第26話・プロローグ
夏休みを迎えてから一週間が経とうとした日。
蛍は私室の鏡の前で、水着を手にニコニコと微笑んでいた。
雛子が自分に似合うと選んでくれたそれはとても可愛らしく、毎日こうして鏡の前立っては、この水着を着るその日のこと姿を想像していたものだ。
それだけでも十分に楽しかったのに、ついにその日が来た。
今日はみんなと一緒に、夢ノ宮市から少し離れた港町にある、海水浴場へと遊びに行く日だ。
それは蛍が憧れていた日常の1つが、夢が叶うことを意味している。
「ほたる、たのしそうだね。」
嬉しさで半ば舞い上がっていた蛍に、リリンは微笑む。
「うん!だって今日はみんなと海に行く日なんだよ!!」
夏休みは友達と一緒に、海に遊びに行って思い出を作る。
それがただでさえ嬉しさでいっぱいだった蛍のテンションを高め、水着を買ってからの一週間、ずっと落ち着かない様子を見せていたのだ。
「もう、はしゃぎ過ぎてみんなに心配かけたらダメだからね。」
「は~い。」
リリンと対照的に、チェリーは呆れた様子で蛍を注意する。
普段ならチェリーからのお叱りを受ければ意気消沈する蛍だったが、今日ばかりは嬉しさの方が勝っており、まるで気に留める様子を見せない。
それにチェリーだって一瞬、表情を綻ばせていたのだから、彼女も本心から呆れているわけではないのだろう。
一方でリリンは、蛍と同じく水着を手に持ちながらも、どこか困惑した様子を見せていた。
「本当にこんなものを着て外に出るの?」
普段着と比較すればそれこそ下着に近いであろう水着を着て外に出る、と言う感覚をリリンは不思議に思っているようだ。
「リリンちゃんは、海にいくのはじめてだっけ?」
「うん。まだ港町ってところの方には行ったことがないから。」
「そっか。」
リリンの答えに蛍は頷く。
一緒に暮らすようになってから1週間が経過するが、まだ夢ノ宮商店街とドリームプラザまでしか案内したことがなく、以前リリンから聞いた話によれば、彼女は行動隊長リリスとして活動していた時も、夢ノ宮商店街以外の場所に出向いたことがないとのことだ。
つまり今日は、彼女にとっても初めての海なのだ。
「わたしも、今日がはじめてだから、良くはわからないけど、みんなといっしょなら、きっと楽しいよ!」
それでもここまで胸を躍らせるのは、要を始めとした友達と一緒だから。
そして、リリンと一緒だから。
「・・・うん、たのしみだね。ほたる。」
そんな蛍と同じ思いを抱いたのか、リリンもまた、静かにそう微笑むのだった。