第17話・プロローグ
週明けの朝、要は隣に並ぶ雛子が呆れるほどの上機嫌で登校していた。
教室に入ると、自分の後ろの席には既に蛍の姿がある。
「蛍、おはよー。」
「おはよー、かなめちゃん・・・。」
少し元気がないように見えたが、要は特に気にせず自分の席に着く。
すると真と愛子がこちらに話しかけに来た。
「要、雛子、おはよう。」
「おーう。」
「どうしたの要?随分と機嫌がいいじゃない?」
「家を出てからずっとこんな感じよ。」
怪訝そうにこちらを伺う愛子にため息をつく雛子。
そして真が何かを悟ったように手のひらを叩く。
「あっわかった。今週末に運動会があるからだろ!?」
「へへん、正解!」
犯人はお前だ!と言いたげな勢いで指をビシっと刺す真に、要は親指を立てて太鼓判を押す。
彼女の言う通り今週末の土曜日、この夢ノ宮中学校で運動会が開催されるのだ。
最近では夏の暑い時期に開催すると熱中症の危険性が高まるとかで、開催時期を夏から秋に変更していく学校も多々あるようだが、ここ夢ノ宮中学校では昔からの伝統を引き継ぎ夏に開催されている。
時期的にもまだ夏の暑さが本格化する前なので、去年の運動会も特に気にならなかった。
最も自分は夏だろうが冬だろうが外に出て身体を動かしたい他称・スポーツバカなわけだが、ともかく運動が大好きない要にとって、一日中体育の授業をすると言っても過言ではない運動会は、休日を返上するだけの価値があるのだ。
「それに、今日から運動会の予行練習やろ?
それも楽しみで仕方なくてね~。」
運動会までの一週間は、体育の時間を使い予行練習を行うことになっている。
さらにこの間は、グラウンドや競技に使う道具の整備点検のために全校の運動部が一律休止となり、代わりに運動部に所属する生徒たちはその準備を手伝うことになっている。
一週間バスケに触れないのは残念だが、試験前の休止期間と比べれば遥かに天国だし、待つのが祭なんてことわざがあるように、この準備期間も要にとっては楽しいひと時なのだ。
「な?蛍も運動会楽しみやろ?」
そう言いながら要は後ろに座る蛍の方へ振り向くと・・・
「うぅ~・・・。」
要の言葉を聞いた途端、蛍は机に突っ伏してしまった。
声から雰囲気から何からまで非常に億劫だ、と言う思いが伝わってくる。
「あっあれ?なんで!?
蛍、クラスのみんなで学校行事に取り組むの楽しみやって言うてたやん!?」
友達と一緒に人並みの学校生活を謳歌したいと言うのが夢だと語る蛍のこと。
クラス全員が団結して1つの行事に取り組むのは彼女にとって楽しみなはずだと思っただけに、要だけでなく、雛子と真、愛子も驚いた様子を見せる。
同時に要は自分がこれほどに楽しみにしていたことを真っ向から態度で否定されてしまい、少しショックを受けるが、一方で何か大事なことを忘れているような、という引っかかりを覚える。
「わたし運動はにがてなんだってばあ!!」
「「「「あ・・・。」」」」
だが、蛍から発せされた嘆きを聞いて4人は一斉に納得する。
同時に要は、以前蛍が友達と叶えたかった夢想の数々をフルバーストで語ったとき、『運動会』だけはスルーしていたことを思い出すのだった。