ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第4話・Bパート

 帰り道、蛍と別れ家に着いた雛子は自室へと戻っていった。

 

「あっ雛子~おかえり~。」

 

 すると、レモンが自分を出迎えてくれた。そんな彼女に雛子は笑顔を見せる。

 昨日聞いた話によれば、レモンは離れ離れになった友人たちを探して、この夢ノ宮市まで来たようだ。

 だがこれまで野宿同然の生活を送っていたらしく、雛子はしばらくの間、レモンに自分の部屋を宿代わりに貸すことにしたのだ。

 当然、家族には内緒で。

 

「レモンちゃんもお帰り。お友達は見つかった?」

 

「ぜ~んぜん。でもこの近くにいることは間違いないから~

 レモンがんばって探しちゃうよ~。」

 

 独特の間延びした口調を持つレモンは、その口調の通りのんびり屋でマイペースな性格のようだ。

 

「そっか、無理しないでね。」

 

 雛子はそう言い、ベッドに腰掛ける。

 

「?雛子~。今日何かあったの~?なんか暗い顔してるよ~?」

 

「・・・ちょっと、色々あってね。」

 

 雛子は蛍との会話を思い出す。蛍と要が何かを隠していることはすぐにわかった。

 だから蛍からその隠し事を聞くために、自分の過去を打ち明けた。

 自分が彼女と同じ境遇を持つことを話し、親近感を与えることが出来れば、ひょっとしたら打ち明けてくれるのではないかと思ったのだ。

 

(酷いやり方よね・・・。)

 

 雛子は今になって罪悪感にかられる。

 大体自分と蛍の境遇は、似ているようで全く似ていない。

 確かに雛子も昔は人付き合いが苦手で、友達がいなかったのは事実だ。

 だが現実の受け止め方が、蛍とは大違いだった。

 雛子は友達が出来ない理由を他人のせいにし、自分から人を遠ざけたのだ。

 不愛想な態度、冷たい物言い、他人に嫌われる振る舞いは何だってしてきた。

 私が嫌われているのは自分のせいじゃない。

 私を受け入れてくれないお前たちのせいだと、そんな意味のない自己主張を込めて。

 挙句の果てに他者と過ごす時間がないことも、1人で本を読むための時間が増えたのだから、喜ばしいことだと思い込むようになった。

 趣味の読書さえ、友達が出来ない理由を正当化する材料にした。

 そんなどうしようもなく捻くれ者な自分に対して、蛍は自分の弱さを受け止め、自分を変えようと必死に頑張っているのだ。

 同じ境遇だなんて失礼にもほどがある。

 

(それでも、どうしても知りたかった・・・。要が何を隠してるのか。)

 

 雛子は横にいるレモンを見る。昨日の夜、彼女から聞いた話は、レモンはこの世界とは違う、別の世界から来たということ。

 そして離れ離れになった友達を探して、この世界を彷徨っていたということだけだ。

 なぜレモン達はこちらの世界に来たのか、という質問には答えてくれなかった。

 代わりに返って来た答えはこうだ。

 

 雛子を巻き込みたくないの。雛子はいい人だから。

 

 最初の内は、この部屋を宿にすることさえ渋っていたのだ。

 さすがに放っておくことも出来ないから、半ば無理やり言うことを聞かせたが、巻き込みたくないというからには、ただ事ではない事情を抱えているのだろう。

 そして雛子は、要と蛍がその事情に巻き込まれているのではないだろうかと思い始めた。

 無論、何の関連性もなく突拍子もない事だと思うが、それ以外に要が自分に隠し事をする理由が思いつかないのだ。

 要と雛子はこれまで、どのような悩みでもお互いに相談し合ってきたが、今回は違った。

 あんな風に余所余所しい態度まで取って、無理やり話題を切り上げようとする要は、今までみたことがない。だから雛子は要のことが心配なのだ。

 蛍の良心を利用してまで、話を聞こうとするほどに。

 

(やっぱり明日、もう一度話を聞こう。)

 

 どうしても要の事が気がかりだった雛子は、明日、改めて問いかけようと思ったのだ。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次の日、蛍は雛子の様子を伺っていたが、特に変わった風には見られなかった。

 要ともいつも通り口喧嘩する光景から、2人の間に溝があるようにも思えない。

 だが、昨日の別れ際の様子では、話を聞くことを諦めたとようにも見えなかった。

 もしまた同じことを聞かれたら、どう答えるのが一番なのか。

 蛍がそんなことを考えている内に、あっという間に時間が過ぎ放課後を迎えていた。

 

「蛍ちゃん。もう帰るの?」

 

 雛子から声がかかる。

 今日は食材の買い出しに行かなければならないので、いつもよりも早くに学校を出るつもりだ。

 

「うん、いまから、かいものにいかなくちゃいけないから。」

 

「そっか。・・・昨日はごめんなさい。」

 

 雛子が蛍にしか聞こえない小声で謝罪してきた。

 

「え?」

 

「蛍ちゃんに私の過去を話したことなんだけど、私、自分の過去を話せば、蛍ちゃんが私に隠していること、教えてくれるかなって思ったの。

 蛍ちゃんの思いを利用するような真似して・・・本当にごめんなさい。」

 

 なんだそんなことか、と蛍は思った。

 それでもあの時かけてくれた、『自分の事を責めたり、思いつめたりしなくても大丈夫。』という言葉に嘘があるとは思えないし、元を辿れば、雛子に隠し事をしている自分が悪いのだ。

 彼女が気に病むようなことはない。

 

「ううん、わたしがふじたさんに、かくしごとをしてるのがいけないんだし、わたしこそ、はなせなくてごめんなさい。」

 

 蛍も雛子に対して、『隠し事がある』ことは隠すつもりはなかった。

 最も、隠し事をしていること自体はバレているのだが、

 

「蛍ちゃんが謝ることなんてないよ。呼び止めちゃってごめんね。」

 

「ううん、だいじょうぶ。それじゃあ、またあしたね。ふじたさん。」

 

「うん、また明日。」

 

 どうやら雛子との仲がこじれることはないようだ。

 その事に安堵しながら、蛍は買い物へと向かうのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 放課後、雛子はいつも通り図書館で時間を潰し、要の部活が終わるのを待っていた。

 だが、本を読むのには集中できなかった。

 図書館にいた時間はいつもと同じはずなのに、こんなにも長く感じたのは初めてだ。

 すると、部活を終えた要が姿を見せた。

 

「雛子・・・?」

 

 その表情はいつもと違い、どこか怪訝を感じているように見えた。無理もない。

 いつもと違うのは、要だけではないことは自覚している。

 

「要、一緒に帰ろう。」

 

 普段ならこんな言葉、要に対して素直には言わない。

 どうやら思っていた以上に、今の自分には余裕がないようだ。

 

「・・・うん。」

 

 要から少し間を置いた返事を聞き、2人は一緒に帰ることにした。

 

 

 要と並んでの帰り道。雛子は要と一言も口を利かなかった。

 今までだって、特にお喋りすることなく帰ったことはあるが、ここまで重苦しい空気は初めてだ。

 だが、要との間にここまでの確執を感じるのもこれで終わりだ。

 

「雛子・・・。」

 

 すると要の方から先に声があがった。雛子はその場で立ち止まる。

 だが要から二の句がなかなか出てこなかった。

 重苦しい空気に耐え兼ねて、名前を呼んだだけなのだろう。雛子はこの機を逃さず、要から隠し事を聞き出すことにした。

 

「要。私さ、要に対しての物言いには遠慮がないって自覚あるんだ。」

 

「え?」

 

 よく周りからも言われることだ。雛子は要に対してだけは辛辣だと。

 

「でもね、それは私が、要に対しては上辺を取り繕いたくないからなんだよ?」

 

 穏やかでおっとりとした文学少女。周りからの雛子の評判は大体がこうだ。

 そんな清楚なものではない。独りぼっちだった自分に多くの友達を与えてくれた要に対して、素直に感謝の気持ちも伝えられない捻くれ者。

 彼女に対する好意を素直に向けるのが癪だから、辛辣な態度と物言いで誤魔化す。

 藤田 雛子とはそうゆう少女だ。でも要は、そんな雛子を受け入れて友達になってくれたのだ。

 だから雛子は、要に対して素直になれない自分を、敢えて直そうとは思わなかった。

 それが自分なりの『正直』な態度だから。我ながら捻じ曲がった考え方だと思う。

 

「だから・・・今までみたいに率直に言うね。要、私に何を隠しているの?」

 

「・・・。」

 

 しばらく無言の間が続いたが、要は静かに口を開いた。

 

「ごめん・・・言えんよ。雛子を巻き込むわけにはいかないから。」

 

 雛子にとってその答えは予想通りのものだった。

 それでも雛子の中に怒りに似た感情が、ふつふつと込み上げてくる。

 

「巻き込みたくないって・・・今更何よ。」

 

「雛子?」

 

「あの時、嫌がる私を無理やり引っ張りまわしたのはどこの誰よ!?

 友達なんていらないって言ったのに勝手に友達になって!

 勝手に自分のコミュニティに私を加えて!

 あなたの都合に巻き込まれるなんて、今までだってずっとそうだったじゃない!

 だから!もっと私の事、巻き込んでよ!!要!!」

 

 なぜこんな捻くれた言葉でなければ、思いを伝えることが出来ないのだろう。

 要のことが心配だ、悩みがあるなら力になりたい。

 それだけのことを素直に伝えればいいのに、わざわざ逆上するような態度を取ってしまう。

 それでも要なら、こんな言葉でも

 自分の真意を紡ぎ取ってくれると、雛子は信じているのだ。

 そしてしばし逡巡した後、要はようやく笑顔を見せた。

 

「・・・ははっ、やっぱこうなるよな。わかってたことなのに。」

 

「要・・・。」

 

「ウチの降参だよ。やっぱり雛子には隠し事は出来ない。ううん、したくないや。」

 

 その言葉を聞き、雛子は安堵した。やっぱり要は要だ。自分の良く知る要なのだ。

 

「とんでもない話だし、雛子にも危険が及ぶかもしれないけど、それでも聞いてくれる?」

 

「勿論よ。聞かせて要。」

 

「・・・実はね。」

 

 だが要が隠し事を話そうとしたその時、

 

 

 要は本当に、私の友達なの?

 

 

「え・・・?」

 

 雛子の頭の中に、声が聞こえた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 雛子の様子がおかしい。突然頭を抱え、辺りを見回し始める。

 

「雛子・・・?」

 

 彼女に問おうとしたその時、要の全身に悪寒が走る。

 

「っ!?まさか!」

 

 初めて変身したあの時と同じ感覚だ。体中が震え、全身の感覚が危険信号を送り続ける。

 間違いない。ダークネスが現れたのだ。

 

「いや・・・何?何で私の声が・・・。」

 

 そして雛子の様子から、彼女に何が起こったのか分かった。

 自分の内側の声が、頭の中に響いているのだ。

 

「雛子!」

 

 要は思わず彼女の手を取る。だが、

 

 

 要は本当に私の友達なの?

 

 

 彼女の手を取った途端、要の頭にも声が聞こえた。

 

「これって・・・雛子の・・・?」

 

 

 私は1人でいたかったのに、要は私から1人の時間を奪ったのよ?

 そして望んでもいない時間を押し付けてきた。

 そんな要を、本当に友達だと思ってるの?

 

 

 雛子の手を通じて、雛子の声が要の頭に響く。

 闇の牢獄の中で響き渡る声は、その人が今まで隠してきた本心だ。

 それは要自身が身を以って知っている。

 ということは、これが雛子の本心・・・?

 

 

 そもそも私は友達なんて必要なかったのよ。

 それなのに勝手に友達呼ばわりされて、ずっと迷惑だったじゃない。

 鬱陶しかったじゃない。

 私は、ずっと1人でいたかったはずよ?

 

 

 要は血の気が引いていくのを感じた。

 もしかして自分は、雛子のことをずっと誤解していたのではないのか?

 彼女のことを何も理解できていなかったのではないだろうか?

 

「いやっ・・・いやあああっ!」

 

 だが雛子の叫びを聞いて、要は我に返った。

 雛子は今苦しんでいる。

 ずっと心の奥底に閉じ込めていた思いを無理やり引きずり出されているのだ。

 今は自分のことで悩んでいる場合ではない。

 

「要!」

 

 するとベリィがこちらに駆けつけてきた。

 

「ベリィ!どうしよう、雛子が!」

 

「雛子?彼女のことか?」

 

 ベリィは雛子を一瞥する。

 

「この空間に残っているということは、闇の牢獄に囚われかけているのか。

 でもまだ閉じ込められてはいない。早く元凶を絶つんだ。

 この空間を作り出しているダークネスを追い払おう!」

 

「でも・・・それって、雛子を1人でここに置いてくってこと?」

 

 この状態の雛子を1人で放っておくことなど、要には出来なかった。

 例え雛子が本心で自分のことを邪険していようとも、要に取って雛子はかけがえのない友達なのだから。

 

「だけど、それしか彼女を助ける方法はない!」

 

 自分を叱咤するベリィに、要は表情を曇らせるが、

 

「かな・・・め・・・。」

 

「雛子・・・。」

 

 それでも、今にも闇の牢獄へ囚われそうな状態の雛子を、独りぼっちにするなんて出来なかった。

 

「・・・ごめんベリィ、ウチ、雛子のこと放っとけんよ。」

 

「要!キュアシャインがもう戦っているのかもしれないんだぞ!

 彼女を一人で戦わせてもいいのか!?」

 

「っ!?」

 

 だが雛子の事で頭がいっぱいだった要は、蛍のことを失念していた。

 あの子が1人でダークネスと戦えるはずがない。

 もしもこのまま雛子の側にいれば、蛍を見捨てることになるのだ。

 

「ウチは・・・どうすれば・・・。」

 

 雛子と蛍。2人を天秤にかけられた要は、その場で佇むことしか出来なかった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 買い物から帰った蛍は、さっそく夕食の支度に取りかかる。

 今日の献立は肉じゃがだ。

 昨日、自室に置いてある料理本を読んだチェリーが、どうしても食べてみたいとリクエストをしてきたのだ。

 手早く野菜と牛肉を切り終えた蛍は、それらを鍋に入れて煮込み始める。

 

「わ~、いい匂い。」

 

 肉じゃがの匂いにつられたチェリーが、鍋に顔を近づける。

 

「チェリーちゃん。ちゃんと、にこんでからじゃないとたべれないから・・・。」

 

 だが次の瞬間、蛍の体に悪寒が走った。

 

「っ!?」

 

「闇の波動!?」

 

 続いて隣にいたチェリーも反応する。

 

「うっ・・・。」

 

 そしていつものように、蛍の頭の中に声が響く。

 

「蛍、大丈夫!?」

 

「だいじょうぶ・・・、へいきだよ。」

 

 これ以上、自分の声に惑わされてたまるか。

 コンロの火を消した蛍は、両手を胸に添える。

 

(リリンちゃん・・・。)

 

 リリンを想い、彼女の言葉を思い出し、勇気のおまじないをする。

 

「がんばれ、わたし!」

 

 そして光の中からパクトが現れた。蛍はパクトを手に取る。

 

「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」

 

 光に包まれた蛍は、キュアシャインへと変身した。

 

「世界と照らす、希望の光!キュアシャイン!」

 

 蛍はようやく声に惑わされず、変身出来るようになったのだ。

 

「いそごっ、チェリーちゃん。」

 

「ええ!」

 

 チェリーと共に家を出た蛍は、ダークネスの反応がする方へと向かって行った。

 

 

 蛍がダークネスの気配がする地点まで辿りつくと、眼前に1人の青年が宙を飛んでいた。

 リリスでも、以前戦ったサブナックでもない。

 サブナックと比べると、幾らか人に近い形状をしていたが、マントと一体化した両腕、頭に生えた二本の角、脚部は鳥類のように鋭く尖った鉤爪が人外であることを訴えている。

 蛍はその外見から、『吸血鬼』を連想した。

 

「また新しい行動隊長のようね。」

 

 隣にいるチェリーがそう呟く。一体、行動隊長とは何人いるのだろうか。

 するとその青年は、右手に抱えた黒の球体を宙に差し出した。

 

「ダークネスが行動隊長、ダンタリアの名に置いて命ずる。

 ソルダークよ、世界に闇を撒き散らせ。」

 

 ダンタリア。それがあの吸血鬼の名前のようだ。

 ダンタリアの号令と共に、黒の球体はソルダークへと形を変える。

 

「ガアアアアアアアア!!」

 

 そして甲高い産声をあげるソルダーク。いつ聞いてもこの声には慣れそうにない。

 

「キュアスパークはまだ来ていないみたいね。」

 

 言われてみれば、キュアスパークの気配はしなかった。

 彼女の到着を待とうかと思ったが、ソルダークの体から放たれる絶望の闇が空を覆い始める。

 

「1人であいつらと戦うのは不利よ。一先ずキュアスパークの到着を待ちましょう。」

 

 チェリーがそう提案する。確かに蛍1人では、行動隊長とソルダークを同時に

 相手をすることは出来ないだろう。以前サブナックと戦った時のように。

 チェリーの判断は正しい。だが蛍はこのままじっとしていることが出来なかった。

 

「・・・でも、あのぜつぼうのやみがひろがれば、やみのろうごくに

 とらわれる人がふえていくんだよね?」

 

 確かチェリーがそう言っていたはずだ。

 絶望の闇は、闇の牢獄の強度を高め、闇の牢獄の強度が高まると、囚われる人たちも数を増やしていくと。

 

「そう・・だけど。」

 

「それなら、ほうっておけない。」

 

「え?」

 

「こうしてるあいだにも、たくさんの人が、やみのろうごくにつかまって、こわい思いをしているのかもしれないんだよ。

 そんなの、みすごすことなんて、できない。」

 

 一度、闇の牢獄に完全に閉じ込められた蛍だからこそわかる恐怖。

 あんな怖い思いを他の人にさせないためにも、蛍はプリキュアとして戦うことを決意したのだ。

 

「わたしがたたかえば、わたしとたたかうために力をつかってくれるはず、ぜつぼうのやみがひろがるのを、おさえられるかもしれない。」

 

 絶望の闇はダークネスの力の源とも聞いた。ならば戦う力としても使われているはずだ。

 戦うことに力を使わせれば、闇の牢獄を強化することは防げるかもしれない。

 

「そんなの無茶よ!蛍1人であいつらを相手にするなんて!

 前だってそれで危ない目にあったじゃない!」

 

「それに、だれかのぜつぼうが、せかいにまかれるなんて、そんなのぜったいに、みのがせない!」

 

 蛍はそう叫ぶ。誰もが抱えている心の内側に封じ込めた思い。

 それを無理やり引きずり出して、絶望に変えて世界へと撒き散らす。

 そのダークネスの行いが、蛍には何よりも許せないのだ。

 

「蛍!」

 

 チェリーの静止を聞かず、蛍は1人でダンタリアの元へと飛んでいった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「ダークネス!」

 

 蛍がダンタリアの前に姿を見せる。

 

「君がプリキュアかい?それもピンク色の・・・。

 そうか、君が噂に聞く弱虫キュアシャインだね?」

 

「よわむし・・・。」

 

 一体ダークネスの間でどんな噂が流れているのやら。それに初対面なのに酷い言い草だ。

 これまでの行動隊長とは違い、ダンタリアは随分と饒舌なようだ。

 だが自分が弱虫であることは、自分自身が一番よくわかっている。

 今更他人に指摘されたところで狼狽えはしない。

 

「おや、意外と冷静だね。」

 

 それに今は、そんな言葉に心を乱されている暇はない。

 キュアスパークが来るまでの間、1人で戦わなければいけないのだから。

 

「これいじょう、ぜつぼうのやみをひろがせはしない!」

 

 蛍はダンタリアの元へ飛んでいく。

 

「いいだろう。少し遊んであげる。ソルダーク!」

 

 ダンタリアの呼びかけと共に、ソルダークが蛍へ拳を降ろしてきた。

 蛍は空中で体を翻し回避するが、地面に叩き付けられた拳がコンクリートを抉り、粉塵と共に衝撃を巻き起こす。

 蛍は粉塵に巻き込まれながらも、何とか地面に手を付き態勢を立て直す。

 

「はああっ!」

 

 そしてそのままソルダークへと飛び、勢いよく振りかぶった拳を叩き付けた。

 ソルダークは僅かに唸り、後方へとよろめく。

 よし、前に戦ったソルダークと違って、自分の打撃でもダメージは受けるようだ。

 

「ふっ。」

 

 だがダンタリアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ソルダーク!」

 

 そしてダンタリアの呼びかけと共に、ソルダークは両手を蛍へ向ける。

 すると指先が分離し、蛍めがけて飛んでいったのだ。

 

「えっ!?」

 

 放たれた指先はジェットを噴射させ空中を飛び交う。

 蛍はそれを次々と回避するが、最後の一発を回避しきれなかった。

 両腕を交差して受け止めるが、直後、蛍に触れたソルダークの指先が爆発を引き起こす。

 

「きゃあっ!」

 

「キュアシャイン!!」

 

 チェリーの叫び声が聞こえる。爆発を受けた蛍は大きく吹き飛ぶも、何とか立つことが出来た。

 それにしても、あの指先の性質はまるでミサイルのようだ。

 

「ソルダーク。畳みかけてしまえ!」

 

 気が付くとソルダークの指先が再生していた。そして10本の指先を放ち再生するが4度も繰り返される。

 40発ものあれを立て続けに受けたら、さすがにタダでは済まない。

 蛍は自身に狙いを定めて飛んでくるミサイルを無視しソルダークの元へと走って行った。

 やがてミサイルが蛍に迫り、着弾しそうになるが。

 

(いまだ!)

 

 蛍はギリギリまでミサイルを引きつけ、ミサイルを潜るように前方へと跳躍した。

 先ほどまで蛍がいた地点にミサイルが着弾、爆発し、その爆風を利用して長距離を飛び上がる。

 目前まで迫った全てのミサイルを一度に回避しながら、ソルダークの元へと急接近したのだ。

 蛍は後ろを振り返らずソルダークの元まで一気に迫る。

 だが、

 

「キュアシャイン!後ろ!!」

 

 チェリーの声が聞こえ、蛍が後ろを振り向くと、

 

「え・・・?」

 

 先ほど回避したはずのミサイルが、こちらへ方向転換してきたのだ。

 だが既にミサイルは目と鼻の先まで迫っており、回避することが出来なかった。

 

「きゃあああっ!!」

 

 立て続けに巻き起こる爆発を受け、蛍は地面に倒れ込む。

 

「僕が厳選し、熟成した素材から創りだしたソルダークだ。

 リリスやサブナックのものと一緒にしてもらっちゃ困るね。」

 

「ううっ・・・。」

 

 まだ、手足を動かすことは出来る。力を入れれば立ち上がれるはずだ。

 

「やれやれ、大人しくお仲間の到着を待てば良かったのに、絶望の闇を拡げたくないから?

 そんな個人的感情で自らの身を危険に晒すなんて、君はバカだね。

 それに、気づいているかい?」

 

 ダンタリアはソルダークを指さす。見るとソルダークの頭上から、絶望の闇が放たれていた。

 

「っ!?」

 

「君みたいな弱虫、絶望の闇を撒く片手間で相手が出来るんだよ。

 恨むのなら、自分の弱さを恨むんだね。」

 

 自分一人でも戦いに力を使わせれば、絶望を拡げるのを食い止められるかもしれない。そんな考えが既に甘かったのだ。

 蛍は唇を噛みしめるが、悔しがるのは後回しだ。

 絶望の闇を拡げないために、何が何でも戦いに力を使わせるしかない。

 

「はあああっ!」

 

 蛍は力を振り絞って立ち上がり、ソルダークへと立ち向かう。

 だが次の瞬間、物陰から一斉にミサイルが姿を現した。

 

「待ってキュアシャイン!それは挑発よ!行ってはダメ!!」

 

 それに気づいたチェリーが警告する。先ほど放たれた40発の内、幾つかが爆発に紛れて物陰に潜んだのだ。

 ミサイルは既に蛍を包囲し、一斉に降り注いだ。

 

「キュアシャイン!!」

 

 ミサイルの同時攻撃を受けた蛍は、その場に膝崩れに倒れ込む。

 

「呆気ないな。想像以上の弱さだよ、君。」

 

 先ほどまでの挑発的な物言いとは異なり、明らかに侮蔑の入り混じった言葉だった。

 だが蛍はそれに意を介さない。

 地面を這いつくばりながらソルダークに近寄り、その足を掴む。

 

「なに?」

 

「ぜったいに・・・させないから・・・。」

 

 僅かな力を振り絞り、必死に立ち上がろうとする蛍。侮蔑な眼差しでそれを見ていた

 ダンタリアから、徐々に笑みが消えていく。

 

「・・・へえ、しぶとさだけは一人前だね。いいよ。望み通りまず君を潰すことに

 全力を出してあげる。ソルダーク!」

 

 ダンタリアの声を聞いたソルダークは、絶望の闇の放出を中断する。

 そしてその分の力を込め、再び蛍へ向けてミサイルの雨を放った。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 雛子は自分の頭の中に響く声にずっと抗い続けていた。だが同時に聞こえてくる要の声が

 やがて聞こえなくなり、彼女の手のひらの温もりも遠ざかっていく。

 やがて雛子自身の意識さえも昏倒とし始めた。

 

(私はずっと・・・要のことを・・・。)

 

 

 邪魔だって思っていたはずよ。今だってそう。

 彼女にだけ辛辣に当たるも、本当は鬱陶しいからでしょ?

 

 

(違う・・・私は・・・。)

 

 

 私は、1人が好きなの。だから友達なんて、いらない。

 

 

(私は・・・。)

 

 否定できなかった。それは事実だからだ。雛子は1人の時間を好む。

 誰にも邪魔されない1人だけの世界に浸れる時間を。

 

 

 だから読書が好きなはずよ。

 本を読んでいる間はずっと1人だけの世界でいられるから。

 

 

(だから、要が鬱陶しかった・・・。勝手に付きまとって、勝手に友達扱いして・・・。)

 

 

 そうよ。私は要のことを嫌っていたはずよ。

 

 

(・・・これが私の本心・・・なの・・・。)

 

 捻くれ者である自覚はあった。でも想像以上に、醜い本心だった。

 こんなのが私、藤田雛子の本来の姿だなんて・・・。

 だが雛子が絶望に身を委ねようとしたその時、『ある事』に気がつく。

 

(・・・あれ・・・この感情・・・前にも感じたことが・・・。)

 

 雛子の脳裏にかつての記憶が蘇る。友達が出来なかった時の記憶。

 クラスメートとわざと距離を離し始めた時の記憶。そして、要と出会った時の記憶。

 

(・・・そうだ・・・私、昨日蛍ちゃんに言ったばかりじゃない・・・。

 友達が出来なくて・・・大好きだった読書を逃げ道にして・・・本当は1人が寂しかったのに、素直になれなくて、勝手に付きまとう要を鬱陶しく思ってたって・・・。)

 

 雛子は徐々に認識し始める。声の主は過去の自分だ。

 だから否定することが出来なかったのだ。それは過去の自分が抱いた本心なのだから。

 

(じゃあ、今は・・・?)

 

 今なお、要のことが鬱陶しいか?

 1人の時間だけが好きか?

 読書が好きなのは、他人と関わらなくて済むからか?

 答えはもう、わかっていた。

 

「その通りね・・・。私は1人の時間が好きよ・・・。要のことだって・・・

 ずっと鬱陶しく思っていたわ・・・。でも、今は違う!」

 

 雛子は過去の亡霊を振り払うように、言葉を強める。

 

「要は確かに、私から1人の時間を奪った!

 でもその代わりに、みんなといられる時間をくれたの!」

 

 

 そんな時間に何の意味があるの?私にとって、1人の時間以上に大切な時間なんて。

 

 

「違う!要と出会えたおかげで私は、1人じゃ決して知ることのできない世界を

 知ることが出来たの!!」

 

 図書館に引きこもり、家に閉じこもり、本を読んでいるだけでは決して経験することが

 出来なかった世界。

 

「それに要は・・・今でも私が1人でいたいと思えば1人にしてくれる。

 一緒にいたいと思えば一緒にいてくれる。そんな私のわがままを、要は許してくれるの!!」

 

 みんなと過ごす時間も大切なものとなった今でも、1人の時間は捨てられない。

 そんな自分のわがままを許容してくれる要は、雛子にとって最高の親友だ。

 

 雛子は1つ息を継ぐ。そして過去の亡霊を追い払うために、ありったけの気持ちを込める。

 

「私は!1人でいる時間も!!要と、みんなと一緒に過ごす時間も!!

 大好きなんだからああああああ!!!」

 

 すると雛子の胸から、強烈な光が解き放たれた。

 

「え・・・?」

 

 光は周囲を明るく照らし、雛子は失いかけていた五感を取り戻す。

 やがて光が収束し、1つのパクトが姿を現した。雛子がそれを手に取った瞬間、頭の中にイメージが流れ込む。

 雛子はそれを無意識の内になぞっていった。

 

「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」

 

 直後パクトから放たれた光が雛子を包み込んだ。

 光に包まれた雛子は、重力を無視して回転する。雛子を纏う光も彼女の周囲を高速に旋回する。

 天高く掲げた両手、地に向けて伸ばした両足を纏う光はやがて回転を止め、身に纏う光と共に弾け飛び黄色のドレスとなって雛子に纏う。

 そして飛散した光は再び雛子の頭部を旋回し、髪を先端までなぞり始めた。

 光を受けた雛子の髪は黄色に染まり長く伸びていく。

 やがて先端まで辿りついた光は、2つの輪を形作り、雛子の髪を2つに分けて結っていく。

 髪を結った光は雛子の頭上まで登り再び弾け飛び、雪のように降りかかってドレスをリボンとフリルでデコレーションしていった。

 そしてメガネが弾け飛び、瞳の色も黄色に変わり笑顔でウィンク。

 最後に雛子の周囲を覆う水晶が万華鏡のように彼女の姿を映し出し、雛子の全身から放たれた光が周囲を覆う水晶に反射、輝かしいライトアップと共に新たなプリキュアが誕生した。

 

「世界を包む、水晶の輝き!キュアプリズム!」

 

 雛子は4人目のプリキュア、キュアプリズムへと変身を果たすのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 雛子の視界が晴れやかになると、元いた景色が徐々に見えてきた。

 音もはっきりと聞こえる。そして目の前には驚く表情を見せる要がいた。

 どうやら戻って来たようだ。と思い自分の姿を見てみると、

 

「あれ?私・・・なにこの格好!?」

 

 いつの間にかリボンとフリルでデコレートされたアイドルの衣装のようなものを

 身に着けているのだ。

 

「雛子!」

 

 だが困惑する雛子をよそに、要が抱きついてきた。

 彼女の力で抱きしめられたので、少し苦しいが我慢する。安堵したのはこちらも同じだからだ。

 要と離れてしまうかもしれないと思ったのだから。

 

「要・・・。」

 

「でも驚いた。雛子が4人目のプリキュアだったなんて。」

 

 そして要から聞いたことのない言葉が飛んでくる。プリキュア?私が?

 

「プリキュアって・・・?」

 

 要に問いかけようとした直後、彼女の胸が光だし、何もない空間からパクトが出現した。

 突然、魔法のような出来事が目の前に起こり、驚く雛子。

 そしてそのパクトは彼女にも身に覚えがあった。

 

「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」

 

 ついさっき自分も同じことを言った気がするその言葉と同時に、青い光が要を包み込んだ。

 青い光は一瞬で消し飛び、中から自分と似たような青い服を纏う要の姿が現れた。

 いや、要に似た姿だ。雛子の知る要はここまで長髪ではないしそもそも青髪ではない。

 瞳の色もカラーコンタクトを入れたかのように青かった。

 

「要・・・なの?」

 

 思わず聞いてしまう雛子。

 

「細かいことは後で説明する。急ご、蛍が待ってる。」

 

「蛍ちゃん?」

 

 なぜそこで蛍の名が出てくるのだろうか?

 次々と目を疑うことばかりが続いたが、要は雛子の手を取る。

 

「え?」

 

「ベリィ、こっち。」

 

「ああっ」

 

 ぬいぐるみが喋った!?と言おうとする前に、雛子とぬいぐるみもろとも青い光を纏った要は、驚異的な速度で移動し始めた。

 

「ちょっ!ええ~!!?」

 

「しっかり捕まり!振り落とされんなよ!」

 

 新幹線だってここまでのスピードは出ないであろう速度で、一気に嫌な気配がする方向へ移動する要。

 この先に蛍がいるのだろうか?そしてよく見ると周囲の景色もおかしかった。

 確かに今は夕方だが、今の時期はここまで暗かっただろうか?それに自分たち以外、まるで人の気配が感じられない。

 

「いやしかし、改まって言われると、さすがに恥ずかしいな。」

 

 そんな雛子の心境など無視して要がとんでもない爆弾発言をする。雛子は一瞬でその言葉を

 理解する。要が恥ずかしがるようなことを今しがた叫んだばかりだったから。

 

「まさか・・・聞こえてたの!?」

 

 無言で首を縦に振る要。自分でも顔が蒸気していくのが分かる。

 まさか要にあの言葉を全て聞かれていただなんて・・・。

 雛子は顔を赤くしながら、要とは反対の方を向く。

 

「忘れなさい・・・絶対に忘れなさいよ!いいわね!」

 

 いつもの通り、捻くれた言葉を彼女にぶつけた。

 

「はいはい。」

 

 そして彼女も、まるでその反応を待っていたかのように、いつもの調子で軽く流すのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 一体いくつもの爆撃を受けただろう。

 蛍はもう、両足に力が入らなかった。地面へと倒れ込む蛍に対し、何度目かわからない爆撃が飛んでくる。

 抵抗できない蛍の体は爆風と共に宙を舞う。

 

「本当にしぶといね・・・。いい加減に諦めたらどうだい?」

 

 地面へと落ちた蛍だが、まだ両手には力が入る。

 うつ伏せの姿勢に変え、腕の力だけで地を這い、ソルダークへと距離を詰めていく。

 

「ぜったいに・・・あきらめない・・・。」

 

 せめてプリキュアの力を使いこなすことが出来ていれば、まだ戦えたかもしれない。

 だがもう蛍には戦う力が残っていなかった。

 戦うことが出来ないのなら、せめて気を引かせなければ。

 

「キュアシャイン!もうやめて!」

 

 チェリーの悲痛な叫びをあげる。

 

「終わりだ、キュアシャイン。」

 

 ダンタリアが蛍にトドメを刺そうとしたその時、

 

「キュアシャイン!」

 

 青白い光が後ろから駆けてきた。

 

「オラアッ!」

 

 女の子には似つかわしくない雄たけびをあげながら、ソルダークを殴り飛ばすキュアスパークの姿が、蛍の前を通過する。

 同時に蛍の目の前に、もう1人少女が舞い降りた。

 自分やキュアスパークに似た、黄色のドレスを纏う少女。

 

「4人目の・・・プリキュア・・・?」

 

 チェリーが驚きのあまり言葉を失う。

 

「キュアシャイン!大丈夫!?」

 

 キュアスパークが蛍の元へと駆け寄る。

 

「だい・・・じょうぶ・・・。」

 

「全然大丈夫やないやん・・・ごめんな、遅れてしまって。」

 

 キュアスパークが心配そうな、それでいてホッとしたような表情を見せる。

 

「キュアスパーク。ここは私に任せて。」

 

 そこで黄色のプリキュアが名乗りを上げた。

 

「ここに来るまでに、力のイメージは見てきた。私の力は・・・。」

 

 そう言うと黄色のプリキュアは、蛍へ両手を掲げた。

 すると彼女の両手から放たれた温かな光が蛍を包み込み、その傷を見る見るうちに治していったのだ。

 

「治癒能力だと?」

 

 目の前で蛍の傷を治す黄色のプリキュアを前に、ダンタリアは驚く。

 そして黄色のプリキュアが、蛍に顔を近づけ自分にしか聞こえない声で囁いた。

 

「本当に、蛍ちゃんなの?」

 

「え?」

 

 蛍が驚いて顔を上げる。なぜ彼女は自分の名を知っているのだろう?

 すると黄色のプリキュアは蛍に優しく微笑みかける。

 その言葉も、表情も、蛍を優しく包み込んでくれるように温かかった。

 蛍はそんな彼女の仕草に、ある人物を思い出す。

 

「もしかして・・・。」

 

 すると黄色のプリキュアは、自分の口元に指をあてた。静かにシーッと声を出す。

 

「キュアプリズム!」

 

 キュアスパークが黄色のプリキュア、キュアプリズムへと声をかける。

 

「一気に決めるで。ウチの背中、ちゃんと守れよ!」

 

「全く、誰に対して言ってるのよ!」

 

 その遠慮のないやり取りに、蛍はキュアプリズムの正体を確信した。

 直後バチン!と静電気が飛んだような音と共に、キュアスパークが全身に電気を纏いソルダークへと突撃する。

 だがキュアプリズムは、蛍の前を一歩も動かなかった。

 

「え?」

 

 てっきり共に戦うとばかり思っていた蛍は困惑する。

 

「キュアスパーク1人で挑むつもりか?」

 

 ダンタリアも同じ疑問を抱いたようだ。

 ソルダークはキュアスパークを迎撃すべく、両手からミサイルを放つ。

 だが曲線を描いて迫り来るそれを、キュアスパークはわき目も振らず真っ直ぐに突き抜けた。

 正面からミサイルを突破したキュアスパークは、そのまま正拳をソルダークへ叩き込む。

 だがキュアスパークが通過したミサイルは、彼女の元へ向きを変え、背後から一斉に襲い掛かった。

 危ない、蛍がそう叫ぼうとした瞬間、キュアスパークとミサイルの間に、突如巨大な水晶が現れたのだ。

 

「何?」

 

 その光景にダンタリアは驚く。

 人の背丈ほどある八角形の水晶は、ミサイルを全て受け止める。

 直後ミサイルが一斉に爆発したが、水晶にはヒビ一つ入らなかった。

 水晶はキュアスパークの盾となってミサイルの攻撃から彼女を守ると、役目を終えたかのように粒子となって飛散する。

 そしてソルダークの攻撃を逃れたキュアスパークは、再び青い光となって突撃する。

 

「治癒の術に盾。サポートに特化したプリキュアか。ならば。」

 

 これまで不動だったダンタリアがついに動き始めた。翼のようにマントを開き羽ばたく。

 そして鋭く尖った鉤爪をキュアプリズムへと向け、一気に急降下し始めた。

 キュアプリズムもそれに気づき、キュアスパークとソルダークから目を離しダンタリアを補足する。

 そして自身とダンタリアの間に水晶の盾を展開した。

 そのまま盾に蹴りを入れるダンタリアだが、ソルダークの爆撃を受けてもヒビ一つ入れられないほどの強度だ。当然傷などつかない。

 距離を開けたダンタリアは、ならばとキュアプリズムの後方にいる蛍めがけて闇の力を凝縮させた黒い球体を投げつけた。

 蛍を囮にしキュアプリズムの気を引きつけようとしたのだろう。

 だがその球体は、蛍へ当たる直前に四散する。蛍の周囲はドーム状の黄色の光が囲っていた。

 いつの間にか蛍は、バリアーみたいなもので守られていたようだ。

 キュアプリズムはバリアと同じ色の光を自分の右腕に纏い、ダンタリアへと拳を振るう。

 ダンタリアはそれを迎撃すべく、後退しながら黒の球体を投げつけたが、球体は黄色の光を纏ったキュアプリズムの拳と接触した瞬間、四散した。

 

「っ!?」

 

 驚くダンタリアだったが、咄嗟に腕を交差しキュアプリズムの拳をガードする。

 恐らくあの黄色の光は、蛍の身を守っているバリアーと同じものだろう。

 バリアーを身に纏うことで攻防一体の打撃を可能にしたのだ。

 態勢を立て直そうとするダンタリアだったが、その後方からキュアスパークが光を纏って接近する。

 すれ違いざまの攻撃を間一髪回避したダンタリアは、ソルダークを自分の元へと呼び寄せた。

 だがキュアスパークは持ち前の速度で一瞬で旋回し、ダンタリアの元へと向かうソルダークへ再び突撃、強烈な肘鉄をお見舞いした。

 蛍1人を相手にしていた時とは違う。戦況は完全に逆転したのだ。

 

「ソルダーク!」

 

 するとソルダークを呼びながら、ダンタリアはマントを拡げて空中へと飛び上がった。

 同時にソルダークも両足からジェットを噴射し、空高く飛び上がったのだ。

 ダンタリアとダークネスの姿が見る見るうちに小さくなっていく。

 いくらプリキュアの超人的な身体能力を持ってしても、あそこまでの高さを飛び上がるのは不可能だ。

 

「さすがの君たちも、ここまで高度を上げられては届くまい。やれ、ソルダーク!」

 

 遥か上空へと飛んだダークネスが、両手を地上へ向ける。

 このままでは反撃出来ないまま、一方的な爆撃が始まる。

 蛍は焦ってキュアスパークとキュアプリズムを見るが、2人とも落ち着いた様子を見せていた。

 

「キュアスパーク。」

 

 するとキュアプリズムがキュアスパークへとアイコンタクトを送る。

 キュアスパークはその意味を理解したと言わんばかりの笑みを浮かべると、ソルダークの元へと飛びだった。

 

「えっ!?」

 

 蛍は驚く。届くはずがない。案の定、最高点に達しても、ソルダークの元へは届かなかった。

 だがそのまま落下するかと思われたキュアスパークの足元に、水晶の盾が現れたのだ。

 

「なっ!?」

 

 盾本来の用途とは余りにも離れた運用に、ダンタリアも絶句する。

 キュアスパークは次々と上空に現れる盾を足場にし、ソルダークよりもさらに上を取り、

 

「どっこいせっ!!」

 

 落雷のごとく渾身の正拳をお見舞いする。

 直撃を受けたソルダークの巨体は一瞬で地上へと落ちていった。

 そしてソルダークの落下地点には、キュアプリズムが待ち構えていた。

 

「光よ、降りろ!プリズムフルート!」

 

 キュアプリズムの元に光が降り、フルートへと形を変える。

 キュアプリズムがフルートを吹くと、心が癒されるような綺麗な音色が響き渡った。

 その音色と共に、ソルダークの周囲に複数の光が点のように現れ、それを頂点とした多角形が結ばれていく。

 やがて全ての線が結ばれた多角形は、水晶となり、ソルダークはその巨大な水晶の中に閉じ込められた。

 

「プリキュア!プリズミック・リフレクション!」

 

 キュアプリズムがフルートの先端をソルダークへと向け、先端から一筋の光が放たれる。

 ソルダークを囲む水晶の中にその光が入り込み、水晶内で乱反射し始めた。

 やがて光の乱反射と共に、水晶の中は光で満たされていき、ソルダークを身を包み込む。

 

「ガアアアアアア!!」

 

 光に包まれたソルダークは甲高い断末魔と共に消滅し、ソルダークを囲む水晶も粉々に砕け散った。

 

「ふっ、まあいい。今日のところは挨拶の代わりだよ。また会おう、プリキュア。」

 

 ソルダークの姿を確認したダンタリアは、姿を消したのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 

 キュアプリズムへと変身した雛子は、何とかあの巨人を倒すことが出来た。

 初めての戦いだったが、不思議と恐怖はなかった。

 とは言ってもほとんど戦っていたのはキュアスパークこと要で、自分はそのアシストをしただけだが。

 それでも戦場と言える場所で恐怖心を抱かなかったのは、要が一緒に戦ってくれるという安心感のおかげだろう。

 当然本人には言わないが。

 それと・・・。

 

「もう、大丈夫みたいね。蛍ちゃん。」

 

「やっぱり・・・ふじたさんだったんだ。」

 

 蛍の前で情けないところを見せるわけにはいかないのだ。

 雛子は蛍が臆病であることを知っている。

 そんな彼女がこの場にいるということは、相当な勇気を振り絞っているに違いない。

 だからこそ、自分が彼女に対して不用意に不安を煽ってしまうわけにはいかなかった。

 

「それにしても蛍、1人で戦うなんて無茶したらあかんやろ。」

 

 要は怒ったような呆れたような表情で蛍に詰め寄る。

 

「うっ・・・ごっごめんなさい・・・。」

 

「遅れてきたことは正直に謝るけど、蛍、この前だってウチが来なかったら危ないとこやったろ?

 なんでおんなじ無茶すんの。」

 

 要としては蛍が心配だからこそ言葉を強めているのだろうが、叱られる蛍はどんどん落ち込んでいった。

 

「うう・・・。」

 

「要、その辺にしなさいよ。」

 

 すると雛子が静止に入る。

 

「雛子。」

 

「あのまま闇の牢獄ってのが強まっていたら、私、閉じ込められてたかもしれないんだよ?

 蛍ちゃんが絶望の闇が拡がるのを食い止めてくれたおかげで、私は無事だった。

 だからありがとう、蛍ちゃん。」

 

「ふじたさん・・・。」

 

「も~、雛子は蛍に甘いなあ。」

 

 自覚はあるが本音も半分だ。今振り返ると、あの時点では閉じ込められる寸前だったとしか思えない。

 

(これが、要と蛍ちゃんが隠していたことか。)

 

 確かにこんなファンタジーかつ物騒な出来事に巻き込まれているだなんて誰にも話せないだろう。

 あの時、安直に聞き出そうとしたことを雛子は反省する。

 そして、

 

「でもようやくプリキュアが全員揃ったね!」

 

 目の前にぬいぐるみの姿をした妖精たちが姿を見せる。

 プリキュアへと変身し、黒い巨人と戦う要と蛍。

 そんな彼女たちと一緒にいる妖精。

 同じく自分の家にいる、ぬいぐるみの姿をした妖精レモン。

 彼女が探しているという仲間。

 故郷を追われるほどの大きな事情。

 そして世界を覆う闇の牢獄の話。

 雛子の中で全ての出来事が一本の線に繋がった。

 

「あとはレモンさえ見つかれば。」

 

「きっとこの街にいるはず。頑張って見つけ出そう!」

 

 そしてこうも早く裏付けが取れるとは。だが同時にこれは好機である。雛子は皆の前で話し始める。

 

「あのさ、その子、今家にいるよ。」

 

「・・・え?」

 

 何を言ってるんだと言わんばかりの表情を浮かべる2人の妖精。

 

「だから、そのレモンちゃんって妖精。今、私の家で預かってるの。」

 

 妖精に加えて要と蛍もポカンとした表情のまま硬直し、

 

「「「「ええ~っ!!!!」」」」

 

 4人の叫び声が一斉に木霊したのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

 

「ようやくプリキュアがぜんいんそろった!」

 

「これからは私も協力するわ。3人で力を合わせて頑張りましょう。」

 

「よっしそうと決まれば!」

 

「決まれば?」

 

「プリキュアのチーム名を決めよう!」

 

「何でよ。」

 

「はい!わたし、おもいつきました!」

 

「言うてみ。」

 

「ぴかぴかぴかりんプリキュア!」

 

「好きやなそのフレーズ!」

 

「可愛いから採用。」

 

「すんな!」

 

「よーし!じゃあチームめいは、ぴかぴかぴかりんプリキュア」

 

「やめーい!!」

 

 次回!ホープライトプリキュア 第5話!

 

「チーム結成!ホープライトプリキュア!」

 

 希望を胸に!がんばれ、わたし!


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