リン子の作った昼食を食べ終えた千歳たちは、それからしばらくの間リビングで雑談をしていた。
真面目な話をしていた時間はほんの3分の1くらいで、それ以外は取り止めのない話と要と雛子の漫才を見ていただけだったが、千歳にとってはこの世界に来て一番有意義で楽しい時間だった。
「それじゃあ、そろそろお暇しましょうか?」
「そうだね。お昼までご馳走になっちゃったし。」
それだけに終わってしまうのは名残惜しかったが、千歳はそれを口にしない。
元々の予定では昼前にはみんな帰るはずだったのに、わざわざ昼食にまで付き合ってくれたのだからこれ以上は贅沢な我儘だろうし、何より
「そっか、それじゃあ、またいつでも遊びに来てね。」
これから先、いつでもみんなと遊ぶ機会があるのだから。
「うん、またぜったいにあそびにくるね!」
蛍の笑顔が千歳に温かく染みこむ。
「そうだあなたたち、これを持っていきなさい。」
するとリン子がチェリーたち3人の妖精にそれぞれカードを配っていった。
「これって、私たちの身分証明書?」
カードを見たチェリーとベリィは驚き、レモンは眠そうに瞼を擦る。
チェリーのカードを覗きこんでみると、そこにはチェリーの人間の姿、サクラの顔写真が貼られており、名前の欄には『サクラ・ヒメノ・ティターニア』と書かれている。
ティターニアとは千歳の本来の名前、『チトセ・ティターニア・フェアリーテイル』から取ったものであり、フェアリーキングダムでは妖精の女王を意味する言葉だ。
見るとベリィとレモンにも同じ苗字が書かれており、恐らく3人兄妹、それもベルの容姿を考慮して外国の名前を当てはめたのだろう。
サクラとレミンは比較的この国の人に近い容姿を持つがそこも問題はない。
なぜならミドルネームが『ヒメノ』、間違いなく自分の名字である姫野だ。
この身分証明書によれば、ベリィたちは自分の親族と言うことになる。つまり3人はハーフと言うことになるのだ。
「ええそうよ。あなた達もこの世界でしばらくは人として振る舞う機会も多いでしょうから、持っておいた方が何かと面倒がなくて済むわ。」
確かにチェリーたちは外へ出る時は人間の姿でいる。
何らかのトラブルに巻き込まれてしまったときもそうだが、パートナーである蛍たちと一緒に行動する際にも注意が必要だ。
引っ越して来たばかりの蛍はまだしも、昔からこの街に住んでいる要と雛子は商店街の人たちとも顔見知りなほど街の人々とは縁が強い。
そんな要や雛子と一緒に行動するベルたちの身元が不明のままでは、彼女たちが素性の分からない人と一緒にいると言う噂が広まりかねない。
特にベルは成人男性だ。なおの事注意が必要である。
だがこの身分証明書があれば、要たちと友達である自分の親戚と一緒だと言う既成事実が成り立つ。
あらぬ噂が立つたとしても誤解を解くことが出来る材料となるのだ。
リン子のことだからそこまで考えた上でこの身分証明書を作ったのだろう。
「ありがとうリン子さん。
レモンも、無くさないように気を付けろよな?」
「はーい、えへへ~姫様と同じ苗字だ~。」
形式上、自分と親族になれたことを喜ぶレモンに千歳は頬を綻ばすが、一方でベリィは浮かない様子を見せている。
「それじゃあちとせちゃん、また来週学校であおうね!!」
「え?ええ、また来週。」
だがその原因もわからぬまま、蛍たちは千歳の家を後にするのだった。
…
翌週、蛍たちが家を出たタイミングに合わせて、サクラたちは1週間ぶりに噴水広場に集まった。
噴水広場には既にベルと、寝ぼけ眼を擦るレミンの姿がある。
「どうしたんだサクラ、昨日いきなり交信術を使って呼びかけて。」
交信術とは妖精の持つ能力の1つで、対象の脳内に直接声を送るものだ。
声を送る相手のことをイメージしなければならないので、親しい間柄でしか使えないが、能力の届く範囲内であれば場所を問わずに声を届けられるので便利である。
ちなみに能力の届く範囲は転送術とほとんど同じ。
蛍の家からだとドリームプラザまでは遠すぎて届かないが、要と雛子の家、そして千歳のマンションまでなら送ることが可能だ。
「私たちのこれからについて話し合おうと思ってね。」
「レミンたちのこれから?」
「ええ、一昨日蛍たちは姫様からダークネスに関する新しい情報を聞いて、姫様と一緒に戦う決意を新たにしたわ。
でも私たちはこの街に来た目的、姫様とアップルさんを見つけるって目的を既に達成している。
だから私たちにはもうやるべきことがないんじゃないかなって思ってたの。」
サクラの言葉に、ベルは少し沈んだ様子を見せる。
「じゃあレミンはゆっくりお昼寝したいな~。」
ベルとは対照的にどこまでもマイペースなレミンは呑気なことを言うが、サクラは片手のひらをレミンに突き出し、ノーの意思を表明する。
「でも私、昨日一日考えたのよ。まだ私たちに出来ることがあるんじゃないかって。
それで思い出したのよ。姫様が話していたことを。
行動隊長には人間の姿に変身する能力があるってことをね。
だからベル、レミン。私たちでこの街をパトロールしていかない?」
「パトロール?」
「えぇ~。」
ベルは疑問符を打ち、レミンは面倒くさいと言わんばかりに嫌な声をあげる。
「ええ、街中をパトロールして、怪しい人を見かけたらすぐに蛍たちに交信術で知らせるの。
まあ、蛍たちにも学校があるし、人前で変身するわけにはいかないでしょうから、結局闇の牢獄が展開されるまでは動けないかもしれないけど、それでも前もって知らせておけることは意味がないことはないと思うの。」
「まあ確かに、何もしないよりはマシか。
それに俺たちが行動隊長の人間の姿を見つけることが出来れば、その情報を要たちに伝えることも出来るしな。」
「そうゆうこと。ほら、レミンも面倒くさがらないで。
雛子と姫様を助けるのだと思ってやるわよ。」
「仕方ないな~。」
嫌々ながらもレミンも重い腰をあげてくれたので、サクラたちは街中のパトロールを開始する。
だがサクラが今回集まった目的は、何もパトロールだけではなかった。
サクラは未だに浮かない顔を時々見せるベルを見ながら、いつその話を切り出そうかと考えるのであった。
…
モノクロの世界。
ダンタリアが広間に壁にもたれ、かの地の本を読んでいるところにサブナックが歩み寄って来た。
「・・・何か用かい?サブナック。」
ダンタリアは本を閉じ、サブナックの表情を伺う。
「貴様に1つ、頼みたいことがある。」
「なに?」
サブナックの言葉にダンタリアは珍しく驚いた様子を見せる。
この男が自分に話しかけること自体珍しいと言うのに、その上で頼み事と来たのだ。
ダンタリアは皮肉を込めた笑みを浮かべ、いつもの様にサブナックを嘲笑する。
「へえ、君にしては殊勝な心掛けだね。
ようやく腕力だけじゃ物事は解決できないとわかったのかな?」
だがいつもの皮肉に対しても、サブナックは何も反応せず無表情のままこちらを見据えていた。
そんな彼からただならぬ雰囲気を感じ取り、ダンタリアも笑みを消す。
「・・・本気のようだね。それで、頼み事と言うのはなんだい?」
「貴様は強力なソルダークを生み出すために、素材の選別とやらをしていたな。
その方法を教えろ。」
およそ人にものを頼む態度でないばかりか、その頼み事も行動隊長であれば知っていて当たり前な内容だけにダンタリアは内心呆れるが、それでもこれまで自身の力のみをアテにし、ソルダークを戦力と考えていなかったのがサブナックからの申し出だ。
彼にとって『現状』はよほど由々しき事態なのだろう。
「教えろとはまた随分な言い草だね。」
「いいから教えろ。これ以上貴様の戯言に付き合うつもりはない。
キュアブレイズがホープライトプリキュアに加入し、やつらも戦力を強化してきた。
ならば我らもこれまでのようにはいかん。打てる手は打っておく必要がある。」
最もらしい理由をつけてきたが、ダンタリアには彼の真意がわかっていた。
ダンタリアはサブナックを試すように質問を重ねる。
「サブナック、その前に1つ、こちらからも聞きたいことがある。」
「なんだ?」
「リリス。君はいつから彼女の様子がおかしくなってきたと思う?」
ダンタリアからの唐突な質問にサブナックは黙り込む。
だがこれはダンタリアにとっても気がかりなことであり、同時に『答え合わせ』でもあるのだ。
行動隊長であるはずのリリスが感情任せの言動を取り続けている。
そんな彼女の変化が何を起因としているのか、ダンタリアにはその答えがわかっていた。
「やつがアモン様に怒りの感情を指摘された時から。」
サブナックの答えを聞き、ダンタリアは嘲笑する。
確かにリリスの言動が顕著に見られるようになったのは、キュアシャインを相手に3度目の敗北を喫してからだ。
だがそれは答えではないはず。兆候はもっと以前から見られていたからだ。
やはり所詮、筋肉バカのこいつにはわからなかったわけか。
「、という答えをお前は望みか?」
「なんだって?」
だがサブナックの唐突な言葉にダンタリアは思考を中断する。
「俺をみくびるなよ。やつの言動に乱れはここへ来たときから既に見えていた。
キュアシャインを相手に初めての敗北を喫した時、リリスに異変が生じたのはそれからだ。」
サブナックにいっぱい食わされたことも驚きだが、それ以上に彼が自分と『同じ答え』を持っていたことに驚く。
そう、アモンから招集命令を受けてこの地へ来たときから、既にリリスには行動隊長らしからぬ言動が見え隠れしていたのだ。
今の言動はそれが出撃を重ねるごとに大きくなっていたに過ぎない。
「・・・さすが、お姫様のことはよく見ているね。」
珍しくこちらから褒めるが、サブナックは意に貸さない。
「キュアシャイン、やつこそが全ての元凶だ。
やつの存在は危険だ。一刻も早く消し去らなければ、これ以上は・・・。」
サブナックはそこで言葉を止めたが、続きはダンタリアにも想像出来た。
「だけどいいのかい?
アモン様はやつを絶望させろとリリスに指令を出している。
やつを消すことはアモン様の命に逆らうことにはならないかい?」
「その命を受けているのはリリスだけだろ。
俺たちに与えられた指令が撤回されたわけではない。」
サブナックの答えにダンタリアは不敵な笑みを零す。
確かに彼の言う通り、自分たちに与えられた指令はまだ活きている。
かの地を絶望の闇へと誘う過程で邪魔になるものが現れたなら排除することも厭わない。
だがアモンがリリスに急きょ指令を追加したことから、キュアシャインを絶望させると言う任務は最も優先すべき事だ。
その程度の意は汲み取り、主のために力を尽くすのが行動隊長として本来取るべき選択だが、確かに自分たちはその任務を最優先しろと直接の指示されたわけでも、元の指令を撤回されたわけでもない。いくらでも逃げ道もあると言うものだ。
それにダンタリアもまた、キュアシャインのことを危険視している。
癪なことだが、結局のところ自分もサブナックと同じ考えなのだ。
「わかった。そこまで言うならバカの君にもわかりやすいように教えてあげるよ。」
「無駄口を叩くなと何度言わせるつもりだ。」
リリスを乱す元凶たるキュアシャインをこれ以上見逃すわけにはいかない。
キュアシャインを討つまでの間、ダンタリアとサブナックは共同戦線を張るのだった。
…
時刻が正午に差し掛かったころ、ベルたちはベンチに腰掛け休憩していた。
特に怪しい人物を見かけず、レミンがまたたこ焼きを食べたい衝動に必死に抗っていたこと以外は見慣れた街の光景が拡がっていた。
「は~、たこ焼き・・・。」
「この前食べたでしょ。少しは反省しなさい。」
「ね~サクラ~頑張ったご褒美に買って~。」
「いやよ。前にも言ったけどこれは蛍のお金なの。
あとそうゆうのは人に頼むものじゃないでしょ。」
未だ駄々をこねるレミンにサクラが厳しく反対する。
そんな2人のやり取りにベルはやれやれと苦笑しながら、目線を下げ表情を沈ませる。
「ベル、どうかした?」
そんな自分の様子に気づいたレミンが顔をこちらに向けて尋ねてきた。
「え?いや、別に・・・。」
「嘘。ベル、こっちの世界に戻ってきてから、ずっとそんな顔をしてるよ?」
サクラもこちらに視線を向けてきた。
「・・・気づいていたのか。」
バツの悪そうに言いながら、ベルは2人から視線を反らす。
まわりに心配をかけまいと振る舞っていたつもりだったが、知らず内に表情に出ていたあたり、自覚はないだけで相当堪えていたようだ。
「あなたって、時々やせ我慢するときがあるからね。
ねっ、話してみてよ?私たちは仲間なんだし、それにこっちの世界では私たちは兄妹なんだよ?」
「ベルがお兄ちゃんだなんて頼りないけどね~。」
「こらっ。」
酷い言われようだがレミンは冗談めかしく笑っており、サクラのにも先ほどのような語気の強さが感じられない。レミンなりに場を和ませてくれようとしたのだろう。
年下の女の子にまでここまで気を遣われるなんて尚をのこと立つ瀬がないが、このまま1人で悩んだところで答えが見つかるとも思えなかった。
だがベルはこの悩みを2人に明かすべきか悩んでいた。
もしかしたら2人を傷つけるかもしれないからだ。
でも一方で、2人の思いも聞いてみたいと思う。
「・・・それじゃあ、正直なことを2人に聞くけどさ。」
だからベルは、思い切って2人に悩みを打ち明けることにした。
「俺たち、まだこの世界にいる意味ってあるのかな?」
「え?」
ベルの言葉にサクラは不思議そうに首を傾げる。
たった今、自分たちにも出来ることを探すためにパトロールをしている中での言葉だから無理もないだろう。
一瞬、これ以上話を続けてよいのかという思考がよぎるが、すぐさま振り払う。
「元々俺たちがあの子たちのパートナーとしてこの世界にいたのは、この街に姫様たちがいる可能性があったからと、みんなに俺たちの知っていることを教えてあげる必要があったから、そして俺たちにはもう帰る世界がなかったからだろ?
でも今は姫様が見つかり、フェアリーキングダムもみんなのおかげで取り戻すことが出来た。
それに俺たちがあの子に教えてあげることはもう何もない。」
要と出会った当初の頃は、希望の光についてもダークネスについても知る限りのことを伝えてきた。
だが優しさと強さを兼ね備えた要は元々戦士としての素養が高く、この2か月の戦いで瞬く間に成長していき、希望の光を自在に操れるようになっていった。
「アップルさんはこの世界の人間として、姫様の生活を支えるために働いている。
でも、俺たちにはもう、あの子たちのパートナーとして出来ることってないんじゃないかって思ってさ・・・。」
ベルは寂し気に以前アップルからもらった身分証明書に目をやる。
千歳の元にいるアップルは『姫野 リン子』と言う名の人間としてこの世界に身を置き、日々千歳の生活を支えるために身を粉にして働いている。
それに働いていると言うことは、彼女にはこの世界の人間としての証があり、職場の人を始めとした人間関係も築き上げているのだろう。
それらが『姫野 リン子』と言う人間がこの世界で生きていることを証明している。
だけど自分は違う。リン子から身分証明書を貰っているが、今ならまだベルと言う人間は要たちの前でなければ成り立たない。
そして自分にはもう要のパートナーとして、してあげられることはないのであれば、このままこの世界を立ち去り、故郷の復興に尽力した方がよほどいいのではないか?
フェアリーキングダムから帰還してから、ベルはそんなことをどこかもの寂しい思いを抱いていたのだ。
「あるわよ。私にはまだ、パートナーとして蛍にしてあげられることがある。」
だが話を聞き終えたサクラが何の迷いもなく宣言してきたので、ベルの方が驚いてしまう。
彼女は自分と違い、全てが終わったと思われた今でもパートナーとして成すべきことが分かっているようだ。
ベルはその事が気になり、真面目な表情でサクラに伺う。
「聞かせてくれ。」
「だって、私があの子の側についていなきゃ、誰があの子に厳しくするのよ?」
「・・は?」
しかしその答えに面食らったベルはしばしの間無言になってしまい、代わりにサクラが言葉を続ける。
「みんなが蛍のことを甘やかすから、あの子はいつまで経っても無茶な戦いを止めないのよ。
大体、みんなあの子に対して甘すぎるのよ。
陽子さんも健治さんも、雛子も姫様も、要だって、口ではああ言ってるけど、結局蛍に対して甘いじゃない。
私くらい蛍に厳しく接してあげなきゃ、いつかあの子、大好きなお菓子よりも甘い子に育っちゃうわよ。」
甘やかすと無茶な戦いをすることの因果がわからないばかりか、みんなの名前以外にも聞いたことのない名前が飛んだ上に最後の方はもう何を伝えたいのかわけがわからなくなってしまったが、とにかくサクラは蛍のことを厳しく躾けるためにこの世界に残ると言いたいようだ。
「私は、あの子のパートナーだからね。」
それでも胸を張って言うサクラの姿には微塵の迷いも感じられなかった。
「レミンはね~。」
するとサクラの話が終わるのを見計らい、レミンが話し始める
「パートナーとしてやらなきゃいけないことなんてわかんないし~、レミンの方が雛子に面倒を見てもらってる立場だから、ベルよりもよっぽど出来ることなんてないと思うんだ~。
でもね~レミンはまだ雛子と一緒にいたいの。
雛子優しいし~、隣にいると落ち着くし~、そんな雛子のことがレミンは大好きなんだ~。」
いつもの様に間延びした口調で、レミンは雛子と一緒にいたい理由を言ってきた。
好きだから側にいたい、ただそれだけのシンプルな理由だった。
「・・そっか。」
もしかしたら自分は、難しく考えすぎていたのかもしれない。
パートナーとして、要の力になれなければ一緒にいてはいけないのだと思っていた。
今まで彼女たちの戦う力になれなかったことを今でも引きずっているのかもしれない。
でもサクラもレミンも結局のところ、パートナーのことが大好きだから一緒にいたいだけだった。
パートナーのことを好意的に思うと言う理由でなら、ベルにだってこの世界に残る理由はある。
ベルは胸につっかえていた疑問が晴れていくのを感じた。
「それに、あなたはもう十分に、要の力になれているわよ。」
「え?」
だがここでサクラが思わぬことを言ってきた。
自分が既に要の力になることが出来ているとはどうゆうことだろうか?
いや、そもそもなぜ自分でもわからないことが彼女にわかるのだ?
「それってどうゆう意味だ?」
ベルは思い当たった疑問を即座にサクラにぶつける。
「・・・は~、あなたって紳士気取っている割にはそうゆうところ疎いのね。」
「は?」
だが返って来たのは悪口とも取れる非難の言葉だった。
紳士を気取っているだなんて失礼だが、それ以上に疎いとはどうゆうことだ?
「言ってる意味が分からないんだが・・・。」
「さっもう十分に休んだでしょ?そろそろパトロールを再開するわよ。」
「おっおい。疎いってどうゆうことだよ。」
だが結局、サクラから強引に話題を切られベルたちはパトロールを再開することになった。
とその時、
「・・・ねえ。」
レミンがある一点を凝視し、その場を動かなくなっていた。
「どうしたのレミン?」
「・・・あの人。」
レミンが視線の先の人物を指差す。
本来なら人に指を差してはいけないと注意していたところだが、その先にいる人物を見てベルも、そしてサクラも凝固してしまった。
視線の先にはタンクトップにハーフパンツというラフな服装からボディビルダーのごとき筋肉を惜しみなくさらけ出している2mを超えた褐色の大男の姿があった。
言うまでもなく、街行く人々の中でもひと際目立っており、道行く人々はみんな視線を向けていく。
小さな子どもなんかは「ムキムキのゴリマッチョだ!」だの「筋肉モリモリマッチョマンだ!」だの好き放題言っていた。
そして2mを超えた筋肉バカでこの街に出没しそうな人物が3人の頭に一斉によぎる。
「「「サブナック・・・。」」」
パトロールを開始から1日目、早くも1つの成果を得るのだった。
…
昼休み。
蛍たちが学校の中庭でお弁当を食べていたところに、突然頭の中にチェリーの声が届いた。
「もしもし蛍、聞こえる?」
「え?チェリーちゃん!?」
蛍は思わず大声を出してしまい周りの様子を伺うが、要と雛子も驚きの表情を浮かべ、ただ1人千歳だけが冷静に話を聞いていた。
「そっか、妖精同士じゃないから、こっちから声を届けることしか出来ないんだったわ。
聞こえているといいのだけど、商店街でサブナックらしき人を見かけたの。」
「ええ~っ!!?」
再び大声を出してしまい、また周囲の様子を伺う。
今のはさすがに他の生徒たちも怪訝そうにこちらを見て来たので、蛍は慌てて両手で口を塞いだ。
「そっちはまだ学校よね?でももしかしたら闇の牢獄が展開されるかもしれないから、念のため警戒して・・・あっ!」
「あっちょっと、チェリーちゃん。」
ふと、何かがプツンと切れたような感覚が頭を走り、チェリーとの会話は一方的に会話が終わってしまった。
それと同時に周囲にいる生徒たちが姿を消し、全身に悪寒が走る。
「闇の牢獄!?」
要が立ち上がり、つられて雛子たちも立つ。
「・・・今の、チェリーちゃんの声だったよね?」
「ええ、みんなにも聞こえてた?」
千歳と雛子にも同じようにチェリーの声が届いていたようだ。
蛍と要はうん、と頷く。
「とにかく今は急ぎましょう。また誰かが闇の牢獄へ囚われてしまう前に。」
チェリーの声がなぜ頭に響いたのか、彼女はサブナックの人間の姿を見かけたのか、聞きたいことは沢山あるが、今はダークネスを迎え撃つのが先だ。
蛍たち4人は自身のパクトを召喚する。
「「「「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!!!!」」」」
「世界を照らす、希望の光!キュアシャイン!」
「世界を駆ける、蒼き雷光!キュアスパーク!」
「世界を包む、水晶の輝き!キュアプリズム!」
「世界に轟く、真紅の煌めき!キュアブレイズ!」
「「「「4つの光が伝説を紡ぐ!ホープライトプリキュア!!!!」」」」
初めての4人揃っての変身を終え、蛍たちは急いで商店街へと向かうのだった。
…
千歳たちが商店街へ訪れると、チェリーたちがこちらの方へと飛んできた。
「みんな!良かった。ちゃんと聞こえてたのね。」
「チェリーちゃん、さっきの声は・・・?」
「後でちゃんと説明するわ!サブナックはこっちよ!」
蛍に交信術について説明する暇もなく、チェリーたちに案内されるままに街を進むと、サブナックが蹲る人から絶望の闇を吸い上げているところだった。
「サブナック!!」
一足先に飛び込むキュアスパークに気が付き、サブナックがこちらを振り返る。
「お前たちか、今日はやけに到着が早いな。」
サブナックは迫るキュアスパークの拳を跳躍で回避し、宙へと浮かぶ。
「まあ、これだけの力が集まれば十分か。
ダークネスが行動隊長、サブナックの名に置いて命ずる。ソルダークよ、世界を闇で食い尽くせ!」
サブナックの呼びかけとともにソルダークが誕生する。
「みんな!行くよ!!」
こちらもキュアスパークの呼びかけとともにソルダークの元へと飛んでいく。
得意の雷を纏った拳を繰り出すが、ソルダークはそれを真正面から受け止めた。
「なにっ?」
直後、ソルダークはアルマジロのように体を丸めてキュアスパークへと突撃する。
キュアスパークが正面から雷を放ちソルダークに直撃させるが、ソルダークの勢いは留まることなくキュアスパークの元へと転がっていく。
「キュアスパーク!」
だが直前にキュアプリズムが盾を展開し、何とか難を逃れるのだった。
「ありがとうキュアプリズム。しかし、厄介なソルダークやな。」
態勢を立て直したキュアスパークは尚もソルダークと応戦し、キュアプリズムはキュアスパークの援護をする。
一方、千歳は前線から一歩退き、サブナックの様子を伺っていた。
サブナックの目は彼が実力を認めるキュアスパークに対してではなく、キュアシャインの方へ向けられていたからだ。
「キュアシャイン。」
「え?」
サブナックの方から声をかけられ、キュアシャインは困惑する。
だが直後、サブナックが空を蹴り、キュアシャインの元へと距離を詰めよって来た。
「っ!?」
これまでサブナックがキュアシャインを優先的に狙うことはなかったので、意表を突かれたキュアシャインは反応が遅れてしまう。
だがこのことを予期していた千歳はすぐさまキュアシャインの前へと立ち、サブナックと正面から激突した。
「キュアブレイズ!」
「キュアシャイン下がりなさい!やつの狙いはあなたよ!」
「でも!」
「いいから下がって!」
渋るキュアシャインに大声で避難を命じ、キュアブレイズはサブナックと睨みあう。
「邪魔をするな、キュアブレイズ。」
だがサブナックはこちらのことなど眼中にないと言わんばかりの態度で、千歳に拳を振り降ろして来た。
千歳はそれを両手でガードするが、サブナックの腕力は凄まじく、両手に受けた衝撃が全身に駆け回る。
「くっ・・・。」
一瞬怯んだこちらを一瞥し、サブナックは尚もキュアシャインの元へ迫ろうとした。
「どっちが邪魔よ!!」
だがそれだけは絶対に許さない。
キュアブレイズは右手に火球を生み出し、サブナックへと押し付けた。
サブナックはそれをガントレットでガードするが、千歳は火球を爆発させる。
そして爆風とともに一度後退し、再びサブナックへと詰め寄る。
「はあああっ!!」
爆発の際に発生した煙の中へと、千歳は拳を突き付ける。
だが煙の中の拳からは冷たい感触とともに金属音が鳴り響いた。
直後、サブナックが全身から衝撃波を放ち煙を吹き飛ばす。
煙が晴れた先、千歳の拳はサブナックのガントレットによって防がれていた。
視界を奪った上での攻撃だったが、その程度でダメージを与えられるほど甘くはなかったようだ。
「ちっ。」
「キュアブレイズ、さすがハルファスとマルファスを破っただけのことはあるな。
貴様と戦うのも楽しそうだが、今は貴様の相手をするつもりはない。」
サブナックは尚も自分には興味を示さず、キュアシャインへ狙いを定めていた。
だがあの子には指一本も触れさせはしない。
自分はあの子の守護騎士になると決めたのだ。相手が誰であろうと守って見せる。
そう思い、千歳がサブナックの前に再び立ち塞がろうとしたその時、
「はあああああっ!!」
背後からキュアシャインが雄叫びとともにサブナックへと突撃していった。
「なにっ!?」
意表を突かれたサブナックはその体当たりを直撃で受ける。
キュアシャインはそのままサブナックにしがみついた。
「キュアブレイズ!いまのうちにソルダークをやっつけて!!」
「キュアシャイン!」
「自ら挑んでくるとは好都合だ。」
突然の出来事に千歳は動揺するも、サブナックが力任せにキュアシャインを引き離し、彼女に正拳を繰り出すのを見て我に返る。
キュアシャインはサブナックの一撃を両手でガードするも、後方へと吹き飛ばされた。
「きゃあああっ!」
サブナックが追い討ちをかけようと空を蹴るが、それよりも前に千歳がキュアシャインを抱きとめその場を離脱する。
「キュアシャイン!もう無茶な戦いはしなくてもいいって言ったでしょ!?」
抱えたキュアシャインを降ろすも千歳はつい怒鳴ってしまう。
彼女のことを守ると誓ったのに、それを目の前で裏切られた気分だ。
それに自分が注意したように、ダークネスはキュアシャインの力を警戒して集中的に狙いを定めてきたと言うのに彼女にはまるで危機感が足りていない。
千歳は今一度、キュアシャインを諭すように話しかける。
「あなたのことは私が守るから!あなたは安全な場所へ・・・。」
「そんなのイヤ!!」
だがキュアシャインは真っ直ぐこちらを見据えたまま拒絶してきた。
その態度に千歳は言葉を失う。
「みんなが世界をまもるために戦ってるのに、わたしだけが守られてばかりなんて絶対にイヤだ!!」
「キュアシャイン・・・。」
「わたしだって、わたしだってみんなをたすけるために、プリキュアとして戦うってきめたんだから。
それに、わたしだって、キュアブレイズのこと、まもりたいんだから!!」
続くキュアシャインの言葉に千歳は衝撃を受ける。
キュアシャインのことが大切だから、友達だから守ってあげたいと思っていたが、キュアシャインもまた自分に対して同じ思いを抱いていてくれていた。
それなのに彼女を大切に思うあまり、その思いを踏みにじろうとしまった。
そのことを思い知らせ俯く千歳に、キュアシャインは心配そうに声をかける。
「ねえキュアブレイズ、わたし、ぜったいに足手まといにならないってやくそくする。
だから・・・。」
キュアシャインは自分から視線を反らし、サブナックの方へ目を向ける。
「わたしもいっしょにたたかわせて!!」
そしてそのままサブナックに向かって突撃した。
だがサブナックも同じ攻撃に二度は引っかからない。
ガントレットで体当たりを防ぎ、そのまま拳を振り降ろそうとするその時、水晶の盾がサブナックとキュアシャインの間に割って入った。
「もう、こうなると思ってたわ。」
呆れたような、それでいてどこか慈しむような声でキュアプリズムが静かに告げる。
「キュアブレイズ、あなたの気持ちもわかるけど、あの子だって強い思いを持って、プリキュアとして戦ってるの。その思い、私たちで支えてあげよ?」
「キュアプリズム・・・。」
「そういうこと!」
するとキュアスパークがソルダークをサブナックに向けて殴り飛ばしながら、こちらへと着地した。
キュアシャインも一旦距離を置き、千歳の方へ合流する。
「前に言ったやろ?この子だってウチらの重要な戦力。
守られてばかりのお姫様なんかやないよ?」
そう言いながらキュアスパークはキュアシャインの肩を叩く。
キュアシャインは少しこそばゆそうに微笑んだ。
そんなキュアシャインたちを見て、千歳も考えを改める。
キュアシャインのことが大切だから出来れば戦わせたくない、それは本心だ。
だけどそんな自分の思いのために、彼女の思いを踏みにじりたくもない。
それに、戦いながらでも守る手段はいくらでもある。
「・・・わかったわ。キュアシャイン、一緒に戦いましょう。」
「うん!」
キュアシャインは戦場に似つかわしくない笑顔で頷いた。
その笑顔に千歳もつい頬を綻ばせる。
「相談事は終わったか?ソルダーク!!」
これ以上は敵も待ってはくれなかったようだ。
サブナックがソルダークとともにこちらへと迫り来る。
「キュアブレイズ!行くよ!」
「ええっ!」
それを千歳とキュアスパークと2人で迎え撃った。
先ほどとは相手を変え、キュアスパークがサブナックへ、キュアブレイズがソルダークへと突撃する。
ソルダークは再び体を球状に丸め千歳へと突撃してきたが、千歳はそれを炎のヴェーリで縛り付け、爆発させた。
爆発を受けたソルダークは上空へと吹き飛ぶも、空中で回転して再び迫り来る。
だがそれをキュアプリズムの盾が遮り、回転を止めたところでキュアシャインが飛び掛かった。
片手にしがみつき、相手が球状になるのを力任せで食い止める。
そして千歳は、キュアシャインにしがみつかれ空中で動きを止めたソルダークに対して、炎を纏わせた拳を叩きつけた。
ソルダークはさらに上空へと飛ばさせるが、頭上にキュアプリズムが盾を展開、頭長を打ったソルダークは後頭部を押さえながら落下していく。
ふと、キュアスパークの方へと目を向けると、彼女はサブナックの拳を至近距離でかわし、カウンターで正拳をお見舞いしていた。
サブナックはそれをガントレットでガードするが、キュアスパークはガードされた拳をそのままサブナックの頭へと向け、雷を放ち顔面に直撃させた。
「初めて見る技だ。また腕を磨いたな、キュアスパーク。」
だが顔面に雷を受けてもサブナックは平然としていた。
それでもキュアスパークは怯みはしない。
サブナックはふとこちらに目を向けるが、キュアスパークはそれを逃さず再び雷を放った。
「ちっ、ここまでか。」
今度は首を横へと傾け回避するが、キュアスパークに足止めされ、ソルダークが3体1の状況に持ち込まれたことでサブナックは敗北を悟ったようだ。
キュアブレイズはソルダークへと目を戻し、右手を正面に掲げる。
「光よ、弾けろ!ブレイズタクト!」
自身の武器であるブレイズタクトを召喚し、4拍子を描く。
一拍置きに火球が生み出させ、タクトの先端に希望の光を集中させる。
「プリキュア!ブレイズフレアー・コンチェルト!」
4つの火球とともにソルダークへと突撃し、タクトの先端を突き付け一気に力を解放する。
「ガアアアアアアアアッ!!」
そして赤い炎に身を包まれたソルダークは、断末魔とともに消滅していった。
「あれ程のソルダークもまるで相手にならんとはな・・・。
だが次はこうはいかんぞ、ホープライトプリキュア。」
サブナックの撤退とともに、闇の牢獄が晴れていくのだった。
…
ダークネスとの戦いを終えた蛍たちは急ぎ学校へと戻っていった。
幸いにも人の目につかず、時間が止まっていたこともあり、蛍たちは一時中庭を離れていただけとなったので、特に怪しまれることもなかった。
「それにしてもびっくりしたな。ベリィたちにあんな力まであったなんて。」
戻った後、蛍たちは千歳から妖精の交信術について教えてもらった。
確かにそれにも驚いたが、蛍はそれ以上にチェリーたちが街中をパトロールしていたことに驚いた。
同時にチェリーたちの気持ちが純粋に嬉しかった。
今日の夕ご飯はチェリーへの感謝の気持ちも込め、彼女のリクエストを聞こうと思ったその時、
「蛍。」
「なっなに、ちとせちゃん・・・?」
千歳が神妙な面立ちで話しかけてくる。
だが今日の戦いで、自分は彼女の厚意を無下にしてしまったのだ。
戦う力の弱い自分が一緒に戦いたいだなんて、今にして思えばただの我儘なだけかもしれない。
そんなマイナス思考が今になって働き始め、蛍はまた彼女に怒られるのではないかと思い少し萎縮するが、
「・・・ごめんね。あなたの気持ちも考えないで、下がってだなんて言って。」
「え・・・?」
怒られると思っていたところが謝罪されてしまい、蛍は困惑する。
「あなたが戦いたいと言うのなら、もう私は止めはしないわ。
でも今回の戦いで分かったと思うけど、あなたは本格的にダークネスから狙われるようになったってことをわかってちょうだい。
あなたはもう今のように、力の使い方もわからないっていうわけにはいかなくなったの。」
「・・・うん。」
千歳の言葉が蛍の身に染みる。
そもそもプリキュアとして戦って2か月ほど経つのに、未だに使い方を分からないって言うのが問題だ。
そんな自分を敵が優先的に狙ってくるのだから、千歳も自分の身を案じてくれたのだ。
そうなれば自分のすべきことは1つだ。本格的に力の使い方を身に付けなければならないと思ったその時、
「だから、私があなたに力の使い方を教えてあげるわ。」
「・・・え?」
千歳から思わぬ申し出がきて、蛍は目を丸くする。
だがこの中の誰よりも自在に使いこなしている彼女からレクチャーを受けられるのは、蛍としても願ってもないことだ。
その一方で彼女に迷惑になるのではないかという遠慮が生まれてしまう。
「えと・・・いいの?メーワクじゃないかな?」
「そのくらい迷惑にならないし、あなたが力の使い方を覚えてくれた方が私は安心するわ。」
笑いながらそう言ってくれる千歳の厚意を、蛍は今度こそ受け止めようと思った。
「ありがとうちとせちゃん!」
「それから、例えあなたが戦うとしても、私はあなたのことを守るからね。」
「え?」
「だって私は、あなたの騎士(ナイト)になるって、決めたのだもの。
これだけは誰にも譲るつもりは無いわ。」
ナイトになってくれるだなんて、守られるお姫様みたいで恥ずかしいが、同時に彼女の力強い宣言に、蛍は彼女に守ってもらえると言う安心感を抱いた。
友達になれたときから、彼女はまるで姉のように自分に優しく接してくれている。
ともすれば子ども扱いされているとも取れるのだが、自然とそう接してくれる千歳に対して、蛍もどこか甘えたいと思ってしまうのだ。
雛子に対してもそうだが、どうも自分は大人びた女性に弱いみたいだ。
「・・・うん、ありがとうちとせちゃん。」
はにかみながらお礼を言うと、千歳は笑顔でどういたしましてと言ってくれた。
その時の彼女の笑顔を見て蛍は確信した。自分は一生、この人には敵わないのだなと。
…
学校を終え要が家に帰ると、既にベリィが帰宅していた。
「ただいまベリィ、パトロールは終わったん?」
「お帰り要。あの後すぐに家に帰ったよ。」
「そっか。」
いつもの様に机の上に座っているベリィを見て、要は今日一日の事を思い出して微笑む。
「なんだ?」
「ありがとなベリィ。ウチらのためにパトロールまでしてくれて。」
突然自分からお礼を言われ、ベリィは困惑する。
「・・・まあ、お礼を言われるほどのことじゃないさ。
俺が今君のパートナーとして出来ることなんて、もうこれくらいしか残ってないからさ。」
そして少し俯きながら顔を反らしてしまった。
照れ隠し、とは少し違う気がする。
フェアリーキングダムから帰還してからのベリィにどことなく元気がないことは気づいていた。
きっと千歳とアップルが見つかり、故郷も救われたので自分のやるべきことを見失っていたのではないかと思う。
それにベリィは元々、自分の力では戦うことができないことを悔やんでいたのだ。
だからベリィはパートナーである自分と一緒に戦うことが出来ない代わりに、自分に出来ることをずっと探していた。
要はそんな、パートナーとして自分の力になろうと奮起するベリィの気持ちが嬉しかった。
「そんなこと言わんでも、ベリィは今でも十分、ウチの力になってくれてるよ。」
だから要は自分の思う素直な気持ちを彼に伝える。
ベリィは目を白黒させているが、少なくとも今まで自分は彼への言葉に対して遠慮をしたことはない。
いつかベリィがパートナーとして自分のことをもっと理解したいと言ってくれた時から、要は自分の思いは素直に伝えてきた。
だから今更、自分の発言が気休めではないかと疑われるような心配はしていなかった。
「こんなこと言ってもベリィは納得できないかもしれないけど、ベリィが側にいてくれるだけで、ウチにとっては十分なんよ?
今日みたいに帰って来たとき、ただいまって言ってくれるだけで、どこか安心できるの。
だから、力になってあげられないなんてことはない。
ウチからすればベリィには感謝してもし足りないくらいやもん。」
「・・・そうか。」
自分の言葉がウソではないとわかってくれたのか、ベリィの表情から不安の色がなくなった。
代わりに僅かに困惑が見て取れるが、それも仕方ないだろう。
行動と言う点で見れば、確かに彼は『何もしていない』のだから。
でもパートナーとして、何かを成さなければ力になれないなんてことはないと思う。
普段毎日を楽しく過ごしている要にだって、プリキュアとしての戦いの中で多くの悩みを抱えてきた。
プリキュアとして戦い、絶望の闇を抱える人々たちを助けること。
孤立していた千歳とどう接していいか悩んだこと。
でもそんなとき、隣にいてくれた彼が優しく励まし見守ってくれたから、要はそんな悩みを乗り越えられた。
それに、そんな理屈を抜きにしても、彼の隣は凄く居心地がいいのだ。
「でも、どうしてそれだけで十分なんだ?」
それでも納得の出来ない彼は、首を傾げながら質問してきた。
実はその答えは自分でもわからない。
でも答えではないかと思う言葉が1つだけ思い当たる。
「・・・内緒っ。」
でもこればかりはいくらベリィが相手でも、否、ベリィが相手だからこそ言うことはできない。
要は少しはにかみながら、デリカシーのない質問をしてくるベリィに対して意地悪気に微笑むのだった。
・・・
次回予告
「夏も本格的に暑くなって来たな。」
「そろそろなつのおようふく買わないとね。」
「それなら今度、みんなで買いに出かけましょうよ。」
「それは楽しみだわ。」
「あっ、だったらひなこちゃん、わたしのおようふくみつくろってもらってもいいかな?」
「え・・・?」
「ひなこちゃん、かわいいものすきだし、こうゆうの得意そうだから・・・ダメかな?」
「・・・私が・・・蛍ちゃんを好きに・・・。」
「・・・ひなこちゃん?」
次回!ホープライトプリキュア第16話!
「オシャレにチェンジ!コーディネートは雛子にお任せ!」
希望を胸に、がんばれ!わたし!