蛍が雛子に拘束されている最中、要たちは3軒ほど先にある洋服店に足を運んでいた。
雛子や愛子が良く利用するこの店は、レディースの洋服を多く扱っているところであり、そのためかベルはどこか居心地が悪そうだった。
「ねえ真、この洋服似合うかしら?」
「ん?まあ、いいんじゃない?」
「も~、ちゃんとよく見てよ~。」
真と愛子が付き合いたてのカップルのような会話を繰り広げているが、要は特に気にも留めずに洋服を見て回る。
やがて余計な模様の無いシンプルなTシャツが目に留まり、要はそれを手に取り肌触りを確認する。
「要って、あまりお洒落には興味ないの?」
「ん?」
すると千歳がそんなことを聞いてきた。
「まあ、興味ないってわけじゃないけど、あんまり積極的にしたいって思うもんでもないかな。」
ボーイッシュとよく言われる要も青春真っ盛りの女子中学生。
女の子らしくキュートでポップなデザインの洋服を着てみたいと言う気持ちがないわけではないが、要が服を選ぶ基準の中で最も優先されるのが、動きやすいか否かだ。
そして女の子のオシャレと言えば、コーディネートを重視した重ね着や、下着が見えないように気を遣うスカートを着用しなければならないと言うイメージがどうしても付きまとう。
学校でもなるべく体操着でいたいと思う要にとって、それは例えるなら西洋の甲冑に身を包むようなものなのだ。
結果、要の服装は季節を問わず、Tシャツにデニムと言う服装になりがちであり、それらもメーカーのロゴが刻まれている程度のシンプルなデザインに纏まってしまう。
これが悪友からお洒落には無縁と言われる所以である。
「ふ~ん、あなたスタイルいいんだし、どんな服を着ても似合うと思うけど。」
「えっ・・・?」
千歳の思わぬ言葉に、要はつい声を詰まらせてしまう。
確かに日頃からスポーツ少女として体調管理にはそれなりの気を遣っている。
良く身体を動かすのは勿論、こう見えてもお菓子やジュースの食べ過ぎ飲みすぎに注意しているし、夜更かしだってあの鬼母が常に目を光らせていると言うのもあるが、友達との泊まり会の時くらいしかせず、平日だけでなく日曜朝のおかげで休日でも早起きする習慣が身に付いている。
その甲斐あってか、身体には程良く筋肉がついており、背丈だって同世代の女の子の中では高い。
肥満ではなく健康的な容姿であると言う自負はあるが、同時に悲しいくらい起伏がないことも自覚している。
凹凸がほとんど見られないこの身体には、少なくとも女の子としてのスタイルの良さがあるとは思えない。
一体全体どう見たらそんな感想が出るのかと一瞬、千歳の視力を疑ったがそれ以上にそんな褒め言葉を堂々と言われては照れくさいのだ。
(この子・・・こうゆうこと平然と言えるから困るわ・・・。)
かつて千歳が蛍を指して『わざわざからかわなくても十分に可愛い』なんていけしゃあしゃあと言ってのけたことを思い出し、要は少し頭を抱える。
どうも千歳は相手に対する好意を包み隠さず伝える性分のようだ。
同性ならまだしも異性が相手なら多少勘違いしてしまうのではないかと不安である。
「そうだ要。こんなのはどうかしら?」
すると千歳が自分で見つけたTシャツを差し出して来た。
「・・・はい?」
だが差し出されたTシャツは紫外線をこれでもかと遮断するほどの漆黒に染まっており、2本の大鎌がクロスを描いている中心にフードを被ったドクロが存在感を全面にアピールしているデザインだ。
その様相はどこからどう見ても人の命を刈り取りにくる神様のそれである。
「・・・却下。」
「え~。」
千歳が不服そうな声をあげるが、デザインのセンスを横に置いたとしても、この先夏真っ盛りを迎えるであろう時期に、そんなお天道様に堂々と喧嘩を売るようなTシャツを着たいとは思わない。
それに自分は暖色が好きだ。何から何まで好みが真逆なのである。
「つか、ようそんな服見つけたな。」
仮にもここはレディース用の洋服を多く扱っている店だ。
一体どんなニーズに応えて、そんな特定の男子中学生が喜んで飛び付くようなデザインの服を仕入れているのか。
男性用の商品も多少はあるので、一瞬男性用のTシャツを持ってきたのかと嫌味を疑ったくらいである。
「そう?カッコイイじゃない。」
だが千歳の言葉に、彼女が着ているドクロマークのTシャツと腰に巻かれたチェーンベルトを見て要はため息を吐く。
いましたよ。その特殊なニーズに応えてくれる顧客が。目の前に。
「あら?じゃあせっかくだし買ってあげようか?」
するとリン子が千歳に件のTシャツを薦めてきた。
今更ながら千歳の好みは、年頃の女の子としてはあからさまに浮いていると言うのに、リン子はそんな千歳の好みを否定せず受け入れてくれているようだ。
そんなところもパートナーと言うよりは母親のように見える一因である。
「いいわよ。
私の分の夏服は十分に間に合ってるし、似たようなデザインのシャツも持ってるからね。」
持ってるのかよ。と要は心の中でツッコミを入れる。
「ああ、そう言われてみれば似たようなものを買ってあげたわね。」
買ったのはあなたかよ。と要は再び心の中でツッコミを入れる。
「まあ本当は髑髏の目が丸いものよりも少し傾いている方が好きなのだけどね。」
なんだその拘りは。と要は三度心の中でツッコミを入れた後、ワザとらしくため息を吐く。
「なあ要、こうゆうのだったら着てみてもいいんじゃないか?」
するとベルが洋服を手に取りながらこちらに来た。
要の好きな橙色のTシャツに水色のキュロットだ。
確かにキュロットならスカートほど気を遣う必要がなく、かつ女の子らしいお洒落を少しは体験できるかもしれない。
「いやあ、でもそれちょっとヒラヒラしすぎやない?」
とは言え、見た目はスカートに近いので要は少しばかり抵抗を覚える。
何せこれまでスカートは制服以外ほとんど身に付けたことがないし、制服のそれはここまでヒラヒラしていない。
それを着た自分の姿を想像しただけでも、普段とイメージとかけ離れているものだからどうも躊躇してしまうのだ。
「あら、素敵じゃない。きっと要に良く似合うわよ。」
「私もそう思うわ。言ったでしょ?あなたは何を着ても似合うって。」
「2人まで・・・。」
だがリン子と千歳も一緒になって乗せに来たので、要は顔を赤くして明後日の方を向く。
ここまで素直に薦められると返って恥ずかしさが先行してしまうが、一方で一度でいいから着用してみたいと思う自分もいる。
「物は試し、試着でもいいから着てみたらどうだい?」
「・・・ん、わかった。着るだけ着てみるよ。」
何より、ベルがわざわざ自分のために選んでくれたのだ。
無理を頼んでベルと一緒にドリームプラザまで来たのだから今日は特別だ。
要はほんのちょっぴりだけ自分に素直になり、ベルから受け取った服と一緒に試着室へ向かうのだった。
それからもう何件か見て回り、それぞれ夏服の購入を終えた後、要たちは一旦蛍と雛子がいる店の様子を見に行った。
だがそこには目を星のように輝かせた雛子がひたすら蛍に服を押し付け、サクラとレミンが遠い目でそれを見守っている光景が映った。
あの様子ではまだ時間がかかりそうだったので、要たちは少し寄り道をすることにした。
若干、蛍の顔に疲れが見えていたので放っておくのも少し憚れたが、いくら雛子が有頂天な状態でも蛍の機嫌を伺うことすら疎かにすることはないだろうと思い、そのまま任せることにしたのだ。
そして本やCDなどを一括で扱うエリアまで訪れ、千歳は当初の約束通り、真と愛子と一緒に本屋に、要はベルと一緒にCDショップへと向かった。
「おっ、まこぴーの新曲の発売日、今日やったんか。」
店の入り口前に置かれたモニターから、大人気アイドルまこぴーの新曲『トランプ王国のディーヴァ』のプロモーションムービーが流れている。
「要、アイドルに興味なんてあったか?」
「いや、そうゆうわけじゃないけど、こうゆうのって自然と耳に入ってくるからさ。」
交友関係が広いと流行りものの情報と言うのは自ずと聞きかじってくるもの。
物は試しで友達から薦められたまこぴーのデビュー曲を聞いたときに彼女の歌声につい聞き入ってしまい、以来新曲があれば自然とチェックするようになっていた。
CDを購入したことはまだないが、今のように店頭映像でサビの部分は聞けるし、音楽番組でも聞くことが出来るので特に困ることはない。
余談だが、以前真が得意げな表情で「私、まこぴーと同じ名前なんだぜ。」と自慢にもならない自慢をしたことがあったか。
「・・・なあ要。」
「なに?」
するとベルが神妙な面立ちで話しかけてきた。
「俺、店の外で待ってようか?」
「は?」
周りを伺いながらそんなことを言ってくるベルに要はつい不機嫌な声を出してしまう。
要もベルにつられて周囲を見渡してみると、何人かがこちらをチラチラと伺っていた。
傍目から見れば女子中学生と成人男性が一緒にいる上、ベルは容姿が外国人なので親兄弟にも見られないだろう。
そもそも夢ノ宮市は観光地らしいところは何もないので、外国人がいること自体珍しい。
自分たちが一緒にいる光景が余計に物珍しく映っているのだ。
だからベルは気を遣ってくれているのだ。
その気遣いが彼の優しい証なのだからそれは嬉しいのだが・・・
「むっ。」
「なっ、おい要。」
一方で『つまらない』という感情だって芽生えてくる。
要は強引にベルの腕を引き、自分の腕に組ませる。
「別に、何がいかんの?
ここに来てるのは『パートナー』としてじゃなくて『友達』として来てるんやろ?」
つい語気も強くなってしまう。異性だから、年齢差があるからなんて関係ない。
友達と一緒にショッピングモールに買い物へ来ることの何が疚しいと言うのだ?
そんなことで噂の尾ひれが立つことを気にしていたら、同性の友達以外と一緒にいること自体できなくなる。
第一こんな時のために怪しまれないように、わざわざアップルがベルたちの身分証明書を作って渡してくれたと言うのに、何を気にする必要があるのだ。
仮にここにいる人たちが、『見知らぬ外国人旅行客』が女子中学生と一緒にいた、なんて噂を流したとしても、その身分証明書があれば自分が一緒にいたのは『友達の親戚の人』であることを立証できるし、そもそもここへは2人きりでなく雛子たちを含む大勢の友人たちと一緒に来ている。
証言してくれる人は千歳たちは勿論、ベルのことを『千歳の親戚である外国人』と認識している真と愛子だっているのだ。
噂が立ったところで晴らすことは簡単だ。
それでも疑う人たちがいたとしても、そんなゴシップ好きの連中のことなんて、いちいち気にするだけ時間の無駄である。
「・・・ったく、どうなっても知らないぞ。」
するとベルはバツの悪そうな表情を浮かべてそっぽを向いた。
こうなればこちらだって意地だ。
駄々をこねてまで連れてきたのに、ここで気を遣われては一緒に来た意味がない。
そうでなくても、ベルは普段から自分と一緒に外へ出たがらないのだ。
妖精のままでは人前に出られないし、人間の姿では青年だから、と言うのが彼の言い分だ。
初対面の時、自分のことをお子ちゃまだから意識しないなんて失礼なことを言っていたくせに、余所の目だけはしっかりと気にするのだ。
でも言葉通り、自分の事を特に異性として意識しているわけではない。
同じ部屋に住んでいるのだから、それはイヤでも思い知らされた。
そんなベルの優しさが嬉しくて、でもつまらなくて、自分の気持ちに気付いてくれていないことがもどかしくて、でも結局彼の優しさは嬉しくて・・・。
色々な気持ちが要の頭を駆け回り、モヤモヤとした霧が頭にかかり始め、要はそれを振り切るかのようにベルのことを強く引き寄せる。
「・・・ヘタレ。」
でもここまでしても相変わらずそっぽを向くベルに、要は彼に聞こえないようにポツリと本音を呟くのだった。
…
真と愛子に本屋まで連れて行ってもらえた千歳は、愛子がオススメする漫画の試し読みをしていた。
故郷にはない漫画やアニメと言った娯楽作品は話だけは聞いていたが、千歳は故郷が救われるまでの間、自分への戒めとして娯楽の類にはほとんど触れていなかった。
テレビはニュース以外ほとんど見なかったし、本も教科書と辞書以外は手に取らない。
強いて娯楽をあげるとすれば、この世界の言葉を勉強するときに自分の趣味に合うカッコいい言葉を探していた程度である。
今読んでいる漫画は、1人の少年が自由を求めて海賊となり世界を旅する冒険物語であり、愛子が言うには世界的に大ヒットしている名作とのことだ。
「・・・面白いわ。」
「でしょ!?凄く面白いでしょ!?」
好きな漫画を褒めてもらえたことを愛子は喜んでいる。
海賊と聞いて千歳が最初に思い浮かんだのは、本来の意味通り海を縄張りとする無法者の窃盗団だったものだから、そんな悪党を主人公とする漫画の何が良いのかと訝しんでいた。
だが劇中で主人公一派が盗みを働くような描写はなく、ただ国にも法にも縛られずに自由気ままに旅をしたいがために、無法の身に投じていただけであった。
どうやらこの漫画における海賊とは、国や法律に縛られずに自由に海を旅する者を指す言葉のようで、愛子によれば漫画を始めとする創作物には、実際の意味とは異なる意味を持つ言葉が使われることがあるとのこと。
言われてみれば自分の身近にだって、プリキュアの力である希望の光と言う本来の光とは異なる性質を持つものがある。
人の意志でどこからともなく生み出されるばかりか、雷や炎、果ては水晶にまで性質を変えるのだから、つまりはそうゆうことなのだろう。
少し思考が逸れたが、それでも主人公が無法者であることには変わりなく、王族としての自分の立場を鑑みれば、いくら創作物上の人物とはいえ、国にも法にも一切従わない人を好意的に思うのはどうかと思ったが、自ら危地に身を投じ、常に危険と隣り合わせの旅さえも楽しんでしまう主人公の大胆不敵な姿に魅力を感じるのも事実だった。
そして物語だけでなく、様々な手法を使って描かれた絵は、愛子が言うところの実際に人が動いているように錯覚するほどであり、結果として自分をこの作品に引き込むには十分すぎる魅力が込められていた。
「良かったら1巻から全て貸してあげましょっか?」
「いいの?」
「勿論!その代わり、読み終えたら感想を聞かせてね!」
「ええ、わかったわ。」
先週要たちが遊びに来たときは、特撮のヒーロー番組である『無限戦隊オルレンジャー』なるものを薦められ、今度雛子から録画したものを全て借りる予定だし、蛍が好きと語る『魔法少女ピュアキュア』と言うアニメも見るつもりだ。
漫画にテレビ番組と、娯楽に興じる時間が多くなりそうだが、故郷にはない洗練された作品の数々に、千歳はすっかり心を躍らせていた。
「あっ、あったあった。」
すると愛子が探していた本を手に取った。表紙を見ると、漫画を描くための参考書のようだ。
「愛子って、漫画を描くことにも興味があるの?」
「ええ、私、将来の夢は漫画家だから。
まあとは言っても、私は絵は全然得意じゃないんだけどね・・・。」
愛子が苦笑いをしながら少し俯く。
「それでも少しずつ上達してきたじゃん?
参考書を買っても描こうとすらしなかった頃と比べたら十分な進歩だよ。」
近況を知る真の言葉に、愛子は恥ずかし気に本で口元を隠す。
「雛子にあんなことを言われたら、頑張るしかないもの。」
愛子が笑顔でそう話すが、思わぬところから現在進行形で蛍を振り回している雛子の名前が上がり、千歳は目を丸くする。
「雛子に?」
「下手でもいい、失敗したっていい。それでも将来叶えたい夢があるから、私たちは今、この夢ノ宮市で勉強しているのだからって、私が将来の夢を諦めかけていたとき、雛子がそう言ってくれたの。
それから、悩みがあればいくらでも聞いてくれるって。
雛子は優しいから、いくらでも甘えさせてくれるのだろうけど、いつまでも雛子に頼りっぱなしってわけにはいかないからね。
それに雛子だって、将来の夢のために頑張って勉強をしているのだから、私もあの子のように頑張らなきゃ恩返しできないもの。」
愛子はそう言いながら両手をグッと握りガッツポーズを取る。
雛子の厚意に甘んじるつもりはないと言いながらも、自分が困っているときは彼女が必ず力になってくれると、愛子の言葉からは雛子への感謝と信頼が見て取れた。
その様子に千歳は雛子の力の本質を思い出す。
彼女の力は守りの力、それは誰かを助けたいと思う気持ちが由来しているのであれば、彼女の思いは普段の日常の中にも見て取ることが出来るだろう。
今日だって、蛍の願い事を叶えるために粉骨砕身の思いで動いている・・・あれは彼女自身の趣味も多分に含まれているからだろうが、雛子は友達のためとあらば、自分の持てる全て尽くして力になろうとする子なのかもしれない。
(あの子・・・本当に凄い子かもしれないわね。)
ここに来ているみんなと友達になってから1週間しか経っていない千歳だが、特に雛子の人柄にはあまり触れたことがない。
蛍が絡むと暴走しがちなところは以前から知っていたが、普段は大人しくて要領も良く、物事を論理的に考えられる子だから、自分の気持ちに正直な蛍や要と比べると感情的になることが少なかったのだ。
だが今、雛子の言葉を語る愛子の姿に、千歳は雛子の力の、思いの本質を垣間見るのだった。
…
手に持つ洋服を最適化した順番通りに蛍に渡し、試着室から出てきた蛍の姿を一目見てまた服を渡す。
しかし一目見ただけのはずなのに蛍の姿は全て、雛子の脳にピントがボヤけることなく正確に記憶されていく。
花柄のチュニックとショートレギンス、フリルのついたブラウスにホットパンツ、ノースリーブのワンピース・・・etc。
可愛い!可愛い!!可愛い!!!
雛子の思考の9割ほどが既に可愛いと言う言葉で埋め尽くされているが、残りの1割で何とか理性を保ち蛍の洋服をとっかえてはひっかえ・・・そんな機械的な作業を延々と繰り返す中でも、目の前の愛しき天使が七変化を繰り広げることで何とか心を失わずにいた。
(うふふ・・・まだまだ、このお店だけでもまだ半分ほど残っているし、これからもっと沢山のお店を見て回るものね。)
想像を遥かに上回る蛍の姿を前に何度も意識を持っていかれかけたが、まだ最初の一軒目だ。
至福のときはまだまだ続くと言うのに、ここで気を失うわけにはいかない。
何せ次のお店はここよりもさらに品の数が多くなるのだから、今よりもさらに多彩な蛍の姿を拝むことが出来るのだ。
このペースだと、この店の品を全て見終わるころにはお昼を迎えるだろうが問題ない。
『今日一日』かければ全てのお店を見て回れる算段は十分についているのだ。
「蛍ちゃん!次は・・・あれ?」
だがふと、蛍の様子を見ると、彼女は目が点のまま肩を落としていた。
「蛍ちゃん、疲れた?」
「うっううん・・・まだまだだいじょうぶ・・・。」
声からして明らかに疲れている。
そんな蛍の様子をみた雛子は、先ほどまでの高揚感はどこへやら、急速に冷静さを取り戻していく。
頭の中を埋め尽くしていた可愛いの文字もすっかりなくなっていった。
こんな時でも気を遣ってくれる彼女には申し訳ないが、蛍がウソをつくのが苦手で良かったと思ってしまう。
もしも見抜けなかったら、疲れ切った彼女を相手に自分の趣味を押し付けていたところだった。
「蛍ちゃん、少し休憩にしましょうか?」
こんな状況で何をとも思うが、蛍にもこの時間を楽しんで欲しいと思っている。
彼女に楽しむ余力が残っていないのなら、続ける意味なんてないのだ。
ここへ来たのは自分のため、そして蛍のためなのだから。
「え?いっいいよ、まだつかれてないから・・・。」
「蛍~、そんなこと言ってると、雛子本気で終わるまで蛍のこと離さないよ~。」
するとこれまで自分たちの様子を見ていたレミンが間に入って来た。
否定できない言葉だけに心にグサリと刺さる。
「そんな様子で言っても説得力ないでしょ?ほら、着替えるわよ。」
そしてサクラが半ば強引に蛍の手を引き試着室まで連れて行った。
こんな時、蛍に対して厳しくできるサクラの存在は有難い。さすが蛍のお姉さん役である。
雛子は蛍が試着室から出るまでの間に、手に持つ洋服を全て元の位置に戻していくのだった。
夢ノ宮ドリームプラザ一階の中央は休息用の大広場となっており、周辺にはスイーツを始めとする屋台や、日替わりで特産品の販売店などがある。
雛子は要たちと合流し、蛍をベンチに腰掛けさせて休ませ、真と愛子はそれぞれ周辺にある屋台へと向かった。
「ごめんね蛍ちゃん、ちょっと調子に乗りすぎちゃって・・・。」
彼女の可愛さに有頂天になるあまりちょっと調子に乗ってしまったのは認めるが、蛍の様子を伺うのを疎かにしていたつもりはない。
確かに少しばかり疲れている予兆は見られたが、蛍は特に嫌がるような様子も見せずに積極的に洋服を手に取っており、着替えのペースだって落ちていなかった。
だが突然どっと疲れが訪れたようだった。1か0しか取れない彼女のことだから急にスイッチが切れてしまったのだろう。
だがそんな彼女の性質を知っていながら考慮できていなかったのだから、結果として自分の配慮不足が原因である。
「ううん、わたしの方こそごめんなさい。
せっかくひなこちゃんが、おようふくをえらんでくれてたから、わたしも、できるかぎりがんばろっておもったんだけど・・・。」
蛍の言葉を聞いた要が、少し呆れた様子で肩を落とす。
「全く、雛子のテンションについていこうなんて無茶するからだよ。」
何が無茶な、と少し眉を顰めながらも要の言葉で雛子は蛍の思いを知る。
彼女なりに自分の思いに応えてくれようとしてくれていたのだ。
「えへへ、ひなこちゃん、ありがとね。
わたしのために、こんなにもがんばって、おようふくさがしてくれて。
わたし、とってもうれしかったんだよ?」
「蛍ちゃん・・・。」
その言葉が建前ではないということくらい、蛍の表情を見ればすぐにわかった。
元を辿れば自分の趣味に付き合ってもらい、疲れ果てるまで振り回してしまったと言うのに、彼女は自分との時間を楽しんでくれていた。
彼女にも楽しんでほしいと願っていただけに、そんな蛍の言葉に雛子は少しだけ救われる。
「あっでも、着るおようふくがおおすぎるのは・・・ちょっとだけ、キツかったかな?」
「うぐっ・・・。」
が、いくら楽しいひと時だったとしても、さすがに彼女にはオーバーワークだったようだ。
キツかった、と蛍が直接的な表現をしてくるのだから雛子は殊更落ち込むが、同時に嬉しくも思う。
蛍の思いには精いっぱいの配慮をしているつもりだが、かといって彼女の心の全てが読めるわけではない。
本当はどう思っているのかは、言葉にしてくれなければはっきりとはわからないので、嫌なことを嫌だと言ってもらえるのは、自分の欠点を受け入れるきっかけにもなる。
良いところも悪いところも全て受け入れてこその友達なのだ。このあたりは要の受け売りだが。
結果として、自分の趣味を優先するあまり蛍に負担をかけてしまったことを雛子は猛省する。
となれば残りの店を見て回るのは控えるべきだ。
自分の気持ちに正直に従えば当然、これから先の店も全て制覇したいところだが、それが蛍にとって苦になることも望んではない。
「わかったわ蛍ちゃん。それじゃあ、お昼を食べたらあと1つだけ試着してもらってもいいかな?お昼の間に、蛍ちゃんに一番似合うコーディネートを必ず考えて見せるから。」
疲れた彼女にあと一回付き合ってもらうのも憚れるが、これで最後だ。
彼女の着る夏服を何としてでも見つけてみせると雛子が意気込む。
「えっと、それなんだけどね。わたし、さっきのおみせで気になるおようふくを見つけたの。」
「え?」
蛍からのそんな申し出に雛子は驚く。
彼女なりに自分が選んで着せた服を吟味してくれていたようだ。
つまり自分の選んだ服を彼女は気に入ってくれたということになるので、それはそれで本望である。
「わかったわ。じゃあ、少し休憩したらまたお店に・・・。」
そう言いかけたその時、突然全身に悪寒が走った。
「闇の波動!?」
隣にいるレミンが声をあげると同時に、モール内の人たちが姿を消していく。
ダークネスが現れたのだ。
「こんなときに・・・。」
せっかく蛍自身が選んだ服をこの目で見てみたいというのに、こんなタイミングで現れるなんてなんて空気の読めない連中だ。
雛子は怒りを滲ませながら希望の光を生み出す。
「みんな、行く・・・。」
「みんな!行くわよ!」
「へ?」
要の言葉を割って入り、雛子はプリズムパクトを掲げる。
「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!世界を包む、水晶の輝き!キュアプリズム!」
そして真っ先に変身を遂げ、そのまま一目散にダークネスの元へと飛んで行った。
「・・・雛子に遅れないでいくよ!」
「えっええ。」
「うっうん。」
「「「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」」」
そして雛子に続き、3人も変身して遅れないように飛び立つのだった。
…
千歳が闇の波動の気配を・・・正確には先頭を飛ぶキュアプリズムの後を追うと、そこにはダンタリアの姿があった。
隣にはソルダークもおり、既に誰かを闇の牢獄に閉じ込めた後のようだ。
「待っていたよ、プリ・・・。」
「ダークネス!性懲りもなくまた現れたわね!」
「ん?」
要に続き、ダンタリアの言葉をも割って入り、キュアプリズムが啖呵を切る。
その普段とはかけ離れた彼女の姿に、ダンタリアさえも困惑する。
「今日ばかりは許さないんだから!行きなさいキュアスパーク!」
「へっ?ウチ?」
突然の啖呵からの指名にキュアスパークは混乱する。
その表情から『お前が行くんやないんかい!』と言うツッコミが見て取れた。
「背中は私がちゃんと守るからさっさとあんなやつとっちめちゃって!!」
「あっ、はい。」
理不尽なのか頼もしいのかわけのわからない言葉にただただ頷くしかなかったキュアスパークは、言われるがままにソルダークへと突撃する。
千歳も隣で呆然とするキュアシャインと顔を合わせて逡巡した後、ひとまずソルダークを浄化するために一拍遅れてソルダークへと飛び交った。
「まあいいさ、僕のやるべきことは変わらない。ソルダーク!」
ダンタリアもこれ以上のことは気にかけず、ソルダークに呼びかける。
するとソルダークの身体から黒い布のようなものが複数、一斉に飛び出して来た。
「なっ!?」
先頭を切るキュアスパークは驚きながらも空中で身体を捻り回避する。
千歳たちもキュアスパークにならってソルダークの攻撃を回避したが、素通りされた黒い布は真っ直ぐに地面に突き刺さる。
直後、ダンタリアが空を蹴り、手に黒い球体を浮かべてキュアシャインの元へと飛び掛かった。
「キュアシャイン!!」
千歳は慌ててキュアシャインの元へと振り向くが、直後目の前を黒い影が横切る。
ソルダークが身体に繋がれた黒い布を地面から引き抜き、闇雲に振り回し始めたのだ。
千歳は寸でのところでそれを回避するも、このままではキュアシャインへの救援が間に合わない。
そう思ったその時、ダンタリアとキュアシャインの間に水晶の盾が現れる。
「なにっ?」
今度はダンタリアが虚を突かれ、その隙をついてキュアプリズムが駆け付け蹴りを繰り出す。
ダンタリアはそれをガードしながら、蹴られた勢いのまま後退して態勢を立て直す。
「僕の奇襲を読んでいたとはね。」
「前にサブナックがキュアシャインを狙ったときから、この状況は警戒していたわ。
キュアシャインには指一本も触れさせないから。」
キュアプリズムは、キュアシャインの背後から来る攻撃を盾で防ぐだけでなく、ソルダークへ向かうキュアスパークに飛び交う攻撃も全て防いでおり、懐まで潜りこめたキュアスパークが、雷を纏った一撃でソルダークの巨体を地に付かせた。
先ほどまで怒っていたように見えたがキュアプリズムは極めて冷静だ。
いつも以上の視野の広さで戦場に散る攻撃をくまなく防御している。
そんなキュアプリズムの様子に千歳は関心する。
「邪魔した挙句キュアシャインにまで手を出して、ほんっとうに許さないんだから!!」
・・・と思いきや、キュアプリズムは自身の両手足にバリアを纏って果敢にダンタリアに殴り込みに行った。
『さっさとこの戦いを終わらせて蛍の夏服を見てみたい』という気持ちがありありと見て取れる。
怒りのあまり周囲が見えなくなるどころか、一周回って冷静さを研ぎ澄ませているあたりが何とも雛子らしいが、彼女が1人でダンタリアを抑えてくれている今が好機だ。
千歳はキュアスパークと挟撃するべく、ソルダークへと飛び掛かる。
地から起き上がったばかりのソルダークの顔面を目掛けて火球を投げ込み、続けてキュアスパークが腹部へ拳を叩きつける。
「ソルダーク!」
だがダンタリアの呼びかけと共に、ソルダークは倒れながらも複数の布を操作し、一斉にキュアシャインへと向かわせた。
そうまでしてキュアシャインを優先的に狙いたいようだが、キュアスパークも千歳も動じない。
なぜなら、キュアシャインがその場を一歩も動かなかったからだ。
それはキュアプリズムへの信頼の表れである。
「やらせないから。」
直後キュアプリズムの声とともに、キュアシャインの周囲に複数の盾が同時に展開され、ソルダークの放った布を全て弾き飛ばした。
そしてキュアシャインは飛び出し、弾かれた布を全て手に集めてそのまま背負い投げの要領で力の限り引っ張り上げる。
「えーい!!」
引っ張られた布はそのままソルダークの巨体を持ち上げ、ダンタリアのいる方向へと投げ飛ばした。
ダンタリアはその場を離れ、ソルダークは再び地に叩き付けられる。
「光よ、降りろ!プリズムフルート!」
そのままキュアプリズムが、倒れるソルダークを浄化しようとしたその時、
「今日は随分とお怒りのようだね。よほどお楽しみを邪魔されたのが気に入らなかったのかな?」
「何ですって?」
突然ダンタリアがキュアプリズムに話しかけてきた。
…
プリズムフルートを手に持ったまま、雛子はダンタリアの言葉に耳を傾ける。
行動隊長の中でも口数の多い彼だが、これまで戦いを中断してまで話しかけてくることはなかった。何かの企みがあると警戒し、キュアスパークとキュアブレイズも迂闊な攻撃をせずに静止する。
「こんな猪突猛進な戦い方、君らしくないと思っだけだよ。」
ダンタリアの口調、表情、仕草の全てが人の神経を逆なでするような小バカにする態度を表している。
自分を煽っていることは火を見るよりも明らかだが、雛子は敢えてその手に乗る。
「ええそうよ。せっかく友達と一緒に楽しいひと時を過ごしていたのに、あなたが水を差したせいで台無しよ。」
怒りを滲ませた雛子の答えをダンタリアは鼻で笑った。
「ふっ、そうゆうことか。」
「わかったのならさっさとここから出ていきなさい。これ以上あなたなんかに構って・・・。」
「その時間、本当に友達にとっても有意義なものだったのかい?」
「えっ?」
割って入ったダンタリアの言葉に、雛子は困惑する仕草を見せる。
「楽しいひと時、と君は言っていたが、楽しんでいたのは君だけで、お友達はつまらないと思っていたんじゃないのかい?」
「何を言って・・・。」
「そうだね・・・例えばキュアシャイン、君は彼女と過ごす時間が楽しかったかい?」
「えっ・・・?」
雛子がキュアシャインの方を振り向くと、彼女は不安を滲ませた表情を浮かべていた。
それを見たダンタリアは狙い通りと言わんばかりに口元をニヤリと歪ませる。
「本当は一緒になんていたくなかったんじゃないかい?
自分はこれっぽっちも楽しくないのに、無理やり付き合わされていたんじゃないかい?」
「やめなさい・・・。」
雛子は声を震わせてダンタリアに呼びかけるが、彼は言葉を無視してキュアシャインに言葉を投げていく。
見る見るうちにキュアシャインの表情には不安に満ちていき、それを一瞥したダンタリアは視線を自分の方に戻した。
「ほら、彼女の表情を見てみなよ?
自分が楽しいと思う時間を、他の誰もが楽しいと思っているとは限らない。
君の言う楽しいひと時なんて、所詮自分だけが得をする自己満足の時間でしかないんだよ。」
悪徳な笑みを浮かべながらこちらを見下ろすダンタリアは、すっかり勝った気になっているようだ。だがここまで『乗せてやった』雛子はダンタリアの目論見を見抜いて不敵に笑う。
不安を煽り、自分たちの戦意を喪失させる。それがダンタリアの狙いだ。
そしてこの中ではキュアシャインが一番感情を表に出しやすい。
彼もそれを見抜いているから、キュアシャインをターゲットにしたのだ。
それにダンタリアの言葉は、先ほどまでの自分たちの状況を捉えているかのようで、その実まるで要領を掴んでいない。
自分たちの行動を監視して把握していたのであれば、洋服を買いに来たこと、試着していたことをもっと具体的に言い表すことが出来ただろうし、不安を煽るならばその方が効果的のはずだ。
それなのに彼の言葉は不安を抱える人ならば誰にも合致するような、言わばテンプレートの羅列でしかなかった。
それさえわかれば、こんなハッタリに動じることなんてない。
「バカにしないでよね。」
「なに?」
自分の言葉がよっぽど意外だったのか、今度はダンタリアが眉を潜める。
「楽しかったに決まってるじゃない。キュアシャインだって、ずっと楽しんでくれていたのだから。」
キュアシャインが彼の言葉に不安を感じてしまったのは、今回のことを楽しいと思ってくれた一方で『少しキツかった』と一沫の不満を抱いていたからだ。
それがダンタリアの言葉によって揺さぶられ、言葉を重ねるごとに不安が膨張していった。
でも友達と一緒に過ごす時間だって、1から10まで全てが楽しいひと時であることは滅多にない。大なり小なり不満を抱くのは当たり前のことだ。
自分だって要への不満点なんかいくらだって挙げることが出来るが、それでも一緒にいたいと思うのは、そんな不満を吹き飛ばすくらい楽しい時間の方が多いからだ。
キュアシャインが今日を楽しいと思ってくれた気持ちが、今の不安な気持ちに負けないように、彼女の心を和らいであげよう。
そう思いながら雛子はキュアシャインの方へと振り向き、優しく彼女に微笑みかける。
「いい?キュアシャインはね。隠し事が苦手なの!
思っていること、考えていることがすぐに顔に出るんだから!!」
「へ?」
だが突然のカミングアウトにキュアシャインは勿論、キュアスパークとキュアブレイズも困惑の表情を浮かべる。
「でも、だからこそわかるの。彼女はとても楽しんでくれていた。だから私も嬉しかった。
私が楽しいと思う時間を、彼女と共有することが出来たから。
そりゃあ、私が少し調子に乗っちゃって、キュアシャインに少ししんどい思いをさせてしまったけれど、でもね、最後には笑顔でこう言ってくれたのよ?
きょうはありがとうって。」
「キュアプリズム・・・ふふっ。」
自分の言葉がおかしかったのか、キュアシャインが笑みをこぼす。
その表情にはもう先ほどまでの不安の色はなくなっていた。
そんな彼女の様子に雛子はホッと胸を撫で下ろす。
「その言葉が、表情がウソではないとなぜわかる?君は彼女の何を知っていると言うんだい?」
尚もダンタリアは不安を煽る言葉を続ける。
だがその程度ではもう、キュアシャインだって揺るがない。
それにダンタリアの言葉は、雛子にとっては『予想通り』の言葉だ。
アニメに登場する悪役が、主人公たちの絆を引き裂くための決まり文句。
あまりにも使い古された陳腐な定型文だ。
そして言われた側の主人公は、自分たちの絆を強調して絶対に分かる、と断言するのがお約束だが、残念ながら自分は捻くれ者だ。そんな気持ちの良い主人公役は要で間に合っている。
そして捻くれ者の自分はお約束を返してやるほど優しくない。
「教えてあげてもいいけど、あなた程度じゃ一生理解できないでしょうね?」
雛子は不敵に微笑みダンタリアを嘲笑する
するとダンタリアは眉を潜め、こちらを睨み付けてきた。
思い通りに動いてくれなかったのがよほどつまらなかったのか。
と思った次の瞬間、倒れるソルダークの身体から再び黒い布が飛び出した。
キュアスパークとキュアブレイズは身構えるが、飛び出した黒い布はまるで見えない壁にぶつかったかのように突如として地に落ちていく。
「ちっ。」
ダンタリアが舌打ちしながらこちらを再び睨み付ける。
彼が話しかけて来た時から、いつ実力行使に移られても迎撃できるように、目に見えないバリアをソルダークの周りに展開していた。
力の気配を悟られないように、ゆっくりと時間をかけて少しずつ展開していた。
だから時間稼ぎの意味も兼ねて、彼の会話に『付き合ってあげた』のだ。
キュアプリズムはバリアを爆発させ、ダンタリアの目を眩ましながらソルダークへと跳躍する。
「させるか。」
ダンタリアが止めにかかろうとするが、キュアシャインがダンタリアに飛び掛かり、動きを封じる。
「キュアプリズム!いまだよ!」
「プリキュア!プリズミック・リフレクション!」
「ガアアアアアアアッ!!!」
そして水晶に閉じ込められたソルダークは、乱反射する光に包まれ、断末魔とともに浄化された。
「キュアプリズム、君のことを少し侮っていたよ。」
そしてダンタリアも後を追うように姿を消すのだった。
…
ダンタリアを退けた蛍たちは、急ぎ元にいた場所へと戻っていく。
幸いにも真と愛子はまだ屋台に並んでおり、2人の合流を待ってからもう一度お店へと向かった。
そして蛍は、自分が気に入った洋服を試着し、試着室から出てみんなの前で見せた。
「どっどうかな・・・?」
白いTシャツの上に半袖のピンクのパーカー、そして赤のフレアースカート。
1つ1つは雛子が選んでくれたとは言え自分好みのものをチョイスしたので、彼女のセンスには及ばないものになってしまったが、自分の思いつく限りの精いっぱいのオシャレだ。
「ふふっ、いいじゃない。蛍ちゃんらしくてとても似合ってるわ。」
雛子は優しく微笑みながら、自分のコーディネートを褒めてくれた。
自分が選んだ服を認めてもらえたことが嬉しくて、蛍は試着室から飛び出す。
「ああこら、蛍。会計はまだなのだから少し落ち着きなさい。」
「あっ、そだった。」
サクラに注意され、蛍は浮かれた気持ちから戻り、改めてみんなの前で服を翻して見せた。
そんな自分の様子をみて、みんな頷き笑ってくれた。
みんなで一緒に買い物をし、洋服を一緒に決める。
また1つ願いを叶えることができた蛍は、改めて雛子にお礼を言う。
「ひなこちゃん、今日はほんとうにありがとう。
こんなにステキなおようふくをみつけることができたのも、ぜんぶひなこちゃんのおかげだよ。」
「ううん、私こそありがとう、今日はとても楽しかったわ。」
先ほどまで自分と一緒にいたときの有頂天さはどこへやら、雛子は少しはにかみながらお礼を返してくれた。
「あのね、それから、よかったら、こんどは冬のおようふくを買うときも、いっしょにさがしてくれないかな?」
「え?」
雛子と一緒ならまた素敵な洋服を見つけることが出来る。そう心から思ったからこその願いだ。
「もっもちろんよ!私で良ければ春夏秋冬、どんな時でも力になるわ!!」
すると今度は先ほどまでの奥ゆかしさはどこへやら、上機嫌なテンションでうんうんと頷いてきた。
蛍は少し戸惑いながらも、彼女が了承してくれたことを喜ぶ。
「ありがと!
あっでも、きょうみたいにたくさんのおようふくをきるのは、ちょっとつかれるから・・・。」
今度は少しパターンを絞り込んで欲しいと蛍がお願いしようと思ったその時、
「わかったわ!次は50パターンくらいまで候補を絞り込んでおくわ!!」
「50!!?」
思いはしっかり通じたのだが、肝心の基準が大きくズレていた。
しかもそれで絞り込んだ数字となれば、一体今日はどれだけのパターンを着せるつもりだったのだろうと、蛍は今になって身震いする。
「せっせめて10パターンくらいまでにして!!」
大きな声で懇願するも、このまま昇天してしまいそうなくらい緩み切った表情を浮かべる雛子の耳に果たして届いているのか届いていないのか。
また遠くない内に雛子に振り回されることになるのだろうなと思いながらも、不思議と蛍はその日のことを待ち遠しく思うのだった。
…
次回予告
「やってきました運動会!」
「嬉しそうね、要。」
「そりゃあ勿論!クラス一丸で団結して身体を動かし、汗と涙と友情が舞い散る年に一度のビッグイベント!」
「友情を散らせてどうするのよ。」
「細かいツッコミは言いっこなし。ね?蛍も楽しみでしょ?」
「うぅ~。」
「ってどうしたの蛍!?学校の行事は楽しみだって言ってたやん!」
「わたし運動は苦手なんだってばあ!」
「「あ・・・。」」
次回!ホープライトプリキュア第17話!
「クラス団結!夢ノ宮中学校大運動会!」
希望を胸に、がんばれ!わたし!