第23話・プロローグ
上を見上げれば、一切の光の差す間もなく、暗き闇が広がっている。
辺りを見渡せば、地平線の彼方まで果てなく黒に染まっている。
一瞬にして、絶望の闇に飲みこまれた世界の中、山のように高く聳え立つ黒き女神像は、2人の少女の声で悲しい叫び声をあげていた。
彼女が叫ぶ度に世界を覆う黒は一層深みを増し、人々の嘆き声が蔓延していく。
そんな中でも、要と雛子、そして千歳の3人は光を失わずにいた。
蛍とリリンは必ず帰ってくる。その希望だけを胸に秘めて。
「来るわよ。」
やがて女神像の赤い双眸が、地上にいる要たちを捉えた。
訳もなく叫び続けているように見えたかと思ったが、こちらのことは認識できているようだ。
「「キャアアアアアアアアア!!!」」
女神像が叫び声と共に、両翼から絶望の闇をしなる鞭のように伸ばして来た。
要たちは後退しながらその攻撃を回避するが、闇の鞭は地面に深々と突き刺さり、地面を抉り取るほどの衝撃が巻き起こる。
一撃で地盤を沈下させるほどの威力に要は衝撃を受けるも、次の瞬間、女神像の叫びと共に黒い衝撃波が襲い来る。
「2人とも下がって!」
雛子が前に躍り出て盾を展開するが、それは1秒も持たずに砕け散った。
だがその僅かな時間を利用して、要と千歳は速さに任せて雛子を引っ張りながら攻撃を逃れる。
女神像へと形を変えても、ダークシャインが持っていた希望の光を打ち消すと言う特性は残されているようだ。
それを思えば、彼女の力が蔓延しているこの世界で、自分たちが変身状態を保てること自体が奇跡に近いのかもしれない。
「キャアアアアアアアアア!!!」
女神像の叫び声は、蛍とリリンの声が入り混じったものだ。
それを聞いた要の脳裏に、蛍に触れたときの言葉が思い出される。
みんなキライだ!ぜんぶこわれちゃえ!!
あの時、絶望した蛍は世界の全てを壊したいと願った。
その暗く深い闇が、ダークシャインを生み出した。
そしてリリスは、蛍との思い出を捨てるためにこの街を壊そうとした。
かつて自身の希望であり、世界であった全てを壊したいと言う絶望の思い。
2人の希望と絶望は、恐らくとても近しいものだったのだろう。
その2つの思いが共鳴し、目の前の女神像を誕生させた。
となれば、自分たちに逃れる術はない。
なぜなら彼女にとって壊すべき『希望』の1つとして認識されているはずだから。
それならばいっそ、好都合だ。迷う必要がなくなる。
元より自分も、雛子も千歳もみんな、ただ蛍が帰ってくることだけを信じて、戦う以外に道は残されていないのだから。
「2人とも、絶望なんてするなよ。」
「勿論。」
「偉そうに。」
片や頼りになる言葉、片や聞き慣れた毒の言葉。
よし、大丈夫だ。2人とも希望を失っていない。
3人は無謀とも言える決意を胸に秘めて、黒い女神像を正面から見据えるのだった。