第15話・プロローグ
季節が春から夏へと移り変わった最初の週末。
蛍はお出かけ用のバッグにチェリーを入れ、要たちとの待ち合わせの場所へと向かった。
場所は夢ノ宮中学校への通学路にある十字路。
ここは蛍の家と学校、要と雛子の家がある住宅街、そして商店街を結ぶ合流地点となっているところであり、自分たちに限らずよく生徒たちの待ち合わせ場所として使われている。
蛍がそこへ着くと、既に要と雛子の姿があった。
2人とも少し大きめの鞄を持っている。中にはベルとレモンが入っているのだろう。
「蛍、おはよう。」
「蛍ちゃんおはよう。」
「かなめちゃん、ひなこちゃん。おはよう!」
「朝から上機嫌やな蛍。」
「えへへ、だってちとせちゃんのお家にあそびにいくの、はじめてなんだもん!」
そう、蛍たち3人は、千歳から週末に家に来ないかと誘われたのだ。
千歳の家に初めて遊びに行ける喜びから、蛍は話を聞いた時から今日が楽しみでたまらなかったのだ。
「ふふっ、それじゃあ千歳ちゃんを待たせても悪いし、さっそく向かいましょうか?」
「うん!」
蛍は大きな声で頷き、3人で千歳の家へと向かう。
事前に教えてもらった住所は、ここから夢ノ宮中学校の方面へと向かい、学校を通り過ぎてさらに約10分ほど先にある、アパートやマンションが多く立ち並ぶ住宅街とのこと。
1人暮らしの世帯が多く集まるところだが、ファミリー向けの物件もあるようだ。
蛍たちがその場所へ辿りつくと、目の前には比較的新しいタイプのマンションがあった。
部屋番号は確か302号室と聞いている。
要と雛子がマンションの管理人に会釈し、302号室を尋ねに来たと説明する。
そして302号室の前まで辿りつき、呼び鈴を鳴らした。
「はい、どちらさまでしょうか?」
呼び鈴の隣にあるスピーカーから、千歳の声が聞こえてきた。
「えと、いちのせ ほたるです!きょうはちとせちゃんから・・・。」
相手が千歳とわかっていながらも、インターフォン越しで話すのは初めてなので蛍はつい緊張して敬語になってしまう。
「ああ蛍ね。ちょっと待って、今鍵を開けるから。」
だが蛍が言葉を言い終わる前に千歳がインターフォンを切ったようで、スピーカーから音が聞こえなくなった。
程なくして鍵が開錠される音とともにドアが開かれ、千歳が姿を見せた。
「3人ともいらっしゃい。」
簡単な挨拶を済ませて千歳は玄関へと移動し、蛍たちを迎え入れる。
GW以来に見る千歳の私服は、青いラインと胸に髑髏のマークが入ったTシャツに、オリーブ色のカーゴパンツと言う服装だ。
さらにアクセサリーにシルバーのネックレスとブレスレットを身に付け、チェーンベルトを巻いている。
一見すると男子が好みそうなクールなファッションであり、動きやすさを重視しシンプルな服装である要とはまた違った意味でボーイッシュな印象をうけるが、モデル顔負けの面立ちとスタイルを持つ千歳が着こなすことで、男勝りなカッコよさと女性らしい可愛さが互いの持ち味を潰すことなく同居している。
そんな千歳だからこそ成せる姿に蛍はつい見とれてしまうが、自分が先頭に立っていることを思い出して慌てて玄関へとあがった。
「「「おじゃましまーす。」」」
ふと、玄関に並ぶ靴の中に赤いヒールがあることに疑問を持ちながら、蛍たちは千歳に誘われてリビングへと足を運び入れる。
するとキッチンの方から茶髪の女性が姿を見せた。
「いらっしゃいみんな。」
だが目の前にいる女性の姿に身に覚えはなく、なぜ千歳と同じ部屋にいるのかもわからず、何よりなぜ初対面であるはずの人が自分たちを知っているのかがわからなかった。
「・・・?
ああっ、あなたたちに『この姿』を見せるのは初めてだったわね。」
だがその落ち着いた口調と『この姿』と言う言葉、さらに赤一色の服装が千歳と繋がりの深い『ある人物』と結びつき、蛍は驚愕の表情を浮かべる。
「もっもしかして、アップルさん!?」
「ふふっ、正解。」
「「「・・・ええ~っ!!!?」」」
千歳の家について早々、驚愕の真実を知るのだった。