リリス再び!狙われた蛍!
要はしばし呆然とした後、冷静に状況を分析し始めた。
まず始めに、目の前にいる少女は本当に蛍であるかを検証する。
要の知る限りでは、蛍はあんなに笑顔で元気よく挨拶をしたことがない。
決して聞こえないわけではないが、細々とした小さな声で、呟くように一言おはよ、
と言うだけだった。そうでなくても要の知る蛍の人物像から、あんな笑顔ではっきりとした
挨拶する姿は想像出来ない。
では目の前にいる少女は蛍ではないのか?と聞かれたら答えはノーだ。
なぜなら声から容姿から何から何まで要の知る蛍そのものだからだ。
そうでなくてもここまで
小学生と見紛うほど幼い容姿をした同級生は、この学校には蛍以外存在しない。
となると次なる疑問はこれは夢ではないかどうかだ。
だが頬を抓るまでも抓られるまでもなく、要は今朝起きてから朝食を食べ母から食器を流しに出せと怒られ身支度を済ませ兄と別れ雛子と合流し学校へ向かい教室に入り鞄を置き席に着き真と愛子に挨拶をし4人で談笑し各々席へと戻り目の前の少女を見つけ挨拶され固まりそして現在に至るところまで余すことなく振り返ることが出来た。
さすがにここまで正確な記憶を辿れてしまうと、これが夢だと言う結論には至れない。
であれば、目の前にいる少女はやはり蛍本人ということなるのだが、最初の疑問を解決出来ない限りは、蛍と言う確証を得ることが出来ない。
結果、思考が出口のない迷宮へと彷徨い始め、要は目の前の少女を見つめたまま固まってしまう。
そして視界の隅に映った雛子もまた、同じように固まっている。
常識的に考えれば、目の前にいる少女は蛍以外にあり得ないのだが、その結論に辿りつけないほど、2人は蛍の態度の変化に大きな衝撃を受けていたのだ。
「・・・おっおはよー!」
目の前にいる少女は再度、大きな声で挨拶をするが、その声には若手の不安が滲み出ていた。
その笑顔も少しずつ陰り始めている。だが未だに要と雛子は固まったまま。すると少女の表情が見る見るうちに不安に満ちていき、
「あ・・・あれ?ひょっひょっとしてうるさかったかな?
えっえと、ともだちになれたから、まずはげんきよくあいさつしなきゃと
おもっただけで・・・。そっそれとも、やっぱり、なまえでよぶのはなれなれしかった?
あっあの・・・ともだちどうしはなまえでよびあうものだとおもったから、
だからえと、わたし・・・。」
狼狽する少女の姿を見て、要は不思議な安堵をしながらようやく迷宮から脱出した。
(あっウチの知ってる蛍だ。)
やはり目の前にいるのは正真正銘の蛍だった。
だが安堵も束の間、蛍の思考がどんどんネガティブな方向へ傾き始める。
これは危ない。せっかく友達になれたと言うのに、名前で呼ぶのは馴れ馴れしい等、こちらが思ってもいないことを勝手に思われては、また距離を離されかねない。
この2週間のように、蛍の様子を伺うだけの、受け身な付き合いはゴメンだ。
自分も蛍も変な遠慮なんてせず、思うままの気持ちをぶつけて接していきたい。
それこそが、蛍と出会ってから要がずっと望んでいたことなのだ。
そう思い当たった要は勢いのまま行動に移る。
「いや全然うるさくないし馴れ馴れしくないよ!?
ただ普段の蛍と違ったからびっくりしただけやって!」
それを聞いた蛍は、今度は見る見るうちに表情が和らいでいく。
「そっそっかあ、よかったあ・・・。」
普段と違うというところはスルーされたがむしろそこが一番疑問に持ってほしいところだが、とりあえず蛍を落ち着けることができ、要はホッと一息つく
「ねえねえふたりとも!」
のも束の間。元気を取り戻した蛍が、もの凄い勢いで食い気味に話しかけてくる。
「おひる、みんなでいっしょにおべんとうたべない!?今日ね、おかずちょっとおおめに
つくってきたの!だから3人で、おべんとうのおかず、こーかんしよ!」
今までにないハイテンションで提案してくる蛍。
3人で一緒にお弁当を食べるなんて友達になる前(と蛍は思っていた)頃からしてきたはずだが、なぜ今になってそれをはしゃぎながら持ちかけてくるのか。
「まあ・・・それくらい別にいいけど。」
困惑しながらも答えると、蛍は目を輝かせながら感動の声をあげた。
「わっわたし!ともだちといっしょにおべんとうのおかず、こーかんするの、夢だったの!!」
「そっそっか・・・。」
どうやら友達同士でおかずを交換し合うというシチュエーションに憧れを抱いていたようだ。
これまでとのテンションの違いには驚くものの納得は出来るし、その程度ならばお安い御用と思う要だったが、蛍のテンションはさらに斜め上へと駆けあがっていく。
「あとねあとね!今日のほうかご、いっしょにかえろ!かなめちゃん今日はたしか、
ぶかつやすみだよね!」
「そっそうだけど・・・。」
雛子と一緒に帰ったことはあると聞いたが、自分を含めて3人で下校したことはまだなかったか。
あといつの間にか女子バスケ部の活動日を覚えられたようだ。
「今日のためにね!きのうずっとおはなしする内容かんがえてきたの!かなめちゃんとひなこちゃんとおしゃべりしたいこと、たっくさんあったから!どれからはなそうかまよっちゃって!」
はしゃぎながら語る蛍だが、要から言わせれば放課後に友達と一緒に帰る為に、わざわざ前日から話題を準備してくる必要はない。
友達とのお喋りなんてその場で思いついたことを話せばいいだけだし、思いつかなければ聞き役に回るだけだ。
この子、実現させたいシチュエーションが先行し過ぎて形にとらわれ過ぎていないか?
特に意識をしなくても自然と接すればいいだけなのだが。
・・・と、ここまで考えて要は嫌な予感がした。
蛍がこれまで友達と一緒してみたかったことについて熱く語るのは、自分と雛子と言う友達を得た今、その願いを実現させることができるからだ。ということは・・・
「それからそれから!今週の土曜日か日曜日ひまかな!?3にんでどっかあそびにいかない!?
おかいものしたり!ごはんたべにいったり!あっ!よかったら噴水広場にいってみない!?
あそこってたしかスイーツ屋さんの屋台があって!休日はがっこうのおともだちと
いっしょにくるちゅーがくせいとか、こーこーせいとかもたくさんきてるんだよ!!
ねっ!わたしたちもいっしょにいこっ!あとねあとね!らいげつのゴールデンウィーク!
3にんでお泊まり会できないかな!わたし、パジャマパーティーってやってみたかったんだ!!」
そして恐れていた自体が間を置かず見事に現実となる。
蛍がこれまで内に秘めた願いが爆発し、さながらマシンガンの如く次々と発せられていったのだ。
それは留まることを知らず、決壊したダムのように溢れ出てくる。
何とかしてこの場で蛍を食い止めなければ、13年間積もりに積もった思いを全てこの場で語り尽くしかねない程の勢いだ。
「あっあのさ、蛍」
「それからそれから!!試験がちかづいたらいっしょにおべんきょうかいとかも
やってみたいな!!あとねあとね!!なつやすみにはみんなでうみにでかけて!!」
だが止めようとするも、蛍の勢いに飲まれて言葉を遮られてしまう。
そうこうしている内に文化祭はこうしたいだの修学旅行はああしたいだのと矢継ぎ早に語られていった。
ちょっと待て、夏休みですらだいぶ先の話なのに、文化祭と修学旅行に至っては2学期の行事だ。
気が早いというレベルではない。
そんな先々のことまで今から約束できるわけがないのだ。
あとさり気なく運動会がスルーされているのは気のせいか?
それから勉強会だけはさすがにごめんだ。
だが反論の余地を与えられないまま、蛍の夢想はまだまだ続く。
半ばお手上げ状態となった要は、隣に座る雛子に助けを求める視線を送るも、逆に雛子の方から同じ視線を返されてしまった。
予想はしていたが、やはり雛子に止めることは出来ないか。
なぜなら今の蛍はそれはそれは嬉しそうに、楽しそうに夢想の数々を語っているのだ。
こんな幸せ満開な笑顔を浮かべながら語る蛍を前に、彼女に対してダダ甘な雛子が無理やり話題を中断させることなんて出来るはずがない。
要は少しばかり心を痛めながらも腹をくくる。ここは自分がやるしかないようだ。
「それからそれから!!」
「蛍!!」
「ひゃっ。」
要は蛍に負けない大声で無理やり言葉を遮断する。
そして蛍が怯んで止まるや否や肩に両手を置き、
「少し落ち着き!!」
力任せで無理やり席に座らせた。
ようやく押し黙った蛍は、要たちを巻き込みクラス中の注目を一身に受けていたことにやっと気が付くのだった。
…
多少強引な手段ではあったが、ようやく蛍を鎮めることが出来た要。
だがその表情は浮かないままだ。
「・・・蛍?」
「・・・。」
蛍は黙り込んだ後、机に顔を俯せたまま動かなくなってしまった。
このテンションの落差は一体何だと言うのだ。
「・・・ぐすん、うぅ・・・。」
オマケに隙間からすすり泣きが聞こえてくる。どうしてこうなった。
「うぅ・・・ごめんなさい・・・わたし、まいあがっちゃって・・・。
ふたりにメーワクかけるつもりなんてなかったのに・・・。」
小声で懺悔の言葉を呟き続ける蛍。
確かに少しばかり煩わしいとは思ったが、泣かれるほど迷惑と思っていたわけではないし、何よりこの状況、まるで自分が蛍を泣かせたようではないか。
「はあ・・・。」
頭を抱えながらため息を1つ吐く要。
(この子・・・想像以上にメンドくさいわ・・・。)
出会った当初、あちらが友達になりたいと思いながらも、なかなか歩みよって来ず、かといって意をくみこちらから近づいたら距離を離していた蛍だったが、友達という認識が生まれた途端、これまでの消極的な態度はどこへやら。急激に距離を詰め寄って来たのだ。
結果だけなら要の望んだ関係を築くことが出来たと言えるが、いくらなんでも極端過ぎである。
以前から思っていたが、どうも蛍は自分の感情をコントロールすることが苦手のようだ。
思っていることはすぐに表情に出るし、嘘をつく時も態度でわかる。
加えて彼女の感情を示すバロメーターはメモリが0と1しか無い。
つまり全てを抑え込むか、全てをさらけ出すかの2択しか取らないのだ。
要とて、思いのままに行動することを良しとしているが、蛍はある意味、自分以上にその傾向があるようだ。
オマケに人付き合いにおける間合いとさじ加減、というものがまるで身に付いていない。
多少なりとも人と接する機会があれば自然と身に付くものを、蛍は何一つとして持ち合わせていないのだ。
それが極端な2通りでしか感情を表現できない性格と合わさった結果、今の状況に陥っている。
これから先もこのように極端な一喜一憂を見せるのだろうか?
そう思うと少々気が重い。
喜びを全力で表現する分には、多少の煩わしさがあっても要も嬉しいものだ。
だがこれでは何の弾みで彼女を傷つけてしまうのかわからないのだ。
現に要は今、蛍を泣かせるつもりなんてなかったというのに、結果として泣かせてしまっている。
何とかして妥協点を見つけて、上手く折り合いをつけていくことは出来ないかと考え込むが、
頭を使うのが苦手な自分にそんな名案など思い付くはずもなかった。
「蛍ちゃん。」
すると、ようやく落ち着きを取り戻した雛子から声がかかり、蛍は机から僅かに顔を上げた。
「前にも言ったよね?私たちは友達で、クラスメートだから、いつでもこの教室で、この学校で会えるって。
だから焦らなくても大丈夫よ。
蛍ちゃんの側にずっといるから、蛍ちゃんが友達と一緒に叶えてみたかったこと。ゆっくり時間をかけて1個ずつ、一緒に叶えていこ。」
「ひなこちゃん・・・。うん、ありがとう!」
「それじゃ、今日はお弁当のおかず交換と、放課後、一緒にお喋りしながら帰ろ?
今週末のことや、ゴールデンウィークのこと、それから先のことは今はまだわからないから、また今度、どう過ごすか一緒に考えよ?」
「うん!!」
長期的にだが、一緒に願いを叶えていこうという雛子の言葉に、蛍はようやく落ち着きを取り戻したようだ。
こうゆう時、要領の良い雛子は本当に頼りになる。
要は内心、雛子に礼を言いながら、先ほどの自分自身の考え方を見つめ直した。
蛍に翻弄されるあまり、上手く折り合いをつけていこうと思ってしまったが、やはりそんな付き合いは自分の望むものじゃないし、何より自分らしくない。
感情の振れ幅が極端に激しい彼女を刺激しないように言動に細心の注意を払って接しなければならないと言うのなら、これまでと何が違うと言うのだ。
妥協点を探すなんて止め、頭を使うのも止めだ。
思うままに蛍と接していこう。
そして、蛍にも妥協なんてしてほしくないから、彼女の思いも全て受け止めよう。
今日見たいに、極端に浮き沈みする蛍に振り回されることもあるだろうが、度が過ぎたら注意すればいい。
傷つけてしまったら謝ればいいだけだ。
(友達、やもんな蛍。お互い遠慮なんてなしに、ドーンとぶつかってこ。)
蛍とは本当の意味での友達になりたいし、何も知らない彼女に、その意味を教えてあげたいから。
…
午前の授業が終わり、待ちに待った昼食の時間。蛍たちは机をくっつけ、それぞれが鞄からお弁当を取り出した。
「それじゃ、蛍ちゃん。一緒にお弁当を食べましょ?」
「うん!」
蛍は嬉しそうに頷き、鞄の中に手を入れ。
「よいしょっと。」
風呂敷に包み込まれた大きな重箱を机の上に置いた。
「え・・・?」
絶句する要と雛子。だが蛍は構わず風呂敷を拡げる。
「えへへ、みんなといっしょにたべるのがたのしみで、ちょっとおおめにつくってきちゃった。」
蛍が重箱を空けると、そこには色とりどりの料理がぎっしりと詰められていた。
ざっと見ただけでも伊達巻卵、栗きんとん、かまぼこ、焼き鮭、黒大豆・・・etc。
季節外れも甚だしいおせち料理が蛍の机の上に並べられる。
見た目は豪華絢爛だが、軽く3人前はありそうなボリュームである。
「・・・えと・・・ちょっとどころかかなり多めに作って来たね。」
「どう考えても作り過ぎやろ・・・。」
「さっ、たっくさんたべていいからね!」
唖然とする2人を余所に蛍は上機嫌だ。
お弁当のおかずを交換し合うことは、蛍には親しい友達同士だからこそ行えるコミュニケーションの1つとして認識されている。
だから蛍は要と雛子を相手にお弁当のおかずを交換できるのを楽しみにしていた。
実践できれば、2人が友達であるという事実をより確固たるものにできるからだ。
そのために昨夜から仕込みを始め、いつもよりも1時間ほど早く就寝し、いつもよりも1時間ほど早く起床して準備をしてきた。
「ウチらとおかず交換するはずやのに、蛍が1人で3人分作ってきたら意味ないやろ?
2人分余るで?」
「え?」
要が注意するも、蛍はその言葉の意味が理解できていなかった。
2人に食べてもらいたいから2人分を作って来たのに、なぜ余るのだろう?
「私たちに食べてもらうことだけで頭がいっぱいで、自分がもらう分を全く計算に入れてないみたいね・・・。」
「なんでウチでも出来る簡単な計算が出来んかな・・・。」
雛子と要が蛍に聞こえないように呟く。
その時、
「あらっ、蛍ちゃんのお弁当豪華だね。」
「わ~、おせち料理だ。きれ~い。」
クラスメートの真と愛子が話しかけてきた。
「真に愛子か。」
「どしたのさ?2人して銅像みたいな顔しちゃって。」
「いやあ、これから3人でお弁当のおかず交換しようと思ったんだけどさ。」
「あら?楽しそうじゃない。
蛍ちゃん、私たちも混ぜてもらってもいい?」
「え・・・えと・・・。」
急に声をかけられ、返事につまる蛍。
要と雛子と交流のある2人だから、これまでもあいさつ程度なら交わしたことがあるが、こうしてお話しするのは初めてだ。
(だっだいじょうぶ・・・ふたりはかなめちゃんとひなこちゃんのともだちだよ・・・。
ちゃんと・・・おはなしできるはず・・・。)
一昨日、要と雛子に友達になりたいと打ち明けた時、蛍にはわかったはずだ。
要と雛子と友達になれるまで2週間もかかったのは、結局友達になれるかわからないという不安を言い訳に自分自身が距離を置いてしまっていたことが原因だ。
だからもう、不安を盾に周りから逃げるのは止めよう。
ほんの少しの勇気を出して、一歩踏み出すことが出来れば、簡単に友達になることができるのだから。
「・・・ごめんね蛍ちゃん。急に話しかけたりして・・・。」
「あっあの!」
真の言葉を遮り、蛍は叫ぶ。
「だっだいじょうぶです!いっしょにおひる、たべよ!
まっ、まことちゃん!あいこちゃん!」
僅かに不安を滲ませながらも、2人を名前で呼ぶのだった。
真と愛子は少しだけ驚くが、すぐに表情を和らいでいき、
「うん。ありがとう、蛍ちゃん。」
「じゃっゴチになります!」
近くの席の椅子を取ってそれぞれ空いたスペースへと着く。
「それじゃ、いただきまーす!」
そして要の号令と共に、5人を囲んでの昼食が始まるのだった。
蛍を除く4人はまず、蛍のお弁当へと一斉に箸を伸ばした。
見た目が豪華な蛍のお弁当は、量の多さ故に少人数では食べるのを躊躇ってしまうが、4人も揃えば数の恐れるなどなくなり、食欲が勝るというもの。
各々目当てのおかずを箸に取り、それぞれの口へと運ぶ。
そしてゆっくりと咀嚼して味わいながら嚥下する。
「・・・どっどうかな?」
友達に手料理を食べてもらうのは初めてである蛍は、口に合わなかったらどうしようと不安気に声をかけるが、
「美味しい!とても美味しいよ、蛍ちゃん!」
「いやあ、料理が趣味ってのは聞いてたけど、こりゃ想像以上だわ。」
雛子と要がそれぞれ感想を述べる。
2人に気に入ってもらえ、蛍はホッと胸をなでおろす。
「こんなもの自分で作れるなんて、蛍ちゃんやるじゃん!」
「本当。味は勿論だけど、形も盛り付けもすごく綺麗。」
真と愛子も、蛍のお弁当を絶賛してくれた。
半ば初対面に近い2人からそこまで褒められるのは、さすがに気恥ずかしさを感じてしまい、蛍は顔を赤くして俯いてしまう。
「あ・・・ありがと。」
「はい蛍、おかず交換やろ?ウチはこれあげるよ」
すると要からエビフライをもらい、
「はい、蛍ちゃん。」
雛子からは春雨ロールをもらい、
「はい蛍ちゃん。」
「わたしからもどうぞ。」
真と愛子からもそれぞれおかずをもらった蛍は、
「ありがと、みんな・・・あれ?りょうがおおい!」
「今気づくんかい!!」
ようやく致命的な分量ミスに気が付き、要からツッコミを受けるのだった。
…
雛子は、久々の満腹感と共に少々苦しいお腹を擦っていた。
食べきれないかと思われていた蛍のお弁当だったが、予想以上の美味しさに4人ともつい箸を運ぶ速度が速まり、気が付けばあっという間に平らげていた。
どちらかと言えば小食である雛子でさえ、美味しさのあまり食べた量を忘れてしまっていたほどだ。
もしも真と愛子が来なかったら、要と2人で完食したのではないだろうか。
そうなるとお腹の苦しみは今の比ではなかっただろう。
それほど蛍の料理の腕は、想像以上のものであった。
「ふ~、食べた食べた。ごちそうさま。」
「さすがにもうこれ以上は入らないね~。」
女子の中では食事の量が多めの要と真も、さすがに満腹の様子だ。
愛子は苦笑しながら、お腹を抱えているこちらを見ている。
表情から彼女もどうやら自分と同じ心境のようだ。
つまり食べ過ぎた。
だが、4人から手料理を絶賛され、完食もされた蛍は、なぜか浮かない顔をしていた。
どうしたのだろうか?と心配すると、蛍が申し訳なさそうに口を開く。
「あ・・・あのっ。」
「蛍?どうしたん?」
「えと・・・しょくごのデザートも、いちおうもってきたんだけど・・・。」
「え・・・?」
真の表情が強張る。それもそうだろう。
あれだけの量のお弁当を持ってきた上に、デザートまで出てくるとは思いもしないものだ。
当然、雛子を含めた全員が満腹である。
これ以上お腹にものを入る隙間などない。
「や、蛍。さすがにあれだけの量を食べてからデザートは・・・ね?」
柔らかく断ろうとする要だが、
「うぅ・・・そう・・・だよね・・・。」
蛍の表情は一層沈んでしまった。
要も蛍の様子を見て申し訳なさそうな表情を浮かべる。
今回ばかりは雛子も要に賛成したいところだが、蛍の沈んだ表情を見ると胸が痛む。
仕方なく雛子はある提案をすることにした。
「見るだけ見てみよっか?」
「見るだけ?」
「せっかく持ってきてくれたんだから、どんなデザートか見てみようよ。それで、
食べられそうな量だったら、みんなで食べよ?ね?」
ひとえにデザートと言っても千差万別だ。
一口サイズであれば腹に収まるかもしれない。
食べるか食べないかは見てから決めても遅くはない。
すると蛍の表情が一点して明るくなった。可愛い。
今朝のことを思うに、蛍は感情の移り変わりが極端なようだ。
一喜一憂に様々な表情を見せてくれる。可愛い。
ご機嫌な蛍は再び鞄の中に手を入れ、1つの箱を取り出し蓋を開けた。中を覗き込むと、ココアパウダーが塗されたマカロンが6つ並べられている。
それは色合いも形もとても綺麗に作られており、雛子を含めた4人はさっそくマカロンに釘づけになった。
「ゴクっ・・・。」
隣の要から唾を飲む音が聞こえる。
はしたないと思いながらも、雛子も目の前に置かれたマカロンを見ているだけで食欲が沸いてきた。
さっきまで膨れたお腹を擦っていたはずなのに、甘いものは別腹、とはよく言ったものだ。
「ひと口だけ、もらってもいいかな?」
堪えきれなくなった真から声があがる。
愛子もマカロンの前まで手を伸ばしていた。
「うっうん!どうぞ!」
食べる気を見せた皆を前に、蛍は一層嬉しそうな声で答えた。可愛い。
蛍の許可が下りるや否や、雛子を含めた4人は一斉にマカロンに手を伸ばし、それぞれ一口食べる。
そして4人とも一斉に固まってしまった。
「・・・あれ・・・?えと・・・みんな・・・?」
一切の言葉を発さなくなった4人を見て、蛍は不安げな声を出す。
だが、よく見ると口元は動いている。黙々と食す4人だが、やがて一口目を食べ終え、
「・・・蛍ちゃん。」
真がまず声をあげた。
「なっなに?」
「これ、どこで売ってたの?」
「え・・・?」
「こんな美味いマカロン、今まで食べたことないんですけど。
どこで売ってたか教えて。
今日の帰りに買って家でまた食べたいわ。」
「あの・・・。」
「私も是非聞きたいわ、蛍ちゃん。これだけ美味しいのだもの。」
「えと・・・。」
持参したマカロンを真と愛子に絶賛された蛍は、なぜか恐縮そうに2人から目を背けた。
そんな蛍の様子を見ながら、雛子は二口目を食べる。
柔らかい生地の食感に程良く絡むチョコクリーム。
それでいてしつこ過ぎない甘さゆえに後味も良い。ここに紅茶があれば、ちょっとした貴族な気分になれるだろう。
分量、焼き加減、見るだけで食欲をそそる綺麗な形。
どれをとっても完璧な出来栄えだ。
もしも売っているのであれば、雛子も帰り際に買いに出かけただろう。
これが本当に『売り物』であればだが。
取り出す前の、蛍の妙に落ち込んでいた仕草。
取り出すときの嬉しさに満ちた表情。
そして最高の賛辞を受けてからの恐縮している蛍の様子から、雛子は察しがついていた。
このマカロンは恐らく、
「それ・・・わたしのてづくり。」
「・・・え?」
予想的中。やはり蛍の手作りなようだ。
そしてこれも予想通り、蛍の言葉に3人とも凍り付いた。
「・・・わたしが・・・つくったの・・・。えと・・・おいしかったみたいで、よかった・・・。」
恥ずかしそうに顔を赤くしながら、呟くように伝える蛍。可愛い。
「うそ・・・これが手作り!?」
ようやく我に返った要が、遅れて驚きの声をあげた。
「うん・・・じつはわたし、おかしつくりはちょっとだけ得意で・・・。」
そして雛子は蛍の発言に驚く。
自己評価が極端に低い蛍は、他の人から見れば、明らかに熟練の域に達している自分の料理や裁縫の腕でさえ大したものではないと評価してしまう。
その蛍が、お菓子作りは得意だと言ったのだ。どう考えてもちょっとというレベルではないところは蛍らしいが、この売り物としか思えないマカロンの完成度の高さも頷ける話だ。
蛍のお菓子作りのスキルは、贔屓目で見なくてもプロのレベルである。
「これ、ちょっと得意なんてもんじゃないよ。お金取っていいレベルだよ。」
「そっそこまでじゃないよ・・・。」
「いいえ、そこまでよ。絶対に売り物だと思ったもの。」
「てゆうか、裁縫、料理に続いて、こんな特技まであったんかい、蛍。」
「え?何?蛍ちゃん、裁縫まで得意なの?」
「女子力高っ!」
各々から褒められ、困惑する蛍を見ながら雛子は思う。
今まで友達がいなかったということは、蛍には家族以外の人と会話でコミュニケーションを取る経験がほとんどないのだろう。
それに彼女の特技である家事、裁縫、お菓子作りは、いずれも学校ではお披露目する機会が滅多にないものばかり。
勉強や運動と違って、学校内では評価される状況が限られてくる。
こんな風に他人から自分の能力を評価され、褒められるのも初めてではないだろうか。
それを思うと、蛍の自己評価の低さは、自分に対して卑屈になりがちなこと以外に、周りから特技を評価される機会がほとんどなかったことも原因ではないかと思えた。
「蛍ちゃん。デザート、ありがとう。とても美味しかったわ。また、機会があったら、
作ってきてくれないかしら?」
「ひなこちゃん・・・。うん!まいにちだってつくってくるよ!」
「まっ毎日は、さすがに多いかな・・・でもありがと。」
雛子はお礼を言いながら、蛍に次の機会を約束する。
蛍の作るお菓子をまた食べたいと思う気持ちが半分、もう半分は、こうして蛍の特技を披露する機会を増やせば、自ずと彼女の自信に繋がるかもしれないと思ったからだ。
蛍が人と接することが苦手なのは、自分に自信が持てないことが一番の原因だ。
彼女の特技が周りから高く評価されれば、それは蛍の自信に繋がるし、これだけの能力を持っていながら、他者から評価されないというのは
勿体ない話だ。
そんなことを思いながらも、雛子は蛍の手作りお菓子がまた食べられる日をちゃっかり楽しみにするのだった。
…
3人分作ってきた重箱のお弁当と、デザートのマカロン。
両方とも美味しいと褒め、完食してくれた4人に内心お礼を言いながら、蛍は後片付けをし始める。
「そう言えば今週の部活から練習試合に向けての選抜が始まるんだってね?」
「ああ、今年こそはレギュラー取ったる!」
「その言葉何回目よ?」
要と真はそれぞれの部活動について語り、
「雛子、昨日のオルレンジャー、レゾネイジャーのゲスト回だったね!」
「ええっ、私もう昨日の内に5回くらいは録画で見直したわ。」
「あはは、さすが雛子。」
愛子と雛子は昨日放送された、無限戦隊オルレンジャーについて語っている。
昼食が終わりながらも、途絶えることのない談笑を見ながら、蛍はリリンのことを思い出す。
(リリンちゃん、ありがとう・・・。あなたのくれたおまじないのおかげで、
わたし・・・こんなにステキなともだちと出会えたよ・・・。)
リリンのことを思いながら、蛍は勇気のおまじないをする。
「それ?おまじないか何かかな?」
すると蛍の様子に気づいた雛子から、そんな質問が飛んできた。
「え?」
「蛍ちゃん、自分を奮い立たせて勇気を出すとき、いつもそう、胸に手を置いて、頑張れ私、って言ってたから。」
さすがに毎回続けていたので、雛子には気づかれていたようだ。
「・・・うん、勇気がでるおまじないなの。
一歩踏み出すための、ほんのちょっとの勇気が。」
「一歩踏み出す為の、勇気?」
「はじめて、ここに引っ越してきたとき、このおまじないをおしえてくれた子がいるの。
・・・その子がいたから・・・わたしは・・・。」
言いながら蛍は、リリンと初めて出会った時のことを思い出す。
あの時のリリンの優しさ、仕草、声、笑顔、そして胸に触れた手の温もり。
それらは今でも、鮮明に思い出すことが出来る。
「リリンちゃん・・・。」
あれから2週間、学校の放課後、買い物の帰り、休日、ほぼ毎日時間を見つけては噴水広場へと足を運んだが、リリンの姿を見つけることは出来なかった。
もう一度、リリンに会いたい。
会ってお礼が言いたい。友達を紹介したい。それ以外にもお話したいことが沢山あるのだ。
そして、リリンの声が聞きたい。あの優しくて、大好きな声を。
「あいたいな・・・。」
無意識の内に小声で、だが周囲には聞こえるような声で呟く蛍。
「・・・まるで恋する乙女やな。」
「え?」
そんな蛍に対して、要がからかい交じりに声をかけてきた。
言葉の意味を認識した蛍は、見る見るうちに顔を赤くしていく。
「なっ・・・ななななにいってるのかなめちゃん!こここいだなんて!
そっそんなんじゃないから!だいたい、リリンちゃんはおんなのこだし!だからええと!」
しどろもどろな言葉で慌てふためきながら反論する蛍。
「こら、要。蛍ちゃんのことからかわないの。」
そして雛子が要を叱る。
「にしし、ごめんごめん、ほんのジョークやって。ジョーク。」
「もっもう、かなめちゃんったら・・・。」
悪ぶれもせず謝る要を見て、からかわれていただけと気づいた蛍は、少しずつ冷静になっていく。
自分とリリンは女の子同士。
恋心なんて芽生えるはずがないのだ。
だがそう頭では理解できても、蛍の火照った頬と、高鳴る心臓の鼓動が収まるまで、時間がかかるのだった。
…
モノクロの世界。
左手を目の前に掲げたリリスは、その爪が完全に修復したのを確認する。
「長かったわね。」
ダークネスに時を詠む習慣はない。
治療に費やした正確な時間を測り知ることはないが、リリスにとっては悠久に感じられた。
傷が癒えたリリスは広間へと訪れると、そこには既にサブナックとダンタリアの姿があった。
「で、君も無様に敗北してきたというわけか。」
「・・・。」
「言い訳は、何だったかな?確か君が弱い以外は必要ない、だったか?」
「言いたいことはそれだけか?それ以上は貴様がプリキュアを倒してから口にするんだな。」
相も変わらず下らない『茶番』を繰り広げている2人にため息をつく。
「おや?ようやくお姫様のお目覚めのようだね。」
「傷は癒えたようだな。リリス。」
2人が口々に述べるが、リリスは一切の言葉を返さなかった。
そして3人の行動隊長が集ったその時、
「プリキュアが4人、揃ったようだな。」
大広間の中央にある玉座から声がした。
3人が声の方へ振り向くと、そこには1人の男が佇んでいた。
身長は190cmほど。
全身を黒いローブで覆い、フードで顔を隠している。
「黒き闇、空を覆わんと拡がりし時、4つの光、闇を照らすべく大地に降りる。
其の名はプリキュア。汝は世界の希望なり。
ようやく4つの光が全て、大地へ降りたというわけか。」
その男は玉座へと腰掛け、フェアリーキングダムに伝わりし伝説を語る。
男の姿を確認したリリスは、彼の前に膝をついた。
「アモン様。」
「リリス。傷は癒えたのか?」
「はい。」
男の名はアモン。
リリス等3人の行動隊長に命令を下す、ダークネスの指令塔に当たる存在だ。
「おやおや、普段自室に引き籠ってばかりのあなたが、姿を見せるなんて珍しいですね。」
「あなたからの指令は既に受けている。何の用ですかな?」
だが事実上の上官に当たるアモン相手にも関わらず、ダンタリアは口調こそ敬語だがいつものように皮肉を口にし、サブナックは両手を組み壁にもたれたままの姿勢でいる。
最もリリスも形を取り繕っているだけであり、この男に忠義心を抱いているわけではない。
アモンにとってもそれは承知のことであり、3人の行動隊長の無礼な振る舞いも特に気に留めていない。
それでも上官であるアモンの命令は行動隊長にとっては絶対であり、それに代わるものなど存在しない。
この忠誠を誓ったわけでもない相手の命令を遂行することを、リリス達は使命としなければならないのだ。
だが誰もその事について何も思うことはない。
行動隊長とは、そういうものなのだ。
「かの地に誕生した3人のプリキュアが、一丸となって行動しているようじゃないか。
流石の君たちも、伝説の戦士が3人も相手となれば、思うように事を運べないようだな。」
アモンは普段、このモノクロの世界にある自室に閉じこもっている。
これまでの戦いを直接見ていたわけではないが、この世界から、かの地の力の動きを感じ取り動向を全て把握できるようだ。
リリス達も力を感じることだけならできるが、正確な状況を把握できるほどではない。
行動隊長たちの上に立つだけの事はあり、アモンの闇の力は、リリスにとっても計り知れないものがある。
「我らの目的はかの地を闇へと誘い、新たな闇の世界を創り出すこと。悲願の達成にプリキュアを倒すことは絶対ではない。
現にフェアリーキングダムはキュアブレイズを討つことなく、闇へと誘うことが出来た。
だが、やつらが計画の障害となることも事実だ。
邪魔な芽は早急に摘んでおく必要がある。」
その程度の事、改めて言われることではない。
ここにいる行動隊長全員がそう思った。
「あたしにひとつ、考えがあります。」
そこでリリスが、アモンに対して提案を投げかける。
「聞こうか。」
「キュアブレイズ。やつの正体は確か、フェアリーキングダムの生き残りの人間でしたね。
であれば、かの地に誕生したプリキュアもまた、その正体は人間の小娘のはず。
普段はプリキュアの力を隠し、人間として生活を送っているものと推測されます。」
かの地で素材を捜し歩いている間は、やつらの力を感じ取ることが出来なかったが、こちらが闇の牢獄を展開すると、必ず力が感じられた。 ということは、やつらは普段は人間として活動し、こちらの力が感じとれた時にプリキュアの力を解放しているのだろう。
「であれば、人間の姿の時は、無力で脆弱な存在である可能性が高いでしょう。
やつらの正体を突き止め、プリキュアの力を解放する前に叩くのが一番かと。」
「なるほど・・・一理あるな。」
作戦の内容を聞き終えたアモンが、リリスの提案に賛同する。
「無粋な作戦だな。」
「やつらがそう簡単に、正体を明かしてくれるかね?」
サブナックとダンタリアは意を唱えるが、リリスは無視する。
やつらの言葉に価値はない。価値があるのは、アモンの命令だけだ。
「だが、ダンタリアの言う通りだ。
やつらも、おいそれと正体を明かすことはないだろう。
リリス、君はどうやってやつらの正体を突き止めるつもりだ?」
その言葉を聞いたリリスは、即座にリリンへと姿を変えた。
「あたしが人に扮し、やつらの世界に潜伏します。
そしてかの地の人間から、プリキュアの正体に関する情報を聞き出して見せましょう。」
「あの世界の人間たちと、お喋りをするってことかい?
君にそんな相手がいるのかい?」
ダンタリアは尚も非の意見を唱える。
今度は無視せず、リリンはその言葉に反論する。
「1人、アテがあるわ。」
「なに?」
「素材を探している中で見つけた子がいてね。
興味なかったけど利用出来そうだし、このまま利用させてもらうわ。」
名は確か、蛍と言ったか。
儚く脆弱な人間の少女。
あんな価値のない小娘でも、悲願達成のための人柱程度には役に立ってもらおう。
「そこまで考えがあるのなら、いいだろうリリス。
君をプリキュア討伐の第一人者としてこの命を授けよう。
プリキュアたちを倒せ。手段は君に任せる。」
「仰せのままに。」
「サブナックとダンタリアは引き続き、この世界に絶望の闇を広めていくのだ。
だがその過程でプリキュアが障害となるのであれば、リリスに遠慮はいらん、排除せよ。」
「「はっ。」」
余計な命令を。やつらに先を越されてたまるものか。
ようやくチャンスを得ることが出来たのだ。
プリキュア討伐任務の第一人者として、プリキュア討伐を最優先事項として行動出来る。
いつでも、キュアシャインを倒しに向かうことが出来る。この時をずっと、待ちわびて来たのだ。
(待っていなさい、キュアシャイン。
必ずあなたの正体を突き止めて、抵抗する間もなく堕としてあげるわ・・・。)
黒い衝動に胸を焦がしながら、リリンはかの地へと足を運ぶのだった。