ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第24話・Bパート

 雛子と別れ、要と並ぶ帰り道の間、千歳はずっとこれからのことを考えていた。

 今回の件は、リリスを一方的に敵視した結果、蛍を傷つけてしまった自分の思慮の無さが原因だ。

 その事については申し訳ないと思っているし、こうして蛍が無事だったことは心から喜んでいる。

 そして蛍が取るであろう選択も、わかっている。

 だが蛍の思いを受け入れるならば、これから先リリスと接する機会が増えていくだろう。

 それでも千歳にはまだ、リリスのことを許すことができない。

 リリスは、かつて故郷を闇に葬った憎き敵の1人だ。

 これから先、憎きリリスと共に過ごすことが出来るだろうか。

 今の自分には・・・きっとできない。

 いっそ、やつを許すことが出来ればどれだけ楽だったろう。

 ダークネスからフェアリーキングダムを解放することはできたし、蛍も助かった今、リリスが自分から奪ったものは全て手元に戻っている。

 それでもまだ、リリスを憎む気持ちを捨て去ることが出来なかった。

 全てが元通りになったとしても、やつの犯した罪は決して消えはしない。

 だからと言って、蛍たちに対してリリスを許すな、というのは身勝手な話だ。

 それ故に千歳は今、途方に暮れていた。

 どうすることが正しい道なのか、それがわからなくなってしまったから。

 

「それじゃあ千歳、ウチはここで。」

 

 気が付けば、要の帰路への分かれ道まで辿りついていたようだ。

 

「ええ・・・また、今度・・・。」

 

 千歳の声が微かに震える。

 その『今度』のとき、自分たちの関係はどうなってしまうのか。

 それが千歳の不安を募らせていた。

 かつて、リリスを敵視する千歳と、リリスを信じようとする雛子たちとで意見が対立することがあった。

 結果として雛子の方が正しかったが、それ以上に誰も自分には味方してくれないのだと、嫌な思いを抱いてしまったのだ。

 要も雛子も、意見の違う自分のことさえ気にかけてくれていたのは分かっていたが、それでも得も言えない孤独感を抱いてしまった。

 あの時の嫌な気持ちを思い出し、千歳は鬱屈とした様子を見せる。

 

「千歳、これだけは言っておくね。」

 

 すると要がこちらを見据えて話しかけてきた。

 

「愛想笑いだけは、絶対にしたらアカンよ。」

 

「え・・・?」

 

「あの子のことが憎いなら、嫌いなら、蛍にもリリンにも遠慮することはない。

 何より愛想繕った上辺だけの関係なんて、蛍は絶対に望まないよ。」

 

 本心を隠したまま、上辺だけの関係を繕うこと。

 千歳にとってはそれが一番、無難な選択肢だと思っていたが、要はそのことに釘を刺してきた。

 それは要が、自分の本心を尊重してくれると言うことになる。

 だけど要の言う通り、蛍が上辺だけの関係を望まなかったとしても、この本心のままでは、彼女の好きな人に負の感情をぶつけることになる。

 それだって蛍にショックを与えるはずだ。

 蛍を傷つけたくないと思えば、本心を隠し通すこが正しいのではないだろうか?

 例え要が自分の思いを尊重してくれたとしても・・・。

 

「大丈夫、どんなことがあっても、ウチはあんたの味方だよ。」

 

「要・・・。」

 

「ウチだけは絶対に、あんたの味方についてやるから。

 遠慮しないであんたの思い、ドーンとぶつけてええよ。」

 

 だけど要のその言葉に、千歳の抱いていた不安は消え去って行った。

 そして気が付けば千歳は、要の胸に飛び込み彼女に抱きついていた。

 

「ありがとう・・・要・・・。」

 

 人の通りがなかったとはいえ、往来で要に抱きつくなんて何て大胆なことをしているのだろうか。

 思えば今日は、彼女に助けてもらってばかりだった。

 どうすればいいのかわからず自暴自棄になりかけたときも、要は自分の本心を汲み取ってくれた。

 そして今も、悩める不安を彼女が取り払ってくれた。

 何よりも要は、絶対にウソをつかない子だ。

 彼女が自分の味方をしてくれると言えば、必ず味方になってくれる。

 それが何よりも嬉しかった。

 

「それから・・・ごめんね。

 今日はあなたに甘えてばかりで・・・。」

 

 同時に自分の全てが今、要の負担になっていることもわかっていた。

 

「・・・ホンマやて。

 ウチだって泣きたい思いずっと堪えてるのに、みんながしっかりしてくれな、ウチはいつまで経っても泣けんやん。」

 

 そうは言いながらも、要の表情は穏やかで声色に非難の感情は交じっていない。

 それでも、その言葉もきっと彼女の本心からのものだ。

 要は今日の一日、ずっと気丈に振る舞っていた。

 自分と同じくらい、要だって辛くて苦しい思いを抱いていたはずなのに、彼女はそれを表面には一切見せず、強い姿勢を見せてくれていた。

 そのおかげで、立ち直ることができた。

 そんな彼女だから、今日は最後までその強さに甘えていたかった。

 今日はもう、自分ではどうしようもないくらい弱り切っていたから・・・。

 そして要は、そんな千歳の気が済むまで、ずっと胸を貸してくれた。

 

「・・・もう、大丈夫?」

 

 やがて要から離れる千歳に、彼女が少し心配そうに声をかけてくれた。

 

「ええ、何から何までありがとう。後はもう、大丈夫よ。

 私も、自分の本当の気持ちと向き合ってみるから。」

 

「そっか。」

 

 微笑みながら要は安堵の表情をみせる。

 本当に、何から何まで彼女に心配をかけて、何から何まで頼りっぱなしだ。

 

「それじゃあ、私はこれで。」

 

「んっ、また今度な、千歳・・・ってさっきも言ったやん。」

 

 2人でひとしきり笑った後、千歳は要と別れる。

 

「本当に、良い友達を持ったわね。千歳。」

 

 そんな自分たちのやり取りを見守っていたリン子が、どこか嬉しそうにそう話す。

 

「・・・ええっ。」

 

 千歳も頬を赤く染めながら、リン子の言葉に静かに同意した。

 要の厚意を無駄にしないためにも、自分も本心と向き合おう。

 自分はリリスのことを憎んでいる。それだけは隠すわけにはいかない本心だ。

 だけど自分の本当の気持ちが、その1つだけとも限らない。

 リリスのことをどうしたいのか、リリスとどう向き合いたいのか。

 自覚のない気持ちを、これから確かめてみよう。

 そしていつの日か、要には今日の日の恩を返そう。

 そう思いながら千歳は、小さくなっていく要の後姿を見送るのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 千歳と別れた後、要は安堵の表情を浮かべながら帰路を歩いていた。

 携帯を取り出して時間を確認すると、ようやく昼になったところ。

 まだ半日が過ぎたばかりなのに、今日はとても辛くて、苦しい一日だと思ってしまう。

 蛍を守ってあげられなかった罪悪感。

 蛍に恨まれたことを知った傷心。

 ダークシャインに何もできない無力感。

 そして、世界が闇に覆われた絶望。

 どれだけ自分を奮わせて強気に立ち上がっていても、心に抱いた不安を消すには余りにも状況が絶望的だった。

 だからこそ、全てが元に戻ってくれて本当に良かったと思っている。

 蛍はリリンと一緒に無事に帰って来られたし、これから彼女が取る選択を要は受け入れるつもりだ。

 1人無理をし続けた雛子も、帰り際の様子を見る限りでは大丈夫だろう。

 今日一日安静にしていれば、疲れもなくなるはずだ。

 そして千歳もきっと、大丈夫だ。

 闇の牢獄にいたときは、何度も最悪の事態が頭によぎったが、こうして全てが無事に終わってくれたことを改めて実感した要は、ふと気を緩めてしまった。

 頬まで流れ落ちそうになった涙を、すぐに手で拭き取る。

 

「要・・・。」

 

 そんな要の様子を、ベリィが少し心配そうに見つめていた。

 

「別に、無理してるわけやないよ。ただ、ここで泣いちゃうと、多分止まらない。」

 

 だからせめて家について、自分の部屋に戻ってからでないといけない。

 こんなところで大泣きしては、ご近所の方々に心配をかけてしまうし、家の中でだって、自室以外では兄が心配する。

 今日の出来事はみんなにとって、ほんの一時の悪い夢でしかないのだから。

 夢を夢のままで終わらせるためにも、自分は表面上、平静でいなければならない。

 泣くのは人知れず、ひっそりとでいい。

 そう思いながら要は、零れ落ちそうになった涙を必死に堪える。

 

「・・・そっか。」

 

 ベリィは一瞬、こちらに伸ばそうとした手を引っ込めた。

 要は彼の気遣いに内心、感謝する。

 今の状況で彼に優しくされてしまったらきっと、涙を堪えることが出来なくなる。

 でも彼のことだから、もしかしたら家に着いたとき、気を利かせて部屋には入らないって言うかもしれない。

 真面目で誠実故に、少し気が利きすぎているのが、ベリィという青年だからだ。

 

「・・・なあ、ベリィ。」

 

 だから要は、そんなベリィには素直になろうと思った。

 

「なんだい?」

 

「帰ったら、ベルになってくれへん?」

 

「え?」

 

「・・・胸、貸してほしいの・・・。」

 

 1人で抱えきれなくなった時は、彼にだけは弱音を吐こうと、彼にだけは不安も悩みも全て打ち明けようと。

 

「・・・ああ、わかった。」

 

 ベリィは笑顔でそれを引き受けてくれた。

 その日、要の涙を見た人は、ベリィただ1人だった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 蛍に案内されるままリリンが辿りついた場所は、見たことのない一軒家だった。

 だが蛍がわざわざ連れてきたと言うことは、ここはもしかしたら彼女の家なのかもしれない。

 

「ここ、わたしのおうちなんだ。よかったらあがってってよ。」

 

 案の定、目の前にあるのは蛍の家だったが、リリンはなぜ自分が招かれたのかわからなかった。

 

「でも、あたし・・・。」

 

「ほんの、すこしだけでいいから。おねがい。」

 

 今は蛍の側にいるのが辛い。

 だから1人になりたかったが、蛍が自分の手を握り懇願する。

 こうなったときの蛍は、普段の弱気なのが嘘に思えるほど頑固になるのは身に染みている。

 

「・・・わかった。」

 

 だからリリンは断ることを早々に諦め、蛍の言葉に耳を傾けることにした。

 すると蛍は安堵の笑みを浮かべて、鞄から鍵を取り出し家のドアを開けるのだった。

 

 

 

 

 蛍の家に招かれたリリンは、そのままリビングまで案内された。

 

「えと、そこにソファがあるし、てきとうにくつろいでくれてていいよ。」

 

 少し遠慮がち・・・と言うより緊張している様子で蛍が言う。

 だが『寛いで』と言われても、人の家を訪れたことのないリリンには、こんな時にどう過ごせばいいかなんてわからない。

 寛ぎ方のわからないリリンは、困惑した様子のまま当てもなく視線を彷徨わせてる。

 

「そだ、そろそろおひるの時間だし、よかったらいっしょにたべる?

 リリンちゃんも、おなかすいてるよね?」

 

「え・・・?」

 

 蛍の言葉を聞いたリリンは、彷徨わせていた視線を彼女に向ける。

 なぜ彼女がそんなことを聞いてくるのか一瞬戸惑ったが、蛍はきっとダークネスの性質について知らないのだろう。

 リリンには食事を取る必要がなければ、味覚もない。

 かつて蛍と2人でクレープを食べたとき、味の感覚が分からずに苛立ったこともある。

 蛍が自分の分の食事を準備するのも、それを振る舞うのも、まるで意味のないことだ。

 それなのにリリンは、蛍の申し出を断らなかった。

 

「・・・ええ、お願いするわ。」

 

 ここに招かれたことを断れなかった時点で、リリンは蛍の思うように、やりたいようにさせてあげたいと思ったからだ。

 反対したところで押し通されると思ったのが半分、もう半分は、彼女の望みを叶えることで、少しでも罪滅ぼしが出来ればと思ったからだ。

 

「わかった、それじゃあ、ちょっとだけ待っててね。」

 

「退屈だったらそこにあるテレビ、勝手に見ててもいいわよ。」

 

 蛍とチェリーは揃って台所へと向かい、昼食の仕度を始める。

 実際のところ、蛍に食事を振る舞ってもらうことが、これまで彼女にしてきたことへの清算に繋がるはずもなく、リリンは苦い思いを抱えたまま、蛍に言われた通り待つことになった。

 リリンは再び、リビングを見渡す。

 窓際には花瓶が、壁には風景画が飾られており、先ほど『ソファ』と呼ばれた腰掛けの前にあるのは、確か『テレビ』と呼ばれた映像機器だ。

 一通り部屋を見渡したリリンが抱いた感想は、『質素』。

 この一言に尽きるだった。

 他の誰の家も見たことはないが、蛍の家らしいと言う雰囲気が感じ取れた。

 だがここが蛍の家である以上、彼女の家族もここで一緒に暮らしているのだろう。

 蛍1人の好みではないはずなのに、ここまで蛍らしさを感じると言うことは、彼女の家族も似たような好みを持っているのかもしれない。

 だが、家族と言うものは血縁による共同体程度の認識しかないリリンには、家族と言うものは好みが似るものなのかどうかなんてわからない。

 自分は『親』も『兄弟』もいないのだから、『家族』のことなんて知りようもない。

 

(家・・・家族・・・か。)

 

 ふと、台所にいる蛍の方を覗きこむと、『冷蔵庫』と呼ばれる食料を貯蔵する家電が目につき、蛍がそこから取り出したものを『電子レンジ』を使って解凍していた。

 だが『冷蔵庫』も『電子レンジ』も、もしも話題に振られたときのために自然と答えられるようと、知識として身に付けただけのもので、実物を見たのは今日が初めてだった。

 先ほどのテレビだって、電波を受信してスクリーンに映像が映し出されるもの、と言う知識はあるが、アモンの研究室にあった大型のモニターみたいなものだろうとぼんやりと思ったことがあるくらいだ。

 当然、どの家電も使い方なんて分からない。

 これまで興味さえなかったものだ。

 蛍に近づくと言う任務さえなければ、知識を身に着けることもなかっただろう。

 蛍の家を見渡したリリンには、知識として持っていてもその意味や使い方までは知らないことを改めて思い知る。

 

(本当にこんなので、この世界で暮らしていくことなんてできるの・・・?)

 

 途端にリリンは不安になる。

 蛍との会話が不自然にならない程度の知識しかない自分が、この世界でどうやって生きて行けるのだろう?

 自分が生きていくとしたら、子供に分類されるはず。

 だがこの国では、子どもは親の庇護の元で暮らすのが当たり前となっている。

 親を持たない自分は、そもそもどこで暮らしていけばいいのだ?

 仮に運よく住居を得たところで、今の蛍のように食事の支度はできるのだろうか?

 ・・・と、ここまで考えてから、リリンはこの悩みには意味がないことを思い出す。

 

(どうせあたしはダークネスなんだし、食事なんてしなくてもいっか。)

 

 ダークネスから離反したとはいえ、行動隊長の性質は変わらない。

 食事を取ったり休眠したりと、人が生きるために必要な要素の内、幾つかは省くことができるはずだ。

 そう思った時、再び胸の奥がチクりと痛む。

 結局自分は、およそ生きるとは程遠い生活を余儀なくされるのだ。

 この身体でいる限り・・・。

 

「・・・あれ?」

 

 ここでリリンは、自分の身体に僅かな違和感を覚えた

 ついさっきまであったものが、途端に消えてしまったような、不思議な『喪失感』が身体を駆け回っていく。

 

「リリンちゃん、どうかしたの?」

 

「え?ううん、なんでもないわ。」

 

 こちらの様子を怪訝そうに伺う蛍に、リリンは適当に返事をする。

 

「そう、おまたせ、リリンちゃん。

 昨日ののこりものをあたためただけだから、たいしたものはだせないけど。」

 

 気が付けば、蛍が食事の支度を終わらせていた。

 大したものはないと言うが、どのみち味なんてわからない。

 蛍に促されるまま、テーブルについたリリンだったが、その直後、蛍が並べた食卓を前にして自分に訪れた変化に気付く。

 

「・・・あれ?」

 

 蛍の並べた昼食から、微かだが匂いがしたのだ。

 

「リリンちゃん?」

 

「えと・・・なんでもない。」

 

「ほんとうに?なにか苦手なたべものとかあった?」

 

「ううん、だいじょうぶ。」

 

「そう?それじゃあ、いただきます。」

 

 蛍とひとしきり会話を終え、蛍に倣ってリリンも『頂きます』をする。

 蛍の隣では、チェリーがサクラへと姿を変えて一緒に頂きますをしていた。

 2人に倣って箸を使い、目の前にある白いご飯を口に運ぶ。

 

(えっ・・・?)

 

 すると今度は、口の中で微かな熱と、得も言われぬ感覚が広がっていった。

 咀嚼すると、その感覚は徐々に強く感じられていく。

 今まで感じたことのない感覚にリリンは困惑するが、それらは不思議と不快なものでなく、自然と箸が進んでいく。

 

「・・・ふふっ。」

 

 そんなリリンを見て蛍が静かに微笑んだ。

 

「ほたる?」

 

「おいしいみたいで、よかった。」

 

 そして彼女の言葉で気づかされた。

 自分が感じた感覚が、『味覚』であったことを。

 

(・・・そう言えば、あたしの身体。)

 

 同時にわかってしまった。自分が抱いた『喪失感』の正体が。

 

(絶望の闇が・・・感じられない・・・?)

 

 リリンから五感を奪っていた力、絶望の闇が身体から消え去っていたのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 昼食を終えた蛍は、3人分のお皿を片付けてからしばらくリビングで時間を潰していた。

 とは言っても、リリンとどんな会話を交わせばいいかわからず、時折思いついた質問を投げては一言で返されてまた黙り込む、を繰り返していた。

 こんな状況ではまともに会話が弾むはずもなく、幾つかの質問を終えたところで互いに無言のままになってしまう。

 そんな蛍たちの様子をチェリーが心配そうに見守っている一方で、チェリーの方から話題を振ることはなかった。

 ふとチェリーと視線を合わせてみると、彼女からは何となく、これは自分が話さなければいけないことだからと、気を遣われているような気がした。

 そんな彼女に蛍は微笑みながら微かに頷く。

 ここにリリンを呼んだのは、彼女に伝えたいこと、話したいことがあるからだ。

 リリンはこの世界に住居を持たないはずだ。

 それに連絡手段もないから今日の内に話をしないと、次はまたいつ会えるかはわからない。

 もう2度と自分を悲しませたくないと約束してくれたから、自分の前からいなくなることだけはないだろう。

 それでも次に会うまでの間が空けば空くほど、自分はまたうじうじと悩み、決心を鈍らせてしまうだろう。

 だからこそ蛍は、今日の内にリリンに話しておきたいのだ。

 だけどまだ、その時が来ていない。

 この話を彼女に振るには、この場に1人いて欲しい人がいる。

 確か今日は早く帰ってくると言っていた。

 となれば、夕方を迎える前には帰宅するはずだ。

 その人の帰りを蛍はずっと待っていた。

 そのまましばらくの時が過ぎたところ、ようやくリリンが重い口を開ける。

 

「ねえ、ほたる。あたし、いつまでここにいればいいの?」

 

「え・・・?」

 

 業を煮やした様子でリリンがそう問いかけてきた。

 夕方に差し掛かるまでもう少し。それまでの間、リリンを帰すわけにはいかなかった。

 例え無言の間が続いていたとしても、蛍はリリンを手放したくなかった。

 あともう少しだけ待ってもらえればきっと・・・。

 

「あの・・・あとほんの少しだけ、ここに・・・。」

 

 

 ガチャ

 

 

 そう思った矢先、ドアを開ける音が聞こえてきた。

 鍵はかけているはずなので、ドアを開けられる人は家族しかいない。

 

「あっ、きた。」

 

 待ち望んでいた蛍は、嬉しそうに飛び上がる。

 

「蛍、リリン、あとは頑張ってね。」

 

 チェリーはただその言葉だけを残し、テーブルの上でぬいぐるみのフリをした。

 リリンは彼女の言葉の意味がわからず困惑したままの様子だが、蛍の視線は彼女からリビングの入口の方へと向けられる。

 

「ただいま蛍。良い子にしてた?」

 

「おかーさん!おかえりなさい!」

 

 そして待ちわびていた母、陽子がリビングへと入ってきた。

 

「あら?」

 

 さっそく陽子は、ソファに座るリリンに気付いて笑みを浮かべる。

 

「お友達がいらしてたのね?」

 

 そんな母を前に、蛍はこれから話すべきことを決心するように勇気のおまじないをするのだった。

 

 

 

 

 母の陽子は、少し興味深そうな様子でリリンを見ている。

 リリンを家に呼んだのは今日が初めてだし、母には一言も家に招くとは伝えていなかったのだから、突然の訪問に驚いているのだろう。

 そんな母を前に、蛍はこれから話す内容を、自分の願いを聞き入れてくれるだろうか不安になってきた。

 その不安を落ち着かせるために、1つ、2つ、深呼吸をする。

 

「あっあのね、おかーさん。

 この子は、リリンちゃんって言って、わたしにとって、この街でできたはじめてのともだちなの。」

 

 簡単にリリンの紹介をすると、陽子が目を輝かせてリリンを見据えた。

 

「あら、あなたが蛍が良く話しているリリンちゃんね。

 私は一之瀬 陽子。蛍のお母さんよ。よろしくね。」

 

「えと・・・リリンです。よろしくおねがいします。」

 

 少しはしゃぐ母を前にリリンが小声で自己紹介をする。

 そう言えば、リリンはこれまで名字を名乗ったことはなかった。

 元々リリスが正体を隠すために使っていた偽名だろうから、名字まで考える必要もなかったのだろう。

 そしてダークネス出身であるリリンは当然、この世界の生まれではない。

 家がなければ、親もいない。だから名字も持たない。

 そのことを改めて思い知った蛍は、いっそう気を引き締めて母を見据える。

 

「その・・・リリンちゃんはね。

 えと・・・いろいろあって、家族も、住んでいる家もないの。」

 

「え?」

 

 リリンの事情を知る蛍にとっては特に驚かないことでも、傍から聞けば極めて深刻な話だ。

 外見で言えば自分と変わらぬ年齢の少女が、天涯孤独な身の上になっている。

 流石の母も笑顔を曇らせ、少し疑念を含んだ表情になった。

 それは仕方がないことだ。

 なぜなら事の顛末を何ひとつ説明していないのだから。

 だが当然、母にプリキュアのこと、ダークネスのこと、リリンの正体のことを話すわけにはいかない。

 詳しい事情を話せないまま、蛍は一方的に自分の願いを押し付けるしかなかった。

 

「それで・・・リリンちゃん、今ものすごくこまっていて・・・。

 わたし、どうしても力になりたくて・・・。

 でも、わたしの力じゃどうしようもなくて・・・だから・・・。」

 

 少し間違えれば、秘密にしなければならないことを口に滑らしてしまいそうだ。

 たどたどしくなりながらも、慎重に言葉を選んで蛍は自分の思いを伝える。

 そして今一度、大きく深呼吸し、勇気のおまじないをしてから母の目を見る。

 

「だからおかーさん、おねがい!

 リリンちゃんを、このお家に住ませてあげたいの!!」

 

「・・・。」

 

 母はそのまま考え込むように黙り込み、自分とリリンを交互に見る。

 優しい母はこれまでよほど無茶な事でもなければ、自分のお願いを聞いてくれた。

 だけど今回は、そんなよほど無茶な事だ。

 普通に考えれば、断られるに決まっている内容だ。

 もしも自分が成人して、1人でお金を稼いで暮らしていれば、リリン1人を引き取るとすぐに決めていただろう。

 だけど自分は、まだ子どもだ。

 働くことも、お金を稼ぐことも出来ず、親から守られて親のお金で生活しているただの子どもだ。

 母の家事を手伝いお金を預かることもあるが、それでも1人の生活費にどれだけかかるかは想像もできない

 なぜならこの国は、子供に教育させる義務があるからだ。

 リリンが学校に通うことになれば、そのための教育費だってかかる。

 だからこの願いは、リリンをこの家に住ませるために必要な生活費を、母に頑張って稼いで欲しいとも捉えられるのだ。

 それは途方もない我儘だ。聞き入れられない可能性の方が高いはずだ。

 

「おかねがないって言うなら、わたしもう、おこづかいはいらない!

 ほしいもの、なんでもがまんする!

 だから!だからおねがい!リリンちゃんをたすけたいの!!」

 

 それでも蛍は我儘を続ける。

 お小遣いを我慢したところで、二束三文にもならないだろう。

 それでも、リリンにかかる費用に少しでも足しになるのなら、これから先、欲しいものなんて何もいらない。

 自分が一番欲しいものは、リリンと一緒にいることだから。

 

「・・・蛍。」

 

 しばらくして、母が静かに口を開いた。

 

「孤児院って、知ってるわよね?」

 

「え?うっ、うん、知ってるけど・・・。」

 

 開口一番、母が問いかけてきたことに蛍は困惑しながらも答える。

 

「孤児院なら、身寄りのない子どもでも安心して保護されて、ちゃんとした教育を受けることができるわ。

 この街でも、探せばきっと見つかる。

 リリンちゃんの助けになりたいと思う『だけ』なら、孤児院を探してあげて、そこに預けた方が一番だと思わない?」

 

 母の言葉に、蛍は息を飲む。

 母の言う通り、金銭的な問題でリリンを引き取っていいのかわからず、この先リリンに十分な生活と教育を与えられるか不安であれば、孤児院に引き取ってもらう方が憂いはなくなる。

 リリンのことを考えれば、きっとそれが一番の選択肢だ。

 でも、蛍の心は晴れなかった。それでは嫌だと、心のどこかで訴えている。

 

「ねっ、蛍?」

 

 母が念を押してくる。

 だけどその物言いは、どこか自分を試しているかのようだ。

 先ほどの会話だって、母はわざわざ助けになりたいと思う『だけなら』と、強調していた。

 きっと、母は気づいているのだ。

 自分の本心に。本当の願いに。

 

「・・・イヤ・・・。」

 

 だから蛍は、母に自分の本心を打ち明ける。

 母には隠し事はしたくないし、しても無駄だから。

 

「孤児院にあずけるのは、イヤ。

 わたしは、リリンちゃんとずっといっしょにいたい。

 ずっとずっと、いっしょにいるって、きめたの。

 だから・・・おかーさん、おねがいします!!」

 

 それに、無茶な願いを母に押し付ける以上、思いを素直に伝えなければダメだと思ったから。

 

「・・・だって。リリンちゃんは、どう思ってるの?」

 

 すると母は、今度はリリンの思いを聞いてきた。

 リリンはしばしの間、悩むように顔を俯かせてから、静かに口を開いた。

 

「・・・わからない・・・あたしには、わからないわ・・・。」

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 リリンをこの家に住ませたい。

 蛍が彼女の母、陽子に話した言葉を聞いて、リリンは驚き困惑する。

 蛍が今日、自分を家に招いたのも、この話を母にするためだったのだろう。

 そして彼女の提案は、リリンにとっては願ってもない話だ。

 陽子の言う『孤児院』が何の事かはわからないが、会話の内容から察するに家族を持たない子どもが集まる施設があるのだろう。

 だけど食事の取り方もわからない自分では、見ず知らずの人たちの集う施設に人として怪しまれずに振る舞い生活するなんて無理だろう。

 だけど蛍の家ならば、その問題点も解決される。

 普通に生きている人ならば誰もが知っているであろうことも、こちらの事情を知る蛍から聞いて学ぶことができる。

 この世界で人として自然と振る舞えるようになるのも、そう時間はかからないだろう。

 何より、蛍が自分と一緒にいたいと望んでいる。

 蛍の望みは、自分の望みでもある。

 陽子が蛍の願いを聞き入れてくれたら、自分の望みも全て叶う。

 だけど、陽子から話を振られた時、リリンは胸に抱えていた苦しみが、いっそう強くなった。

 

「あたしには・・・わからない。どうしたらいいのか、わからないの。」

 

「わからないって・・・どうして?

 リリンちゃんも、ずっと一緒にいたいって言ってくれたよね?」

 

「言ったわよ。でも、わからないの!」

 

 この苦しみを抱えている限り、蛍への罪悪感を失わない限り、自分は蛍とずっと一緒にいる限り、苦しみ続けることになる。

 もうかつてのように、彼女の隣で安らぎを得ることができない。

 でもどうすれば罪悪感が消えるのかわからない。

 

「あなたといっしょにいたい・・・。

 それなのに、あなたのとなりにいると、とても苦しいの・・・。」

 

「リリンちゃん・・・でも、わたし、もう気にしてなんかいないよ?」

 

 そんなことはわかっている。蛍はもう、自分のことを恨んではいない。

 許せないのは、自分自身のことだけだ。

 

「あたしがあなたにどれだけヒドイことをしてきたかわかるでしょ!?

 あなたが気にしなくても、あたしは・・・まだ自分のことが許せないの・・・。」

 

 行動隊長として多くの人を傷つけてきた。ソルダークを生み出す素材としてきた。

 そして、蛍を裏切り、傷つけた。

 そんな自分に蛍と一緒にいる資格なんて、本当はないはずだ。

 それこそ蛍が望まなければ、彼女の前から永遠に姿を消すつもりだった。

 でも蛍が一緒にいたいと望む以上、彼女との約束を守るためにも、その想いを受け入れるつもりだった。

 それなのに、受け入れようと思っても、心のどこかで拒否してしまう。

 いっそ受け入れて、彼女の隣で永遠に苦しみ続ければいいのに。

 どこまで行っても自分は、安易な逃げ道を作ることも選ぶことも許されない。

 だからわけのわからない、答えの出ない迷宮を彷徨い続けるしかなかった。

 

「ねえ、リリンちゃん。」

 

 そんなリリンに、陽子が優しく声をかけてきた。

 

「あなたがこれまで何をして、どんな酷いことをしてきたのかは、聞かないわ。

 でも、自分のことが許せないってことは、あなたは自分のしてきたことを、悪いことだと思っているのよね?」

 

「え・・・?」

 

 陽子の言葉に、リリンは困惑するが、彼女は優しく微笑みながら言葉を続けた。

 

「本当に悪い人は、自分がやったこと、悪いとさえ思わないのよ。

 でも、あなたは自分のやったことを、悪いことだと思って、苦しんでいる。

 もしもあなたに、自分のした悪いことを償いたいって気持ちがあるのなら、あなたは、悪い子なんかじゃない。

 とても良い子だって、私は思うわ。

 そして、良い子のあなたは、幸せになる権利があると思うの。」

 

「っ・・・。」

 

 陽子の言葉を聞いたリリンは、目に涙を浮かべる。

 自分が良い子だなんて、考えたこともなかった。

 自分のしてきたことは全て罪で、何ひとつ、善行なんてしていないから、決して許されないと思っていた。

 例え他の人が許しても、自分自身を許してはいけないのだと思っていた。

 だけど、陽子は言ってくれた。

 償う気持ちがあるのなら、自分は悪ではないと・・・。

 その言葉に、救われた気がした。

 同時にリリンは、自分の内に秘めていた想いに気が付く。

 

「ねえ、リリンちゃん。あなたの望みはなに?」

 

 優しく問いかける陽子に、リリンは涙を拭いながら答える。

 

「あたしは・・・ほたると一緒にいたい・・・。

 自分がしてきたことの罪は、かならず償う。

 かならず償うから、ほたるの側にいたい・・・。

 ほたるの側にいて、あたしは・・・。」

 

 一呼吸置き、リリンはこれまでのことを振り返る。

 蛍といると、心が安らぐ意味。

 蛍に問いかけられた楽しい、という言葉の意味。

 ずっと知りたかったその意味を、リリンは罪を償う覚悟と共に知ることができた。

 その意味は・・・

 

「しあわせに・・・なりたいです。」

 

 幸せ。

 とても抽象的で、具体性のない、でもこの世界の人たちが自然と言葉にしていたもの。

 かつての自分が興味の1つも持たなかった言葉の意味が、これまで蛍と過ごした時間の意味を知ったことで、ようやく理解することができた。

 あの時、あの瞬間、自分は幸せを感じていたのだと。

 だから手放したくなかったのだ。

 蛍のことを、蛍と過ごす時間を。

 だから苦しかったのだ。

 彼女への罪の意識と、自分への怒りから、蛍の隣で幸せを感じることができなくなったから。

 そして幸せになってはいけないと思っていたのに、心のどこかでかつての幸せを求めていたから。

 でも陽子は、幸せになっていいと言ってくれる。

 罪を償い、過去を清算することができれば、自分は悪い子ではなく、良い子なのだと。

 

「・・・幸せになりたい・・・か。うん、わかったわ。リリンちゃん。」

 

「おかーさん、それじゃあ・・・。」

 

「最初に言っておくけど、いきなりずっと、ってわけにはいかないわ。

 お父さんとも話し合わなきゃいけないし、本当にリリンちゃんを引き取るつもりなら、軽はずみに決めつけるわけにはいかないわ。

 そうね・・・夏休みの1か月間。

 とりあえず、それまでは家にいていいわよ。リリンちゃん。」

 

「ありがとう、おかーさん!!」

 

 感極まった蛍は、泣くのも隠さずに陽子に抱きつく。

 蛍の家で暮らすことができる。

 1か月と言う期間が授けられているが、蛍と一緒にいることができる。

 絶対に叶わないと思っていたこと、願ってはダメだと思っていたことが今、リリンの目の前に現実となったのだ。

 そしてリリンは。

 

「あれ・・・?」

 

 止まり切れない涙をポロポロと零していた。

 何度拭っても収まらず、目の奥からずっと湧き上がってくる。

 その度に、声をあげたくなった。

 喉元まで引っかかる声を、リリンが堪えようとしたとき、

 

「リリンちゃん。」

 

 陽子が、優しくリリンの身体を抱きしめた。

 

「涙ってね。辛いときにも、嬉しいときにも湧いてくるものなの。

 そうゆうときは、我慢しないで、思い切り泣いてもいいのよ?

 あなたはもう、自分の気持ちを抑え付ける必要なんて、ないのだから。」

 

 自分の事情を知らないはずの陽子が、今の自分の気持ちを汲んでくれた。

 そして、思い切り解放しても良いと言われたリリンは

 

「うっ・・・わああああああああん!!!」

 

 蛍と陽子、そしてチェリーが見守る中、大きな声で泣き続けるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 その日の夜、父の健治が帰って来たときは、流石に驚いた様子を見せていた。

 母から事情を聞かされたときは、少し呆れたような表情を母に見せた。

 でもリリンには優しく微笑みかけ、これから1か月よろしくと、挨拶してくれた。

 特に反対する様子も見せなかったことに蛍は安堵したことを振り返りながら、自分のベッドの下に布団を敷く。

 

「それじゃあ、リリンちゃん。電気けすね。」

 

「うん。」

 

 慣れない様子で掛布団を被ろうとするリリンに微笑みながら、蛍は部屋の明かりを消した。

 そしてベッドに入る前に、リリンの方をもう一度振り向く。

 

「ねえ、リリンちゃん。」

 

「なに?ほたる。」

 

「あしたから、たのしいこと、しあわせなこと、ふたりでいっぱい見つけようね!」

 

「・・・うん!」

 

 薄暗い明かりの中でも、リリンの笑顔はしっかりと見えた。

 ベッドに入った蛍は、今日の日のことを振り返る。

 とても辛く、悪夢のような1日だったが、最後に大きな幸せが訪れた。

 自分が心に秘めていた願いが、ずっと思い続けてきたことが、形になったのだ。

 これからずっと、リリンと一緒にいることができる。

 蛍にとっては、幸せそのものと言える人が、ずっと自分の側にいるのだ。

 

(あしたは・・・なにからはじめようかな・・・?)

 

 まず最初にやるべきことは、リリンの生活用品を揃えることだ。

 1か月も一緒に暮らすのだから、衣類や食器を買い揃えて置く必要があるだろう。

 筆記用具は、きっとまだ先で良いし、自分の余りを貸すこともできる。

 あとは、クレープ以外にも美味しいお菓子がこの世界にはたくさんあるから、それを一緒に買ったり、作ったりしてあげよう。

 彼女が望めば、料理やお菓子作りを教えてあげることもできるし、それから・・・。

 

(それから・・・なにがあるかな・・・。)

 

 リリンのためにしてあげること、してあげたいこと。

 沢山の想いの数々を胸に刻みながら、蛍は幸せな気持ちで眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 布団を被ったリリンは、薄明るい天井をずっと見ていた。

 やがて聞こえてきた蛍の寝息を聞きながら、今日の日のことを振り返る。

 ダークネスであり続ける限り、ずっと叶わないと思っていた願いが、ダークネスから解放されたことで叶うことができた。

 蛍と一緒にいられること、側にいられることがとても嬉しくて、きっと今の自分の気持ちが、幸せなのだろう。

 

(でも、まずはやらなきゃいけないことがたくさんある。)

 

 まずは罪は償わなければならない。それが幸せになるための対価だから。

 まずその第一歩として、蛍の友人たちへちゃんと謝罪しよう。

 要と雛子、そして千歳。

 特に千歳と妖精たちには、一度故郷を奪うと言う大罪を犯している。

 今日、自分の意思でやったこととは言え、蛍との思い出の場所を破壊し尽くした。

 あの時、とても空虚な気持ちになった。きっとその時と同じ感情を、千歳たちにも与えていたのだ。

 いや、感情を自覚できなかった自分と違って、千歳たちは心を持つ人間だ。

 悲しみと喪失感は自分の比でなかったはず。

 だからまず、彼女たちにちゃんと謝罪をして償いをするのだ。

 それができなければ、陽子の言う幸せになる権利なんてない。

 

(がんばら・・・ないと・・・。)

 

 自分を好きでいてくれた蛍と、許してくれた陽子、信じてくれたチェリー。

 そして、自分を受け入れてくれたこの家の人たちのためにも、必ず、贖罪をしてみせる。

 

(そのために・・・あした・・・あれ・・・?)

 

 そんなことを考えている内に、リリンは少しずつ朦朧とし始めた。

 視界が徐々に霞んでいき、頭の中がぼんやりとする。

 でも不快な気分はなく、むしろ『自然』とその状態を受け入れていく。

 

(なんだか・・・ねむい・・・あっ・・・。)

 

『眠い』。無意識の内に頭に浮かんだ言葉と一緒に、リリンは初めて『眠り』につくのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

「これからよろしくね、リリンちゃん!」

 

「よろしくね、ほたる。」

 

「それじゃあまず、リリンちゃんのために、おようふくとか、お茶碗とかいろいろ買わなきゃね!

 みんなもてつだってくれるって、言ってたよ!」

 

「みんな?みんなって、おともだちのこと?」

 

「うん!」

 

「じゃあ、ちとせって子も、一緒に来るんだよね?」

 

「え?そうだけど、どうしたのリリンちゃん?」

 

 次回!ホープライトプリキュア第25話!

 

 新たなる始まり!リリンと千歳、仲直りへの第一歩!

 

 希望を胸に、がんばれ!わたし!

 


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