第20話・プロローグ
「リリンが、リリスだって・・・?」
雛子の隣で、要が口元を震わせながら呟く。
目を見開いた表情は、とても信じられないと言いたげな様子だ。
「ええ、そうだとすれば全て説明がつくのよ。
リリンがなぜ蛍に自分のことを話さないのかも、ダークネスが蛍の正体を知ったことも、あのときリリンが絶望の闇を発してもいないのに、闇の牢獄に残されたのかも。」
だが千歳は淡々とその証拠を口にする。
要は一瞬、何かを言おうとしたがすぐに唇を噛みしめて俯いた。
反論しようにも、その根拠となる証拠がないのだろう。
「それに、蛍が言ってたじゃない。
この街に来て初めてリリンと会った日に、闇の牢獄に閉じ込められた。
そしてその時に自分からソルダークを造り出したのがリリスだって。
いくらなんでも、偶然が過ぎると思わない?」
「っ・・・。」
そのまま要は黙り込んでしまった。
そして少しこちらに目配せする。
何か反論してくれるのではないのかと期待をしているのだろうが、雛子は、それに応えてあげることはできなかった。
「・・・雛子は、そんなに驚かないのな。」
「・・・ええ、可能性の1つとして考えてたことだったから。」
そう、雛子も千歳と同じことを考えていたのだ。
千歳から行動隊長の特徴を聞いたあの日、自分の頭に真っ先に浮かび上がったのがリリンの存在だった。
蛍とあれだけ親しくしているのにプライベートに関する情報は頑なに話そうとしない。
それにこれまでリリスが現れる時は、リリンが蛍と一緒にいる時と重なることが多かった。
偶然とするにはあまりにもタイミングが良すぎる。
気のせいとするにはあまりにも言動が不審過ぎる。
だから自分が、リリンの正体をリリスだと仮定するまでにそう時間はかからなかった。
「・・・わかんなかったのは、ウチだけか・・・。」
「要・・・。」
自嘲気味に呟く要をベリィが気遣うように肩に手を置く。
だけど雛子は、要が悪いとは思わなかった。
要は優しいから、友達である蛍が大切に想っている相手のことを、疑おうと思わなかっただけだ。
今回はたまたま、そんな人の好さが裏目に出てしまっただけ。
だから何も気にする必要なんてないのだ。
他者を無条件に受け入れることができるのは要の美徳は、まず人を疑ってかかるような捻くれ者な自分にとっては、眩しく憧れるところだから。
「要、気持ちはわかるけど蛍のためにも、ここは私たちが心を鬼にしなくちゃいけないのよ。
リリン、いいえ。リリスは心を持たない行動隊長。
蛍のことなんて何とも思っていないはずだわ。
だから私たちが、あの子を守るために・・・。」
喉元まで出てきた言葉を千歳は飲みこむ。
言わんとする言葉が、蛍にとってどれだけ残酷な意味をするのか、わかっているからだ。