第3話・プロローグ
夢ノ宮市へようこそ!
そう大きく掲げられた看板を、一人の青年が通過した。
身長約180cm程度。ライトブルーを基調とした服装に短く切られた金髪。
「ここか。」
ようやくここまで辿りついた。眼前に拡がる都市を前に、青年は歓喜に震える。
だがここがゴールではない。スタート地点だ。
青年はある『探し物』を求めて、ここまで来たのだから。
「長旅で疲れたし、ひとまずは休憩とするか。」
だが焦って無理をしては元も子もない。
まずは体力の回復を図り、それから『探し物』の探索に当たるとしよう。
夢ノ宮市。情報によればこの都市は子供の夢を育み叶える場所とされているが、『大人』である自分の夢は叶えることが出来るのだろうか。
青年は首を横に振るった。大人は自分の手で夢を叶えてこそ大人だ。
全ては自分の手にかかっている。その思いを胸に青年は、夢ノ宮市へと足を踏み入れるのだった。
・・・
蛍が初めてキュアシャインとして戦い、ダークネスの行動隊長リリスを退けた日の夜。
蛍の家に招かれたチェリーは、彼女から傷の手当てをしてもらい、夕飯の支度に取りかかる蛍の姿を横で見ていた。
蛍の話によれば、両親が共働きで帰りが遅いため、彼女が毎日母親に代わり家事全般を担っているようだ。
それにしても手慣れている。
チェリー自身も料理に多少の心得はあるが、蛍のそれは見るからに熟練の域に達していた。
「今日のごはんはハンバーグにするんだ。」
「ハンバーグ?」
「んっとね、ひきにくを練ってつくるりょうりのことを、このせかいではハンバーグっていうの。」
「ふ~ん。」
しばらくして蛍はハンバーグとやらの調理を終え、野菜を添えたお皿に盛り始めた。
綺麗に形作られたハンバーグからは香ばしい肉の匂いが立ち込め、チェリーは思わず喉を鳴らす。
「ひとくち、たべてみる?」
すると蛍から試食を薦められた。
妖精は人間と違い、基本的に食事をとる必要はないが味覚はある。
感性も人とそう違わないため、人間と同じ感覚で食事を味わうことは可能だ。
「じゃあ、一口だけ。」
お言葉に甘えてハンバーグを一口だけ試食する。
「パクッ。」
次の瞬間、チェリーに衝撃が走る。
この世界は自分たちの世界よりも科学技術の発展が目覚ましい分、食料の品質、鮮度も遥かに優れている。
そもそも素材となる野菜や肉の味が天と地ほども違うのだが、差し引いても蛍の料理の腕は確かなものだったのだ。
「~っ!!!?」
そしてチェリーは余りの美味しさに自分でもこんな声出せるのか、とびっくりするくらいの金切り声をあげた。
その後両親が帰って来たので、チェリーは急いで蛍の寝室へと戻っていくのだった。