ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第25話・Bパート

 千歳はまず状況を整理するところから始めた。

 今この場には自分とリリンの2人だけだ。

 こちらに気を利かせてくれたみんなは、ドリームプラザの2階で買い物をしている最中である。

 そして自分は未だにリリンへの憎しみをくすぶらせているのだから、リリンの方から謝罪に来なければ金輪際縁を切るつもりでいた。

 幸いにも彼女はフェアリーキングダムに対しても思うところがあるようで、2人きりになった後、あちらから話しかけてくれた。

 問題はここからである。

 リリンの本質を知らない以上、彼女がどんな対応をしてくるかわからず、昨日の内に何パターンもの会話をシミュレートしてきた。

 リリンが素直にこれまでの行いを反省し謝罪してくるか、行動隊長らしく形式ばかりの謝罪文だけを口にしてくるか、無知ゆえにどうすれば良いかわからずに聞いてくるか。

 そして最悪のケースとして、罪はないと開き直ってくるか。

 考えられ得る様々なケースを想像し、それに対しての幾つもの答えをいくつも持ってきた・・・はずだったのだが・・・。

 

「・・・あっ、あれ?あれ?」

 

 リリンから飛んできた言葉は「あたしになにかしてほしいことはある?」だった。

 どの予想にも的中せず、そもそもなぜそんな言葉を口にしたのかまるでわからなかった千歳は、困惑の表情を浮かべたままリリンをずっと見ていた。

 否、余りにも想定外過ぎる状況を前にリリンを見たまま硬直してしまっただけである。

 そんな状況に陥っているものだから、リリンも困惑してあたふたし始める。

 

「ええと、やっぱりこうゆうときって、先にごめんなさいって言うべきだったの?」

 

 なぜそれを私に聞く?

 

 と、千歳は心に思ったツッコミを入れようと思ったが、未だに混乱で身体がフリーズしているせいか口1つ動かすことができなかった。

 

「ちっ、ちがうの!謝るつもりがなかったわけじゃないの!

 ただあたしのしてきたことって謝るだけじゃ許されないって思ったから!

 だから謝罪のことばじゃなくて行動でしめそうかとおもって!だからええとそのね!」

 

 先ほどの言葉を失言だと思ったのかリリンの方が勝手にパニックに陥ってしまった。

 やがて言いたいことも思いつかなくなったのか、ひたすら「あの」とか「ええと」とかを連呼し始めたリリンを見ている内に、千歳の方が逆に冷静さを取り戻していく。

 が、ショッピングモールで小さな女の子が言葉にならない言葉を連呼しているものだから、道行く人々からの注目度も半端ではなかった。

 このままでは色んな意味で迷惑をかけてしまう。

 はあっ、と1つため息を吐いた千歳は、リリンの目の前に立ち彼女の両肩に勢いよく手を置く。

 

「ひゃい!」

 

 驚いたリリンは素っ頓狂な声をあげるが、それを気にせず顔を近づけ

 

「落ち着きなさい。」

 

「・・・は・・・はい・・・。」

 

 呆れた声色と共に力づくでリリンを黙らせるのだった。

 

 

 

 

 威圧でリリンを無理やり黙らせた千歳は、近場にあったベンチに彼女を座らせる。

 とりあえず、このままではまともに会話すらできないだろうから、彼女を落ち着かせるために何か飲み物を買って来てあげよう。

 

「何か飲み物でも買ってくるから、そこで大人しくしてなさいよ。」

 

「はっ、はい・・・。」

 

 先ほどとは打って変わって大人しい様子で言うことを聞くリリンを一瞥し、千歳は自販機へと向かう。

 財布から小銭を取り出し自販機の前に立つが、ここで千歳はリリンの味の好みなんて一切知らなかったことに気が付く。

 

(しまった。先に聞いておけば良かったわ。)

 

 行動隊長の味の好みなんて考えたこともないし知りたくもないから当然のことだが、リリンを落ち着かせるために飲み物を買いに来たのに、万が一嫌いなものを買ってしまっては逆効果だ。

 最初に目に留まったのはコーラやサイダーと言った炭酸飲料だが、子どもの中には炭酸が嫌いだと言う子もいると、以前アップルから聞いたことがある。

 それなら落ち着かせるには甘いものが一番と思い、紙パックで販売されている果物ジュースに目を移すも、甘いものだって結局人の好き好きだ。

 幼い子どもでしかも女の子だからスイーツの類は好きだろう、と言うのはあくまでも先入観でしかない。

 ならばいっそ嫌がらせとちょっとした報復をと思い青汁でも買ってやろうかなんて一瞬思ったが、そんな大人げなさすぎることをしては自分が恥をかくだけだし、そもそもこんな所には来ていない。

 と、ここまで考えた千歳は、味の好みがわからずあれこれ考えるくらいなら無難なものを選べば良いと、ミネラルウォーターを選んでそれを購入した。

 

(これなら大丈夫よね。この国の水はとても美味しいし。)

 

 浄水技術に優れたこの国では、家庭の水道水さえそのまま飲料水として利用できる。

 蛇口を捻れば無料でいくらでも水が得られるこの国で、わざわざお金を使って購入するのは無駄では?と最初は思ったが、アップルと2人で興味本位で買ってみたところ、美味しさのあまり揃って絶句した記憶がある。

 ただの水と侮ることなかれ、口当たりや風味が良いこの国のミネラルウォーターはとても味わい深く、そして美味しいものだった。

 それからしばらくの間、アップルと2人で市販品のミネラルウォーターの飲み比べにハマってしたのは別の話である。

 特に今購入したものは、癖がなく飲みやすい軟水だ。

 これならリリンに買っても良いだろう、と思い自販機から取り出そうとした次の瞬間、千歳は我に返る

 

(私、何でこんなことしてるんだろ・・・?)

 

 なぜ憎き相手を落ち着かせるためにベンチに座らせた挙句、飲み物を買い与えに自販機まで来ているのだ?

 これではまるで迷子の面倒を見るのに奮闘しているようなものではないか。

 確かに要からは『リリンのことをよろしく』と言われはいるが

 断じて!

 このような意味で任されたわけではない。

 しかも相手の好みがわからないからと商品の吟味までした挙句、この国の水を褒め称えだしたものだから、当初の目的から大きく離れてしまったばかりか、もはや自分でも何を考えていたのかわからなくなってきた。

 そんな激しい自己嫌悪から千歳は自販機の前で屈んだ状態で再び硬直してしまったが、一先ずこのままだと邪魔になるだろうからと、いそいそとミネラルウォーターを取って自販機から離れるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ベンチに座りこんだリリンは、1人深々とため息を吐く。

 

(あたし・・・なにやってるんだろ・・・。)

 

 蛍たちが千歳と2人きりになれる状況を作ってくれたのは明らかだ。

 そしてこの場を借りてちゃんと彼女にこれまでの行いを謝罪するつもりだったのに、盛大に空振りしたばかりか、彼女に余計な気まで使わせてしまった。

 そもそも、謝罪の言葉だけで許されるものではないことと、謝罪しなくていいとは別の話に決まっている。

 言葉よりも先に行動ではなく、まず『ごめんなさい』と謝罪するところから始めなければならなかったのだ。

 こんな、少し考えれば当たり前のことにさえ頭が回らない情けなさでいっぱいだった。

 何のためにここに来るまでの間、頭を悩ませて謝罪の仕方を考えて来たのだろうか?

 

(こんなとき、『リリス』だったら・・・)

 

 自分の思慮の浅さに泣けてきたリリンは、つい後ろ向きな思考に引っ張られていく。

 行動隊長としてのリリスだったら、千歳を刺激しないように慎重に言葉を選びながら、体の良い定型文を組み合わせて当たり障りのない謝罪文を淡々と述べていただろう。

 

(ううん、それだけはぜったいにしちゃダメ・・・。)

 

 言葉なんて言ってしまえば文字の羅列。

 誰が何を口にしようと意味は同じで均一的だと、昔の自分なら思っただろう。

 だけど今はもう、あの時の心無い行動隊長ではない。

 今の自分は知っている。言葉には、人の心を、思いを乗せることができると。

 同じ言葉でも、人によって意味が変わってくることを。

 同じ人による同じ言葉でも、人の思いによって意味が変わってくることを。

 そんな根拠もない、非科学的で抽象的なものを、今は信じることができる。

 だから自分の心で、自分の思いで、自分の言葉を、ちゃんと千歳に伝えたい。

 何よりも、そうしなければ意味がないと思っている。

 だが・・・

 

(結局迷惑かけちゃったし・・・。)

 

 その結果がこの状況であるならばいっそ、定型文でも何でもいいから謝罪した方が良かったのでは?なんて考えさえも浮かんでしまう。

 それほどに意気消沈していたリリンの前に、やがてペットボトルの水を持った千歳が姿を見せた。

 

「はい、これ飲んで少し落ち着きなさい。」

 

「ありがと・・・。」

 

 少し遠慮がちな様子で千歳から水を貰ったリリンは、ペットボトルのキャップを開けて一つ口に含む。

 

「あれ?美味しい・・・。」

 

 口当たりはまろやかで、喉を通る感触は透明感のあるものだ。

 舌だけでなく、口いっぱいに広がる感覚が、味がないのに美味しい、と言う不思議な感想をリリンに抱かせた。

 

「・・・そう。」

 

 こちらの様子をどこか興味深そうに見る千歳からの視線に気づき、慌ててリリンはペットボトルから口を離す。

 今朝の件と言い、五感を得た嬉しさでつい自分の世界に浸ってしまった。

 今すべきことは、千歳にちゃんと謝罪すること。

 喜びを噛み締めるのはその後だ。

 

「あの・・・ちとせ。」

 

「なに?」

 

 声をかけるや否や、千歳は険しい表情でこちらを睨み付けていた。

 彼女の視線からは自分への怒りが、憎しみが感じられる。

 その視線にリリンは気圧されつい視線を反らそうとするも、今まで彼女に怒られて憎まれて当然のことをしてきた。

 だから彼女の視線から目を反らしてはいけない。それは自分の罪からも目を反らすことになるから。

 しっかりと受け止めなければならないと心に誓ったリリンは、震える拳を両手で握り、蛍から返してもらった勇気のおまじないをする。

 

「が・・・がんばれ、あたし・・・。」

 

 小声で自分を奮い立たせ、千歳の視線を正面から受け止める。

 そして・・・。

 

「ごっごめんなさい!

 あたし、あなたに・・・あなたの故郷にひどいことをして・・・。」

 

 微かな勇気を背に一歩踏み出し、ようやく千歳に謝罪する。

 

「ごめんなさい・・・か。どうしてそう思ったの?」

 

「え?」

 

 すると千歳の方から予期せぬ質問が飛んできた。

 てっきり許すか許さないかの2択の答えが返ってくると思っていただけに、謝罪の理由を聞かれるとは思わなかったリリンは一瞬、ポカンとしてしまう。

 

「だっ、だって、あたしは、あなたの故郷を闇に堕としたのよ?」

 

「あなたは行動隊長だった頃、自分の意思なんて持ってなかったんでしょ?」

 

「っ!?」

 

 千歳から思わぬ核心を突かれ、リリンは言葉を失う。

 

「あなたは司令官に命令されるがままに、私の故郷を闇に閉じこめた。

 あなたはその命令に、何の疑問も抱かなかったのでしょ?

 それなのになんであなたは今になって、その時のことを謝罪するの?」

 

 千歳の言葉の真意が分からず、リリンは困惑した様子で話を整理する。

 彼女の言葉はともすれば、自分の意思で行ったことじゃないから気にしなくともよい、と取ることもできるが、それだけは絶対に違うと確信する。

 そんな思いを抱いている人が、あそこまで憎しみの籠った瞳を向けられるとは思えない。

 彼女は間違いなく、自分のことを恨んでいる。

 恨んでいて尚、このような問いかけしてくるのだ。

 その言葉に隠された真意を探るべく、リリンは思考をフルに働かせる。

 そして千歳が、行動隊長の性質を見抜いていたことを思い出す。

 元々行動隊長に心がない。

 行動隊長の言葉は全て、人を演じるためだけに紡がれる心無いものばかりだ。

 

(もしかして・・・あたしを試しているの?)

 

 自分の言葉が行動隊長としての言葉なのか、それともリリンとしての言葉なのかを・・・。

 それならば、こちらのすることは変わらない。

 

「あっ、あたしは・・・。」

 

 自分の想いを包み隠さずぶつけるだけだ。

 

「あなたの故郷の人々を傷つけて・・・。」

 

 違う。こんな言葉じゃない。

 リリンは慌てて口を閉じ、今一度自分の心と向き合う。

 どうして千歳の故郷を闇に堕としたことを悔やんでいるのか?

 どうして千歳に罪悪感を抱いているのか?

 その想いを抱いたきっかけは何か?

 昨日の出来事まで思考を遡ったリリンは、あの暗闇の世界の中で感じたことを思い出す。

 

「・・・あのとき、あたし、絶望の闇に閉じこめられて、そのとき初めて知ったの。

 絶望の闇は、こんなにも暗くて怖いところだったんだなって・・・。

 とても、とても怖かった。

 何も見えなくて、何も聞こえなくて、でも自分の心の声だけがどんどん聞こえてきて・・・。」

 

 あの時のことを思いだし、リリンは震える身体を抑える。

 幾度となく泣いて、叫んで、身体を裂こうとして、その全てが無為となって闇へと消えていく。

 ただ心が壊れていくのを待ち続けなければならなかったあの世界の恐ろしさを、身を以って初めて知った時、ようやく思い知ったのだ。

 自分は今まで蛍を始めとした、大勢の人々にこんな恐ろしい世界を与えていたのだと。

 

「それでね・・・わかったの。

 あたしがしてきたことって、こんなにひどいことだったんだって・・・。

 だからあたしは、あなたに謝りたい。

 あなたに、あなたの故郷にひどいことをして、ごめんなさい。

 それから、謝るだけじゃ許してもらえることじゃないって、わかるから。

 だから、あたしにできることならなんだってする。

 だから・・・。」

 

 あたしのことを許してほしい。

 最期にそう言いかけたリリンは、慌てて声を抑える。

 許すかどうかを決めるのは千歳自身だ。

 もしも許してもらえなかったら、その時は仕方がない。

 だけど自業自得だと分かっていても、千歳から嫌われるのが怖かった。

 ちぐはぐながらも伝えたいことを言葉にして伝えたリリンは、そのまま口を閉じて俯く。

 そして千歳からの返事を待ち続ける。

 しばらくの沈黙の後、千歳がようやく重い口を開いた。

 

「じゃあ、今すぐ蛍の前から消えなさいって言ったら?」

 

「え・・・。」

 

 千歳からの言葉に、リリンは言葉を失うのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 千歳はまだリリンと言う少女を知らない。

 だからリリンがどうして謝るのか、その真意を知りたかった。

 今のところ、彼女の言葉からは嘘は見られない。

 行動隊長であれば平気で嘘をつけるだろうが、流石にこの期に及んで彼女に心がないだなんて疑うつもりはない。

 だから、彼女の言葉が全て本心だと信じることができる。

 だけどまだ許すわけにはいかない。

 あと1つだけ、確かめなければならないことがあるから。

 

「償いのためなら何だってするのよね?

 だったら今すぐ蛍の前から消えてって言ったら?」

 

「・・・っ。」

 

 今にも泣きそうな目で、唇を強く噛みながらリリンは身体を震わせている。

 その姿を見て心が痛むが、ここで妥協するわけにはいかない。

 確かめたいのだ。彼女の言葉が口先だけじゃないことを。

 どんな覚悟でその言葉を口にしたのかを。

 

「・・・イヤ・・・イヤだ。」

 

 やがて彼女は静かにそう口を開いた。

 自分にできることなら何でもすると言っておきながら、口にしたのは明確な否定の言葉。

 千歳は険しい表情を浮かべ、リリンを責めるように睨み付ける。

 

「あなたに選択権があると思ってるの?」

 

「おもってないよ!でもそれだけは絶対にヤダ!!」

 

 目に涙を浮かべながら、リリンはとうとう叫び返した。

 道行く人々が何事かと振り返るが、今は周りの反応を気にしている場合ではない。

 千歳は気にせず彼女に詰め寄る。

 

「償いはするって言っておきながら、自分にとって嫌なことなら引き受けない。

 結局、あなたの言うヒドイことって、その程度のものでしかないってこと?」

 

「っ・・・。」

 

 自分が今、どれだけ残酷な言葉を言っているかは理解している。

 リリンのことをどれだけ傷つけているのかも理解している。

 堪えきれずに涙を流しながら、頭を抱える彼女を見下ろす。

 こんな質問、したくはなかったと、心の奥がチクりと痛む。

 それでも、千歳は言葉を止めなかった。

 こうでもしなければ、心を自覚して間もない彼女の本心を引き出すことが出来ないと思ったから。

 

「ごめんなさい・・・でも・・・イヤなの・・・。

 ほたるとはなれたくない・・・。あたしは、ほたるとずっと一緒にいたい・・・。

 それ以外のことなら、どんな償いでもするから。

 ダークネスとだって戦う。この世界の人たちを守るから・・・。

 だから・・・おねがい・・・。」

 

 それ以降、リリンは口を閉じてしまった。

 何だってする、と言いながら蛍とは離れたくないと言う。

 彼女の言葉はちぐはぐで、思い当たった言葉を順に口にしているだけだ。

 それなのに・・・。

 

(・・・はあ、不器用な子。)

 

 心の中でため息を吐きながら、千歳はそのちぐはぐな言葉をどこか好ましく思った。

 ダークネスを離脱しても、行動隊長であった頃の記憶は残っているはずだ。

 かつて蛍の心に付け入り、言葉巧みに騙して手玉に取っていたように、口八丁で形式的な謝罪文を口にすることだってできたはずだ。

 それなのに、彼女はそうはしなかった。

 必死に自分の気持ちと向き合い、慣れない言葉を使って彼女自身の想いを言葉にしようとした。

 これがかつての行動隊長リリスの姿であったかと思えば滑稽だが、不器用ながらも自分の心を言葉にしようと努力する彼女の姿を見ている内に、千歳の心に焼き付いていた憎しみが、少しずつ流されていったのだ。

 

「・・・どうして?」

 

 だから最後に千歳は、リリンがなぜそこまで蛍と一緒にいたいのかを知りたかった。

 

「だってあたし・・・ほたるといっしょにいていいって・・・言われたから・・・。」

 

「え?」

 

 誰に?と問いかける前に、リリンが言葉を続ける。

 

「ほたるのおかーさんが・・・あたしは・・・幸せになっていいって、言ってくれたの・・・。

 だからあたし・・・幸せになるために、償いたかった。

 あなたにちゃんと謝らなければ、幸せになっちゃいけないって思ったから・・・。

 あたし・・・幸せになりたい・・・だから・・・ほたると一緒に・・・いたい・・・。」

 

 その言葉を聞いて、千歳はリリンの思いを理解する。

 幸せになってよいと言われて、蛍と一緒にいることを受け入れて、それでも自分への罪悪感がその幸せを受け入れてはいけないと、拒絶していたのだろう。

 

「はあ~・・・。」

 

 今度は心中ではなく、直接大きなため息を吐く。

 

「あなた、私の目の前でよくそんなことが言えたわね?」

 

「えっ・・・?あっ・・・。」

 

 指摘されて、初めてリリンは自身の失言に思い当たる。

 そこに気付けただけまだマシなものの、幸せになりたいから蛍と一緒にいたいと、その幸せを噛みしめるために心に残ったしこりを取り払いたいから謝罪に来ましたと、誰がそこまで喋れと言った。

 確かに問いかけたのはこちらだが、例え心の中で思ったとしても口にしてはいけないものがあるだろう。

 

(本当に、不器用な子・・・。)

 

 思えばリリスも、蛍へ憎しみを募らせてからは1人好き勝手に暴れまわっていたから、元々感情の抑制が効きにくい子なのだろう。

 人の世の中、正直者が必ずしも正義と言うわけではない。

 思ったことを何でもかんでも口にしてしまうのは、流石に利点を通り越して欠点である。

 

「いい?世の中にはね、例え心の中では思ったことでも、言わなくていいことがあるの。

 それを知らないってことは、あなたには人を思いやる気持ちがないって言ってるようなものよ。」

 

「・・・ごめんなさい。」

 

 すっかり黙り込んでしまったリリンへ、千歳は軽く説教をする。

 

「あなたには、まだまだ知らないことが沢山あるみたいね。

 そんなことじゃとてもじゃないけど、この先この世界でちゃんと生活できるかわかったものじゃないわ。」

 

「・・・。」

 

 そしてわざとらしく咳ばらいをしてから、彼女の方へ向き直る。

 

「だから、あなたが知らないこと、知らなきゃいけないこと。私も一緒に教えてあげるわ。」

 

「え・・・?」

 

 よっぽど予想外だったのか、リリンは目を丸くしてこちらを見る。

 

「今のままじゃ、いつ余計なことをするかわからないし、危なっかしくて見てられないもの。

 私たちと一緒にいる以上、一緒にいても恥ずかしくないような振る舞いを身に着けてもらわなきゃ困るのよ。」

 

 素直じゃない言葉だと自分でも思う。

 これが蛍たち相手だったらそのままの思いを伝えていただろうけど、リリンが相手はまだ素直になりたくはないようだ。

 

「ちとせ・・・ありがとう!」

 

 それでも、ちゃんと言葉の意味は伝わっていたようだ。

 リリンは闇の牢獄を知ったことで、己の罪の重さを知った。

 そのための償いに、ダークネスと戦うことを決意した。

 そして、その先にある幸せを求めて、蛍と一緒にいる道を選んだ。

 多くの人を不幸にしておきながら何と勝手なことを、と思いもしたが、リリンだって心を知って初めて幸せの尊さに気が付いたはずだ。

 それならば、彼女が罪を自覚し償いのために力を尽くすのであれば、彼女が抱いた幸せと言う気持ちを大切にして欲しい。

 彼女自身のため。そして・・・

 

「勘違いしないでよね。あなたのためじゃない。蛍のためよ。」

 

 蛍の幸せのために。

 

「それでも、ありがとう!」

 

 その言葉にリリンは嬉しそうな笑顔を返した。

 彼女にとって、蛍の幸せは彼女自身の幸せと同義だ。

 だから蛍の幸せを守ることは、彼女の幸せを守ることにもなる。

 

(やれやれ、守るべきお姫様(プリンセス)が、また1人増えたわね。)

 

 だけど、それもいいかもしれない。

 不器用ながらも己の罪を向き合い、懸命に生きようとするリリンのことを、千歳はこの時応援したくなったのだから。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 

 2階のお店を適当に見て回り、雑貨諸々を見つけては買っていた蛍たちは、しばらくして1階に戻り、リリンたちを探し始めた。

 リリンはちゃんと謝ることができたのだろうか?

 千歳と仲直りできたのだろうか?

 そんな不安が心に引っかかる一方で、なぜか蛍には上手く行くと言う確信があった。

 リリンは心から千歳に謝罪したいと思っていたし、千歳はそんな子の気持ちを絶対に無下にはしないから。

 

「ちとせちゃん、リリンちゃん。」

 

「あっ、ほたる。みんな。」

 

 やがて2人の姿を見つけたので声をかけてみると、リリンが今朝以来の笑顔でこちらに手を振ってきた。

 千歳の表情もどこか晴れやかだった。

 それを見た蛍たちは全てが上手くいったことを確信し、互いに顔を見合わせて微笑みながら2人の元まで向かう。

 

「リリンちゃん、ちとせちゃんと仲直りできたみたいだね。」

 

「うん!」

 

 リリンは満面の笑みで答える。

 

「千歳、答えは出たみたいやね。」

 

「ええ、今まで心配かけてごめんなさい。」

 

 千歳の方も、憑き物が取れたような様子だった。

 2人とも、それぞれの因縁に1つの決着をつけることができたようだ。

 リリンも千歳も、蛍にとっては大切な人だ。

 そんな人同士が憎み合い、いがみ合うことが無くなったことを、蛍は心から喜ぶ。

 

「みんな、こんなところにいたのね。」

 

「え・・・?リン子!?」

 

 すると、この場に思わぬ人物が姿を見せた。

 リン子の姿を見るや千歳は目を丸くし、要たちも驚いた様子を見せる。

 それもそうだろう。大人は子どもと違って夏休みがなく、蛍の両親も絶賛今仕事中である。

 そんなリン子がここにいると言うことは、彼女は休みを取ったのだろうか?と思ったが、それなら最初からついてきているだろうし何よりも千歳がこんなに驚くはずがない。

 

「どうしてここに?」

 

「ここ、うちの職場からそこそこ近いのよ。

 だから少し早めにお昼休み頂いて、様子を見に来たの。」

 

 リン子の言葉を聞いてふと時計を見てみると、時刻は正午を過ぎていた。

 

「ふふ、その様子だとちゃんと仲直りできたみたいね。良かったわ。」

 

 そう言いながらリン子は千歳とリリンを見比べて微笑む。

 

「もう、心配性なんだから。」

 

 そんなリン子に、千歳はどこかバツの悪そうな様子で口を尖らせた。

 

「ふふ、ところでみんな、お昼はもう食べた?」

 

「え?いや、まだやけど。」

 

 既に正午も過ぎていることだし、昼食にはちょうど良い時間帯である。

 

「それなら、これからみんなで・・・。」

 

 そう、リン子が言いかけたその時。

 

「っ!闇の波動よ!」

 

 リン子が絶望の闇を感じ取り、声を上げた次の瞬間、辺り一帯の人が消え、色が奪われていった。

 リン子たち妖精は慌てて元の姿に戻り、それぞれのパートナーの後ろに隠れる。

 

「ダークネス!」

 

「あっ、ちょっとリリンちゃん!」

 

 するとリリンが突然外へ向かって走り出して行った。

 恐らくダークネスの気配を感じたのだろうが、どこか鬼気迫る様子だった。

 蛍は不安に駆られながらも、みんなと共にモールの外へと出る。

 

「ここにいたか。ホープライトプリキュア。」

 

 リリンを追って着いた場所には、サブナックとダンタリアの姿があった。

 

「サブナック、ダンタリア。」

 

「リリス・・・。」

 

 サブナックが、どこか複雑な表情でリリンを見据える。

 

「まさか、本当にかつての敵さえ受け入れてしまうとはね。

 つくづく甘い連中だ。」

 

 一方でダンタリアは、吐き捨てるようなセリフとともにこちらを睨み付けて来た。

 

「あんたらが2人揃ってお出ましとは、珍しいやない。」

 

「それだけこちらも追い込まれていると言うことだ。

 やるぞ、ダンタリア。」

 

「ああ。

 ダークネスが行動隊長、ダンタリアの名に置いて命ずる。

 ソルダークよ、世界に闇を撒き散らせ。」

 

 既に絶望の闇の回収を終えていたのか、ダンタリアは即座にソルダークを生成する。

 

「ガアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 そしてソルダークが雄叫びと共に誕生するが、続いてサブナックが1枚の黒いカードをかざし出した。

 

「まさか!?」

 

 リリンが驚いた様子を見せ、要たちも表情を引き締める。

 蛍にもあのカードには身に覚えがあった。

 確かダークシャインが消滅した時に残されたカードだったはず。

 だがそのカードが何なのかもわからないまま、事態は進んでいく

 

「暗き闇よ。深淵に囚われし絶望の化身に、光を喰い尽くす力を与えよ!

 ダークネスが行動隊長、サブナックの名の下に、その姿を顕現せよ!ネオ・ソルダーク!」

 

 新たに聞く呪文と共に、サブナックはかざしたカードをソルダークへと投げつけた。

 次の瞬間、カードはソルダークの体内に吸い込まれると同時に、ソルダークの身体が膨張する。

 

「なっ、何?」

 

 驚いて慌てふためく蛍を、リリンが支えるように手に取る。

 だがソルダークの変化は止まらない。

 膨張した体はやがて弾け飛び、内側から新たな姿の怪物が姿を現した。

 ビルをも超える巨体の背には、その身を包まんとするほどの巨大な翼が生え、両手足は肉食竜を思わせる鋭利な爪が現れる。

 尻尾が生え、地面を打つと同時に地響きを引き起こす。

 頭部も変形し、鼻から口までが犬のように尖り、鋭い牙を見せるが、その形状はこの世のどの生物にも該当しないものだ。

 怪獣映画に出てくるようなフォルムに巨大な翼。

 その姿は、ファンタジーに登場する『ドラゴン』のように見えた。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 ドラゴンへと姿を変えたソルダークの進化態、ネオ・ソルダークは雄叫びを上げる。

 これまでのような甲高い声ではなく、獣の咆哮のようだ。

 

「ソルダークが、進化した・・・?」

 

 目の前で起きた出来事を理解しながらも、千歳は唖然とした様子を見せていた。

 要も雛子も、そして蛍も、ドラゴンへと進化したソルダークを前に目を離すことができなかった。

 

「ディスペアー・カードはもともとこのために作られたものよ。

 ソルダークを超えた兵士、ネオ・ソルダークを生み出すために。」

 

 唯一内情を知っていたリリンだけが、落ち着いた様子で目の前の出来事を説明する。

 

「ネオ・ソルダーク・・・。」

 

「でも、あたしたちは負けられない。ほたる、いくよ!」

 

「え?うっうん!」

 

 未だに動揺は隠せないが、このまま惚けていても意味はない。

 リリンに言われるがままに蛍はシャインパクトを召喚してリリンのものと交換する。

 

「「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!!」」

 

 蛍とリリンは1つの光に包み込まれ、新たな姿へと変身する。

 

「よし、ウチらも!」

 

 蛍とリリンに続き、要たちもパクトを手に取る。

 

「「「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!!」」」

 

「「伝説を超えた、2つの光!!」」

 

「キュアシャイン・サハクィエル!」

 

「キュアシャイン・レリエル!」

 

「世界を駆ける、蒼き雷光!キュアスパーク!」

 

「世界を包む、水晶の輝き!キュアプリズム!」

 

「世界に轟く、真紅の煌めき!キュアブレイズ!」

 

 それぞれがプリキュアへと変身し、ネオ・ソルダークと対峙する。

 

「アップルさん、安全な場所まで下がってて!」

 

「わかったわ。」

 

 雛子はアップルたち妖精に下がるように呼びかけながら、彼女たちを守るように正面に立つ。

 

「ガアアアアアアアアアア!!!」

 

 ネオ・ソルダークが怪獣映画さながらの咆哮をあげるが、要は怯まずに拳を構える。

 

「ディスペアー・カードで強化されたソルダークか。

 なんか嫌な予感しかしないけど。」

 

「ひとまず、小手調べと行きましょうか。」

 

 要と千歳がそれぞれ構えた手に雷と炎を纏い、ネオ・ソルダークに狙いを定めた。

 彼女たちの言葉から察するに、ネオ・ソルダークが何らかの力を持っているのを予感しているようだ。

 

「「はあっ!」」

 

 要と千歳が、ネオ・ソルダークに目掛けて雷と炎を放つ。

 だが次の瞬間、ネオ・ソルダークに触れた雷と炎は砕け散るように消滅した。

 

「やっぱり、攻撃が効いてないわ。」

 

 やっぱり、と言うからには雛子にもこの状況が想定できたのだろう。

 さほど驚いた様子を見せずに現状を分析する。

 

「予想通りとは言え、キツイな。

 ウチらの攻撃じゃやつには届かない。」

 

「ええ、それでも・・・。」

 

 苦々しい表情を浮かべながら、要と千歳はネオ・ソルダークを相手に闘志を燃やしている。

 だが蛍もまた、今の状況を見て不安に陥っていた。

 攻撃が通じない敵なんて初めての経験だ。

 もしも自分の力も通らなければ・・・。

 

「あたしが、やるしかない。」

 

「え?」

 

 だがここで要と千歳よりも一歩前に出たリリンが、一言そう言った後にネオ・ソルダークへと飛び掛かっていった。

 

「はあ!!」

 

「ちょっと!リリンちゃん!!」

 

 蛍も慌ててリリンの後を追い、そのままネオ・ソルダークに戦いを挑むことになるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 サブナックとダンタリアは、宙に浮遊したまま戦いを見ている。

 まずはネオ・ソルダークの力がどれほどのものかを確かめるのが先だ。

 手始めにキュアスパークとキュアブレイズの攻撃を無力化したところから、ダークシャインと同じ特性を秘めているようだが、問題はこれからだ。

 覚醒した2人のキュアシャイン。

 蛍とリリンを相手にどれだけ戦うことができるか。

 

「ほたる!やるよ!」

 

「わっ、わかった!」

 

 リリンに促されるままに、2人は全身に希望の光を纏う。

 

「「はああっ!!」」

 

 そして纏った光を一気に開放し、ネオ・ソルダークへとぶつけた。

 次の瞬間、ネオ・ソルダークはよろめき、全身に纏っていた黒い瘴気が吹き飛ばされていった。

 

「よし、このまま!」

 

「まって!リリンちゃん!」

 

 そのままリリンはネオ・ソルダークへと突撃し、その巨体をよろめかせる。

 ネオ・ソルダークは鋭い爪をリリンに向けて振りかざすが、蛍がその手のひらを受け止めた。

 続いてリリンが左肩の翼を振るい、ネオ・ソルダークの頭部へと叩き付ける。

 だが次の瞬間、ネオ・ソルダークは大きく口を開き、そこから闇の破壊光線を放った。

 

「リリンちゃん!」

 

 今度は蛍に促され、2人は片翼の翼を羽ばたかせて飛翔し、光線を回避する。

 この様子だと、2人のキュアシャインに一方的に負かされる心配はなさそうだ。

 曲がりにもアモンがプリキュアを倒すための切り札として造りだしただけのことはある、と言うことか。

 だが・・・

 

「ネオ・ソルダーク、所詮こんなものか。」

 

「どうやら、そのようだね。」

 

 サブナックとダンタリアが抱いた率直な感想は『この程度の力か』と言う落胆だった。

 確かに旧来のプリキュア相手ならば切り札と言えるだけの脅威となっていただろうが、あの程度の力ではラスト・レクイエムはおろかダークシャインにすら及ばないだろう。

 結局、そこいらのソルダークにダークシャインの力の欠片を与えた程度でしかないのだ。

 あれでは、ダークシャインの力を反転させた2人のキュアシャインにも敵うはずもない。

 

「仕方があるまい。俺たちも出るぞ。」

 

 だがネオ・ソルダークの誕生は、思わぬ副産物を与えてくれた。

 

「そうだね。これだけの闇があれば、僕たちも存分に戦えそうだ。」

 

 欠片とはいえ、その元となる力はかつて世界中を飲みこんだダークシャインの力だ。

 この辺り一帯の絶望の闇は、ソルダークの時とは比でないほどに高められている。

 この空間ならば、闇の世界にいるときと遜色のない力を発揮できるだろう。

 サブナックは蛍に向かって跳躍し、その拳を叩きつけた。

 

「きゃあっ!」

 

 蛍は寸でのところで両手でガードするが、サブナックはもう片手で追撃をかける。

 だが次の瞬間、蛍は右肩の翼を羽ばたかせ、風を巻き起こしてサブナックを追い払った。

 

「・・・ん?」

 

 今の攻防の中でサブナックは僅かに違和感を覚える。

 蛍と言う少女は潜在する力の総量こそ凄まじいものはあったが、戦い方は素人同然だった。

 単純な戦闘センスと能力の扱い方だけならば、キュアスパークやキュアブレイズの方が遥かに優れている。

 勢いに任せた体当たりくらいしか能のなかった相手が、あの一瞬で片翼を羽ばたかせて攻撃を妨害する、なんて動きができるだろうか?

 そもそも翼とは本来人間にはない器官だ。

 大方、希望の光で作られた飾りものだろうが、それでも咄嗟の反応で動かせるとは考えにくい。

 

「たあっ!」

 

 こちらへ向かってくる蛍の拳を、サブナックはガントレットで受け止める。

 以前は一撃で粉々に砕かれたが、今回はひび割れる程度で済んだようだ。

 何度も受け止めることはできないだろうが、この一撃を止めただけでも十分。

 サブナックは再び拳を振り上げ、蛍目掛けて振り降ろした。

 だが蛍は身体を旋回させ、拳を回避する動きのまま、こちらに回し蹴りを叩きこんできた。

 

「なにっ?」

 

 蹴りを受けたサブナックは衝撃のまま後退する。

 やはり妙だ。

 やつの動きが突然、歴戦の戦士と言うべき動きに変わっている。

 だが考えるよりも先に、ダンタリアと交戦しているリリンがこちらの目の前を横切った。

 

「ダンタリア、苦戦しているようだな。」

 

「お互い様だろ。

 肉弾戦でキュアシャインに圧されるなんて、君らしくもない。」

 

 憎まれ口を叩きあいながらも、サブナックとダンタリアは2人のキュアシャインを見定める。

 2人の力は想像以上のものだ。

 だが同時に、付け入る隙がいくらでもあることがわかった。

 動きだけはまともになったとはいえ、戦いの素人に変わりはない蛍。

 心を得たばかりに、感情的になりやすくなっているリリン。

 2人には今、目の前の敵である自分たちしか見えていない。

 

「いくぞ。」

 

 サブナックの呼びかけと共に、2人は蛍とリリンに戦いを挑む。

 技は劣らずとも、力はあちらの方が上だ。少しずつではあるが劣勢に追い込まれていく。

 だが・・・

 

「ネオ・ソルダーク!!」

 

 蛍とリリンの視線がこちらに釘付けになった瞬間、サブナックはネオ・ソルダークに呼びかけた。

 次の瞬間、後方からネオ・ソルダークが闇の光線を解き放った。

 

「あっ・・・。」

 

「しまった!」

 

 すっかり気を取られていた2人は、迫りくる光線を回避することができなかった。

 だが・・・。

 

「よっと!」

 

「はあっ!」

 

 蛍とリリン、サブナックとダンタリアの間を、雷と炎が横切るのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 突然目の前を過った炎に抱かれながら、リリンは寸でのところで光線を回避する。

 地上に降り立つと、隣にはキュアブレイズが、千歳が立っていた。

 時を同じくして、蛍と助けた蒼い雷、キュアスパークこと要も、蛍と一緒に地上に降り立つ。

 光線が直撃する瞬間、自分たちは要と千歳に助けられたのだ。

 

「全く、力だけ強くなっても、危なっかしいところは何も変わっとらん。」

 

「かなめちゃん・・・。」

 

「この分だと、まだまだ私たちの助けが必要みたいね。」

 

「ちとせちゃん・・・。」

 

 どこか呆れたような、でも安堵したような様子で要と千歳はこちらを見る。

 するとサブナックが拳を振りかざし、ダンタリアが闇の球体を撃って攻撃してきた。

 だが2人の攻撃を、水晶の盾が阻む。

 

「私から言わせればみんな同じよ。

 誰もかれも突っ走ってばっかり。」

 

「ひなこちゃん。」

 

 自分たちの一歩後ろから、雛子が不敵な笑みを浮かべて盾を展開していた。

 

「いいわよ!思う存分突っ走っちゃいなさい!

 み~んなまとめて、私が守ってあげるわ!!」

 

 雛子の言葉を受けて、蛍は嬉しそうに微笑む。

 そんな蛍を見ながら、リリンは全員を一瞥すると、みんなこちらに微笑みかけてくれた。

 その笑みには、1人で戦わなくてもいいと、言われているようだった。

 リリンは、贖罪の念から1人でも戦わなければならないと焦ったことを反省する。

 自分が1人で先行しては、みんなにも迷惑をかけてしまう。

 ダークネスを確実に倒し、この世界の侵略を阻止するためにも、みんなと一緒に戦うことを覚えていこう。

 

「よし!リリンちゃん!みんな!

 ひさしぶりに、あれ、言ってみよう!」

 

 すると蛍が、珍しく力強くそう宣言した。

 彼女の言う、あれ、の意味はみんなはわかっているようで、嬉しそうに頷きあう。

 そしてリリンにも、蛍の言葉の意味することがわかった。

 

「5つのひかりが、でんせつをつくる!」

 

 蛍の言葉に続いて、リリンはみんなと声を合わせる。

 

「「「「「ホープライト!!!!!プリキュア!!!!!」」」」」

 

 敵であった頃は、この名乗りに何の意味があるのかわからず考えたこともなかったが、5人同時に名乗りをあげることに加わったリリンは、改めてみんなの仲間になれたことを実感する。

 伝説を紡ぐ4人の戦士から、伝説を創る5人の戦士へ。

 その輪に加わることができたことを、リリンは心から喜んだ。

 

「ネオ・ソルダーク!!」

 

 サブナックの呼びかけと共に、ネオ・ソルダークが雄叫びを上げながら、巨大な翼を羽ばたかせて空を飛び、こちらに迫る。

 

「みんな、いくよ!」

 

「「「レッツ!」」」

 

「「Go!」」

 

「「「「「プリキュア!!!!!」」」」」

 

 蛍たちも向かい打つべく、掛け声と共に散開する。

 蛍とリリンは互いの手を繋ぎ、片翼を羽ばたかせて飛翔し、ネオ・ソルダークを迎え撃つ。

 その最中、サブナックとダンタリアがこちらに向かってくるが、要と千歳が行く手を阻む。

 そしてネオ・ソルダークがこちらにめがけて光線を放つが、雛子が盾を展開してその光線を遮った。

 光線を受けた雛子の盾は砕け散ってしまうがその爆風が目くらましとなり、動きを見失ったネオ・ソルダークに向かって、蛍とリリンは一気に距離を詰める。

 そしてその巨体を蹴り上げ、上空へと浮かせる。

 

「「ひかりよ、あつまれ!!シャインロッド!!」」

 

 そして2人同時にシャインロッドを構え、空へと掲げる。

 

「プリキュア!スカイライト・エクスプロージョン!」

 

「プリキュア!ナイトライト・エクスプロージョン!」

 

 上空へと蹴り上げたネオ・ソルダークに目掛けて浄化技を叩きこむ。

 

「「ソード!!」」

 

 そして放った光線をそのまま剣の形に圧縮させ、ビルをも超える大きさを誇る巨大な光の剣を生成した。

 蛍とリリンは剣へと形を変えた浄化技を振りかざし、ネオ・ソルダーク目掛けて振り降ろし、地上へと叩き付ける。

 

「ガアアアアアアアアッ!!!」

 

 身体をよろめかせながらも、ネオ・ソルダークは立ち上がり、こちらに向かって羽ばたきながら両手の爪で引っ掻くように手を振るった。

 だが次の瞬間、行動隊長たちと交戦していた要と千歳がこちらへと振り向き、ネオ・ソルダークに向かって高速に突撃する。

 

「させるか!!」

 

 サブナックとダンタリアも振り向き2人を止めようとするが、雛子がバリアを展開して2人を閉じ込める。

 

「プリキュア!スパークリング・ブラスター!」

 

「プリキュア!ブレイズフレアー・コンチェルト!」

 

 ネオ・ソルダークの両手を目掛けて、要と千歳が浄化技で突撃を仕掛ける。

 流石に浄化技ほどの威力となれば相殺しきれず、ネオ・ソルダークの両手の爪が粉々に砕け散った。

 やがてサブナックがバリアを砕いたが、その隙を突いて蛍とリリンは光弾を放つ。

 放たれた光弾はサブナックとダンタリアを牽制し、その隙に要と千歳が再び2人と交戦に入る。

 そして入れ替わるように雛子が、ネオ・ソルダークに向けてプリズムフルートを構えた。

 

「プリキュア!プリズミック・リフレクション!」

 

 巨大な水晶がネオ・ソルダークを包み込み、閉じ込める。

 雛子の浄化技だけあって通常の盾よりも硬いのか、ネオ・ソルダークがどれだけ水晶の外壁に身体をぶつけてもヒビ1つ入る様子はなかった。

 

「今よ!2人とも!」

 

「「うん!」」

 

 雛子が作ってくれたチャンスをものにすべく、2人は空へと飛びネオ・ソルダークの頭上を取る。

 

「「光よ、集まれ!シャインロッド・エクステンション!」」

 

 2人のロッドを交差させ、1つの武器へと融合させる。

 そしてロッドの先端から光が放たれ、ネオ・ソルダークを囲い込む陣を生み出す。

 

「せいなる光よ。」

 

「闇夜を照らし」

 

「「暗き想いを光に導け!」」

 

「「プリキュア!!ホーリーナイト・サンクチュアリ!!」」

 

 頭上から巨大な光線を放ち、水晶ごとネオ・ソルダークを浄化する。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 獣の断末魔と共に、ネオ・ソルダークは消滅し、残ったディスペアー・カードはまるで意思があるかのようにサブナックの元まで舞い戻っていった。

 

「まあ、今回はこんなものか。」

 

「次はこうはいかないよ。プリキュア。」

 

 ネオ・ソルダークの消滅を確認したサブナックとダンタリアは、闇へと姿を消すのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 戦いが終わり、ドリームプラザへと戻ったリリンは、改めて妖精たちに深々と頭を下げる。

 

「サクラ、ベル、レミン、リン子。

 あなたたちの故郷を一度闇に堕としてしまったことを、この場で改めて謝罪させて。

 ごめんなさい。

 あたし、もう二度と、ダークネスには戻らないから。

 そして、二度とあなたたちの故郷のような惨劇を起こさないためにも、あたしはダークネスと戦う。

 あなたたちと、いっしょに・・・。」

 

 千歳に謝った時の慌て具合はどこへやら、自分でも驚くくらい落ち着いた様子で謝罪することができた。

 こちらの謝罪を聞いた妖精たちは、全員微笑み返してくれた。

 

「こちらこそ、これからよろしくね。リリン。

 あなたもキュアシャインってことは、あなたも私のパートナーに当たるもの。」

 

「サクラ。」

 

「君の誠意はちゃんと届いた。俺は、君のその覚悟を信じるよ。」

 

「ベル。」

 

「レミンは元々細かいことは気にしないからいいよそんなこと~。

 それよりも、これから一緒に美味しいもの沢山食べてみようね~。」

 

「レミン・・・うん!」

 

「あなたも、沢山辛いことがあったと思うの。

 だから、何でもかんでも背負い込まなくていいのよ。

 あなたにはこんなにたくさんの、友達がいるのだから。」

 

「リン子・・・ありがとう。」

 

 妖精たちの言葉を受けて、リリンは涙目になりながらも喜ぶ。

 涙は嬉しい時にも出ると、陽子は教えてくれたが本当にその通りだった。

 今、リリンはとても嬉しかった。

 みんなにちゃんと謝れたこと。

 みんなから許してもらえたこと。

 そしてみんなと一緒にいられることの嬉しさが、リリンの胸の中を満たしていく。

 勿論、許してもらえたからと言って、これで終わったわけではない。

 ベルの言う通り、ここから覚悟を見せるところだ。

 ダークネスと戦う。そして、この世界を守る。

 もう二度と、ダークネスが起こした悲劇を繰り返さないためにも・・・。

 それでも・・・。

 

「よし!全部ま~るく収まったところで、腹も減ったし何か食べにいこ?」

 

「レミンさんせ~。たこ焼き食べた~い。」

 

「レミン、最近ずっとそればっかりね。」

 

「もう、本当に懲りない子なんだから。」

 

「まあまあ、それと、ご飯が終わったらどうする?」

 

「夏休みは海に行くって約束したし、みんなで水着見に行かない?」

 

「あら、素敵な話じゃない。一緒についていけないのが残念だけど。」

 

 今は、みんなと過ごす時間を楽しみたい。この幸せな時間を、心に刻みたい。

 

「リリンちゃん。いこっ。」

 

 蛍が笑いながら手を差し出す。

 

「うん!」

 

 リリンも笑いながら、その手を受け取る。

 幸せのために一歩踏み出したリリンは、これから先、まだ見ぬ幸せの世界に胸を躍らせるのだぅた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

「夏だ!海だ!」

 

「わーい!みんなでうみだー!リリンちゃん!いっしょにうみにはいろ!」

 

「うん!わっ、つめたい。」

 

「あまりはしゃぎ過ぎないよう気を付けてね・・・って雛子。どうしたの固まっちゃって」。

 

「私、ずっと思ってたことがあるのだけど。」

 

「なに?」

 

「リリンちゃんって、蛍ちゃんに負けないくらい可愛いよね!」

 

「・・・は?」

 

 次回!ホープライトプリキュア第26話!

 

 夏だ!海だ!カメラマン雛子の大暴走!!

 

 希望を胸に!がんばれ!わたし!

 


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