第22話・プロローグ
絶望の闇が空を覆い始め、夢ノ宮市の景色から色が失われていく。
そんな中、千歳は要たちと共に自分のアパートに戻るところだった。
帰り道の中、千歳は先ほどの戦いを思い返す。
リリンの正体を知ってしまった蛍が絶望し、その闇から生まれた黒いキュアシャイン。
その力は凄まじく、千歳と要が2人がかりでもまるで歯が立たず、一方的に敗れてしまった。
その後に意識を失い、気が付けばリリスたちは姿を眩ましたが、蛍が今も、雛子の腕の中で絶望の闇を生み出し続けている様子を見るに、黒いキュアシャインは健在のようだ。
あいつを倒さなければ蛍は救えないのだろうか?そして自分たちに倒すことが出来るのだろうか?
そんな不安を抱いている内にアパートに着き、そのまま自室へとみんなを案内する。
そして雛子が蛍をそっとベッドの上に寝かせた直後、彼女は急に力が抜けたように膝をつく。
「雛子!大丈夫!?」
要とレミンが心配そうに駆け寄り、雛子に手を差し出す。
「平気よ・・・少し疲れただけ・・・。」
疲労が滲み出る声色で雛子が返事をする。
彼女は蛍が絶望してから、ずっと蛍のことを抱えていた。
つまりその間、蛍の絶望の声をずっと聞き続けていたことになる。
それが雛子の精神を蝕み、心身ともに疲弊させていたのだろう。
雛子の顔色は見るからに悪く、息も切らしているが、それでも手を差し出してくれた2人に微笑みながら、その手を取って立ち上がる。
だがそんな雛子の気丈な振る舞いも、この場の重い空気を払い除けるには至らなかった。
それはこの街が、夢ノ宮市が絶望の闇に覆われてしまったからだけではない。
いつも明るく、無邪気な笑顔を見せていた蛍が、まるで壊れた人形のように虚ろと横たわっているからだ。
その様子を見たベルは悔しさに拳を握り、リン子は目頭を押さえている。
サクラとレミンは必死に涙を堪え、要と雛子も悲痛に顔を歪めていた。
(リリス・・・。)
こうなったのも全て、あいつのせいだ。
やつが蛍の弱みに付け込んで、トモダチのフリをして利用し、そして最後には絶望させて捨て去った。
あいつさえいなければ、こんなことにはならなかったのだ。
その目的は間違いなく、あの黒いキュアシャインを生み出すためだろう。
トモダチであり恩人でもあるリリンに裏切られたとなれば、蛍が強大な絶望の闇を生み出すと思ったに違いない。
だけどその一方で、心のどこかにまだ引っかかりを覚えている自分もいる。
本当にそれが真実なのかと、自分は何か重大なことを見逃しては・・・。
(絶対に・・・許さない・・・。)
だがそんな一沫の迷いさえも振り切るように、千歳はこれまで以上にリリスへの怒りを燃やすのだった。