ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第14話・Bパート

 蛍たちと別れた千歳は、自分の教室である2年3組へと入る。

 

「みんな、おはよう!」

 

 そして大声でクラスメートたちに挨拶をした。

 公共の場で大きな声で挨拶をすることは、場の空気を明るくするとともに、他者と親睦を深めるきっかけにもなると言うのが故郷では一般的であり、故郷以上に高度な人間社会を形成しているこの国においてもそれは同様だろうと思ったのだ。

 だが挨拶を受けたクラスメートたちは、返事をして来ないどころか全員銅像のように固まってしまった。

 だがみんな視線だけは自分に向けている。

 もしかして服装がおかしいのだろうか?

 いや、身だしなみは毎日リン子に整えてもらっているから心配はないはずだ。

 となれば、挨拶に問題があったのだろうか?

 と疑問に思いながらも千歳は自分の席につく。

 すると前の席では未来と優花が周りと同じようにこちらの見ながら固まっていた。

 

「おはよう、未来、優花。」

 

 試しに2人にだけ挨拶をしてみるが、何も反応がない。

 さすがに様子がおかしいと思った千歳は少し不安を滲ませて話しかける。

 

「えと・・・私、どこか変だったかしら?」

 

「・・・いや、変も何も千歳、あんた今まで私らに挨拶してきたことあった?」

 

「え・・・?」

 

 だが、ようやく口を開いた未来の一言で今度は千歳の方が凍り付いてしまう。

 そしてこれまでの自分の学校生活における記憶が急速で脳内に再生されていく。

 故郷を失った悲しみと喪失感から、この世界で平和を享受している人たちのことを妬ましく思い、自分から距離を置くように冷たく振る舞っていたのだった。

 そしていつしか『孤高のクイーン』だなんて呼ばれ、望んだとおり多くの生徒たちから距離を置かれるようになり、ずっと気にかけてくれていた優花からも見放された。

 未来だけは最後まで自分のことを気にかけてくれていたが、それさえも疎ましく思い徹底的に無視を決め込んできたのだ。

 今まで何の落ち度もあるはずがない彼女たちにずっと八つ当たりしてきたのだ。

 それを思い出した途端、千歳は冷や汗をかく。

 いくら昨日の出来事が夢のようなひと時だったとはいえ、決して忘れてはいけないことを忘れてしまっていたのだ。

 

「あなた、本当に千歳なの?」

 

 優花が訝し気に話しかけてくる。

 先週まで徹底して無視されていた相手から突然、挨拶がきたのだから当然の反応だ。

 千歳自身も、先週までの自分が今の姿を見たら別人だと思うだろう。

 だが彼女たちに本当のことを話すわけには当然いかないので、どう説明しようかと考えながらも、まずはこれまでのことを謝罪することにした。

 

「えと・・・ごめんなさい。今まで冷たい態度を取ってしまって。

 その、今までこきょ・・・じっ実家のゴタゴタに色々と巻き込まれちゃって、それでちょっと心に余裕がなかったと言うか、とっとにかくごめんなさい!!」

 

 戸籍上はこの国の人間である手前、故郷と言う言葉は不適切と思ったが、それにしたって物事の輪郭を捉えているかどうかすら怪しい説明である。

 こんな答えで果たして納得してくれるだろうか?

 

「まっなんでもいいわ。もうそのゴタゴタとやらは解決したの?」

 

「えっ?ええ・・・。」

 

 だが未来は何の迷いもなく・・・いや、正確には特に興味もない様子ですんなりと受け入れてくれた。

 

「そっか、良かったじゃない。

 で、今はもう心に余裕が持てたってやつ?」

 

「ええ・・・。」

 

「未来、あなたそれで納得できたわけ?」

 

「納得も何も細かいこと気にしなくてもいいじゃない。

 ようやく千歳が話しかけてくれるようになったんだよ?

 私にはそれだけ十分だよ。」

 

 そう屈託なく笑う未来の姿に千歳は救われた気がした。

 

「優花だって、本当はもう根に持ってもいないんでしょ?」

 

「まあね。と言うわけでこれからよろしくね千歳。」

 

「あっ!私が先に言おうとした台詞!よろしくね千歳!!」

 

「っええ、よろしくね。未来、優花。」

 

 蛍たちもそうだったが、未来と優花もとても優しい子たちだ。

 千歳は自分がどれだけ恵まれた環境にいるのかを実感しながら、周りにいる人たちに心から感謝するのだった。

 

 

 

 

 昼休み。約束通りであればそろそろ蛍が迎えに来てくれる頃だ。

 

「千歳~、良かったら一緒にお昼食べない?」

 

 前に座る未来が振り向きながら話しかけてきた。

 彼女からの申し出は素直に嬉しいが、蛍との約束を破るわけにもいかない。

 

「ごめんなさい、今日はもう先約が入っているのよ。」

 

「先約?先約ってどなた?」

 

「それはね・・・。」

 

「しっ、しつれいします!!」

 

 すると教室のドアが開く音とともに、蛍が緊張で裏返った声と共に入って来た。

 だがこちらに気づくや否や、強張っていた表情が一転明るくなり小走りでこちらへと駆け寄ってくる。

 

「ちとせちゃん!」

 

「蛍、わざわざありがとう。」

 

「あ~、先約って要たちのことか。」

 

「そっ、だから今日はごめんね。」

 

 蛍にお礼を言い、誘ってくれた未来に謝罪すると、未来の隣に座る優花が何かに気が付いたように手のひらをポンっと叩いた。

 

「なるほど、やっぱり君のことだったのね。」

 

「ふえ?」

 

 突然優花に話しかけられ、蛍は困惑する。

 

「休み時間中にチラっと聞いたの。

 孤高のクィーンが突然変わったのは、その凍てつく心(アイスハート)を溶かした小さなお姫様(リトル・プリンセス)がいたからだって。」

 

「・・・へ?」

 

 そして優花の言葉の意味がわからないのか、ますます困惑の表情を浮かべていた。

 だが千歳はその言葉の意味を捉えて微笑する。

 

「あ~そういえばそんな噂流れてたね。リトル・プリンセスか~。

 確かにこの学校だと蛍ちゃんくらいしか思い当たる子はいないね。」

 

 困惑する蛍を差し置き、未来も納得したようだ。

 すると優花が自席から立ち、蛍の方へと近づいてくる。

 

「えっ、えと・・・?あの・・・。」

 

 一方、蛍は向かってくる優花を見て、強張った様子を見せる。

 未来と違い、優花とはほぼ初対面のはずだ。

 人見知りの強い彼女のことだから緊張しているのだろう。

 

「ああっ、脅かしちゃってごめんね。

 君、要のとこのクラスメートだよね?」

 

 そんな蛍の反応を察してか、優花は膝を屈ませて蛍と目線を合わせた。

 

「はっはい・・・。」

 

「初めまして、私は相羽 優花って言うの。よろしくね。」

 

「よっ、よろしく、おねがいします・・・。」

 

 ぎこちないながらも挨拶を終えた蛍を前に、優花は少しずつ頬を緩ませていく。

 優花の様子がどこかおかしいと思った矢先、

 

「いや~、未来から話は聞いていたけど、君って本当に小っちゃくて可愛いね~。」

 

「はわわわっ・・・。」

 

 優花が緩んだ表情のまま、蛍の頭を撫でまわしてきた。

 そんな彼女を前に蛍は困惑しながらも、自分が子ども扱いされていると思い反論する。

 

「あっ、あの!わっわたし、こうみえてもおないどしなんです!

 だっだからその・・・あのっ、こどもあつかいは・・・ええと・・・。」

 

 だが反論しようにも、初対面の人が相手ではなかなか強気に出られないのか、徐々に尻すぼみな言葉になってしまった。

 そんな態度が優花をさらに刺激してしまい・・・。

 

「か~わ~い~い~!!」

 

「ひゃああっ!」

 

 優花はおもむろに蛍を強く抱きしめた。

 他のクラスの教室で見知らぬ人たちを前に、初対面でしかも同い年の人から強く抱きしめられる。

 そんな状況で恥ずかしがり屋の蛍が無事でいられるわけもなく、顔から蒸気を出す勢いで真っ赤になっていった。

 

「優花、その辺にしなさい。」

 

「あははっごめんね蛍ちゃん。苦しくなかった?」

 

「はっはい・・・。」

 

 さすがに蛍が気の毒に思ったので止めに入ったが、優花は特に悪びれた様子もなく謝罪する。

 だが一方で千歳も、顔を赤くして困惑する蛍の姿はとても愛しく見えたのだ。

 一昨日までは蛍の弱気な様子が嫌いだったはずなのに、もうその時の記憶が風化している。

 代わりに芽生えたのが、誰よりも彼女のことを愛しく思う気持ちだった。

 どうも自分の頭の中と言うのは都合よく出来ているみたいだと、千歳は自分のことながら呆れるが、もう以前のように蛍を嫌うことが出来なくなっていた。

 

「それじゃ蛍、要と雛子も待っているでしょうし、そろそろ行きましょう。」

 

「うっうん、・・・あの。」

 

 すると蛍は未来と優花の方を見て、両手を自分の胸の前に当てた。

 千歳にはそれが何を意味しているか何となくわかっている。

 あの子は今、勇気を振り絞ろうとしているのだ。

 

「なに?蛍ちゃん。」

 

「よっ、よかったら!みんなでいっしょにごはんたべませんか!?」

 

「え?」

 

 蛍の突然の申し出に、今度は未来と優花が困惑する。

 人見知りの強い彼女に誘われたことがよっぽど意外だったのだろう。

 

「えと、いいの?私たちも一緒して。」

 

「はっはい、こうゆうときは、大勢のほうがたのしいって、かなめちゃんが言ってたから。」

 

「それじゃ、お言葉に甘えましょうか?」

 

 頬を赤くしながら頼む蛍の申し出を断れるはずもなく、優花は同意し未来も頷いた。

 

「あっありがとうございます!えと・・・。」

 

「未来、でいいわよ。」

 

「私も、優花って呼んでちょうだい。」

 

「はっはい!いっしょにいこっ!みくちゃん、ゆうかちゃん!」

 

 未来と優花とも輪を広げることができた蛍は、飛び跳ねんばかりの勢いで喜ぶ。

 そんな彼女の様子を見て、千歳は昨日の自分の決意を思い出す。

『これまで』蛍を傷つける言葉をぶつけてきた過去を消すことはできないが、それならば代わりに『これから』の彼女を守り続けて行こう。

 そう思った時、千歳の頭に1つの言葉が思い浮かんだ。

 

「2人とも、1ついいかしら?」

 

「なに、千歳?」

 

 千歳は未来と優花の方を振り向きながら声をかける。

 

「『孤高のクィーン』って名前、結構気に入ってけどそれは今日限り返上させてもらうわ。」

 

「気に入ってたんかい。」

 

 未来が小声で入れたツッコミは千歳の耳には届かない。

 そして千歳は腰に手を当て、2人を見据えて宣言する。

 

「その代わり、これからは私のことを、

『小さなお姫様(リトル・プリンセス)の守護騎士(ガーディアン・ナイト)』

 と呼びなさい!」

 

 蛍を、小さなお姫様を守る騎士となるのだ。

 立場だけで言えば自分の方が姫のはずだが、千歳にとってのお姫様は紛れもなく蛍であり、そんな彼女を誰よりも守りたいと思うのなら、自分は彼女の騎士であると言っても過言ではないのだ。

 そしてこの世界で学んだ言葉を用いて千歳は思いつく限りのカッコイイ通り名を2人の前に発表し

 

「・・・はい?」

 

 ・・・たのだが、未来と優花はどこか呆れた表情を浮かべた。

 通り名のカッコよさを称賛する反応を期待していただけに、この反応は予想外過ぎて千歳までも困惑してしまう。

 一体だが何かいけなかったのだろうか?

 ただ『騎士(ナイト)』と表現するだけではシンプル過ぎると思ったので『守護(ガーディアン)』を頭に付けた方が響きが良く何よりカッコイイと思ったのだが、どうも2人の反応を見るにあまりよろしくはなかったようだ。

 

「ちとせちゃん!はやくいこー!」

 

「あっ、はーい。ほら、2人とも蛍を待たせてるわよ。」

 

「うっうん。」

 

 だが何をカッコイイと思うかは人それぞれの感性によるものだろう。

 千歳はあまり気にせず、自分がカッコイイと思うならばそれで良しと思うようにした。

 だが2人からはひそひそと、「千歳ってひょっとして・・?」、「みたいね~。」なんて会話が聞こえてきた。

 結局、ひょっとして、の後が聞こえなかった千歳には2人が呆れた理由がわからず、そのまま要と雛子が待つ食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 食堂の隅にある席、蛍たちがプリキュアについて話をする時に使っているこの場は、今日は多くの人たちで賑わっていた。

 要、雛子、千歳、クラスメートの真に愛子、それから千歳のクラスメートである未来と優花、そして蛍自身を合わせた8人で談笑しながら昼食を取っている。

 

「蛍ちゃんの料理うっま!」

 

「うちの親のより美味しいわ!」

 

「あっ、ありがとう・・・。」

 

 未来と優花に料理を絶賛され、蛍は恥ずかし気にお礼を言う。

 例によって千歳に手料理を振る舞おうと思い、お弁当を多めに作って来たのが幸いした。

 

「本当に美味しいわ。ありがとう蛍。」

 

「えへへ・・・。」

 

 千歳に喜んでもらえたのが嬉しくて、今度は照れくさそうに微笑む。

 

「それにしても、まさか孤高のクイーンと一緒にお昼を食べられるとはね。」

 

「びっくりしちゃったわ。いつの間にか仲良くなっているんですもの。」

 

「あはは、まあ色々あってね。」

 

 真と愛子の言葉に要は苦笑いを浮かべるが、2人ともそれ以上のことは言及せず、かつて人を遠ざけていた千歳のことも特に気にせず接してくれた。

 

「千歳ってさ、スポーツも得意なんだよね?サッカーとかできる?」

 

「授業でしかやったことがないけど。」

 

「現役女子サッカー部員をごぼう抜きしてたよね~。」

 

「ちょっと未来。」

 

「千歳ちゃん、漫画とか興味ある?」

 

「えっと、あまり読んだことはないけど、でも興味はあるわ。」

 

 仲良くお喋りをするみんなの姿を見ながら、蛍は要たちと友達になってから初めてみんなでお弁当を食べた日のことを思い出す。

 あの時は要と雛子、真と愛子の4人と一緒だったが、今日は千歳たち3人も一緒だ。

 蛍にとって友達と思える人が今、8人もいるのだ。

 その数は、男女ともに友達の多い要と比べれば決して多くはないだろう。

 だが今年の4月まで友達と言える相手が1人もいなかった蛍にとって、8人もの友達に恵まれるなんて夢のような出来事なのだ。

 蛍はあの時と同じように、リリンを想い勇気のおまじないをする。

 全て、始まりのきっかけとなったこのおまじないのおかげだから。

 

「それって、おまじない?」

 

 そんな蛍に千歳は、あの時の雛子と同じ質問をしてきた。

 

「うん、一歩ふみだせる勇気がだせるおまじないなの。」

 

「一歩踏み出す勇気か・・・素敵なおまじないね。」

 

「うん!」

 

 千歳にリリンから教えてもらったおまじないを褒められ、蛍は上機嫌になる。

 

「確かリリンちゃんって子から教えてもらったのよね?」

 

「うん、リリンちゃん・・・。」

 

 愛子の言葉に蛍は頷きながら、リリンを想い窓の外に広がる青空を見る。

 今日は彼女と会う約束をした日だ。

 学校が大好きになった蛍にとって、放課後が楽しみで仕方ないと言うのも珍しいことだが、彼女に会える喜びは、今の蛍には何物にも変えられないものになっていた。

 

「ホント、恋する乙女みたいやな。」

 

 要はあの時と同じ言葉を蛍へとかける。

 

「・・・えへへ。」

 

 だが蛍の反応は、あの時と違っていた。

 その言葉に反論せず、はにかむのだった。

 そんな蛍の反応に要はポカンとし、他のみんなも言葉の意味を深読みしたのか、表情に疑問を浮かべている。

 そんなみんなの疑念をとりあえず晴らそうと、蛍は本心を口にする。

 

「恋なんて、わたしにはわからないよ。」

 

 だけどそれは、蛍にとっては否定の言葉にはなっていなかった。

 確かに自分は恋を知らない。

 父親以外の男性と会話したことなんて指で数える程しかなく、そもそも同性の友達ですら要たちが初めなのだ。

 そんな自分に異性の友達なんているはずもなく、恋をする機会だってあるはずもなかった。

 

(・・・でも。)

 

 そんな自分でも分かる。リリンに対する好きは、他の誰とも異なる好きなのだと。

 友達とも、両親とも違う、リリンにだけ感じることができる『特別』な好き。

 彼女のことを想うだけで幸せになれる。一緒にいるともっと幸せになれる。

 もしもこの気持ちが、『恋』だと言うのであれば・・・。

 

「・・・それでも、いいかな・・・。」

 

 そう思えるほどに、蛍の心は、リリンに強く惹かれていた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 夕刻に差し掛かった時間を目掛けて、リリンは噴水広場を訪れる。

 いつもの通りならそろそろ蛍が現れる時間だ。

 幸いにも今日は一緒に会う約束をしている。あの子が自分との約束を破ることなんてしないだろう。

 

「確かめ・・・ないと・・・。」

 

 本当にあの子だったのかどうか、それをちゃんと確かめなければならない。

 だが確かめたところで自分の任務には何の影響もないはずだ。

 むしろアモンから与えられた新たな任務を遂行するには好都合のはずだ。

 それなのになぜ今、こんなにも苦しいのだ?

 

「ほたる・・・。」

 

 待ち人の名を呟きながらリリンが商店街の方へと目を向けると、ちょうど目の前に蛍の姿が映った。

 

「あっ、リリンちゃ~ん!!」

 

 蛍の方もこちらに気づいたらしく、駆け足で寄って来た。

 その後ろには要と雛子、それから初めて見る青髪の少女の姿がある。

 

「ほたる、こんにちは。」

 

「うん!あっ、しょうかいするね、リリンちゃん。

 わたしのあたらしいトモダチで、ちとせちゃんっていうの!」

 

「初めまして、姫野 千歳です。

 あなたがリリンね。蛍から話は聞いているわ。」

 

「リリンです、よろしく」

 

 蛍が紹介する新しい友達とやらに怪しまれないよう、リリンも形式ばかりの挨拶を交わす。

 

(・・・あれ?)

 

 だがここでリリンの頭に1つの疑問がよぎった。

 フェアリーキングダムでの戦いで、確かキュアブレイズはキュアシャインと共闘戦線を張っていた。

 そしてそれを終えた今日、蛍が新しい友達を紹介してきた。

 このタイミングは偶然なのか?

 さらにリリンは、キュアブレイズと千歳の背丈が近いことに気がつく。

 千歳だけではない。よく見ると要と雛子も、キュアスパークとキュアプリズムと背丈が近くないだろうか?

 そして蛍は・・・。

 

「あっ・・・。」

 

 そこまで思い当たり、リリンは顔を強張らせてしまう。

 

「リリンちゃん?」

 

 蛍が心配そうに声をかけてくるが、リリンの耳には入らない。

 蛍みたいな肉体的、精神的に幼く弱い少女がプリキュアであるはずがないと決めつけていた。

 だから今まで彼女の身の回りのことなんて気にも留めていなかった。

 だけどもし、彼女の正体が・・・だとしたら?

 蛍がプリキュアを知っている素振りを見せたこと。

 自分を巻き込みたくないと言っていたこと。

 背丈の近い蛍の友人たち。

 先週の休日は用事があると言う言葉。

 そして、キュアブレイズの加入とともに姿を見せた蛍の新しい友達。

 これまで蛍と過ごした出来事の全てが、見えなかった点と線で一気に結び始める。

 全ての要素が、リリンに1つの事実を押し付けてくる。

 何よりもキュアシャインは、恐れのあまりソルダークから背を向けて逃げ回り、戦士とは思えないほど身体能力が低く、自分の力1つ満足に扱えていないほど脆弱な戦士だった。

 戦場で突然泣き出すほど精神的にも弱い存在だ。

 その特徴は、蛍と一致しないだろうか?

 

「リリンちゃん!」

 

「えっ・・・?」

 

「だいじょうぶ?なんだか、かおいろがわるそうだけど。」

 

「えっええ・・・ごめんなさい。

 ちょっと体調がすぐれないみたいで・・・。」

 

「えっ!?リリンちゃんぐあいわるいの!?」

 

 リリンの言葉に蛍は動揺し、表情は心配に満ちていく。

 彼女の心は揺れていない。

 今なお自分に対してトモダチとして信頼を置いてくれている。

 

「だいじょうぶよ、ほんのちょっとだけだから、おはなしする分には問題ないわ。」

 

「でも・・・。」

 

「あたし、今日ほたると会えるの、ずっと楽しみにしてたんだから。

 だからいつも通り、ここでお話しましょ?」

 

「うっうん!」

 

 それなら自分は彼女の信頼を裏切らないように、いつも通りに接するだけだ。

 そう、いつもと変わらず、ただ任務のために、彼女を利用するために。

 だがそんないつもと変わらないはずの日常は、今回はリリンに安らぎを与えることはなかった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 リリンと2人で談笑する蛍の姿を、千歳は要たちとともに少し離れたところで見守っている。

 

「・・・蛍、随分嬉しそうじゃない。」

 

 千歳は少しだけ口を尖らせる。

 ここに来る前に蛍から前もって予定を聞いていたとはいえ、紹介したい友達がいると呼ばれてついてきたかと思えば、一言挨拶を済ませただけで2人きりの世界へ入ってしまうものだから面白くない。

 だからと言って2人の間に割り込んでいくほど千歳も子供ではないが、そこがまたちょっとだけ面白くなかった。

 

「リリンちゃんと一緒にいるときはいつもあんな感じよ。」

 

「蛍にとっては、自分を変えるきっかけを作ってくれた恩人だしな。」

 

 今日のお昼に少しだけ話を聞いてはいたが、なるほど、確かにリリンと一緒にいるときの蛍は、これまで見せたことのない笑顔をしていた。

 要が彼女を恋する乙女とからかっていたのも頷けるし、あんなにも幸せそうな蛍の姿を見せられては千歳としても見守るしかない。

 

「あのリリンって子も、今年の4月からここに越して来たんだっけ?」

 

「ええ、蛍ちゃんからはそう聞いているわ。」

 

 蛍も確か4月から引っ越して来たはずだ。

 似たような境遇と言う共通点も、2人を結びつける強いきっかけとなっているのかもしれない。

 千歳はそうぼんやりと考えていたが、

 

「ってことは、背丈からしてあの子は夢ノ宮小学校へ通っているのかしら?」

 

「あれ?そう言えばリリンってどこの学校通ってるんだっけ?」

 

「え?」

 

 ほんの何気ない疑問の1つが千歳の中で波紋を生み出す。

 

「言われてみれば聞いたことがないわね。蛍ちゃんなら知ってるかもしれないけど。」

 

「どこの学校へ通っているのかもわからないって、あなたたち友達ではないの?」

 

「いやあ、実はウチらは一言二言会話したことがある程度で、いつもは蛍とベッタリやからねあの子。」

 

「ほら、今日みたいに蛍ちゃんのお邪魔しちゃ悪いからね。

 でもそれがどうかしたの?」

 

 千歳の頭をよぎった疑問がふつふつと膨れ上がっていく。

 彼女たちは何も疑問に抱いていない。だけどそれは仕方のないことだ。

 背丈的にリリンは小学生に見えるから、同じ学校に通っていなくても不思議ではないし、2人が蛍に気を遣って敢えて距離を開けていたのであれば、通う学校を聞けるほどのプライベートな話も出来ないだろう。

 それに2人は『あのこと』については知らないはずだ。勘付けと言うのも横暴な話だ。

 

「千歳ちゃん?」

 

 雛子の声を聞き、千歳は我に返って再び蛍の方を見る。

 蛍は変わらず、幸せそうな笑みを浮かべてリリンとお喋りをしている。

 でも自分の抱いた疑問は、彼女の幸せを真っ向から否定するものだ。

 

「・・・いいえ、何でもないわ。気にしないで。」

 

 そもそも素性を知らないだけで決めつけるのも酷い話だ。

 千歳は、今は蛍のためを思い、自分の抱いた疑問を静かに胸の内に収めるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「それじゃあまた今度ね、ほたる。」

 

「うん、またね!リリンちゃん!」

 

 蛍と別れてからもリリンは、1人で噴水広場の周辺を歩き回っていた。

 どこかへ行くアテがあるわけではない、ただ歩いていないと思考の渦に飲み込まれてしまいそうだったのだ。

 

(ほたる・・・あなたは・・・。)

 

 だが結局、リリンは思考を中断することができないでいた。

 しばらくの間、リリンはずっと街を歩き回る。

 

(本当に・・・あなたなの・・・?)

 

 もしそうだとすれば、これまで自分は彼女のことを・・・。

 

「っ!?」

 

 そこまでの考えに至った瞬間、リリンの喉から湧き上がる熱い衝動が吐息となって吐き捨てられる。

 そうだ、まだ覚えている。キュアシャインに抱いたあの衝動を・・・。

 

「キュア・・・シャイン・・・。」

 

 もう、どうだって良いことだ。

 自分にはまだこの黒い衝動が残っている。いつも通りこの衝動に身を委ねるだけだ。

 例えやつの正体が誰であろうと・・・。

 

「ターンオーバー・・・、希望から絶望へ・・・。」

 

 だがいつもと違い覇気のない声で、リリンはリリスへと姿を変えるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 千歳は蛍たちと談笑しながら、商店街から帰路へと向かっていた。

 最も会話の内容はもっぱら、蛍が今日リリンと何を話したのかであり、甘い表情と甘い声で終始嬉しそうに話す蛍の姿を、要は呆れてげんなりした表情で、雛子は頬を緩み切った恍惚とした表情でそれぞれ聞いていた。

 そんな3人の姿に苦笑しながら、千歳は今日に抱いた疑問の1つを蛍に聞いてみようと思った。

 

「ところで蛍。」

 

「なに?ちとせちゃん。」

 

「リリンって、4月からここに転校してきたのよね?

 どこの学校に通ってるかとか、どこに住んでるかとか聞いたことある?」

 

「リリンちゃんの学校?そういえば、きいたことなかったかな。

 リリンちゃん、あんまりじぶんのことおはなししたくない感じだったから。」

 

「それじゃあ、彼女の連絡先とかは?」

 

「んっと、携帯電話とかもってないみたいだよ。

 それに、リリンちゃんはわたしが会いたいっておもえば会うことができるから・・・。」

 

 頬に両手を当てておもむろにノロケだす蛍に要は深いため息を吐くが、千歳はそれどころではなかった。

 リリンはあれだけ蛍に親しくしていると言うのに、自分のプライベートに関する情報を徹底的に伏せているのだ。

 

「ちとせちゃん、それがどうかしたの?」

 

「えっ、ええ、とても仲が良さそうに見えたから、ちょっと意外に思っただけよ。」

 

「えへへ、リリンちゃんとはいつもあの噴水広場で待ち合わせするのが日課になってたからね。

 だからあんまり、気にしたことなかったんだ。」

 

 確かに友達同士とは言え私生活の隅々までひけらかす必要はないだろうし、彼女の言うように本当に必要性がないのであれば、連絡先や住所などを聞くこともないのかもしれない。

 それでも蛍の答えに千歳は眉を潜めるのだった。

 

「じゃあちとせちゃん、また学校で会おうね!」

 

「ええ、今日一日ありがとう、またね。」

 

「うん!かなめちゃん、ひなこちゃんもまたねー!」

 

「バイバーイ。」

 

「おーう。」

 

「要と雛子も、今日はありがとうね。」

 

「だからウチらはついでかって。」

 

「要。」

 

「冗談冗談、またな千歳。」

 

「また明日ね。」

 

「うん、また明日。」

 

 蛍たちと別れの挨拶を済ませ、千歳は1人帰路についていた。

 また明日、この言葉を言える日が来たことを千歳は心から喜ぶ。

 また明日から友達と一緒に過ごせる日々が訪れる。

 だが千歳の脳裏に囁く疑念が、そんな喜びに暗雲をもたらし始めていた。

 蛍でさえリリンのことを知り得ていない。

 だけど一方で、こちらの一方的な言いがかりである可能性の方がまだ高いのだ。

 この疑念は蛍を傷つけてしまうどころか、その幸せを奪いかねないものだ。

 それは本意ではないから、確証がない以上答えを急ぐべきではない。

 それでももし、この疑問が真実だとしたら・・・。

 

(・・・念のため、警戒しておいた方が良さそうね。)

 

 もしもリリンが本当にただの友達であれば、彼女への仕打ちは到底許されるものではないだろう。

 それでも全ては蛍のため、自分は彼女のこれからを守ると決めたのだ。

 彼女の守護騎士として、心を鬼にしてでもリリンを疑ってかからなければならない。

 その時、

 

「っ!?闇の波動!?」

 

 先ほどまでいた商店街の方から闇の波動を感じられた。

 この波動には覚えがある。リリスだ。

 彼女の出現が千歳の疑惑をさらに深めていく。

 だけど今はそれどころではない。

 やつが現れたと言うことは、またこの街に住む誰かが闇の牢獄に囚われたのだろう。

 そして蛍の身に危険が迫っている。

 この世界を、蛍たちの大切な世界を守るために自分はここへ戻って来たのだ。

 千歳は虚空からパクトを生み出し、右手に持って天へと掲げる。

 

「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!!」

 

 直後パクトから赤色の光が解き放たれた。

 赤き光はヴェールとなって千歳の全身を包み込む。

 そして千歳が光のヴェールを指で弾くと同時に着火音が鳴り響き、炎がヴェールの上を走り出す。

 やがて炎は隅々まで燃え移っていき、轟音と共に爆炎を生み出し赤いドレスを形成した。

 そして降り注ぐ火の粉がリボンとなってドレスを飾り、自身の髪を指でなぞり赤色に染め上げていく。

 最後に光が千歳の髪をツインテールに結び、瞳の色を赤く染め上げる。

 

「世界に轟く、真紅の煌めき!キュアブレイズ!!」

 

 そして名乗りと同時に千歳の周囲に爆発が巻き起こり、その名の通り世界に轟かんばかりの爆音を鳴り響かせた。

 プリキュアのとしての使命のため、この世界を守るため、そして蛍の幸せを守るためにこの地へと舞い戻った千歳は、再び闇の牢獄へと身を投じていくのだった。

 

 

 

 

 千歳がその場を訪れると、目の前にはリリスとソルダークの姿があった。

 

「リリス!あなたもこの世界に戻っていたのね!」

 

「キュアブレイズ・・・?

 あなたなんてどうでもいい。

 キュアシャインは?キュアシャインはどこなの!?」

 

 さっそく自分のことをないがしろにされ、リリスはキュアシャインを求めて辺りを見回す。

 相変わらずキュアシャイン以外は眼中にないようだが、別にリリスにどう思われようがなんてこちらとしても知ったことではない。

 重要なのは放っておけばキュアシャインの身が危ないと言うことだ。

 

「あの子の元へは行かせない!」

 

 千歳が臨戦態勢に入ると、リリスは顔をゆがめて睨み付けてきた。

 

「あなたはどうでもいいって言ってるでしょ!

 ソルダーク!!」

 

 そしてソルダークの名を呼ぶと同時に、ソルダークが両手を伸ばしてきた。

 伸びた両手は鞭のようにしなり、千歳へと襲い掛かってくる。

 だが千歳はその攻撃を僅かな動作で回避し、両足から炎を噴射して一気に距離を詰め、ソルダークの腹部にショルダータックルを叩き込んだ。

 そして腹部を押さえよろめく巨体を蹴り上げ、両手から火球を飛ばして追撃する。

 空中で2つの火球を受けたソルダークは煙とともに地面に落下していった。

 

「ちっ!」

 

 その戦いを見ただけでソルダーク1体では分が悪いと見たのか、先ほど千歳のことをどうでもいいと言っていたリリスが爪を尖らせて襲い掛かる。

 千歳は身体を反らせて回避するが、リリスは尾を振るい追撃する。

 千歳は迫る尾を肘で落とすと、続けざま空中で身体を反転させたリリスが両爪を薙いで来た。

 行動隊長の中でも特に速度に秀でるリリスの連撃は、千歳と言えど捌くので手いっぱいだ。

 五月雨に飛び交う攻撃を全て受けきるも反撃の糸口をつかむことができない。

 

「ソルダーク!」

 

 するとリリスの掛け声と同時に、後方に倒れていたソルダークが起き上がり、両手を伸ばしてきた。

 リリスの攻撃を捌くので手いっぱいの千歳が、回避できないタイミングを計ってソルダークの両手が迫り来る。

 このままでは当たってしまう。千歳がそう思ったその時、

 

「おらあっ!!」

 

 千歳の目の前を青色の閃光が通り過ぎ、迫るソルダークの手を叩き落した。

 青い光はそのまま千歳を抱えて後方へと飛んでいく。

 そして千歳が地に足をつくと、彼女の周りにはキュアシャイン、キュアプリズム、そして青色の光から姿を見せたキュアスパークの姿があった。

 

「キュアブレイズ、まだ1人で戦う癖が抜け取らんの?」

 

 キュアスパークがやや呆れながらも千歳を見て微笑む。

 

「キュアスパーク。」

 

「遅れてごめんなさい。

 でも私たちもいるのだから、待ってくれていても良かったのに。」

 

 キュアプリズムが申し訳なさそうな表情を浮かべながらも注意する。

 

「キュアプリズム。」

 

「キュアブレイズだいじょうぶ?ケガはない?」

 

 そしてキュアシャインが心配そうな表情でこちらの容態を伺ってきた。

 

「キュアシャイン・・・ええ、大丈夫よ。」

 

 3人の姿を見た千歳に喜び安堵し、そして少しだけ反省する。

 

「っ!?キュアシャイン・・・。」

 

 するとキュアシャインの姿に気づいたリリスが顔を歪めながらキュアシャインを睨み付けてきた。

 その表情がこれまでキュアシャインに見せたどの表情とも異なっていたが千歳は気にしない。

 何がどうあれやつの目的はキュアシャインだけなのだ。

 千歳はキュアシャインを守るようにキュアプリズムと並び前に立つ。

 

「みんな、この場を借りて改めてお願いするわ。

 私を、キュアブレイズを、あなたたちの仲間、『ホープライトプリキュア』の1人として戦わせて。」

 

 ホープライト、希望の光。

 プリキュアを体現する存在、そう、『世界を照らす希望の光』を守るものとして千歳は戦いたい。

 すると要が白い歯を見せてニヤリと笑い、

 

「よし、キュアシャイン。4人でアレ言ってみる?」

 

「ええっ!?またわたし!?」

 

 蛍に何かを振ったようだ。蛍の方もその意味を気づき少し顔を赤くする。

 

「キュアシャイン、よろしくね。」

 

 それにキュアプリズムも便乗する。

 彼女たちの戦いを見守って来た千歳にも、アレが何を意味するのか分かっていた。

 初めて見たときは嫉妬の対象だったが、今はその1人として加われることがとても嬉しかった。

 するとキュアシャインが恥ずかし気にこちらの顔を伺ってきた。

 千歳はそれに笑顔だけで答える。

 観念したのか、蛍は少しだけ俯いた後、大声で名乗りを上げた。

 

「よっ4つのひかりが、でんせつをつむぐ!!」

 

「「「「ホープライト!プリキュア!!」」」」

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 恥ずかし気に名乗りをあげながらも、蛍はキュアブレイズの方を見る。

 彼女とともに戦い、彼女の助けになることをずっと望んでいた蛍にとって、千歳がこうして共に戦ってくれるようになったことが嬉しかった。

 

「よっし!みんな行くよ!!」

 

 するとキュアスパークが手のひらに雷を発生させ全員に呼びかける。

 次にみんなで何を言えば良いのか、視線の先にいるキュアブレイズは察した表情を浮かべており、蛍にも何であるかがわかった。

 

「「レッツ!」」

 

「「Go!!」」

 

「「「「プリキュア!!」」」」

 

 4人揃っての掛け声とともに、一斉にソルダークの元へと向かう。

 

「キュアシャイン!!」

 

 その行く手をリリスが阻むが、蛍はリリスへと突撃する。

 リリスの目的は自分だけだが、こちらの目的はソルダークを倒すことだ。

 それならば彼女の望み通り、このまま囮役を引き受ける。

 蛍とリリスは正面からぶつかり合い、空中でもつれ合った。

 

「っ、キュアシャイン!」

 

 だがその時、リリスの顔に困惑の色が見えた。

 これまで憎しみに満ちた表情か、2人きりになれたことを悦ぶ表情しか見せたことがなかっただけに、蛍は違和感を覚える。

 だが直後、リリスが爪を蛍へと突き立ててきた。

 リリスの様子がおかしかったことで反応の遅れた蛍は思わず目を瞑ろうとするが、次の瞬間、雷鳴とともに目の前を蒼い雷が横切った。

 

「うっ・・・。」

 

 リリスが呻きながら距離を開ける。

 その隙に後ろを振り向くと、指の先を放電させているキュアスパークの姿があった。

 先ほどの攻撃は指先から雷を放ったものだろう。

 キュアスパークが見せる攻撃の中では初めての遠距離攻撃だった。

 もしかしたら火球を飛ばすキュアブレイズの攻撃からヒントを得て、彼女なりにアレンジしたのかもしれない。

 ふと、ソルダークの方が気になり横で見てみると、キュアブレイズが交戦していた。

 ソルダークの攻撃をキュアプリズムが盾を使ってソルダークの防ぎながら、キュアブレイズが炎を纏わせた拳を叩き付けている。

 キュアプリズムのサポートを受けながら戦う彼女の姿は、蛍の心配を一瞬で吹き飛ばすほどの頼もしさがあった。

 

「もうキュアシャイン1人だけに戦わせはしないよ。リリス。」

 

 そして蛍の隣にもう1人、とても頼もしい仲間がいてくれる。

 

「っ、邪魔をしないで!!」

 

 キュアスパークにも怒りを剥き出しにし、リリスが翼を羽ばたかせて襲い来る。

 だがキュアスパークはリリスの振るった爪の一撃を大きく距離を開けて回避し、直後その距離を閃光とともに瞬時に詰め雷を纏った肘鉄を繰り出した。

 リリスは両手を交差させてガードするが、重い打撃音と共に後方へとたじろぐ。

 

「くっ。」

 

 両手を力なくたらしながら苦悶の声をあげる。

 キュアスパークのパワーは、行動隊長の中で最も腕力に優れるサブナック相手にも引けを取らない。

 同格のリリスと言えど、彼女の一撃を防ぎきることが出来なかったみたいだ。

 

「このっ!」

 

 するとリリスは空中を縦横無尽に飛び回り、速度を活かした攪乱戦術に出てくる。

 蛍は目にはリリスの残影しか映らず、彼女を補足することが出来なかったが、キュアスパークは違った。

 雷を纏い、彼女の軌跡の先を回り込む。

 何かがぶつかり合う衝撃と同時に、雷鳴と打撃音が鳴り響いた。

 雷と一体化しているキュアスパークのスピードは、リリスにも勝るとも劣らない。

 そしてキュアスパークの方がパワーが上だ。

 やがて雷鳴の音の方が良く響くようになり、リリスが傷ついた腕を抱えながら姿を見せた。

 サブナックに並ぶパワーとリリスにも劣らないスピード。

 そして希望の光の扱い方をさらに磨き上げ、遠距離攻撃も身に付けてきた。

 キュアスパークの能力の高さを改めて思い知った蛍は、彼女のことをますます頼もしく思うと同時に助けてくれたことを感謝する。

 そしていつまでも助けてもらってばかりにはいられない。

 リリスがキュアスパークとの戦いに集中している内に、キュアスパークに決定打を入れる隙を自分が作るのだ。

 

「どいつもこいつも!邪魔だって言ってるでしょ!!」

 

 リリスが両手の爪を立てながら左右に開き、手のひらに闇の力を集中させる。

 今がチャンスだ。

 

「たああああっ!!」

 

 蛍は雄叫びとともにリリスの元へと飛び掛かる。

 

「えっ!?」

 

 意表を突かれたリリスはかわすことができず、蛍の体当たりの直撃を受けた。

 

「きゃああっ!!」

 

 リリスは上空へと打ち上げられ、無防備な姿を晒す。

 

「キュアスパーク!!」

 

「光よ、走れ!スパークバトン!!」

 

 その隙をつきキュアスパークがスパークバトンを召喚し、雷を身に纏う。

 

「プリキュア!スパークリング・ブラスター!!」

 

 そしてリリス目掛けて浄化技を放った。

 

「ナメ・・・ないでよね!!」

 

 だがリリスは翼を力任せに羽ばたかせ、無理やり方向を切り替えた。

 雷とともに迫るキュアスパークの浄化技はリリスの爪と羽の先端を掠めるだけで終わってしまう。

 だがリリスも、掠めたとはいえ浄化技を受けてしまったためか、力なく空を浮くだけだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 

 千歳はキュアシャインのことを気にかけながらも、キュアスパークを信頼して任せソルダークとの戦いに専念する。

 そして迫り来るソルダークの両手はキュアプリズムが全て守ってくれる。

 1人で戦っていた時は、敵への攻撃も身を守るのも全て1人でこなしていくしかなく、複数の敵が同時に現れた場合でも、全ての敵を1人で捌いていくしかなかった。

 だけど心強い仲間ができた今、キュアブレイズは目の前の敵と戦うことのみに集中でき、かつ自分が最も得意とする戦い方に専念することができた。

 炎を拳に纏いソルダークの腹部に叩き付ける。同時に炎を爆破させ、爆炎でソルダークの視界を奪った。

 その隙に今度は手のひらに火球を生み出し、ソルダークの頭部へと投げつけ爆破させる。

 そしてソルダークの巨体が大きくよろめくと同時に、千歳は空高く飛び上がってその巨体を踏みつけた。

 巨体が地面の中へとめり込み、ソルダークは一切の身動きが取れなくなる。

 1人の時には絶対に出来なかった、敵へ攻撃することに全力を尽くすと言う戦いが、これまで以上の速度でソルダークを追い詰めたのだ。

 

「光よ、弾けろ!ブレイズタクト!」

 

 4拍子を描き周囲に炎を出現させると同時に、タクトの先端に希望の光を圧縮させていく。

 

「プリキュア!ブレイズフレアー・コンチェルト!!」

 

 周囲に浮遊するの炎を連続でソルダークに叩き込み、最後に圧縮した光を突き付けた。

 直後光は大爆発を引き起こし、ソルダークの巨体を火柱に包み込む。

 

「ガアアアアアアアアアッ!!!」

 

 燃え盛る炎の中、ソルダークは断末魔をあげて消滅していった。

 

「・・・ちっ。」

 

 そしてリリスは、傷ついた体を支えながら姿を消していった。

 

「キュアブレイズ!」

 

 戦いが終わると、キュアシャインが嬉しそうな笑顔を浮かべてこちらにきた。

 彼女に続き、キュアスパークとキュアプリズムもこちらへと歩み寄る。

 

「これでようやく、プリキュア4人揃ったな。」

 

 4人揃った。その言葉に千歳の胸が熱くなってきた。

 自分の身を案じて、隣に立って戦ってくれる仲間がいる。

 ずっとこんな仲間が欲しかったはずなのに、素直になれない自分の我儘のせいで飛んだ遠回りをしてしまった。

 それでも今は、正式に彼女たちの仲間、ホープライトプリキュアの1人になれたことがとても嬉しかった。

 

「ええ!これからは4人一緒に、ダークネスと戦ってきましょ!!」

 

 どの口が言うのか、と自分でも思う言葉を口にし、キュアスパークは少し呆れの交じった表情で苦笑し、キュアプリズムは優しく微笑みかける。

 

「うん!」

 

 そしてキュアシャインは、千歳の大好きな笑顔で肯定してくれた。

 伝説に語られし4つの光が、ついに1つに集うのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ソルダークを失った後も、リリスはモノクロの世界に帰らずにいた。

 人知れず場所で黄昏ながら、ずっと自問自答を繰り返している。

 

「まだあの子だって決まったわけじゃない・・・。」

 

 自分の考えは全て憶測だ。

 例えどんなにそれらしい答えを並べたところで、直接変身したところ見ない限り確証は得られない。

 

「そうよ・・・まだ蛍だって・・・あれ?」

 

 だがそこで自分の考えがおかしなことに気づいた。

 十中八九答えが決まっていると言うのに、なぜそうまでして確証を得ようとするのだ?

 むしろ確証が得られなければ肯定出来ないのをいいことに、この答えから目を背けようとしていないか?

 

「なんで・・・?」

 

 そもそも彼女だったとして何の不都合がある?

 自分の任務は、キュアシャインを絶望させることだ。

 不都合あるはずがない、むしろ好都合のはずだ。

 なぜなら

 

「わからない・・・。」

 

 

 あたしは・・・

 

 

「わからない・・・。」

 

 

 ほたるにとって・・・。

 

 

「わからない。」

 

 

 たいせつな・・・

 

 

「わからない、わからないわからない!!」

 

 

 わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない。

 わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない!!

 

 

「・・あたしは・・・どうしたいの・・・?

 どうしたらいいの・・・?

 ねえ・・・ほたる・・・。」

 

 どれだけ頭に思い描いても、答えは帰ってこない。

 どれだけ彼女の名を呼んでも、答えは聞こえてこない。

 

「ほたる・・・。」

 

 未だに自分の心を理解できないでいるリリンは、夜が訪れるまで自問自答を繰り返すのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

「フェアリーキングダムを取り戻せて、お姫様に笑顔が戻って、元の世界に帰って来れたし、これで一安心ね!」

 

「ああ。」

 

「レモンこれから毎日お昼寝するんだ~。」

 

「そんなわけにはいかないわよレモン。まだこの世界のダークネスが残ってるんだし、

 私たちにだって出来ることがきっとまだあるはずだわ!」

 

「・・・そうだといいな。」

 

「どうしたのベリィ?さっきから元気なくて。」

 

「俺たち、まだこの世界にいる意味ってあるのかな?」

 

 次回!ホープライトプリキュア第15話!

 

「ベリィの憂鬱!?パートナーとしてできること!」

 

 希望を胸に、がんばれ、わたし!

 


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