第8話・プロローグ
ゴールデンウィーク最初の土曜日。今日は雛子が提案したプリキュアパジャマパーティーの日だ。
昼食を終えた雛子は自室で1人、要と蛍が来るのを待っていた。
レモンは早朝からチェリーとベリィと一緒に、キュアブレイズを探しており、祖母は今買い物に出かけている。
話し相手もいなく特にやることもない雛子は、今朝要からかかってきた電話の内容を思い出す。
「ごめん、まだ宿題終わっとらんの。
午後までには終われると思うから、蛍にも少し遅れるって言っといて。」
昨日聞いた話によれば、要は土日の泊まり会のことを家族に話すと、母親からゴールデンウィーク中に出された宿題を全て片付けなければ遊びに出てはいけないと言われたようだ。
その時雛子は、要のこれまでの身の振り方を思い出して大きなため息をついた。
全くあの悪友は、普段から宿題は忘れるし、長期休暇の宿題もいつもギリギリまでやらずにため込んでおくから、親からそんな難題を押し付けられるのだ。
蛍があれだけパジャマパーティーを楽しみにしていたと言うのに、何と間の悪い。
とはいえ、要は昨日一日中、遊ぶ時間を返上して宿題に取り組んでくれたみたいだし、そうでなくても、あの夢ノ宮中学校の宿題である。
要の成績では、到底1日と半で終わらせられるようなものではない。
だが要は今日の午後までには終われると言うのだ。
要も蛍の期待を応えるために、相当な無茶をしてくれた証拠である。
それを思うと、要に対していつものように毒舌を言うのも気が引けるが、自業自得でもある。
今日と言う日を楽しみにしている蛍のために、なるべく早く終わらせて欲しいものだ。
ピンポーン
すると呼び鈴が鳴った。
レモンから聞いた帰り時間には早いし、要は恐らくまだかかるだろう。
ということは蛍が来たのだ。雛子は玄関まで行きドアを開ける。
「こんにちは。」
案の定目の前にいるのは、以前要の家へ来た時と同じ、ピンクのトレーナーに白のミニスカートという私服姿の蛍だった。可愛い。
「いらっしゃい、蛍ちゃん。」
「あっあの!今日と明日、おせわになります!」
興奮を抑えきれないのか大声で礼儀正しく挨拶する蛍。可愛い。
「ううん、私の方こそ、来てくれてありがとう。」
雛子の立場からすればむしろ感謝する側だ。
何せ今日は一日中蛍の笑顔を見ることができるのだから。
するとお礼を言われた蛍は満面の笑みを浮かべた。可愛い。
「あの、これ、チョコレートケーキつくってきたの。」
「わあっ!ありがとう。後で一緒に食べましょ?」
「うん!ところで、かなめちゃんは?」
「要は少し遅れて来るって。だから先に上がっちゃってよ。」
「はい!おじゃましまーす!」
玄関前でいつまでも立ち話をするわけにもいかず、一先ず雛子は蛍を私室へと招き入れる。
チェリーが一緒にいないということは、同行しているレモンもしばらくは帰って来ないだろう。
そこで雛子はあることを思い当たった。
(あれ・・・?ちょっと待って。)
祖母は買い物中だし、要とレモンたち妖精は遅れて来る。
と言うことは、今この家にいるのは・・・
(誰か来るまで私、蛍ちゃんと2人っきり・・・?)
私室で蛍と2人きり。それを意識した途端、雛子は硬直する。
そんな自分の様子を、蛍は上目遣いで不思議そうに見上げるのだった。可愛い。