第21話・プロローグ
この日の学校が終われば夏休みが始まる。
そんな1学期最後の登校日だが、蛍の表情は暗かった。
以前の戦いでリリスが問いかけた言葉が、頭の中で反復されている。
そしてその度に蛍の脳裏に最悪のシナリオが過り、それを無理やり振り払っては否定する。
それをここ数日、ずっと繰り返しており、蛍自身も知らない内に身も心も疲弊していたのだ。
「おーっす、蛍おはよう。」
「おはよう、蛍ちゃん。」
「蛍。」
学校まで近づくと、偶然登校の時間があったのか要と雛子、そして千歳の3人が声をかけてきた。
「みんな、おはよ。」
今の自分に出来る精いっぱいの元気を見せて笑うが、3人とも心配そうな顔をする。
作り笑いでしかないのは蛍自身もわかっており、それゆえにどうしようもないことだった。
「ん、おはよう。」
「今日で学校は休みだし、お昼はみんなで学食にいかない?」
「そうね。
しばらくは学食のカレーが恋しくなりそうだし、そうしましょう。」
それでも要たちは、いつもと変わらない様子で接してくれる。
「うん、みんなで、おひるごはんたべよ。」
そんなみんなの気持ちは素直に嬉しいから、蛍も普段のように過ごすように努める。
いつもと変わらぬ日々を過ごしている内にリリンとの日常も元通りになり、今日までの不安は夢の中へと消えていくことを、心のどこかで願いながら。
…
モノクロの世界。
リリスは壁にもたれ掛かりながら、かの地にいる蛍のことを考えていた。
彼女の正体がキュアシャインだと知っても尚、自分は蛍を絶望させることを躊躇っている。
「どうして・・・何を躊躇う必要があるの・・・?」
そう自問しても、答えは帰ってこない。
脳裏をよぎるのはいつだって、自分のことを信じて、自分と一緒にいることを幸せと語る蛍の笑顔ばかりだ。
「なんで・・・そんなにまであたしのことを・・・?」
リリスは蛍のことなんてただの道具としか思っていない。
利用するだけ利用して、最後には捨ててやろうとすら思っていたのに。
結局あの子は、自分の事なんて何もわかっていない。
そんな愚かな子のことなんて、簡単に切り捨てていいはずなのに。
それにあの子は、キュアシャインは自分の事を否定したのだ。
自分が楽しいと思った気持ちを、あの子が与えてくれると言ったものを切り捨てた。
それなのに、まだ捨てきれていないのか?
そんな愚かな子が、自分の事なんて何もわかってくれない子が、与えようとしているものを・・・。
「あたしは・・・。」
もう何度目かもわからない自問を繰り返す中、リリスの脳内にアモンの声が響く。
リリス、君たちに話したいことがある。玉座の間まで来なさい。
「・・・はい、アモン様。」
恐らくまた、プリキュアに関する新たな任務だろう。
あの子との繋がりを断ち切るチャンスとなるかもしれない。
リリスは行動隊長に戻るべく、アモンの待つ玉座の間へと向かうのだった。