ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第2話・Bパート

 要は黒板の前に立つ少女を見る。

 身長は130cm程か。自分と比較すれば30cm近い身長さがありそうだ。

 小柄のあまり、通う学校を間違えてないかと一瞬思ったが、着ている制服は明らかにこの学校のものであり、身に着けている黄色のリボンが同学年であることを裏付けている。

 そんな見た目小学生と見紛う少女が、表情も体もガチガチに固めた状態で、一歩ずつ教卓へと向かっている。

 相当緊張しているのだろうその姿に要は、大物モノマネ芸能人のロボットネタを思い出した程だ。

 そしてようやく教卓までたどり着いた転校生。

 だが正面を向いて固まったまま、何も動こうとしなかった。

 

「・・・それじゃあ、黒板に名前を書いて。」

 

 見かねた長谷川先生が転校生に声をかける。

 

「ひゃあっはい!!」

 

 半ば叫びに近い声を上げる転校生。

 チョークを手に取り、黒板に名前を書こうとするが、立ったままでは位置が低いと思ったのか、うんっと背伸びをして名前を書き始めた。

 そんな姿に要は今一度、目の前の転校生が本当に同学年であるかを疑う。

 

「い、ちのせ・・・。」

 

「ほたる、って読むのよ。」

 

「へえ、蛍って漢字でああ書くんだ。」

 

「そうよ。・・・可愛い子じゃない。」

 

 予想通りの言葉を、これまた予想通り頬を綻ばせた表情で呟く雛子。

 

「そーですね。」

 

 要はそんな雛子にカタコトで返事をする。

 雛子がこちらを睨み付けてくるが、その視線を無視し転校生の方を向いた。

 すると、名前を書き終えた転校生が、こちらの方を向き直った。

 

「じゃあ、自己紹介を。」

 

「・・・あっ・・・あの・・・。」

 

 歯切れが悪く、今にも消え入りそうな声で呟き始める転校生。

 

「・・・その・・・えと・・・。」

 

 だが一向に自己紹介が始まらず、

 両手を顔の前で、もじもじさせながら若干涙ぐみ始めた。

 クラスメートたちも、不安げなその姿に心配を覚えるが、その転校生は突然、両手を胸の前で握り祈るような姿勢を取る。

 

「がっ、がんばれ、わたし・・・。」

 

 そしてかろうじて聞こえる程度の小さな声で自分を鼓舞し、

 

「・・・ひゃひめばっ!!!」

 

 裏返った大声で盛大に噛むのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 蛍は恥ずかしさのあまり、すぐこの場を立ち去りたくなった。

 緊張で頭の中が真っ白になりかけていた中、ようやく勇気を出して始めた自己紹介で盛大に噛んでしまったのだ。

 直後、クラスから笑い声が漏れ始め、顔を見られたくなかった蛍はその場に屈みこんでしまい、結局自己紹介をやり直すのに2分近くかかったのだ。

 先生に案内され、最後尾の席に着いた蛍は、その場ですぐに顔を伏せたくなったが、かろうじてそれを堪える。

 最悪なスタートとなってしまったが、ここでクラスメートから顔を背けては意味がない。

 何が何でも今日から変わるんだという蛍の意思が、逃げたくなる思いを踏み止まらせた。

 

「一之瀬 蛍、だっけ?」

 

 目の前に座るクラスメートから声がかかる。

 

「ウチは森久保 要。よろしくな。」

 

「私は藤田 雛子。よろしくね、蛍ちゃん。」

 

 隣に座る子からも声がかかる。

 

「・・・もり・・・くぼさんと、ふじた・・・さん。」

 

「そんな苗字でなんて呼ばないでさ、要でいいよ。」

 

「私も、雛子でいいわ。」

 

「えと・・・かな・・・。」

 

 だが蛍はそのまま黙り込んでしまった。

 

(はじめてあったばかりだし、いきなりなまえでよんだら、しつれいだよね・・・。)

 

 良いと言われているにも関わらず、思考が後ろ向きに働いてしまう。

 だがこれまで友達のいなかった蛍にとって、クラスメートを名前で呼ぶのはハードルが高すぎた。

 

「・・・ごめんなさい。

 急に名前で呼んでいいだなんて、馴れ馴れしいわよね。」

 

「え・・・?」

 

「私たちも、一之瀬さんって呼ぶことにするから。」

 

 雛子の気遣いに胸が痛む。

 そんなことはない。

 馴れ馴れしいだなんて思っていないし、むしろ積極的に話しかけてくれたことが嬉しかった。

 本当は2人のことを名前で呼び、名前で呼ばれたい。

 そして友達になりたいのだ。

 蛍は勇気を出してそのことを伝えようとするが、

 

「あの・・・ちがっ、」

 

「皆、そろそろ始業式の時間だ。急いで体育館へ移動しろ。」

 

 担任の長谷川先生から移動の声がかかってしまう。

 

「それじゃ、ウチらも移動しよっか。」

 

「一之瀬さん。体育館まで案内するね。」

 

「あ・・・。」

 

 結局自分の本心を伝えられないまま、体育館へ向かうことになった。

 始業式の間、蛍はずっと午前中の自分の行動を悔やみ続けるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 始業式を終え、新しい教科書がクラス全員に配布されてから、学校の終わりを告げるチャイムが鳴リ響いた。

 時刻は午後の12時だが、今日は授業がない為、このまま下校の時間となる。

 本格的に学校が始まるのは明日からだ。

 

「よ~し、今日は部活も休みだし。ほた、一之瀬。帰り道はどっち方面?」

 

「え・・?」

 

「途中まででもいいから、良かったら一緒に帰らん?」

 

 突然の誘いに戸惑う蛍。

 だがクラスメートと一緒に登下校したいと言うのは、蛍が学校生活において望んでいたことの1つだ。

 

「・・・一之瀬ちゃんさえ迷惑でなければ、どうかな?」

 

 雛子も蛍に声をかけてくれた。

 2人とも初対面である自分にも優しく接してくれる。

 そんな2人の気持ちに応えたいと思う蛍だったが、

 

「えと・・・わたし・・・、」

 

 返事をしようとした矢先、脳裏に過去の記憶が蘇った。

 

 

 小学生の頃、何人かのクラスメートが一緒に帰ろうとしていた時、蛍にも声がかかったのだ。

 皆の輪に加わりたかった蛍は、その声を受けたが、帰り道、話を振られても返事をすることが出来ず、かと言って自分から話題を振ることも出来なかったので、誰とも言葉を交わすことなく家に着いてしまった。

 そしてあの日以来、一緒に帰ろうと誘われることがなくなってしまった。

 

 

 そのことを思い出した途端、蛍は急に怖くなった。

 2人と満足に会話出来ていない今の状況では、同じことを繰り返してしまうのは目に見えている。

 そうなればあの時みたいに、2人から一緒に帰ろうと誘われなくなってしまうかもしれない。

 もしかしたら、つまらないやつだと思われて、話しかけてすら来なくなるかもしれない。

 悪い考えばかりが頭を巡り、蛍の不安を圧迫していく。

 考えたくもない最悪のシナリオばかりが、頭の中を回り始めた蛍は突然立ち上がり、

 

「あっ、蛍ちゃん!」

 

 鞄を取り、急いで教室から出ていくのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 蛍は校舎の陰に隠れ、膝を抱えてその場に座り込んでいた。

 

「せっかく・・・はなしかけてきてくれたのに・・・

 いっしょにかえろうって、いってくれたのに・・・。」

 

 2人の声を最悪の形で無視してしまった。

 それだけでなく、あんなに優しくしてくれたのに、心の中で酷いことを思ってしまった。

 

「どうして・・・いつも・・・。」

 

 今日から変わる。

 そう決意したはずなのに結局いつもと同じだ。

 後ろ向きな考えを勝手に抱いて、それに勝手に押し潰されてしまう。

 そして、最後にはこうやって逃げ出すのだ。

 

「ひっく・・・うぅ・・・。」

 

 リリンのおまじないがあっても、勇気を出すことが出来なかった。

 意気消沈した蛍は、その場で声を殺しながら泣き続けるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 夢ノ宮市商店街。

 街中に、午後12時を知らせるベルが鳴り響いた。

 それを聞いたチェリーは、仲間たちの捜索を一旦止め、休むことにした。

 人目の付かない路地の陰に身を潜ませ、飛んでる状態から地に降りる。

 

「やっぱり上手くは見つからないか。」

 

 微かだが、妖精の気配を感じ取れるが、正確な位置や方角まではわからない。

 この市のどこかにいるという事実だけを頼りに、しらみつぶしに行くしかない。

 だが今のチェリーはそれとは別に気がかりなことがあり、仲間探しに集中することが出来なかった。

 

「蛍に・・・悪いことしちゃったな。」

 

 考えてみれば、とても自分勝手な願い事だ。

 自分には戦う力がないからと、戦う役割を蛍に押し付けようとしたのだから。

 しかも相手は『自分よりも幼い』小さな女の子。

 いくらプリキュアの力を持つとはいえ、子供に対してあんな恐ろしいバケモノと戦えだなんて、怖いに決まっている。

 それに自分は知っていたはずだ。

 

「蛍は、闇の牢獄に囚われて、物凄く怖い思いをしたんだよね・・・。」

 

 闇の牢獄は、チェリーも一度体験したことがある。

 頭の中に、自分の声で自分を呪う言葉が延々と繰り返される。

 あの時はキュアブレイズがすぐに助けてくれたから、五感を失うまでには至らなかったが、蛍は完全に闇の牢獄に囚われ、ソルダークを生み出しているのだ。

 その時の彼女の恐怖は、自分では想像することも出来ない。

 そんな怖い思いをした直後に、ソルダークと戦えなんて言ったのだ。

 思い出せば出すほど、蛍の心境を全く考えていなかった自分に腹を立てる。

 

「蛍に、ちゃんと謝らなきゃ。」

 

 だがその一方で、蛍には一緒に戦って欲しいと思う自分もいるのだ。

 故郷を失い、この世界に逃げ、暦を忘れるほどに彷徨い続けて、ようやく見つけた2人目のプリキュア。

 ずっと1人で戦い続けてきたキュアブレイズの為にも、蛍には一緒に戦って欲しい。

 蛍の家の場所はちゃんと覚えている。今からでも向かって謝ろう。

 そして、もう一度だけ、ちゃんと蛍にお願いしよう。

 答えは今すぐ出てこなくてもいいから、いつか戦う決意が出来た時に、キュアブレイズを助けてほしいと、ありのままの本心を蛍に打ち明けるのだ。

 そう決意したチェリーは、一旦仲間の捜査を打ち切り、蛍の家へと向かおうとするが、

 

「っ!?闇の力!?」

 

 突然、闇の力の気配を感じ取った。

 

「うわあああああああっ!!」

 

 近くで男性の叫び声が響く。

 そして、

 

「ダークネスが行動隊長、リリスの名に置いて命ずる。

 ソルダークよ。世界を闇に染め上げろ。」

 

 空を飛ぶリリスの姿が、はっきりと目に移った。それに続いてソルダークが姿を現す。

 

「ダークネス・・・。」

 

 キュアブレイズはまだ来ていないのか。

 彼女が来るまで、ここで身を潜めておこうとするが、

 

「・・・蛍に戦うことを強要したのに、自分は逃げるつもりなの・・・?」

 

 そんな不公平なことが許されるはずがない。

 蛍に、一緒に戦ってほしいと望むなら、まずは自分が同じ土台に立たなければならない。

 安全なところに隠れているだけの身の上で、蛍には危険を冒して戦えだなんて、何様のつもりだ。

 

「私が・・・ソルダークと戦うんだ!ダークネス!」

 

 決心したチェリーは、リリスの前に姿を見せる。

 

「・・・キュアブレイズと一緒にいた妖精。」

 

 だがリリスと、そしてソルダークの姿を前にしてチェリーは恐怖で足が竦んだ。体中が震え、声が詰まる。

 思えばダークネスとこうして真正面から向き合うなど、今までなかったことだ。

 これまでどれだけ、キュアブレイズのことを後ろ盾にしてきたかがわかる。

 それと同時に、この恐怖を蛍に押し付けていたことを思い知る。

 

(私は、こんな怖いことをあの子に押し付けようとしたんだ・・・。)

 

 だがもう、逃げ隠れするわけにはいかない。

 蛍に一緒に戦ってほしいから、自分から同じ土台に立つんだ。

 

「こっこれ以上、この世界で好き勝手はさせない!」

 

 勇気を振り絞ってソルダークへと立ち向かうチェリー。

 

「ふん、力のない妖精が。」

 

 そんなチェリーに、ソルダークの巨大な拳が容赦なく降り降ろされた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 校舎裏で泣いていた蛍は、突然、体中に電流が走るような感覚に見舞われた。

 

「・・・なに、いまの?」

 

 一瞬の衝撃が過ぎ去った後、今度は炎天下の中から、冷房に効いた部屋に移動したかのような感覚に陥る、だが感じるのは寒気ではなく、怖気だ。

 全身の肌がザワつく。直感的に良くないことが起きているというのがわかる。

 そんなおぞましいものに、蛍は覚えがあった。

 

「まさか・・・ダークネス?」

 

 またあの、悪魔と巨人が現れたのだろうが。

 すると今度は、ひと際大きい気配を感じた。

 気配のする方に目をやると、空が徐々に黒く染まってきている。

 間違いない、ダークネスが再び姿を現したのだ。

 そしてダークネスが現れたということは、誰かが闇の牢獄に囚われてしまったのだろう。

 

「でも・・・わたしは、たたかうことなんてできない・・・。

 それにキュアブレイズだっているんだし、

 わたしなんかが、でていかなくてもいいよね・・・。」

 

 どうせ出て行ったところで、精々逃げ回ることしか出来ないのだ。

 だがキュアブレイズならば、ソルダークが現れても颯爽と倒してしまうだろう。

 わざわざ怖いのを我慢してまで、自分が戦いに赴く必要なんてない。

 

「・・・ほんとうにそれでいいのかな・・・?」

 

 今この瞬間にも、闇の牢獄の中で自分自身の声に苦しむ人がいる。

 その恐ろしさを、蛍は身をもって実感している。

 そんな人たちを、このまま見捨ててしまっていいのだろうか。

 それにキュアブレイズを頼ると言うことは、自分の代わりにこの世界を守る戦いを強要することになる。

 故郷を失ったキュアブレイズに、この世界の命運まで背負わせる。

 それはキュアブレイズの身を案じ、一緒に戦ってほしいと願うチェリーの思いを、さらに踏みにじることにもなるのだ。

 

「・・・わたしは・・・どうしたらいいんだろ・・・。」

 

 それでも、臆病な蛍は、戦う覚悟を持つことが出来なかった。

 

 

 戦わなくったっていいよ。

 

 

 すると、頭の中に声が聞こえた。

 この前のと同じ、自分の声が。

 

 

 いつもみたいに逃げちゃえばいいよ。

 そうすれば、何も怖いなんてしないで済むのだから。

 

 

 だがその声は、今の蛍には気味の悪いくらい心地よかった。

 

(うん・・・わたし、にげてもいいんだよね・・・。)

 

 全部、キュアブレイズに任せてしまえばいいんだよ。

 わたしなんかが無理して戦う必要なんてない。

 

 

(そう・・・だよね・・・。わたしが、がんばるひつようなんて・・・。)

 

 

 頑張る必要なんて、どこにもないよ。

 

 

 闇の牢獄の囁きに、蛍が身を委ねようとしたその時、

 

 ほたる、がんばってね。

 

(え・・・?リリンちゃん?)

 

 リリンの声が、聞こえた気がした。

 彼女のおまじないを思い出し、蛍は自分の胸に手を当てる。

 

 あなたに足りないものは、ほんのちょっとの勇気。

 一歩踏み出すための、小さな勇気。

 

 リリンの声が思い出し、頭の中で反復する。

 手を当てた胸が、昨日のように彼女の優しさで満ちていく。

 

(リリンちゃん・・・わたし・・・。)

 

 そして蛍は、改めて自分に問う。本当は、どうしたいか。

 

(わたしは・・・ほんとうは・・・。)

 

「たすけたい・・・ダークネスにおそわれた人たちを、

 ひとりでたたかいつづけるキュアブレイズを、

 そして、チェリーちゃんを・・・。

 でも・・・こわい・・・。」

 

 だけどその恐怖は、今までと一緒なだけ。

 あと一歩踏み出す、ほんの小さな勇気が足りていないだけだ。

 そして昨日、その一歩を踏み出すことが出来たはず。

 蛍はプリキュアへ覚醒した時のことを、頑張って思い出し始める。

 

「リリンちゃん・・・。おねがい・・・。わたしに勇気を・・・かして。」

 

 本当にしたいことは確認できた。

 後は一歩、踏み出すだけの勇気を思い出すだけ。

 

 

 戦いに行って何になるの?

 どうせまた逃げ回るのでしょ?

 キュアブレイズの迷惑になるだけだよ?

 わたしが無理して戦う必要なんてないんだよ?

 

 

 頭の中に繰り返される声。でも、もう決めたのだ。蛍は胸の前で両手を握る。

 

「がんばれ!わたし!」

 

 リリンのおまじないを胸に、ほんの少しの勇気を出して、蛍は一歩踏み出した。

 その時、蛍の胸元から光が放たれた。

 光の中から現れたのは、昨日と同じパクト。

 蛍はパクトを両手に取る。

 だけど今度は無意識の内に、流されるのではない。

 自分の意思で、大きくその言葉を唱える。

 

「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」

 

 光に包まれた蛍は、キュアシャインへと変身を遂げたのだ。

 

「世界を照らす、希望の光!キュアシャイン!」

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 キュアブレイズは陰ながら、そんな蛍の姿を見つめていた。

 彼女がキュアシャインに変わるのを見て、ある疑問が脳裏をよぎる。

 

(昨日ダークネスに襲われた子が、キュアシャインだったなんて。

 ということはあの子、自力で闇の牢獄から脱出したということ?)

 

 変身したキュアシャインは、そのままソルダークの気配がするところへと飛び立った。

 キュアブレイズは気づかれないように、彼女の後を追うのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ソルダークの気配を追った蛍は、ついにその姿を捉えた。

 ソルダークの肩には、昨日見た悪魔の姿もある。

 悪魔はまだこちらの気配には気づいていない。

 今ならまだ引き返せるという考えが一瞬よぎるが、蛍はそれを振り払うように大声をあげた。

 

「ダッダークネス!!」

 

 悪魔が声に気づき、こちらを振り返る。

 

「キュアシャインか。」

 

 悪魔はまるで血のような赤い眼で睨み付けてくる。

 一瞬それに怯む蛍だが、その眼を真っ直ぐに捉える。

 

「こっこれいじょう、すきかってはさせ、」

 

 だが蛍の言葉を待たずに、悪魔はこちらへ飛び掛かってきた。

 

「えっ?」

 

 鋭利に尖った爪が正面から襲い来る。

 蛍は反射的にそれを腕で防御した。

 悪魔の爪が腕に深々と突き刺さるかと思ったが、蛍の腕は、まるで鉄板のようにその爪を跳ね除けた。

 両手は傷一つついていない。少し痛みがあるくらいだ。

 だが跳ね除けられた悪魔の爪も、折れることなく鋭利な原型を留めたままだった。

 常識が一切通用しない世界を前に、蛍は尻込みそうになる自分を必死に奮い立たせる。

 

「ふん。」

 

 悪魔は体を捻り、勢いよく尾を蛍へとぶつけた。

 

「うっ」

 

 想像以上の衝撃を受け、蛍は態勢を崩してしまう。

 だが悪魔は追撃の手を緩めず、両手で交差するように爪を払った。

 

「きゃあああっ!」

 

 突き立てられた爪が体を這う。その衝撃と痛みが蛍を襲う。

 体に傷はつかず、ドレスが裂かれることもなかったが、痛覚までは消せなかった。

 痛みを前に蛍は涙ぐむ。

 今すぐにでも逃げ出したいが、弱気になる自分を必死に堪える。

 このまま攻撃を受け続けるわけにもいかない。

 こちらからも反撃をしなければ。

 

「たあああっ!」

 

 蛍は勢いめがけて拳を悪魔へと振る。

 

「素人が。」

 

 だが悪魔は僅かな動きでそれを回避し、逆に勢い余った蛍は自らバランスを崩してしまった。

 隙だらけになった蛍に、悪魔は再び尾を払う。

 直撃を受けた蛍はコンクリートの上に叩き付けられ、さらにソルダークが追撃を拳を繰り出した。

 

「きゃあああっ!」

 

 ソルダークの一撃を受け、何十メートルも先へと飛ばされる蛍。

 地に叩き付けらると同時にコンクリートを転がり、衝撃と摩擦熱が体に襲い掛かる。

 さすがのこの体にも擦り傷が出来始めた。

 

「いたっ・・・。」

 

 実力の差は歴然だった。

 どれだけ強い力を手に入れたとしても、蛍はケンカ一つ満足にしたことがない。

 それでも戦うと決めたのだ。蛍は痛みを堪えて立ち上がる。

 

「あれ・・・?」

 

 だが蛍の視線をあるものが横切った。

 そちらに目を向けると、酷く傷んでいるぬいぐるみようなものが地に転がっている。

 

「っ!?チェリーちゃん!!」

 

 蛍は悪魔たちから視線を外し、チェリーの元へと駆け寄った。

 その小さい体を抱き、必死に呼びかける。

 

「チェリーちゃん!チェリーちゃん!しっかりして!!」

 

 蛍の呼び声が聞こえたのか、チェリーはうめき声をあげながら、僅かに目を開く。

 ひとまず、息はあるようだ。

 だが妖精の生態を知らない蛍でも、一見してわかるほどの大怪我だ。

 

「ほた・・・キュアシャイン・・・なんで・・・?」

 

「それはこっちのセリフだよ!どうして・・・なんでこんなことに!!?」

 

 だがチェリーの返事を待たず、ソルダークが襲い掛かってくる。

 迫りくる巨人の拳を、蛍は避けながら、それでも必死でチェリーを落とすまいと両手に力を込めた。

 

「ごめんね・・・あなただって・・・怖かったはずなのに・・・、戦えだなんて・・・。

 でも私・・・やっぱりあなたに・・・キュアブレイズを・・・助けて欲しかったから・・・。

 だから・・・私も・・・逃げていないで・・・戦おうって・・・。」

 

 蛍はその言葉に息を飲む。

 チェリーは自分に戦えと言ったことを後悔している。

 だけど、チェリーはただキュアブレイズが心配なだけだったはずだ。

 故郷を失っても尚、1人で戦い続けるキュアブレイズを思って、蛍に戦ってほしいと言ったのだ。

 

「でも結局・・・なにもできなくて・・・

 あなたにどれだけ怖いことを・・・押し付けたのかを知っただけで・・・

 ごめんなさい・・・。」

 

 違う。悪いのは全て自分だ。臆病で逃げてばかりで、チェリーの思いを踏みにじって、自分の本当の思いさえ見失っていた。

 そのせいでチェリーを必要以上に追い詰めた挙句、身も心も傷つけてしまったのだ。

 

(わたしのバカ・・・。

 どうしてさいしょから・・・たたかうっていえなかったのよ・・・。)

 

 蛍は自分に対する怒りで体を震わせる。

 全ては、自分の臆病な心が招いてしまった結果だ。

 だからこそ蛍は、この場で決意する。

 もう、絶対に逃げ出したりしないと。

 執拗に続くソルダークの攻撃を躱し続けた蛍は、チェリーを一度避難させるべく、大きく距離を開けるように跳躍した。

 

「チェリーちゃん、すこしだけここでまってて。」

 

「キュアシャイン・・・。」

 

 チェリーを物陰に置いた蛍は、すぐさま戦いに復帰する。

 

「わたしはもう、にげたりなんかしない!はああっ!」

 

 果敢にソルダークへと立ち向かう蛍。だが、

 

「ソルダーク」

 

 悪魔の呼びかけと共に、ソルダークの周辺に無数の黒い矢が生成される。

 

「え?」

 

 生成された黒い矢は蛍へと一斉に飛び掛かり、巨大な爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「キュアシャイン・・・。」

 

 チェリーは傷ついた体を上げ、爆発のした方を見ようとする。

 

「チェリー。」

 

 そんなチェリーの元に、キュアブレイズが姿を見せた。

 

「キュアブレイズ・・・。」

 

「あなた、その傷は・・・。」

 

 キュアブレイズが心配そうに、自分の体を抱き上げた。

 そんな彼女の様子に少し安堵するチェリーだが、すぐに蛍のことを思い出す。

 

「私のことより・・・キュアシャインが・・・。」

 

 爆発が収まり、巻き上がった粉塵が晴れると、そこには、力なく横渡るキュアシャインの姿が映った。

 その姿を見たチェリー表情が、悲痛に歪む。

 

「キュアブレイズ・・・お願い・・・キュアシャインを助けて・・・。」

 

 チェリーはキュアブレイズに懇願するが、キュアブレイズは涼しい顔のまま、この場を動こうとしなかった。

 

「キュアブレイズ。」

 

「あの子の覚悟と力、今のうちに見定めておく必要があるから。」

 

「え・・・?」

 

 すると横渡るキュアシャインの体が、僅かに動き出したのだ。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 

 粉塵が収まり、視界が鮮明になったところでリリスはキュアシャインの姿を見つけた。

 全身に無数の切り傷を作り、虫の息で横たわっている

 何て弱い戦士なのだろうか。

 ソルダーク一体とすらまともに向き合えないなんて。

 

「脆いわね。キュアシャイン。もういいわ、これで堕としてあげる。」

 

 ソルダークにトドメを刺すのを指示しようした矢先、キュアシャインの体が僅かに動いた。

 キュアシャインは力を振り絞り、その場から立ち上がる。

 

「・・・きめ・・・たんだ・・・。」

 

 だが弱々しいその動きと声色が、戦う力が残されていないことを証明している。

 瀕死の状態で抵抗されても何ら問題はないが、これ以上は時間の無駄だ。

 

「ソルダーク。」

 

 リリスの呼びかけと共に、ソルダークはその拳をキュアシャインに振り下ろした。

 だがその拳を、キュアシャインは両手で受け止めた。

 

「なに?」

 

「たすけるって・・・きめたんだ・・・

 ダークネスにおそわれたひとを・・・

 ひとりでたたかいつづけるキュアブレイズを・・・

 そして・・・チェリーちゃんを、たすけるって・・・。」

 

 キュアシャインの体が徐々に強い光を帯びていく。

 

「わたしは!きめたんだああああああああっ!!!」

 

 キュアシャインは雄叫びと共に、全身から凄まじい光の力を解放した。

 

「なに!?」

 

「はあああああああっ!!!たああっ!!!」

 

 ソルダークの拳にキュアシャインの拳が叩き込まれる。

 直後、ソルダークの巨体が遥か後方へ吹き飛ばされた。

 

「ちっ!」

 

 突然のパワーアップに戸惑うも、所詮は瀕死の相手。

 こうなったら直々にトドメを刺してやる。

 リリスはキュアシャインへ向けて飛び上がり、引っ掻くように腕を払った。

 だがキュアシャインはそれを難なく片手で跳ね除けた。

 

「なにっ・・・。」

 

 直後キュアシャインは、腕を大きく振りかぶり、振り下ろしてきた。

 これまでのように隙だらけな動き。

 だが、

 

(速い・・・)

 

 リリスは反射的に爪を突き立てて応戦する。

 だがキュアシャインの拳は、突き立てられたリリスの爪を粉々に砕いた。

 言葉を失うリリスだが、同時に溢れ出る力の奔流に巻き込まれ、そのまま後方へと吹き飛ばされた。

 

「なに・・・なんなのよ!その力は!」

 

 だがリリスは、眼前に力を集中させるキュアシャインの姿を捉えた。

 

「ひかりよ、あつまれ!シャインロッド!!」

 

 キュアシャインの呼びかけと共に、虚空からは小さな杖が現れる。

 キュアシャインがその杖を正面に構えた瞬間、膨大な光の力が集約され始めた。

 リリスは直感で危機を感じ取る。

 あれを放たれる前に倒さなければならない。

 

「ソルダーク!!」

 

 リリスの呼びかけと共に立ち上がったソルダークは、

 持てる全ての力を凝縮させ、巨大な矢を生み出しキュアシャインへと放った。

 

「プリキュア!シャイニング・エクスプロージョン!!」

 

 だがキュアシャインも集約させた光を一気に解放した。

 解放された光は、巨大な光線となってソルダークへと放たれる。

 光線は、ソルダークが全力で作りだした闇の矢を容易く消し飛ばし、全長10m以上はあろうソルダークさえも、容易く飲み込んでいった。

 

「っ!?」

 

 迫りくる光線はリリスの真横を掠めたが、その衝撃で大きく吹き飛ばされる。

 

「ガアアアアアアアアッ!!!」

 

 そして光に飲み込まれたソルダークは、断末魔をあげながら消滅していった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「はあっ・・・はあっ・・・。」

 

 急激に力が抜けた蛍は、シャインロッドを落とし、その場に膝をついた。

 無我夢中だったので、何が起きたのか覚えていないが、ソルダークの気配が去っていることから、どうやら無事に撃退できたようだ。

 安堵した蛍だが、直後に闇の力の気配を感じると同時に、悪魔が目の前に姿を現した。

 

(そんな・・・。もう力はのこってないのに・・・。)

 

 だが感じ取れたその力も、とても弱々しかった。

 そして今も、その力は失われ続けているようだ。

 

「・・・キュアシャインと言ったわね・・・。」

 

 突然悪魔が自分の名を訪ねてくる。

 

「え・・・?」

 

「あたしは、ダークネスが行動隊長、リリス・・・。

 覚えておきなさい・・・。いつか必ず・・・・。」

 

 それだけを言い残し、悪魔は姿を消した。

 

「おわった・・・。」

 

 悪魔の姿が見えなくなったのを確認した蛍は、改めて安堵する。

 今頃体が震え出した。

 腰が抜けてしばらくは立てそうにないかもしれないが、蛍には、まだやるべきことがあった。

 

「キュアシャイン・・・。」

 

 すると物陰に避難していたチェリーが、キュアブレイズに抱えられた姿を見せた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 戦いの顛末を全て見ていたチェリーは、驚愕を隠せなかった。

 突然キュアシャインが強大な光の力を発現し、ソルダークを一撃で浄化してしまったのだ。

 あれほど強大な光の力は、今まで見たことがない。

 ひょっとしたらキュアブレイズよりも・・・。

 

「チェリーちゃん。ケガはだいじょうぶ?」

 

「うん。・・・あの、キュアシャイン、」

 

 チェリーが話しかけようとするが、キュアシャインは辺りを見回し始めた。

 何をしているのかを聞くより早く、キュアシャインが目的の人物を見つける。

 

「いたっ。」

 

 キュアシャインが駆け付けた先には、壁に背をかけ、項垂れている青年の姿があった。

 僅かに感じられる闇の牢獄の気配。

 先ほどのソルダークを生み出した青年だろう。

 

「あっあの、だいじょうぶですか?」

 

 キュアシャインが青年に声をかける。

 

「・・・俺は一体・・・。」

 

「・・・ずっと、ここでうなだれていました。

 あの、きぶんはわるくないですか?」

 

「・・・。」

 

 しばしの沈黙の後、青年が口を開いた。

 

「・・・怖い夢を見ていたようだ。

 何も見えない暗闇の中で、自分の声だけが聞こえて、

 ずっと、後悔の言葉だけが繰り返されて、それ以外は何も聞こえなくて・・・

 ちょっと、イヤなことがあった後だったから、疲れていたのかもな・・・。」

 

 キュアシャインは青年の独白を静かに聞き続ける。

 

「でも、あの程度のことで、あんな悪夢を見てしまうなんてな。

 一度イヤなことがあったくらいで、なんで自分だけが、なんて偉そうに落ち込んじゃってさ。」

 

「・・・がんばれ、わたし・・・。」

 

「本当に、自分のどうしようもなさにウンザリするよ・・・。」

 

「だっだれだって!じぶんのこと、いやになることがありますよ!」

 

「えっ?」

 

「自分がいやで、どうしようもなくて、

 大きらいにおもうこと、なんどもあります!

 だから・・・あなたはなにも・・・わるくない・・・。

 ・・・わたしだって・・・なんども・・・

 だから・・・だから・・・

 ・・・おちこんだって、いいとおもいます。

 いやなことがあったら、たくさん泣いて、たくさんおちこんで、

 そして・・・また次、がんばれば、いいんです・・・」

 

 涙を流しながら、必死で青年を励ますキュアシャイン。

 そんな彼女の言葉を受けた青年は、その場から立ち上がり、

 

「・・・ありがとう。」

 

 キュアシャインにお礼の言葉を述べた。

 お礼を言われたキュアシャインは、涙を拭いながら顔を上げる。

 

「君のおかげで、少しスッキリしたよ。

 見ず知らずの女の子に励まされるなんて、男としてカッコつかないけどさ。」

 

「えと・・・ごめん・・・なさい・・・。」

 

「はははっ冗談だよ。・・・君の言う通りだ。

 もう一度、いや、もう何度だって頑張ってみるよ。」

 

「・・・はい。」

 

 青年はそう言い残し、この場を立ち去っていった。

 その光景を見たチェリーは、キュアシャイン、蛍の人物像を垣間見たように思えた。

 誰かを助けたいという思いから勇気を出し、闇の牢獄に囚われた人を助ける為に、戦う覚悟を決めた蛍。

 なぜ彼女がプリキュアに覚醒したのか、ほんの少しだけ分かったような気がした。

 

「チェリー。」

 

 青年を見送った後、キュアブレイズが声をかけてきた。

 

「約束よ。一緒に帰りましょう。チェリー。」

 

 キュアブレイズがそう呼びかける。

 だがチェリーは、一つ心に決めたことがあった。

 

「・・・キュアブレイズ。

 私、しばらく蛍と一緒にいようと思う。」

 

「え?」

 

 驚いて声を挙げたのは蛍の方だった。

 

「蛍が、プリキュアとして戦う決心をしてくれた。

 だから私は、そんな蛍を全力で助けたい。

 私には戦う力はないけど・・・まだ蛍に教えなければならないこと、

 話さなければならないこと、沢山あるの。

 だから私・・・蛍の力になりたい!・・・蛍、いいかな?」

 

「・・・わたしは、もんだいないよ。

 チェリーちゃんがいっしょにいてくれると、心強いから。」

 

「蛍、ありがとう。」

 

 キュアブレイズはチェリーの言葉を聞いた後、抱えていたチェリーを静かに手放した。

 手放されたチェリーは、彼女の意をくみ、蛍の元へと飛んでいく。

 

「わかったわ。チェリー、その子のこと、ちゃんとサポートしなさい。」

 

「うん。」

 

「キュアシャイン、ダークネスと戦う覚悟をしたのなら、もう逃げることは許さないわよ。」

 

「うん・・・。あの、キュアブレイズ。このまえはたすけてくれて。」

 

 だが蛍の言葉を待たずに、キュアブレイズはその場を飛び去った。

 

「あっキュアブレイズ。」

 

 その様子を、チェリーは寂しげな表情で見送った。

 

「・・・蛍、改めて謝らせて。

 ごめんなさい。嫌がるあなたを無理やり戦わせようとして。」

 

「・・・わっわたしこそごめんなさい・・・。

 たたかう勇気がなかったから、チェリーちゃんにむりをさせちゃって・・・。」

 

 蛍が気に病むことはない為、本当は謝罪の言葉も受け取りたくなかったが、そう言ってもきっと納得してくれないだろう。

 このままではお互いに謝り合戦が続きそうなため、チェリーは無言でその言葉を受け取った。

 

「それじゃあ、これからよろしくね。蛍。」

 

「こちらこそ、よろしくおねがいします。チェリーちゃん。」

 

 陽が沈みかけ、夕焼けが空を焦がす頃、蛍とチェリーは静かに握手した。

 それはチェリーが、蛍のパートナーとなったことを静かに物語っていた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 色のないモノクロの空間の中、リリスは肩を抱えていた。

 体中から闇の力が抜け落ちていく。満足に力が入らず、近くの壁にもたれかかる。

 容易に倒すことが出来る相手だったはずだ。

 振る舞いは素人同然。ソルダークすらまともに相手を出来ない、キュアブレイズの足元にも及ばないほどの脆弱な戦士。

 それが突然、強大な力を覚醒させた。

 

「くっ・・・うぐっ。」

 

 力が削がれていくのが治まらない。あの浄化技を受けたせいだろう。

 だが直撃を受けたのはソルダークだったはずだ。

 自分はそれを掠めたに過ぎない。それでもこれだけの重傷だ。

 もしも、あれが直撃していたら・・・。

 

「っ!?負けていた・・・あたしが、あんな脆いやつに・・・?」

 

 その事実を認識した直後、リリスは胸に痛みを覚えた。

 

「キュアシャイン・・・」

 

 焼かれるような黒い衝動がリリスの胸を焦がす。

 

「キュアシャイン。」

 

 その名を反復する度に、炎が火力を増していく。

 胸を焼く炎は徐々に電流へと変わり、リリスの全身を駆け巡る。

 

「キュアシャイン、キュアシャイン、キュアシャイン。」

 

 やがて電流が脳に到達し、やつの声が、顔が、仕草が、次々と脳裏に焼き付いていく。

 

「キュアシャイン、キュアシャイン、キュアシャイン!!」

 

 自分に何が起きているのか、リリスには理解できていなかった。

 ただ1つわかることは、リリスの頭の中は今、キュアシャインのこと以外何もないということだけだ。

 

「キュアシャイン!!」

 

 砕けた爪で空を薙ぐ。標的のない虚空に尾をぶつける。

 

「あなたは!あなただけは!!あたしが、あたしがあああ!!」

 

 再びキュアシャインの姿が、リリスの脳裏にフラッシュバックする。

 

「っ!?キュアシャイイイイン!!!」

 

 胸に渦巻く初めての『感情』に駆られ、リリスは彼女の名を叫び続けた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

 

「これからよろしくね、蛍。」

 

「よろしくね。チェリーちゃん。

 さっそくだけど、わたしはこれからなにをすればいいの?」

 

「まずは、残りの2人のプリキュアを探さないと。

 プリキュアが4人揃えば必ずダークネスを倒すことが出来る!」

 

「わかった。わたし、がんばってさがしてみるね!」

 

「なになに?何の話をしてるん?」

 

「あっ、もりくぼさん。えっとね、プリキュアを」

 

「きゃー!プリキュアの話をしちゃダメー!」

 

「あっそうだった!」

 

「ってヌイグルミがしゃべったあああ!」

 

「はっ!」

 

 次回!ホープライトプリキュア 第3話!

 

「電光石火!雷光の戦士、キュアスパーク!」

 

 希望を胸に、がんばれ、わたし!


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