第18話・プロローグ
夢ノ宮中学校より少し離れた住宅地の一帯。
そこにあるファミリー向けのマンションで、千歳はいつもと変わらぬ朝を迎えていた。
ベッドから起きて身だしなみを整え、リビングへと足を運び入れる。
「おはよう、千歳。」
「おはよう、リン子。」
既にリン子が朝食の支度を済ましており、テーブルの上にはトーストパンと目玉焼き、サラダにモーニングコーヒーが並べられていた。
千歳が起床する時間に合わせて食事の支度をする、というのは昔からリン子が得意とする技である。
こちらの世界に来てから、秒単位で時間を測れ指定された時間にベルを鳴らす目覚まし時計を活用するようになり、故郷にいたときよりも正確な時間に起きる習慣を身に付けているので、リン子も故郷にいた時よりもさらに正確なタイミングで朝食が出るようになっていた。
「いただきます。」
さっそく椅子に座りパンを一口。
サクっと気味の良い音と共に焼きたてのパンを美味しく頂く。
こちらの食事の好みを知り尽くしている彼女ならではの焼き加減だ。
リン子もテレビを付けた後、座って食事を始める。
「そろそろ期末試験の時期だけど、勉強の方は大丈夫?」
食事をしながら、リン子が要が聞いたら肩を落としそうな話題を振って来た。
期末試験の実施は来月の上旬。
今月がもう半月を切っているので、そろそろ試験対策も本格化してくる時期だろう。
「何も問題ないわ。」
だが千歳はあっさりとそう答える。
この世界に来たばかりの頃、生きていくために必要な知識を身に付けようと思い、学校の勉強には必死に取り組んできたのだ。
結果として、生活する上で必要な知識と言うものは学校からほとんど学ぶことは出来なかったが、故郷にはない多くの分野に関する学問や、この世界の歴史についての知識は非常に興味深く、千歳にとってはキラキラと輝く宝石のようなものだった。
以降、日々の予習と復習に積極的に取り組んでいる。
そして試験と言うのは日々の勉強の成果をみせるものなので、言うなれば千歳は毎日試験勉強を続けているようなものなのだ。
だから試験の日程が近づいたからと言って特別焦る必要はない。
伊達や酔狂で学年1位を取り続けているわけではないのである。
「そう、それなら良いわ。」
しばし会話が途切れ黙々と食事が続くが、リン子にはいつものような落ち着いた様子がなく、どこか忙しないように見えた。
時々こちらの様子をちらちらと伺い、話を切り出すためのタイミングを見ているようだ。
「リン子、どうかしたの?」
さすがに彼女の様子が気になり、千歳自らが助け舟を出す。
するとリン子はしばし頬をかいて目線を逸らし
「あ~え~っとね。」
らしくもなく歯切れの悪い様子で話題を切り出し、こちらを伺いながら
「私、来週3日間だけ出張することになったの。」
「・・・ええ~っ!!!?」
千歳の日常を吹き飛ばす発言をサラリと飛ばしてくるのだった。