ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第5話・Bパート

 プリキュアとして活動していく上で守るべき3か条を決めた要たち。

 作戦会議もひと段落し、軽く雑談をし始めた頃、

 

「そうだ蛍。あれ、そろそろ出してみたら?」

 

「あっ、そうだね。」

 

 チェリーと蛍がそんなやり取りをすると、蛍が自分の鞄の中から小型のバスケットを取り出した。

 口は布で包まれており、その上には小さな枕と掛布団が置かれている。

 片方の布が青色で、もう片方が黄色。そんなバスケットが2つテーブルの上に置かれた。

 

「これ、もしかして妖精用のベッド?」

 

 雛子がそう答える。

 

「うん、まえにチェリーちゃんにつくったのとおなじものを、

 ベリィさんとレモンちゃんの分もつくってみたの。」

 

「作った?これを蛍が?」

 

 驚く要。確かに妖精用のベッドなど市販品にあるはずもないが、インテリアとして売られている小物だと言われたら信じてしまうだろう。

 それくらいの出来栄えだった。

 

「蛍は料理だけじゃなくて、裁縫も得意なのよ。

 これだってあっという間にパパッと作っちゃったんだから。」

 

 なぜか蛍ではなくチェリーが得意げに語る。

 

「そっ、そんなたいしたものじゃないよ・・・。」

 

 一方で、急に褒められた蛍は困惑していた。

 だが大したことないとは言うが、いくら小型でも要には寝具一式を手作りしろと言われて作れる自信はない。

 

「そんなことないわよ。色も形も凄く綺麗だし、こんな上等なもの、私には作れないわ。」

 

「あ、ありがとう・・・。」

 

 雛子の素直な称賛を聞いた蛍は、顔を赤くして黙り込んでしまったが、今度は照れているだけのようだ。

 慌てたり赤くなったり、相変わらず表情の変化が忙しい子である。

 

「ねえねえ、これ使ってみてもいい~?」

 

 さっそく昼寝が大好きなレモンが食いついてきた。

 

「どっどうぞ。」

 

 蛍の許可を得、遠慮なくベッドへとダイブするレモン。

 

「わ~い、フカフカ~。気持ちいい~。」

 

 満面の笑みでベッドから跳ねるレモンを見るに、チェリーのお墨付きは本当のようだ。

 

「昼寝好きのレモンの目に敵うなんて凄いじゃないか。

 こんな良いものを本当にタダでもらってもいいのか?」

 

「もっもちろんどうぞ。あげるためにつくってきたんだから。」

 

 蛍からすれば、日曜大工みたいな感覚で作ったものなのだろう。

 お金を払おうか?と言わんばかりのベリィを前に慌てる。

 

「ありがとう蛍、大事に使わせてもらうよ。」

 

 ベリィにお礼を言われ、再び頬を赤くする蛍。

 半年ぶりの再会を果たしたことで気持ちに余裕が生まれたのか、ベリィの言動は出会った数日前よりも軽くなったように見て取れた。

 そんな彼の様子に安堵しながらも、要は1つの疑問を抱く。

 

「ところで、ウチらプリキュアの活動方針は決まったとして、

 ベリィたちはこれからどうするん?」

 

 ベリィ達の目的と言えば、離れ離れになった仲間たちを探すことだった。

 こうして3人の妖精が集まり、まだ姿を見せない仲間、妖精アップルとキュアブレイズは、居場所こそわからないが無事は確認されている。

 となれば、これからダークネスと戦う決意を新たにした要たちとは違い、ベリィ達の目的は一応、果たされたと言ってもいい。

 要に問いかけられたベリィはしばし逡巡し、

 

「そうだな・・・。

 俺たちはこのまま、キュアブレイズとアップルさんの居場所を探すことにするよ。」

 

 無事でいることはわかっても、居場所がわからなければ安心出来ないということか。

 

「レモンも早くキュアブレイズに会いたい~。」

 

 いや、この様子を見る限りでは、単純にキュアブレイズに会いたいだけのようだ。

 3人ともキュアブレイズのことを慕っている。

 マイペースなレモンも再会を心待ちにしている当たり、キュアブレイズには懐いていることが窺い知れる。

 

「チェリ~、キュアブレイズは元気だった?」

 

 だがレモンがそう問いかけると、チェリーの表情が陰り始めた。

 

「?チェリ~?」

 

「えっええ、元気だったわよ。あんまりお話は出来なかったけど・・・。」

 

「そっか~。またキュアブレイズと一緒にお昼寝したいな~。」

 

 無邪気に語るレモンとは対照的に、チェリーは沈んだ様子を見せた。

 蛍もどこか憂いを帯びた表情でチェリーを見ている。

 確か2人はこの街でキュアブレイズと会ったことがあると言っていたが、その時に何かあったのだろうか?

 レモンの記憶にあるキュアブレイズと、蛍たちが会ったキュアブレイズとでは、抱いているイメージが異なっているように思えた。

 

「ねえ、あなた達って、人間の姿に変身出来るのよね?

 もしかして、街に出る時は人間の姿をしているの?」

 

 そんな雰囲気を断ち切るかのように、雛子がベリィたちに1つの質問を投げた。

 言われてみれば要たちが学校へ行っている最中、ベリィたちは外でキュアブレイズを探していたというが、どのようにして街を出歩いているのかは聞いたことがなかった。

 

「そうだな。外を出歩くときは極力人間の姿でいることを心掛けているよ。」

 

「良かったら、見せてくれないかしら?

 私はまだ、あなた達の人間の姿を見たことないから。今のうちに覚えておきたいし。」

 

「わかったわ。ほら、レモンも立って。」

 

「むにゃ~、人間の姿って疲れるんだよね~。」

 

 中々ベッドから離れないレモンを無理やり起こし、3人は人間へと変身した。

 ポンッと風船が割れるような音と共に煙を出し、煙の中から3人の人の姿を現す。

 ピンクの基調としたセーラー服の女子高生。

 青を基調としたカジュアルな服装の青年。

 そして黄色のワンピースを着た10代前後の少女だ。

 要と蛍は、チェリーとベリィの人間の姿は見たことあるが、レモンの人間の姿を見るのは初めてだ。

 身長は140cm程度。

 茶髪のボブカットに黄色の水玉模様のワンピースを着ており、猫のような口元であくびを噛み、半開きの目を擦っている。間違いなくレモンである。

 

「わ~、レモンちゃん可愛い。」

 

 雛子が嬉しそうに声をあげる。その予想通り過ぎる反応に要は呆れる。

 

「と~ぜ~ん、レモンは可愛いからね~。」

 

 一方のレモンは褒められて上機嫌だ。

 

「レモンは人間年齢に換算すれば、だいたい10歳、11歳ってとこだったな。」

 

「へ~、じゃあウチら含めても最年少やな。」

 

 要はそう言いながら、レモンの頭を撫でた。20cm近い身長差がある為、ちょうどいい位置に頭があるのだ。

 嬉しそうに微笑むレモンを見ながら、要はふとあることに気が付く。

 

(・・・あれ?ひょっとして蛍よりも背が高い?)

 

 そう言えば蛍の身長は130cm程度だったか。

 実際見比べてみるとレモンの方が僅かに上回っていた。・・・蛍が背の低さを気にしているかは知らないが

 一応胸の内に留めておこう。そんな要の視線に気づき、不思議そうに首を傾げる蛍。

 一方雛子は、人間の姿となった妖精の面々を見た後、1つの提案をあげてきた。

 

「あなた達、その姿の時の名前を付けてみない?」

 

「人間の時の名前?どうしてわざわざ付けるの?」

 

「こっちの世界で、人間として自然に振る舞うためよ。

 あなた達の名前を悪く言うつもりはないけど、チェリー、ベリィ、レモンって、こっちの世界だと果物の名前になるのよ。

 いくら人間の姿をしていても、街中で果物の名前で呼び合えば、周りから余計な注目を集めてしまうかもしれないわ。」

 

 確かに雛子の言う通りだ。

 子供のレモンはまだしも、大人の姿であるチェリーやベリィがお互いをそのままの果物の名前で呼び合うのは、傍目から見ると不自然に映るだろう。

 

「言われてみれば、柑橘類の果物にレモンって名前があった気がするな。」

 

 相変わらずこの世界について妙に詳しいベリィ。

 

「確かに、人の姿で活動する以上、この世界の人間として怪しまれないようにした方がいいわね。」

 

 チェリーも雛子の提案に納得してくれたようだ。

 

「それじゃあ、さっそく名前を考えましょうか?

 そうね・・・。チェリーちゃんの名前は・・・サクラ、なんてどうかしら?」

 

「サクラ、チェリーはにほんごでさくらんぼだから、サクラちゃん?」

 

「蛍ちゃん正解。どうかしら?サクラちゃん。」

 

「サクラ・・・可愛らしい名前ね。ありがとう。」

 

 チェリー改めピンクの女子高生、サクラは嬉しそうに礼を言う。

 

「んじゃっ次はベリィな。ウチが決めたるわ。ん~・・・・、ベルってどう?」

 

「ベル?」

 

「深い意味はないよ。ベリィとニュアンスが近いからベル。

 それにベリィの人間の姿、どことなく外国人っぽいし。ベルって名前でも問題ないやろ?」

 

 実際ベリィの人間の姿は、金髪碧眼に青いデニム生地のカジュアルファッションで、どことなくアメリカンスタイルな印象だ。

 この容姿では、逆に日本人の名前の方が浮いてしまいそうだ。

 

「ヘイ、ベル。って挨拶しても違和感ないな。」

 

「なんでヘイ、ジョン、みたいなノリで挨拶するんだよ。」

 

 異世界から来た妖精がなぜそんな俗なツッコミが出来るのか。

 

「まあでも、悪くはないな。よし、俺はこの姿ではベル、だな。」

 

 ベリィ改めアメリカンスタイルのベルもまた、人間としての名前を受け入れたようだ。

 

「さいごは、レモンちゃんだね。レモンちゃんだから・・・。」

 

 蛍が名前を考えていると、レモンは大きくあくびを1つし、

 

「ふわあああ~、レモンの名前はレモンでいいよ~。」

 

 そんなことを言いながらベッドへ仰向けで寝だした。

 

「え?でも、」

 

「どうせレモンはレモンのことレモンって呼んでるし~

 レモン以外の名前を付けられてもレモンって言っちゃうと思うよ~。」

 

 レモンがゲシュタルト崩壊しそうだが言い分はわかった。

 確かに普段使い慣れている一人称まで変えなければいけなくなるのは面倒だろう。

 

「ん~、でもそうゆうわけにもいかないから。

 せめて覚えやすい名前とかにすれば・・・。」

 

 だがさすがに雛子はレモンの言い分を真に受けるわけにはいかないようだ。

 どんな名前にしようか考えているところ、

 

「あの、レミンってどうかな?」

 

 蛍がレモンの名前を提案してきた。

 

「ひともじちがいのなまえだったら、もとのとそんなにかわらないから、レモンちゃんもおぼえやすいかなっておもって。」

 

 レミンは欠伸をしながら、だがしっかり話は聞いているようでレミンと言う名を反復する。

 

「レミン、レミン、レミンか~。うん、レモンレミンって名前可愛いから気に入ったよ~。

 よ~し、レモンはこの姿だとレミンなんだね~。

 レモン頑張ってレミンの時はレミンって呼ぶように努力するよ~。」

 

 レモンとレミンが入り混じり、もはや何がなんだかわけがわからなくなってきたが、とりあえずレモン改めレミンは蛍の付けた名を気に入り、それを名乗る努力はしてくれるようだ。

 だが再び欠伸をし始めたレミンを見て、要はこの先のことを少し不安に思うが、

 

「ふわ~。レモン疲れちゃった~。ちょっとお昼寝しよ~。」

 

 否、その不安は5秒も持たずに実現してしまった。努力するよ、とは何だったのか。

 

「少しは頑張れよ・・・。」

 

 呆れ顔で注意するベル。

 

「どうせここにはレモンのこと知ってる人しかいないし~、

 レモン街に出てから頑張るよ~おやすみ~。」

 

 それ絶対明日から頑張ると同じ理屈で何時まで経っても頑張らないやつだよな、

 と要が思うも束の間、レモンの姿に戻るや否や再び5秒も経たずに昼寝してしまった。

 ちゃっかり蛍が作ってきた妖精用ベッドの上で。

 

「やれやれ・・・。」

 

「まあでも、レモンはこう見えてやる気出すときはやる気出すから、心配しなくて大丈夫よ。

 ・・・多分。」

 

 こればかりはサクラもさすがにフォロー出来なかったようだ。

 どこまでもマイペースなレモンに呆れながら、サクラとベルも妖精の姿に戻るのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「これで一通りのことは決まったかしら?」

 

 プリキュア3か条、妖精たちの今後の活動、そして人間の姿での名前。

 パーティかぶれの第一回作戦会議の中で、当面の活動指針となるべきものは全て決まったと思う雛子だったが、

 

「い~や、まだ大事なことが決まってないよ。

 雛子、君は何か重大なことを忘れてはいないかね?」

 

 要が妙に芝居がかった口調でそんなことを言い出す。

 

「重大なこと?何かしら?」

 

「ズバリ!チーム名!

 これから3人チームで活動するんやから、ウチらに相応しいチーム名を決めな!」

 

「・・・。」

 

 あきれ顔で要を見る雛子。だが要はお構いなしにテンションを上げていく。

 

「そう、3人揃って『プリキュア戦隊サンニンジャー』!みたいな!」

 

 果てしなく絶望的なネーミングだが、本人も勢い任せで言っている当たり、その場のノリで決めただけだろう。

 そしてチーム名は毎週日曜日の朝、通称キッズタイムに放送されている、5人組のヒーローが、時には変身して、時には巨大ロボットに乗って悪と戦う子供向け特撮ヒーロー番組、『レンジャーシリーズ』を意識しているようだ。

 全く、このノリと勢いの悪さに定評のある悪友は中学生にもなった今でも、レンジャーシリーズを毎週リアルタイムで視聴しているから、何時まで経っても思考が子供っぽいのだ。

 そんなことを思いながら、雛子はそのレンジャーシリーズについて振り返る。

 確か今期は、レンジャーシリーズ30周年を記念して、歴代のレンジャーたちの力を借りて無限の可能性を引き出していくのをコンセプトとした、『無限戦隊オルレンジャー』という作品だ。

 毎週歴代のレンジャーたち本人がゲストとして出演しているので、雛子としてもとても楽しみな作品である。

 ちなみに雛子が一番好きな作品は、シリーズ第19作目にあたる大自然との調和と共存をテーマとした『共鳴戦隊レゾネイジャー』だ。

 人もまた自然の一部であること謳うストーリーは、当時3歳だった雛子には当然理解できるものではなかったが、それでもあの森と草原を舞台とした牧歌的な世界観には、言葉通り自然と魅入られるものがあった。

 そして小学6年の時に再び見直して、作品に込められた深いメッセージ性に人知れず感動したものだ。

 オルレンジャーは、ゲストとして出演したレンジャーの世界観を出来る限り再現することに力を入れており、毎回作風が異なってくるのも特徴だ。

 つまりレゾネイジャーのゲスト回では、雛子の大好きだったあの世界が最新の映像技術で再現されるのだ。

 それだけは絶対に見逃すわけにはいかない。

 ・・・とどのつまり雛子もこの歳になるまで同シリーズを毎週欠かさず視聴しているわけだが、さすがに要みたいに触発されてチーム名を決めようと提案するほど子供ではないと自分に言い聞かせた。

 

「もう、蛍ちゃんからも何か言って・・・」

 

 言いかけて蛍の方を振り向いてみると、

 

「レンジャーシリーズ・・・チームめい!」

 

 蛍が顔を輝かせていた。

 それはもう『パアッ』という効果音と共に光のエフェクトが周囲に放たれているかのように輝いていた。可愛い。

 

「それ!いいかも!レンジャーシリーズみたいなチームめい、かんがえよ!」

 

 そして要と同じかそれ以上のテンションで賛同してきた。まさか蛍までレンジャーシリーズの視聴者だったとは。

 しかも要の提案に乗ってくるあたり、彼女は見た目だけでなく性格面も子供っぽいようだ。可愛い。

 だがこどもっぽいことは決して悪いことではない、むしろ童心を忘れないということは素晴らしいことだ。

 世間一般で所謂思春期、反抗期と呼ばれている中学生にもなると、勧善懲悪を王道に行くヒーロー番組は、やれ子供だましだのやれご都合主義だのと言われ敬遠されがちだが、彼女には今でも純粋にレンジャーシリーズを楽しんでいるようだ。

 それはもはや一種の美徳だと言ってもいい。何より可愛い。

 

「おっ、蛍もレンジャーシリーズ見てるんか?」

 

「うん!わたし、『マジカルせんたいマホレンジャー』だいすきだったの!」

 

 マジカル戦隊マホレンジャー。シリーズ23作目にあたる魔法をテーマとした作品だ。

 魔法使いを主人公とし、石畳の街道に煉瓦の家が並ぶという中世ヨーロッパをイメージとした古風な世界観でありながら、魔法のアイテムである杖や箒には、流行りもののおしゃれ要素を取り入れており、敵対する怪人たちも可愛らしくデフォルメされたものがほとんどだった。

 そんなポップかつファンシーな作風は、従来の硬派な作風からはかけ離れており、ファンから否定的な意見も多い一方で多くの女性ファンを獲得することに成功した、シリーズでも特に異色の作品である。

 確か蛍は、昔魔法使いや妖精に憧れていたと言っていた。

 彼女がマホレンジャーをシリーズで一番好きと言うのも頷ける話だ。

 

「蛍ちゃんはどんなチーム名が良いと思う?」

 

 そう蛍に話しかけると、彼女の顔がますます明るくなった。

 チーム名を決めて良いと言われたことが嬉しくてたまらないようだ。可愛い。

 すると要がジッとした目でこちらを睨み付けてきた。その視線は

 

 ウチと蛍で随分と対応が違うんやな、

 

 と訴えているようだ。

 当然だ。要と蛍を同じに扱うなんて、可愛い蛍に対して失礼である。

 

「どんなチームめいがいいかな。かわいいのにしたいな・・・。」

 

「いや、どちらかと言うとカッコいい方が・・・」

 

 何を言う。カッコよさよりも可愛さの方が大事だ。

 

「はい!おもいつきました!『ぴかぴかぴかりんぴかレンジャー』ってどうかな!?」

 

「・・・。」

 

 要はげんなりとした表情を見せる。ないわー、と声に出さなくても思っているのがわかる。

 一体何がいけないというのだ。ぴかぴかぴかりんぴかレンジャー。

 蛍らしい幼さとあどけなさを兼ね備えた素晴らしいネーミングセンスだ。

 この世の全ての女子中学生に聞いても2つとして同じ名前は出て来ないだろう。

 何より提案した時の蛍の仕草が可愛かった。それだけで即採用ものである。

 

「可愛いから採用。」

 

「やったー!」

 

「ちょっと待て雛子!その可愛い絶対意味がちゃうやろ!!」

 

 要の言葉を意訳すると、

 

 今のはチーム名が可愛いんじゃなくて、蛍が可愛いから採用するつもりだろ!

 

 となる。無論、後者だ。

 可愛い女の子の言葉は異性は勿論、時として同性でさえ全てを許し肯定したくなると思えるほどの天性の魅力に満ち溢れているもの。

 つまり可愛いは常に正しい、正義なのだ。

 

「待って蛍!そんなチーム名じゃプリキュアだってわからんし!

 そもそも戦隊も入ってないからレンジャーですらないんだけど!」

 

「あ・・・そっか。」

 

 指摘された蛍は少ししょんぼりとした様子を見せる。全く無粋なツッコミだ。

 プリキュアのチーム名だからと言って、プリキュアという言葉を入れなければならない決まりはない。

 少なくとも要がノリと勢いで提案したプリキュア戦隊サンニンジャーよりは遥かにマシだ。 

 

「・・・じゃあ『ぴかぴかぴかりんプリキュア』!」

 

 すると間髪入れず笑顔で別のチーム名を提案してきた。可愛い。

 どうやら蛍にとって『ぴかぴかぴかりん』というのは絶対に外せないフレーズのようだ。

 そんな拘りも可愛いし、これならプリキュアもチーム名に入っている。

 何も問題はないだろう。

 

「じゃあそれで決まりね。」

 

「やったあ!」

 

「待たんか~い!!」

 

 だがそれも要によって却下された。

 提案したチーム名を2度も却下された蛍はさすがに落ち込んだ。

 全く、可愛いのかの字も知らないくせに、蛍を悲しませるとは何事だ。

 結局この場は要によって無理やり中断され、後日各々が候補を考えてくることになった。

 自分で提案したというのに身勝手なものである。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 第一回プリキュア作戦会議もいよいよ佳境を迎えたころ、

 蛍は話を切り出すタイミングを伺っていた。

 

「今日のところはこんなもんかね?」

 

「そうね。当面の活動指針は決まったことだし。」

 

「早くキュアブレイズも見つかるとええな。」

 

「見つけて見せるさ。何としても。」

 

 各々が解散に向かって動き始めている。

 要と雛子はお菓子の空き袋を片付け始め、チェリーは未だにお昼寝中のレモンを起こしていた。

 作戦会議が終わり、これ以上の話題はないはずだ。切り出すのは今しかない。

 

(がんばれ・・・わたし!)

 

「じゃっ、今日はもう解散、」

 

「あっ、あの!!」

 

 蛍は大声で要の言葉を遮った。この場にいる一同が、驚いて蛍の方を振り向く。

 

「あの・・・。」

 

 だが直前になって、蛍に胸いっぱいの不安が広がり始めた。

 もしも断られたらどうしようと、今になって悪い方向に思考が傾き始める。

 

(だいじょうぶ・・・ふたりならぜったいに・・・だいじょうぶだから!)

 

 1つ、2つ、大きく深呼吸をし、蛍は心を落ち着かせる。

 そして要と雛子の顔を交互に見てから、胸に置く両手に力を込めた。

 

「・・・おはなし、したいことがあるの。あの・・・わたし、」

 

 

 友達になれると思ってるの?

 

 

「っ!?」

 

 だが2人に思いを打ち明けようとした蛍の頭に、自分の声が響いた。

 

「闇の波動!?」

 

 続いてチェリーが声をあげ、蛍の全身に悪寒が走る。

 要と雛子も、闇の波動を感じ取ったようだ。2人とも驚いて立ち上がる。

 

 

 ずっと友達が出来なかった私に、友達になってくれる人がいると思ってるの?

 

 

 頭の中に声は、これまでよりも大きく響き渡る。

 

「うっ・・・。」

 

「蛍!大丈夫!?」

 

「蛍ちゃん!」

 

 雛子が蛍の隣まで行き、手を取った。

 

(だいじょうぶ・・・ふたりならぜったいに・・・。)

 

 

 森久保さんと藤田さんは優しい。それは私に対してだけじゃない。

 今まで優しくしてくれた人がいなかったから、勘違いしてるだけだよ。

 

 

(それでもいい・・・それでも、もりくぼさんとふじたさんは・・・

 わたしにやさしくしてくれたんだから・・・。)

 

 頭に響く声の通り、これまで同い年の人から優しくして貰えたことなんてなかった。

 でも、だからこそ嬉しかったのだ。

 こんな自分でも、他の人と、彼女たちの友達と同じように接してくれたことが。

 

「だい・・じょうぶ・・・いつものことだから・・・。」

 

 蛍は現実に意識を戻し、要と雛子にそう答える。

 

「いつものことって・・・蛍あんた・・・。」

 

 要が驚いて声を失うが、蛍は再び自分の意識と向き合った。

 

 

 どうせ、私の事なんて、ただのクラスメートとしか思ってないよ。

 心の中ではバカにされてるかもしれないよ?

 こんな弱虫で何の取り柄もない私に、親しくしてくれる人がいると本気で思ってるの?

 

 

(ほんきだもん!ふたりはぜったいに、そんなひとじゃない!)

 

 

 友達が欲しいなんて見苦しい夢、いい加減捨てなさいよ!

 そんな夢、私に叶えられるわけがないんだから!!

 

 

 長い間友達がいなかった自分の本心は、ここまで卑屈になっていたのか。

 本当に、嫌になってくる。自分のことなんて大嫌いだ。でも、それも今日までだ。

 絶対に夢を叶えると心に決めたのだから。リリンが教えてくれた、大切なおまじないで。

 蛍はおまじないを胸に、万感の思いを込めて自分と向き合う。

 

(かなえる・・・ぜったいにかなえるの!

 今日わたしはそのために、ふたりと、ともだちになるために!

 ここにきたんだから!!)

 

 そして声を振り払うかのように、心の中で雄たけびを上げた。

 

「がんばれ!わたし!!」

 

 すると蛍の胸に光が灯り、シャインパクトが現れた。

 

「はあっ・・・はあっ・・・プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」

 

 光に包まれた蛍は、キュアシャインへと変身を遂げ、頭の中に響く声をかき消すような大声で名乗りをあげた。

 

「世界を照らす!希望の光!キュアシャイン!!」

 

 そして、頭の中に響く声は、いつの間にか消えていたのだった。

 

「蛍ちゃん・・・。」

 

 そんな蛍を、雛子が不安な表情で見ていた。

 どうやらまた、臆病な自分のせいで2人に心配をかけてしまったようだ。

 

「もりくぼさん、ふじたさん、しんぱいかけてごめん。

 ・・・いこっ、ダークネスをやっつけなきゃ。」

 

「・・・せやな。雛子。」

 

「・・・うん。」

 

「「プリキュア!!ホープ・イン・マイハート!!」」

 

 蛍に続き、要と雛子は同時に変身する。

 

「世界を駆ける、蒼き雷光!キュアスパーク!」

 

「世界を包む、水晶の輝き!キュアプリズム!」

 

 変身を終えた3人は妖精たちと共に、闇の波動がする方向へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 蛍たちが闇の波動の気配を追った先には、ダークネスの行動隊長サブナックが待ち構えていた。

 

「来たな、プリキュア。ん?貴様が4人目のプリキュアか。」

 

 サブナックはキュアプリズムを見ながら問いかける。

 

「女の子じゃないってことは、あの人がサブナック?」

 

「ああ、見た目通り筋肉バカのおっさんや。」

 

 キュアスパークが毒を含んだ言葉で答える。するとサブナックが眉間にしわを寄せてきた。

 

「どいつもこいつもバカバカと、口ではなく拳で語れないのか?」

 

「何言ってるん?拳が喋るわけないやろ。」

 

 サブナックの抗議に対して、キュアスパークは涼しい顔で皮肉を返した。

 

「・・・それもそうだな。」

 

 だがサブナックはなぜか妙に納得してしまったようだ。

 それを聞いたキュアスパークは盛大にズッコける。どうやら期待していた反応とは違っていたようだ。

 

「いや納得するのかよそこ・・・。」

 

「ならばなぜ拳で語ると言う言葉があるのだ?」

 

 そしてなぜかその言葉を発した本人からあまりにも根本的な問いが飛んできた。

 

「知るか!辞書引いて自分で調べ!」

 

「辞書とはなんだ?」

 

「だ~もう!何やねんこのおっさん!」

 

 ツッコミに疲れたのか、キュアスパークが呆れ交じりにそう叫ぶ。

 

「キュアスパーク、無駄口が多いわよ」

 

 そしてキュアプリズムに注意された。

 一連のやり取りを横で聞いていた蛍もつい気を緩めてしまった。

 いけないいけない。こちらも気を引き締めていかないと。

 

「はいはい、ちゃっちゃとこいつを追っ払うよ。」

 

「面白い、やれるものならやってみるがいい。」

 

 サブナックは右手に集めた絶望の闇を天に掲げる。

 

「ダークネスが行動隊長、サブナックの名に置いて命ずる。

 ソルダークよ。世界を闇で食い尽くせ!」

 

 そしてサブナックの言葉と共にソルダークが誕生した。

 

「いけっ!ソルダーク!」

 

「ガアアアアアアア!!」

 

 ソルダークが雄叫びをあげる。するとソルダークは脚部をバネのように縮ませ始めた。

 

「2人とも、気を付けて!」

 

 後方からキュアプリズムがそう呼びかける。

 次の瞬間、ソルダークは縮めた脚部を伸ばし、その反動を利用して勢いよく飛び掛かって来た。

 

「え!?」

 

「キュアシャイン!」

 

 キュアスパークが蛍の手を取り、その場を離脱する。キュアプリズムも元いた場を離れた。

 突撃してきたソルダークの勢いは止まらず、そのまま市街地まで突っ込み、いくつもの建物を破壊する。

 プリキュアに変身しているとはいえ、あの突進を正面から受けたら重傷を負ってしまうだろう。

 キュアスパークが手を引いてくれなければ、危なかったところだ。

 だが起き上がったソルダークは再び体をこちらへ向けた。

 

「ピョンピョン飛ばれたら埒が明かん。こっちからも仕掛けるよ!」

 

 キュアスパークが電気を纏いながら、ソルダークへと突撃する。蛍も置いて行かれぬよう、

 キュアスパークの元へと向かおうとするが、その前をサブナックが横切った。

 蛍は驚いて足を止めるが、サブナックは蛍めがけて拳を振り下ろしてきた。

 避けられない。

 そう思った瞬間、蛍の目の前に水晶の盾が現れる。

 

「キュアシャイン!」

 

 蛍を寸でのところで助けたキュアプリズムは、そのままバリアを右手に纏い、サブナックへ拳を振るった。

 だがサブナックはそれをガントレットで受け止める。

 

「盾を纏わねば拳を振れぬか。身を傷つけるのがそんなに怖いか?」

 

 サブナックはそのまま、全身から闇の波動を噴出する。

 

「笑止!」

 

 波動を受けたキュアプリズムは後退するも、サブナックは彼女へと距離を詰め寄る。

 

「キュアプリズム!」

 

 キュアプリズムを助けなきゃ!

 蛍はその場で地を蹴り、サブナックへと拳を振るう。

 だが蛍の拳はサブナックのガントレットに防がれ、逆にガントレットに直撃した振動が蛍を襲う。

 

「いったっ・・・。」

 

「相変わらず軟弱だな、キュアシャイン!」

 

 サブナックはそのまま蛍の手を掴み、力任せに投げ飛ばした。

 

「きゃあああっ!」

 

「キュアシャイン!」

 

 キュアスパークがこちらに気づき、駿足で駆け付け蛍を抱きとめた。

 サブナックはその隙をつき、キュアスパークへと突撃するが、前方をキュアプリズムの盾が遮る。

 キュアプリズムはその隙に蛍たちの方へと合流した。

 だが一連の攻防の中で、蛍の不安は徐々に現実なものとなってきた。

 

「やはり貴様は話にならんな。味方の足を引っ張ることしか出来ない弱者が。」

 

「っ!?」

 

 胸中に抱いた不安を、サブナックに指摘される。蛍はその言葉を否定することが出来なかった。

 これまでも、この戦いの中でも、2人に助けられてばかりだったのだから。

 

「伝説の戦士が聞いて呆れる。なぜ貴様ごときがプリキュアなのか。」

 

 サブナックの言葉が、蛍の心を大きな影を落とす。

 こんな弱い自分が仲間でいいのか、2人とチームでいる資格はあるのか。

 ここ数日ずっと悩んでいたことだ。そして今もその悩みは、心の中に染みついて落とせない。

 

(それでも・・・いっしょにいたいっておもうから・・・。)

 

 蛍は弱い自分の本心に負けないよう、意思を強く持つ。

 

「キュアシャイン、あいつの言葉なんて気にせんでええよ。」

 

「大丈夫、あなたは弱くなんかないから。」

 

(・・・ありがとう。やっぱり、ふたりはやさしいな・・・。)

 

 2人の優しさが蛍の不安を取り除いていく。やっぱり自分は2人と仲間でいたい。

 2人の隣に立ちたい。だから蛍は、自分に出来ることを精いっぱい頑張るために1つの決断をする。

 でもこの決断は、またチェリーを怒らせてしまうだろう。

 

(チェリーちゃん。ごめんなさい。)

 

 心の中でチェリーに謝罪する蛍。

 

「馴れ合いか、くだらんな。ソルダーク!」

 

 サブナックの掛け声とともに、ソルダークは再び足を縮め始めた。

 臨戦態勢を取るキュアスパークとキュアプリズム。

 だが、

 

「はああっ!!」

 

 蛍は突然、ソルダークへ目掛けて飛び出していった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 要が制止する間もなく、キュアシャインは目の前を横切り、ソルダークへと体当たりした。

 あまりにも予想外の出来事に、要は勿論キュアプリズムも、敵であるサブナックさえも唖然としている。

 

「キュアスパーク!」

 

 するとキュアシャインが名を呼んできた。見ると体当たりを受けたソルダークがよろめいている。

 今のうちに隙を付いてほしい。

 そう呼びかけていると悟った要は、キュアシャインが突拍子もない行動に出た理由を考えるよりも先に動き出した。

 

「はあっ!」

 

 雷を纏った正拳を繰り出しソルダークへダメージを与える。

 ソルダークはこちらに気づき攻撃を仕掛けようとするが、今度はキュアシャインがソルダークの顔面へと飛びついた。

 

「え、ちょっ!?キュアシャイン!」

 

 突如視界を奪われたソルダークは、キュアシャインを払おうと首を勢いよく振り出した。

 キュアシャインは飛ばされないよう必死でしがみついている。

 恐らく敵の隙を作るための行動なのだろうが、いくらなんでも危険過ぎる。

 だが止めようと思うも、実際にソルダークが無防備な状態を晒しているため、要はキュアシャインの意をくみ、攻撃を仕掛けることにした。

 

「はああっ!」

 

 渾身の一撃を腹部に叩き込んだ要。

 だがソルダークが大きく仰け反った反動でキュアシャインは手を離してしまい、体が宙を舞ってしまった。

 

「しまった!」

 

 要が助けに駆けつけるよりも先に、キュアプリズムがキュアシャインを受け止めた。

 一先ずは安堵するも、キュアプリズムの腕の中から降りたキュアシャインは、再びダークネス等を正面から見据える。

 

「キュアシャイン!無茶な戦いはしちゃダメって言ったでしょ!!」

 

 そんなキュアシャインの戦いを見ていたチェリーが、ついに怒鳴り声をあげた。

 当然だ。これまでにも2度、1人で戦い窮地に陥り、つい先ほどプリキュア3か条で無茶な戦い方はしないと誓ったのにも関わらずこれだ。

 キュアシャインからすれば敵の隙を作るための作戦なのだろうが、要も見ていられないくらい無茶苦茶な戦い方だった。

 だが、要がチェリーに続いて注意しようとするも、キュアシャインの叫びに中断される。

 

「ムチャくらいしなくちゃいけないの!!」

 

「えっ?」

 

 チェリーが言葉を失う。要もキュアプリズムも、キュアシャインの方を振り向いた。

 

「わたしは・・・キュアスパークやキュアプリズムほどつよくないから・・・。

 それでも!ふたりといっしょに、たたかいたいから!ふたりのとなりに立ちたいから!

 よわいわたしは、ムチャくらいしないと!ふたりとならんで立つことなんてできないの!」

 

「キュアシャイン・・・。」

 

 要は蛍の内に、ここまで強い意思があったなんて思ってもいなかった。

 人と接することに消極的で、ダークネスと戦うことにも怯えていた、臆病な少女。

 少なくとも要はそう思っていた。そしてその認識に間違いはなかったはずだ。

 なぜなら彼女は戦う前に、闇の牢獄で自分の声を聞いていたのだから。

 それは自分自身が不安、弱さを抱えていることの証。

 現に過去の亡霊を振り切った要は、初めて変身して以来声を聞いていないだ。

 だからこそ、要は蛍をなるべく戦わせないように、自らが先陣を切るつもりでいたのだ。

 戦うことを恐れる蛍に怖い思いをさせない為にも。

 だけどそれは、無意識の内に、蛍のことを下に見ていたのかもしれない。

 

(ウチは、蛍のことバカにし過ぎてたのかもしれんな・・・。)

 

 蛍は臆病で、か弱いから、自分が守らなければならない。

 そんな認識を改めなければならないようだ。

 なぜなら蛍は、今尚離れることのない自分の不安と恐怖を、無理やり振り払えるほどの強い意思を、胸に抱いていたのだから。

 

「ちょこざいな。弱者が無駄なあがきをするな。」

 

 キュアシャインの突然の猛攻に対して、サブナックが毒づきながら攻撃を仕掛ける。

 

「もう、ひとりでムチャなたたかいはしない。

 でも、3人でなら、ムチャするんだからあああ!!!」

 

 だがキュアシャインは雄叫びと共に、真正面からサブナックに突撃する。

 その強い意思を込めたキュアシャインの一撃に、これまでキュアシャインを見下していたサブナックが、一瞬怯んだような表情を見せた。

 1人ではなく3人だから無茶をする。何とも屁理屈の利いた言い分だろうか。

 だがそんな蛍の戦う様子と、彼女の決意の前に怯むサブナックを見た要は、蛍は近い将来、このチームの中心になるのではないかと、漠然と思い始めるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「3人一緒なら、無茶をする・・・か。」

 

 蛍の無茶苦茶な戦いを見ながら、雛子は要の家での出来事を思い出す。

 あの時、闇の牢獄の中、頭を抱え出した蛍の手を取った時、雛子は蛍の声を聞いたのだ。

 

 

 友達が欲しいなんて見苦しい夢、いい加減捨てなさいよ!

 そんな夢、私に叶えられるわけがないんだから!!

 

 かなえる・・・ぜったいにかなえるの!今日わたしはそのために、

 ふたりと、ともだちになるために!ここにきたんだから

 

 

 理由はわからないが、闇の牢獄の中では、触れた人の心の声を聞くことが出来るようだ。

 雛子にそのつもりはなかったが、結果として雛子は蛍の本音を知ってしまったのだ。

 ずっと友達が出来なかった故に卑屈になってしまったこと。

 そのために、自分や要のことを信じることが出来なかったこと。

 そしてそんな自分の心と向き合える彼女の思いの強さ。

 蛍はきっと、これまでも自分の弱い心とずっと戦って来たのだろう。

 弱い自分、大嫌いな自分から目を背けず、そして勇気を出して乗り越えいく。

 そんな健気な蛍のことを、雛子は心の底から助けになってあげたい、守ってあげたいと思った。

 雛子にとって蛍は、ただのクラスメートではないのだから。

 

(ずっと抱き続けてきた夢か、形になるにつれて取り戻せた夢かはわからない。

 それでも蛍ちゃんは今日までずっと、夢を捨てないで来たんだよね・・。

 闇の牢獄の中、自分の絶望の声が何度聞こえようと、希望を捨てずに

 ・・・あっ。)

 

 その時、雛子はあることを思いついた。

 

「きゃっ。」

 

「よっと、キュアシャイン、大丈夫?」

 

「うっうん、ありがとうキュアスパーク。」

 

 するとサブナックに振り払われたキュアシャインをキュアスパークが受け止めこちらに合流した。

 サブナックもソルダークを側に置き、お互いに態勢を立て直す。

 

「ねえ、2人とも、ちょっといいかな?」

 

 雛子はさっそく、先ほど思いついたことを2人に話し始める。

 

「なに?急に。」

 

「チーム名、思いついたの。」

 

「は?」

 

 キュアスパークはこんな時に何を考えてるの?と言いたげな顔をして呆れる。

 雛子自身も場違いであることは承知だ。それでも今、この場で伝えたいのだ。

 このチーム名は、3人の心を1つに繋げるものだから。

 

「私たちプリキュアは、世界の希望となる4つの光。

 空を覆う絶望の闇を照らせば、世界は希望の光で満ちる。」

 

 雛子は一拍起き、隣に立つキュアシャインを見て微笑む。

 

「そう、世界を照らす、希望の光。」

 

「え?」

 

 驚いて声をあげるキュアシャイン。無理もない。それは彼女自身を表す二つ名だ。

 だからこそ、このチーム名は、自分たちプリキュアに最も相応しいと思ったのだ。

 

「ホープライトプリキュア!」

 

 なぜならこのチームには、伝説の戦士、世界の希望を体現するプリキュア。

 キュアシャインがいるのだから。

 

「え?えええっ!?」

 

 自分の二つ名がそのままチーム名に使われ、大きな声で驚くキュアシャイン。

 

「ホープライト、希望の光か・・・。ええやん。」

 

「でしょ?」

 

「え・・・えと、ホントにいいの?」

 

「なんで?ウチらにピッタシやん。」

 

 キュアスパークは同意してくれた。彼女も雛子と同じことを思ったのだろう。

 そう、誰よりも強い希望を持つキュアシャインは、蛍は、いつかこのチームの中心になるのだろうと。

 

「どうかな?キュアシャイン?」

 

 キュアシャインはしばらく悩むも、やがて顔を赤くし、

 

「えと・・・ふたりがよければ・・・。」

 

 静かな声で同意してくれた。

 

「よっし!そうと決まればキュアシャイン!ビシっと決めセリフを言ったれ!」

 

 そんな無茶ぶりを笑顔で振るうキュアスパーク。

 

「ええええっ!!?」

 

「ほら、キュアシャイン。」

 

 先ほど以上に驚くキュアシャインと、珍しく要の悪ノリに付き合う雛子。

 

「えと・・・。」

 

 困惑するキュアシャインだが、やがて意を決して顔をあげる。

 

「みっ、3つのひかりが、でんせつを紡ぐ!」

 

 そして『せ~の』で3人、声を揃えてその名を叫んだ。

 

「「「ホープライト!プリキュア!」」」

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ホープライトプリキュア。

 自分の二つ名がチーム名として採用されたことに驚く蛍だったが、その名のもとに、キュアスパークとキュアプリズムは集い、蛍の隣に並んでくれた。

 2人と一緒のチームに集えたこと、隣に並んで立てたことが、蛍には嬉しかった。

 

「それじゃ、」

 

「いくよ、2人とも。」

 

「レッツ!」

 

「Go!」

 

「プリキュア!」

 

 そして3人同時に大地を蹴り、ダークネスへと立ち向かう。

 

「ソルダーク!」

 

 サブナックの呼びかけと共に、ソルダークが足をスプリングにして飛び出す。

 

「はっ!」

 

 だがソルダークの突進を、キュアプリズムの盾が遮った。

 初見は突拍子もない攻撃方法と突進速度に気を取られてしまっていたが、体を向けた方に直線にしか飛べないのであれば、自前に進路を防ぐのは容易い。

 そしてキュアスパークが、ソルダークを遮る盾を跳び箱の様に飛び越え、そのままソルダークの頭上に踵落としを叩き込む。

 

「おのれ!」

 

 地上へ着地したキュアスパークにサブナックが襲い来る。

 だが蛍が真正面からサブナックへ迫り、彼の拳を両手で受け止める。

 

「なにっ?」

 

 蛍から一歩引き、彼女に狙いを定めるサブナック。

 だが直後キュアプリズムがドーム状のバリアを蛍の周囲に展開し、サブナックの拳を跳ね除けた。

 サブナックはすぐさまキュアプリズムの方へ振り向くが、間髪入れずバリアが砕け散り、蛍がサブナックに体当たりをする。

 

「ちょこまかと!」

 

 息つく暇も与えないプリキュアたちの連携に毒づきながらも、サブナックは再び蛍に拳を振るい、蛍もまた、それを両手で受け止める。蛍はそのままサブナックに対抗するが、両手で抑えこんでも、サブナックの腕力の方が勝っていた。

 やがて蛍は押され始め、片膝を付いてしまう。

 

「ふん、その程度の力で、俺と張り合おうなど・・・。」

 

 だが言いかけたサブナックの言葉を、雷の音が中断する。

 サブナックが音のする方を見ると、キュアスパークが片手に雷を纏っていた。

 その目先には大きなダメージを負い、倒れているソルダークの姿があった。

 

「しまった!」

 

 慌てるサブナックの様子を見て、蛍は作戦の成功を確信する。

 蛍達の目的はあくまでもソルダークを倒し、絶望の闇が拡がるのを防ぐこと。絶望の闇さえ拡がらなければ、闇の牢獄も強度を維持することが出来ず、自然と消滅していくことは、これまでの戦いから推測出来た。

 そう、絶望の闇を撒き散らすソルダークを倒すことさえ出来れば、闇の牢獄は解放されるのだ。

 わざわざ行動隊長の相手をする必要はない。

 だから蛍は、浄化技を使いこなしているキュアスパーク達がソルダークを倒せるように、身をもってサブナックを引きつけるための、囮役を買って出たのだ。

 結果キュアスパークとキュアプリズムは、ソルダークを行動不能へと追い込むことに成功した。

 その作戦に気づいたサブナックは、すぐさまキュアスパークの方へ向かおうとするが、蛍はがむしゃらにしがみ付く。

 

「貴様っ!」

 

「ぜったいに!いかせないから!!」

 

 後はキュアスパークが浄化技を決めるだけだ。もうほんの少しだけ、時間を稼げればいい。

 

「プリキュア!スパークリング・ブラスター!」

 

 蛍の足止めが功を成し、サブナックの援護が間に合わないまま、ソルダークはキュアスパークの浄化技を受ける。

 

「ガアアアアアアアア!!!」

 

 そして巨大な落雷に打たれたソルダークは、断末魔をあげて消滅していった。

 ソルダークの浄化を確認した蛍は、サブナックから飛び退き、距離を置く。

 そしてその蛍を守るように、キュアスパークとキュアプリズムが、彼女の一歩前に立った。

 

「ホープライトプリキュアか。そのチーム名、覚えたぞ。」

 

 無勢とみたサブナックは、そう言い残し姿を消したのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ソルダークを撃退した3人は駆け寄り、大きくハイタッチをした。

 

「やったな、キュアシャイン。」

 

「キュアシャイン、お疲れ様。」

 

「キュアスパーク、キュアプリズム、ふたりとも、ありがとう!」

 

 労いと感謝の言葉をそれぞれが述べる。すると、

 

「蛍~!」

 

「きゃっ!」

 

「何が3人でなら無茶するよ!そんな屁理屈が通じると思っているの!

 全くもう!無茶な戦い方するなって何回言ったら!」

 

 チェリーが大声で怒りながら、蛍の戦い方を注意する。

 そんなチェリーと蛍の間にベリィが割って入って宥めようとする。

 

「まあまあチェリー、ソルダークは倒せたんだから落ち着け・・・」

 

「ベリィは黙ってて!これは蛍のパートナーである私の役目なの!」

 

「わ~、チェリーこわ~い。」

 

 そしてレモンはマイペースにそんな感想を述べていた。

 パートナーである3人の妖精たちも交えて、賑やかに談笑するプリキュア達。

 そんな彼女たちの姿を、キュアブレイズは1人、物陰から見ていた。

 

「ホープライトプリキュア。希望の光・・・。」

 

 キュアシャインに続き、2人のプリキュアが覚醒したことは、力を感じたことからわかっていた。

 だがなぜ僅か2週間の間に、3人ものプリキュアがこの世界で誕生したのか。

 

「どうして・・・私の世界は・・・。」

 

 胸に痛みが走る。納得のできない思考を振り切りながら、キュアブレイズはその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ダークネスを撃退した蛍たちだったが、要の家からはかなり遠いところまで来てしまった。

 プリキュアの状態であれば、すぐにでも家に帰ることが出来るが、1人ならまだしも3人でそんなことをすれば、さすがに家にいる瞬に気づかれてしまう可能性が高い。

 仕方なく蛍と雛子は、この場で解散することにした。

 

「んじゃ、2人とも、また学校でな。」

 

「蛍ちゃん、またね。」

 

 要と雛子が、それぞれ別れの挨拶を言う。きっとこれが最後のチャンスだ。

 そう思った蛍は、後ろ向きな考えに引かれる前に行動に出ることにした。

 

「あっあのっ!」

 

 蛍に呼び止められ、2人とも蛍の方を振り向く。蛍は深呼吸をし、心を落ち着かせてから、

 今一度勇気のおまじないをする。

 

「がんばれ・・・わたし・・・。」

 

 小さな声で自分を鼓舞する蛍。そして、

 

「かっ・・・かなめちゃん!!ひなこちゃん!!」

 

 2人の名前を、大きな声で叫んだ。

 突然名前を呼ばれた2人は困惑するが、蛍はその様子を確認する間もなく、ありったけの思いを込めて叫ぶ。

 

「もし、よかったら!わたしと・・・わたしと!!ともだちになってくれませんか!!?」

 

 2人と初めて出会った時から、ずっと願っていたこと、ずっと伝えたかったことを、ついに言葉にすることが出来た。

 ほんの少しずつ勇気を出して、一歩ずつ歩んで、ようやく打ち明けられるだけの勇気を胸に抱くことが出来たのだ。

 

「・・・。」

 

 ほんの少しの間、無言の間が訪れる。ものの5秒もしない時間が、蛍に取ってはとても

 長く感じられた。そしてついに、要が口を開いた。

 

「え?蛍。今までウチのこと、友達だと思ってなかったん?」

 

「えっ?」

 

 だがイエス、最悪でもノーの返事が来るかと思っていた蛍は、予想外の要の返答に戸惑う。

 

「ウチはずっと、蛍のこと友達やと思ってたのに。

 蛍はそう思ってくれてなかったんだね・・・。」

 

 そして落ち込み始める要。傍目から見ればあからさまな演技だが、今の蛍はそれが判断できるほど冷静ではなかった。

 

「えっ!?えとちがうの!!ふたりとはずっとともだちになりたいっておもってて!

 でもなかなかいえなかっただけで!もりくぼさんのこと、そんなふうにおもってたわけじゃなくて!!」

 

 もしかして、とんでもなく失礼なことを言ってしまったのではないのだろうか。

 そう思い始めた蛍は、言葉にならない言葉で必死に要に弁明するが、そんな様子を見て雛子は大きくため息をつく。

 

「要。こんな時に蛍ちゃんをからかわないの。」

 

「え・・・?」

 

「別にええやろこれくらい?今までずっと待たされたお返しだよ。」

 

 からかわれていただけ?それに待たされていたお返しとはどうゆうことなのだろうか?

 蛍が混乱していると、要はさっきとは打って変わって、真剣な表情で話し始めた。

 

「ずっと、その言葉を待ってたよ。蛍。」

 

「ごめんね、蛍ちゃん。でもどうしても、あなたから直接、その言葉を聞きたかったの。」

 

 2人の突然の告白に、蛍は呆気に取られる。

 

「さっき言ったこと、半分は本当。ウチはずっと、蛍のこと友達だと思ってたよ。

 入学式の時からずっとね。」

 

「私もよ、蛍ちゃん。私たちはもう、蛍ちゃんのことを友達として受け入れている。

 だから後は、蛍ちゃんの気持ちだけ。蛍ちゃん、あなたの気持ち、私たちに聞かせて。」

 

 2人の言葉を聞き、蛍は自分が大きな勘違いをしていたことに、今になって気付いたのだ。

 要も雛子も、入学式で初めて会った時から、ずっと自分の事を友達だと思ってくれていたのだ。

 だが2人と距離を置き、友達であることを拒み続けていたのは、他ならぬ自分自身だった。

 蛍はこの2週間、すごく遠回りをしてきた気分になった。

 もし最初から勇気を出すことが出来ていれば、入学式の時に既に願いを叶えることが出来たのかもしれない。

 だからこそ後悔よりも先に、2人の気持ちにちゃんと答えよう。

 蛍は再び深呼吸をし、今一度、2人に自分の素直な思いを伝える。

 

「・・・わたしは・・・かなめちゃんと、ひなこちゃんと、ともだちになりたい・・・。

 ふたりのこと、ともだちだと、おもってもいい・・・?」

 

「勿論。」

 

「当たり前じゃない。」

 

 その問いに対する答えは、すぐに返ってきた。蛍は、見る見るうちに目に涙をためていく。

 そんな蛍に要と雛子は、優しく手を差し伸べる。

 

「これからは、クラスメートじゃなくて、友達、だね。」

 

「改めて、よろしくね。蛍ちゃん。」

 

 蛍は涙を止めることなく、差し伸べられた2人の手を取る。

 そんな光景を見ていたチェリーは、蛍を慈しむような笑顔で泣き、ベリィはチェリーの頭を撫で、レモンは笑顔を浮かべていた。

 

「・・・うん!!ありがとう!!かなめちゃん!!ひなこちゃん!!」

 

 蛍は、泣きながら満面の笑みを浮かべる。

 ずっと願い続けて来た夢が今、最高の形で叶うのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

 

「ついにわたしにも、ともだちができた!

 これからはともだちといっしょにあそんだり!おべんきょうしたり!

 いっしょにお弁当をたべたり!

 あはっ!いままでいっしょにやってみたかったことが、ぜんぶかなうんだ!!」

 

「良かったね!蛍!」

 

「うん!!みんな、リリンちゃんのおかげだね!!・・・そういえばリリンちゃん、

 最近みないな。いまごろどこで、なにをしているんだろ・・・?

 

「蛍?」

 

「・・・リリンちゃん・・・また、あいたいな・・・。」

 

 次回!ホープライトプリキュア 第6話!

 

「リリス再び!狙われた蛍!」

 

 希望を胸に!がんばれ、わたし!


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