でも、忙しいことがあるんだなと意外に思いながら。

 

「・・・・お姉ちゃんが、怪我しませんように」

 

静かになった部屋で父の手を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

・・・・なん、や。

なんや、これ?

なんやコレェ!!?

イグナイト重ッ、むっちゃ重ッ!!!

雄叫びでごまかしてるけど、重ーッ!!!!

あの、ほら!!

エンジンかかった鈍器を振り回しているというか!!!むしろ振り回されている感覚というか!!!

油断してると!!!スポーンっとどっかにいっちゃいそうな危うさー!!!

ごめーん香子ー!!お姉ちゃんちょっと怪我しちゃうかもしれません!!

 

「っだぁ!!!」

「ちぃっ・・・・!」

 

そんな焦りをなんとかごまかし続けるために、ストレート一閃。

拳を、ワイヤーを束ねて受け止めるキャロルちゃん。

表情こそひやっとしているようだけど、当てられてないこっちとしてもよろしくない心境なんだよなぁー。

 

「・・・・ッ!」

 

なんてよそ見してる間に、背後から錬金術。

生み出されたでっかい土塊が、頭をかち割ろうと狙ってくるけど。

 

「響ッ!!」

 

未来が援護射撃で退路を確保してくれたおかげで、何とか距離を取れた。

着地と同時に、イグナイトを解除する。

いやぁ、ほんとに重たかった・・・・!

 

「響、大丈夫?すごい汗・・・・!」

「大丈夫っちゃあ大丈夫だけども、いやぁ、なーんでだろうねぇ」

 

ちらっと足元を見れば、水溜りが出来るくらいに落ちる汗。

今が夏だってことを考えても、大分異常な量だ。

 

「バカッ!先輩!無事か!?」

「響さん!マリア!」

 

わたしがひいひいしてると、駆けつけてくれたクリスちゃん達。

頼れる仲間達が勢ぞろいしたことに、一抹の安堵を覚えた。

と、思えば、クリスちゃんがやけに焦った顔してる。

どしたん?

 

「どういうこった!?あたしは確かにレイアを生け捕りにしたぞ!!なのになんでそいつが、チフォージュシャトーが起動してやがる!?」

 

えっ?そうなの!?

そんな気持ちを込めて見上げると、息が整ったらしいキャロルちゃんは得意げににやっとして。

 

「何、造作もない。見抜かれている可能性が浮上したので、策を練り直しただけのこと」

 

キャロルちゃんの言を丸々信用するのなら、万が一に備えて、レイア妹にも譜面を作成する機能を追加したのだそう。

オートスコアラー四機のうち、どれか一つが破壊されないまま無力化された場合。

レイア妹が代役になるよう設計したとか、何とか・・・・。

 

「櫻井了子が一度派手にぶち壊してくれたお陰で、追加も容易だったよ」

 

くっくっく、と、悪役さながらににやにやするキャロルちゃん。

あっ、いや。

さながらっつか、悪役だったわ、この子。

 

「改めて見ると、シンフォギアに似てる・・・・」

 

何とか調子が戻ってきたので立ち上がっていると、調ちゃんのつぶやきが聞こえた。

・・・・確かに。

原作知識(ぜんせのきおく)』がなかったとしても、何となく似てるって思えるデザイン。

っていうか、イグナイトモードの胸回りとかまんまだよね。

とか考えてたら、

 

「見てくれだけだと、思うてくれるなッ!!」

 

言うなり、まるで翼のようにハープを展開したキャロルちゃんは。

息を、吸い込んで。

音色を、歌を、奏で始めた。

みんなが面食らう間もなく、陣を次々展開して。

術による怒涛の連撃が荒れ狂う。

平然と抉られる地面に背筋をヒヤッとさせながら、一度物陰に退避。

 

「この威力・・・・!」

「すっとぼけが利くものか、こいつぁ絶唱だッ!!」

 

翼さんとクリスちゃんのやりとりを小耳にはさみながら、近くにいた調ちゃんを抱えて飛びのく。

さっきまでいたところに溝が彫られて、またぞっとした。

 

「シャトーが・・・・!」

 

着地したところで、未来のそんな声が聞こえたので見上げる。

気が付けば、仏具のお鈴を鳴らすような済んだ音が聞こえた。

よくよく見ると、シャトーがキャロルちゃんの歌に、共鳴するように明滅していて。

・・・・そういえば下の方のデザインといい、音叉っぽいよね。

陣取ってる都庁の形も相まって、余計にそう見える。

・・・・破壊、は、無理っぽい。

っていうか無理。

七人全員で突撃しても、外装の一部を剥ぐだけで終わるだろう。

そもそも、キャロルちゃんが許すわけがない。

ああ、なるほど。

こりゃ、一度は敵の思惑通りになっちゃうわけだ。

 

「来るぞッ!!」

 

クリスちゃんの喝ではっとなって、ほぼ反射的に跳ぶ。

烈風にきりもみしながら見渡せば。

ちょうどわたし、翼さん、クリスちゃんの『LiNKERいらない組』と、マリアさん、調ちゃん、切歌ちゃん、未来の『LiNKERいる組』に分断されてしまった。

その一方で、輝きが最高潮に達したシャトーが、とうとう本領を解き放って。

空も大地も、何もかもを分けて(ほど)く、翡翠の光が。

東京を中心に、縦横無尽に駆け巡ったのが分かった。

今頃世界各地で、あのオーロラのような悪魔の光が。

牙を剥いて、世界を食いちぎっていることだろう。

 

「ッ私達でシャトーを止めるわよ!!」

「はいッ!」

「わかった!」

「合点デース!」

 

なお続くキャロルちゃんの猛攻の中、マリアさんが声を張り上げた。

続けて応える声の中には、未来も入っている。

思わずそっちを見ると、『なんでもない』と言いたげに微笑んでくれていた。

・・・・本当は、嫌だ。

行ってほしくない。

この後なにが起こるのか、分かっているから。

・・・・万が、一も、あるから。

出来るなら、こっちに残ってほしい。

 

(だけどッ・・・・!)

 

だけど、それじゃあダメだ。

未来だって、わたし達ならキャロルちゃんをどうにかしてくれるって。

信じて託してくれてるんだ。

だから、引き留めようものならば。

それこそが、彼女の信頼に対する侮辱になってしまうッ・・・・!

 

「――――世界を壊すッ、歌があるッ!!」

 

歌声の中、わたし達を見下ろすキャロルちゃんを、見据える。

わたしの胸中には、未だに未来への心配事がささくれ立っていて。

けど、引き留めることを選んだとしても。

結局は、状況と、何より自分自身の弱さがそれを叶えさせてくれない。

――――嗚呼、信じるって。

こんなにも痛くて、怖いものだったんだ。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「ぅ、わ・・・・!」

 

ごん、と。

遠くで鈍い音が聞こえるたびに、かすかな振動が部屋を揺らしていた。

今のは一際大きく、香子は危うく椅子から転げ落ちそうになる。

なんとか踏みとどまると、手を握ったままの父が気になって慌てて確認。

心配とは裏腹に、父は穏やかに眠ったままだった。

具合が悪化したわけでもないと、素人目ながら判断した香子は、ほっと一息。

落ち着いたところで、なんだかそわそわしてしまう。

 

「・・・・大丈夫かな、お姉ちゃん」

 

いや、ウェルにも語った通り、頼れる味方が続々駆けつけてくれたので。

早々簡単に負傷しないだろうことは、容易に想像できる。

が、実際に『待て』を続けられるかどうかと言えば、残念ながら難しかった。

手を握った父が、未だに目を覚まさないのも後押ししてしまったこともあり。

香子はとうとう、部屋から出てしまった。

開いたドアから廊下を覗けば、なんだか重苦しい空気。

気圧されそうになるが、今は姉の安否が優先的だった。

 

「・・・・ごめん、お父さん。すぐに戻るから」

 

一言告げてから、今度こそ部屋を出ていく。


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