ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第3話・Bパート

 蛍が夢ノ宮市に引っ越して来てから、最初の一週間が経過した。

 今日は休日。蛍はこの時間を使い、チェリーからプリキュアに関する話を聞いていた。

 

「えっと、ダークネスたちがもつ、やみのちからが、ぜつぼうのやみってよばれていて、わたしたちプリキュアのもつ、ひかりのちからが、きぼうのひかり・・・と。」

 

「そう。希望の光には、絶望の闇を打ち消す特性がある。

 だからプリキュアは、絶望の闇から創りだされたソルダークを倒すことが出来るのよ。」

 

「えっと、きぼうのひかりは、ぜつぼうのやみをうちけす・・・。」

 

 蛍はチェリーから教えてもらった内容を、逐一メモにまとめていた。

 それにしても希望の光か。

 奇しくもそれは、自分が変身するキュアシャインの二つ名にも宛がわれている言葉だ。

 

「よし、今日はここまでかしら。最後に、伝説の一文を復唱してみて。」

 

「うっうん、えと・・・

 黒きやみ、そらを覆わんとひろがりしとき、4つのひかり、やみをてらすべくだいちにおりる。

 其の名はプリキュア、なんじはせかいのきぼうなり。

 それから・・・えと、

 4つのひかりがつどいしとき、おおいなる奇跡がおとずれん。」

 

「グッド。それじゃっ、休憩しましょうか?」

 

「うん。」

 

 今日の抗議を終えた蛍は、ベッドの上で今日までの日を振り返ってみた。

 プリキュアへの覚醒、ダークネスとの闘い、そして今隣にいる妖精との出会い。

 夢なのではないかと疑いたくなる出来事の数々だ。

 だが悪いことばかりではなかった。

 新しい学校では、自分に親身になってくれる素敵なクラスメートと出会えたし、プリキュアとしての戦いがなければ、チェリーと出会うことはなかった。

 そんな多くの出会いを経験したこの一週間の中で、蛍にとって最も大切な出来事。

 全てのきっかけとなってくれた、一歩踏み出す勇気のおまじない。

 彼女からそれを教えてもらえなければ、蛍はこの一週間、これまでと同じことを繰り返していただろう。

 あのおまじないのおかげで勇気を出せたから、蛍は今、長年の夢に手を伸ばしかけている。

 

「・・・いまごろ、どうしてるのかな・・・。」

 

 蛍は、リリンとあの時交わした会話を思い出す。

 

 

 リリンちゃん。今日はありがとう。

 えと・・・またこんど、おはなし、できたら・・・

 

 うん。いつでもいいよ。

 あたし、普段はこの辺にいるから。

 

 

「蛍、どうしたの?」

 

 隣にいるチェリーが怪訝そうに声をかける。

 

「ううん。なんでもない。」

 

 蛍は適当なことを言ってはぐらかした。

 確かリリンは、普段は噴水広場の近くにいると言っていた。

 今日はちょうど休日だし、もしかしたら会えるかもしれない。

 

「ねえチェリーちゃん。すこしおでかけしない?」

 

 蛍はチェリーを誘って、噴水広場へ向かうことにした。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 噴水広場を訪れた蛍は、あの時リリンと一緒に腰掛けたベンチに座った。

 う~ん、と背伸びをした後、天を仰いでみる。今日は雲一つない快晴だ。

 渡り鳥が気持ちよさそうに空を飛んでいる。

 

「キレイなところね。」

 

 ぬいぐるみの振りをしているチェリーが、蛍にしか聞こえないように小声で囁く。

 噴水からは心地よい水の音が聞こえ、隣の原っぱでは子供達が鬼ごっこをしていた。

 近場に見える屋台には、人々が屋台の前に列を作り、外に並ぶテーブルで食事を談笑している。

 

「うん・・・。」

 

 あの時は景色を楽しむ余裕がなかったが、とても綺麗で平和な場所だ。

 ひとしきり、その平和な光景を堪能した蛍は、改めて周囲を見渡す。

 だがリリンの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「・・・そう、うまくはみつからないか。」

 

 蛍は想像以上に落胆する自分に驚く。よっぽどリリンに会いたかったようだ。

 せめて連絡先だけでも教えてもらえばよかったと、今更ながらに後悔する。

 だが落胆したところで仕方がない。

 あの時リリンは、普段はここにいると言ってくれた。

 それなら明日から、出来るだけ毎日ここを訪れてみよう。

 その内また、リリンと会えるかもしれないから。

 噴水広場を後にした蛍は、その後しばらくチェリーの仲間を探すのを手伝い、家に帰った。

 そして次の日、再び噴水広場へ訪れてみるが、リリンの姿を見つけることは出来なかった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 翌週、蛍はいつも通り登校し、教室へと訪れた。

 

「おっはよー蛍。」

 

「蛍ちゃん、おはよう。」

 

 要と雛子から声がかかる。

 

「おっおはよう、もりくぼさん、ふじたさん。」

 

 転校してから一週間が経ち、蛍も少しずつではあるが、新しい学校に慣れてきた。

 特に要と雛子に対しては、普通に会話が出来るようになっていた。

 まだ少しだけ緊張するが、転校初日、会話すら出来なかったことを思えば大きな進歩である。

 とはいえ、2人相手でも、まだ目を合わせたまま話すことは出来ず、名前でも呼べていない。

 2人以外の生徒となれば、まだ会話できる自信もなかった。

 それでも一歩ずつではあるが、確実に前へ進めている。

 今日もまた、一歩ずつ踏み出していこうと蛍は胸に誓うのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 その日の放課後、蛍は部活動へ行く準備をする要を見る。

 

「もっもりくぼさん、きょうもぶかつ?」

 

「ああっ、今年こそは絶対!スタメンの座を勝ち取るからな!」

 

 楽し気に語る要だが、蛍は先週、要の部活動を見学していた時に見た悔し気な表情を思い出した。

 

「蛍、どうかしたの?」

 

 急に黙り込んでしまった自分を見て、要が声をかけてきた。

 言っていいものか迷ったが、要がなぜ悔しい思いをしてまで部活を続けるのか理由が知りたかった蛍は、その疑問をぶつけることにしたのだ。

 

「・・・もりくぼさん、ぶかつイヤだっておもったこと・・・ない?」

 

「なに、いきなり?」

 

「えと・・・その・・・かてればうれしいかもしれないけど・・・。

 まけたりしたら・・・イヤ・・・じゃない?」

 

 言いながら蛍は徐々に要から目線を反らし、頭を下に向けていった。

 ほんの一度、要の部活動を見学した程度で聞いてよかったのか、少しずつ後悔し始める。

 だが、

 

「・・・ああ、ひょっとして先週見学した時の練習試合、気にしてる?」

 

 蛍は驚いて顔を上げた。

 

「えっ?きづいてたの?」

 

「あの場所はよく雛子が見学に来るからね~。

 自然と目が行っちゃうのよ。あの時は蛍が一緒にいたから、ちょっと驚いたけど。」

 

 黙って見学していたことを申し訳なく思う蛍だったが、

 要が状況を理解しているとなれば、今更話題を止めるわけにもいかなかった。

 

「・・・あのときもりくぼさん、すごく、くやしそうなかお・・・してたから・・・。」

 

 どんどん歯切れが悪くなる。

 最後の方などほとんど呟きにしかならなかったが、要にはちゃんと聞こえていたようだ。

 

「だからイヤだと思ったことがないかって?」

 

「・・・うん。」

 

「ないね。」

 

「え?」

 

 あまりにも迷いのない即答に、蛍は驚く。

 

「そりゃ、負けたら悔しいって思うし、勝てない自分に腹立つよ?

 それでも部活を、ううん、負けるってことを、イヤだと思ったことはないね。」

 

「そう・・・なの?」

 

 蛍にはその言葉がわからなかった。

 悔しいし腹が立つというのは、負けてイヤな思いをしたということじゃないのか?

 それなのに負けることはイヤじゃないとは、どうゆうことだろうか?

 

「うん、負けは勝つための第一歩、だからね。」

 

「かつ・・・ための?」

 

「う~ん、例えば蛍の場合、毎日ご飯を作ったり、家の掃除してるんだよね?」

 

「え?そうだけど。」

 

 唐突に自分の家事の話題を振られて戸惑う蛍。

 

「じゃあさ、今までにご飯作ってる時、魚焦がしちゃったとか~、掃除の時、綺麗に出来なかった~、とか思ったことない?

 そん時、もっと美味しく作れるはずだったのに~シクシク!とか、なんでもっとうまく出来ないんだわたしは!ムッキー!とか、悔しかったり、自分に腹立ったりしなかった?」

 

 やや表現がオーバーだが、そのくらいのことは家事を長年続けていれば、誰しもが思うことだろう。

 

「あるけど・・・それがどうして・・・あっ、」

 

 だが蛍はその言葉に、要の言いたいことを理解することが出来た。

 

「そうゆうこと。その後、次はもっと上手くやってやるって、思えるようになったでしょ?

 勝負に負けるって、そうゆうことだと思うの。

 だからウチは、負けることはイヤじゃないよ。それは自分の成長に繋がるから。」

 

「でも、わたしのは家事だから、もりくぼさんとはちが、」

 

「違わないよ何も。家事だろうがスポーツだろうが、悔しい思いしたら、次はもっと上手くなろうって気持ちは同じ。

 それに対する心構えに違いなんてないよ。」

 

「・・・だから、悔しくてもイヤにならない・・・?」

 

「そっ。つっても、勝った方が気持ちいいし、楽しいことに違いはないけどね。」

 

 そして要は満面の笑顔で語る。

 

「勝負は、勝てば嬉しくて楽しい。負けたら悔しくて楽しいってね。」

 

 例え悔しい思いをすることになっても、それは自分の成長に繋がる。

 だから楽しむことが出来る。要のバスケに対する姿勢は、どこまでも前向きなのだ。

 

「じゃっウチは部活にいくね。蛍、また明日、」

 

「あのっ!」

 

「なっなに?急に大声出して。」

 

 蛍が抱いていた疑問は、要の答えで解決出来た。

 だが蛍は、お礼よりもまず、どうしても要に伝えたい言葉があった。

 

「・・・がんばって。わたし、おうえんしてるから。」

 

「・・・うん、ありがと。」

 

 蛍からの声援を受け取った要は、はにかむような笑顔を見せて部活動へと向かうのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 蛍は帰り道の中、要の言葉を頭に思い浮かべた。

 勝負は勝てば楽しい、負けても楽しい。

 悔しいという思いさえもバネとし、さらに上へと飛んでいく。

 強い心の持ち主だと、蛍は思った。

 

「そういえば・・・ひとのこころをすごいって、おもったことって、あったっけ?」

 

 ふと、蛍はそんな疑問を抱いた。

 運動の出来る人、勉強の出来る人。

 これまで能力面で優れた人達を見て、凄いと思ったことはあったけど、心についてはどうだったろうか?

 答えは簡単に出てきた。あるわけがないのだ。

 その人と話すこと以外に、相手の内面を知る術はない。

 要から心の強さを教えてもらえたということは、人と踏み入った話しが出来るようになったと証拠だ。

 先ほど要と交わした会話は、蛍にとっては大きな進歩となったのだ。

 

「また・・・一歩すすめたかな。」

 

 確かな前進を感じる蛍。そして蛍にとっての収穫はそれだけではなかった。

 

「わたしも、もっとがんばらないと。もりくぼさんのように。」

 

 要の心の強さは、蛍の心にも良い影響を与えたのだ。

 彼女のように強くありたい。そんな新たな決意を胸に秘める蛍。

 だがその時、蛍の全身に悪寒が走った。

 

「っ!?・・・いまのって!」

 

 全身がザワつく。心底から冷え込む寒気が襲う。

 間違いない。先週、感じたのと同じ。

 

「蛍!」

 

 すると人間の姿をしたチェリーが姿を見せた。

 だが周りを見渡しても、チェリー以外の人影が一切見られない。

 チェリーは妖精の姿へと戻ってから、こちらに走りよって来た。

 

「チェリーちゃん!これって!」

 

「ええっダークネスよ!」

 

 チェリーの言葉で、ダークネスが再び現れたことを確信する。

 その時、

 

 

 また戦うつもり?

 

 

 頭の中に、自分の声が響いた。

 

 

 いい加減に諦めたら?

 そう何度も上手くいくはずがない。

 強がったって、どうせ最後には逃げ出すんでしょ?

 

 

 だが蛍はだんだん分かってきたことがある。

 頭に声が響くのは迷っている証拠だ。

 蛍はまだ戦うことに恐怖を感じている。

 

(ほんとうに・・・どうしようもないくらい臆病だな、わたしって。

 ・・・だけど、いつまでもこわがってばかりいられないの!)

 

 そんな恐怖、勇気を出して払ってしまえばいい。蛍は勇気のおまじないを取る。

 

(だいじょうぶ・・・さっき、もりくぼさんのつよさをすこしだけ、わけてもらったから!)

 

 何度だって聞こえてくればいい。その度に全部追い払ってやる。

 

「がんばれ!わたし!」

 

 蛍から光が発し、上空にパクトが出現する。

 蛍はその手にパクトを取った。

 

「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」

 

 パクトから放たれる光が、蛍を包み込む。

 

「世界を照らす、希望の光!キュアシャイン!」

 

 キュアシャインへと変身した蛍は、チェリーと共に闇の波動を追った。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 要は部活動へ向かう途中、蛍との会話を思い出した。

 

「ちょっと、カッコつけすぎたかな。」

 

 蛍に話した内容には一点だけ嘘があった。いや、嘘というほどではない。

 現に今はそんなことは思っていない。

 今は、だが。

 

「イヤだと思ったことはない。じゃなくて、イヤだと思っていた、なんだよね・・・。」

 

 元々要は、負けることが大嫌いだった。

 負けるということは弱いことの証だと思っていたからだ。

 だから弱いというレッテルを貼られたくなかった要は、負けたくない一心で練習を続けてきた。

 だけど要は、大きな壁にぶち当たってしまった。バスケの天才、竹田 理沙という名の壁に。

 理沙とは、小学生の頃に所属していた、ジュニアバスケクラブから一緒である。

 付き合いの長さだけなら、雛子よりも上だ。

 当時から理沙のバスケは、上級生を圧倒し、大人から将来有望と一目置かれるレベルだった。

 そんな理沙は、一人だけ専属のコーチを付けられ、特別コースの練習を受けていた。

 だが理沙にだって負けていないと勝手に思っていた要は、彼女が妬ましかった。

 理沙だけが特別扱いされていることが許せず、彼女への対抗心を燃やし出したのだ。

 だがそんな身の程を知らない、文字通り子供だった要は、理沙に勝負を挑んでは完膚無きにまで叩きのめされる、というのを繰り返していった。

 そして、その内自分に自信を無くしていき、ついにはバスケを辞めようとさえ考えたのだ。

 実際一時期、バスケから遠のいたことがあった。

 だけどバスケをやらなくなり、手持無沙汰になった要は、ある日、兄に2人でバスケをしようと誘われたのだ。

 久しぶりに行った2人だけのバスケの中で要は改めて、自分はバスケが好きなのだと確信した。

 それでも負けるのはイヤだから、どうすれば理沙に勝てるかを真剣に考えるようになったのだ。

 そして理沙に勝負を挑んでは負け、負けた内容を振り返り、自分の改善点を探していく内に、要は勝つための結論を出すことが出来た。

 それが負け続けることだった。

 負ける度に改善点を探し、克服し、また負けたら新たな改善点を見つけて克服する。

 そして負けを繰り返していく中で、確かに成長していく自分を実感した時、要は、負けることさえも楽しめるようになったのだ。

 

「とはいえ、負けが続くとさすがにヘコむけどねえ。」

 

 実際のところ、それで理沙との差は縮まったかと言えばそんなことはない。

 それもそのはず。理沙だって成長しているからだ。

 要は理沙ほど向上心に溢れる人を知らない。

 現状の自分に決して満足せず、飽くなき鍛錬を積み重ねていくのが理沙だ。

 だから理沙との差は縮まるどころか、昔よりも離されているかもしれない。

 それでも、今更立ち止まるわけにはいかなかった。

 自分を応援してくれる蛍の為にも。

 

「がんばって・・・か。」

 

 あの子の『がんばって』を思い出す。

 不思議なことに、あの時の蛍の応援は、要の頭にでなく心に直接響いたのだ。

 蛍は自分の感情を隠すことが苦手だ。

 不安に思う気持ち、怖いと思う気持ち、そして最近見せるようになった、嬉しいと思う気持ち。

 その全てが彼女の顔や態度、雰囲気を通じてありありと伝わってくる。

 そんな外面を取り繕うことが出来ない蛍だからこそ、がんばって、と言う言葉が要の心の隅にまで浸透したのだ。

 蛍の声援のおかげで、今日の要は一段と、気合に満ちている。

 

「よしっ今日こそは勝つ!その気持ちでいくか!」

 

 自分自身に喝を入れ、部活へ向かおうとした。

 だがその時、要は周囲の空気が変わったのを感じた。

 

「?なんや急に・・・?」

 

 突然外気が冷たくなったような錯覚に陥る。そして、

 

 

 いつまで無駄な努力を続けるつもり?

 

 

「え・・・?」

 

 突然、声が聞こえてきた。自分の声が。

 

 

 こんなこと続けても、勝てるわけないやん。

 相手は天才、こっちは凡人。

 生まれた時点で、勝負はついてるんよ。

 

 

「なに・・・これ・・・?なんでウチの声が・・・?」

 

 

 負けることが楽しい?

 何カッコつけてん?

 そんなん負けを認めたくないただの言い訳や。

 負け犬の遠吠え。

 ただ単に自分を納得させたいだけやろ?

 

 

 聞こえてくる声は、要が今まで理沙に抱いてきた思いの数々。

 負けを繰り返し、負け続けることが嫌になっていた頃の、紛れもない自分自身の言葉。

 

「何なん・・・くそっ!やめろ!」

 

 鞄を落とし、耳を塞ぐ要。だが声は直接頭に響いてくる。

 

 

 本当はわかっとるんやろ?自分じゃ一生理沙には勝てないって

 

 

「やめろ・・・。ぐっ・・・う・・・。」

 

 要はうめき声をあげながら、誰もいなくなった校舎へ寄りかかった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「いたっ!」

 

 チェリーが指さす方を向くと、そこには大柄の男が佇んでいた。

 

「プリキュアか。」

 

「リリスじゃない?あっあなたはだれ!?」

 

 だが大男は蛍の質問には答えず、右手に集約させた闇の力をかざした。

 

「ダークネスが行動隊長、サブナックの名に置いて命ずる。

 ソルダークよ。世界を闇で食い尽くせ!」

 

 サブナックと名乗った大男の呼びかけと共に、ソルダークが姿を現した。

 

「ガアァァァァァ!!」

 

 ソルダークが甲高い奇声をあげる。蛍は耳障りなその声に怯むが、

 

「キュアシャイン!」

 

 チェリーの声を聞き、かろうじて踏みとどまった。

 怯んではダメだ。こちらから攻めに行くくらいの勇気を出さないと。

 

「たああっ!」

 

 蛍は拳を振り上げ、勢いよくソルダークに叩き付ける。だが、

 

 

 ガキィィィン!

 

 

 甲高い金属音が響き渡り、

 

「っ!?いったあああい!!」

 

 蛍が涙目になりながら叫んだ。

 

「キュアシャイン!大丈夫!?」

 

「このソルダーク、スゴくかたいよ!」

 

 涙目で訴える蛍の姿を、サブナックは一瞥する。

 

「軟弱な。ソルダーク!」

 

 ソルダークは跳躍し、両手を地上にいる蛍めがけて勢いよく叩き付けた。

 蛍は跳躍して回避するが、続けざまサブナックが正拳を繰り出す。

 蛍はその一撃をガードするが、サブナックの腕力は凄まじく、ガード態勢のまま蛍を吹き飛ばした。

 何て力任せな戦い方、だが腕力だけならリリスよりも遥かに上だ。

 

「いたた・・・。」

 

 砂埃の中から蛍は起き上がるが、ソルダークもサブナックも自分より遥かに強い。

 その上で2対1、絶望的の状況だ。

 

「キュアシャイン!このままじゃまずいわ!浄化技を使って一気に勝負を決めましょう!」

 

 チェリーが蛍に呼びかける。

 だがその単語は、蛍にとって聞き慣れないものだった。

 

「え・・・?じょうかわざ?」

 

 戦闘中にも関わらず、困惑の表情でチェリーを見る蛍。

 

「あの時!リリスとソルダークをまとめて倒した時の力を使うのよ!」

 

 あの時、と言うのはリリスを追い払った時のことだろう。

 だが、

 

「・・・えと、どうしたらつかえるの?」

 

 蛍にはあの時の記憶、つまり浄化技を使った記憶と自覚がないのだ。

 

「どうしたらって・・・まさかあなた、あれだけの力を無意識に使ったの?」

 

 蛍の言葉にチェリーは絶句する。

 

「えと・・・おぼえてない・・・。」

 

 あの時は、ただ皆を助けたいとがむしゃらに願い、気が付いたらソルダークの気配が消えていたのだ。

 後にチェリーから自分がソルダークとリリスをまとめて一撃で倒したと聞いたが、力を思い出してと言われても、あの時のことを蛍は覚えていない。

 

「嘘でしょ・・・?キュアシャイン?」

 

 信じられない、と言わんばかりの表情を浮かべるチェリー。

 

「作戦会議は終わったか?」

 

 そこへサブナックが割り込んでくる。

 

「策がないならば、このまま終わらせてやる。」

 

 サブナックが蛍めがけて突撃し、そのまま再び正拳を繰り出した。

 蛍はバランスを崩しながらもそれを回避、そしてサブナックの懐に潜りこみ、

 

「てやあああ!」

 

 渾身のパンチをサブナックの腹部めがけて繰り出した。

 だが、

 

「・・・この程度の力か?プリキュア。」

 

「え?」

 

 サブナックは顔色一つ変えずに、逆に蛍の拳を捕らえる。

 そして蛍の体を空へと放り投げる。

 

「きゃあああっ!」

 

「ソルダーク!」

 

 ソルダークは無防備に空中を舞う蛍へ、その巨大な拳を叩き付けた。

 

「キュアシャイン!!」

 

 チェリーの叫び声も空しく、蛍の体は勢いよく地面に叩き付けられるのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 要は、頭に響く自分の声を聞き続けていた。

 どれだけ耳を塞いでも決して途切れない。どれだけ首を振っても決して否定できない。

 そして大好きだったはずのバスケットが、憎たらしくなった時の記憶が蘇る。

 

(理沙に負け続けて・・・バスケがどんどん嫌になって・・・)

 

 その記憶が思い出されていく中で、要の視界は少しずつぼやけていった。

 

(もう・・・何もしたくない・・・って思ってたっけ・・・。)

 

 耳に聞こえる音も、自分の声以外がどんどん聞こえなくなっていく。

 ついには意識さえも遠のき始めた。

 

(やっぱあの時、蛍の前でカッコつけすぎたかな・・・。

 本当はこんなんだって知ったら、あの子、幻滅するやろな・・・。)

 

 薄れゆく意識の中でさえ、はっきりと聞こえる自分の声。

 

 

 ウチは別にバスケットが上手いわけやない。

 ウチより上手いやつなんていくらでもいる。

 負けず嫌いなんてバカげてる。勝てない相手の方が沢山いるのに。

 

 

(まだ聞こえる・・・ウチの声・・・。あれ?)

 

 だがこの時、要はあることに気が付き始めた。

 

(ウチの声・・・。ウチが思ってたこと・・・。)

 

 そう、今聞こえてくる声は全て、『かつての』自分が思ったものだ。

 だから否定することが出来ないのだ。『あの時』の自分自身の本音だから、何も間違いがない。

 だけどそれは、『かつて自分』でしかないはずだ。

 

(否定できないウチの言葉は・・・弱かった頃のウチ自身・・・。)

 

 そして一度、そんな自分の弱さに真っ直ぐ向き合うことが出来たはずだ。

 その上で、バスケットが好きなのだと気がついたはずだ。

 

 

 バスケなんか大嫌い。もう何も頑張りたくない。

 努力したって全部無駄。理沙には一生勝てるわけがない。

 

 

 尚も響く自分の声。だが、

 

「・・・ごちゃごちゃうるさいな・・・人の頭ん中で。」

 

 要は遠のき始めた意識を繋ぎ止め、自分自身に笑った。

 

「はっ、一体いつの時代のウチが話しかけてきてるのやら。」

 

 

 まだ悔しい思いを続けるん?

 この先ずっと報われることないのに。

 ウチがしてきたことなんて、最後には全部水の泡になるだけや!

 

 

 声はなおも響き、数を増していく。

 だが要は怯まない。

 

「その程度の悩み!とっくの昔に乗り越えて来たわ!!」

 

 全て受け入れてきたはずだ。

 弱い自分も嫌いな自分も、自分より強い理沙の実力も。

 簡単には叶わない目標も、全てを受け入れたから、今の自分がここにいるのだ。

 

 

 バカみたい、まだ諦めてないの?

 負けを繰り返したところで、理沙になんか勝て・・・。

 

 

「勝てる!いつか必ず勝ってやる!!だってウチは!ウチのことを信じてるから!!」

 

 要は必死に自分自身に抗う。

 

「勝負は!勝てば嬉しくて楽しい!負けたら悔しくて楽しい!!

 負けから目を背けることしか出来なかった頃のウチが、今のウチの心を!折れると思うなああああ!!!」

 

 要は過去の自分の亡霊を、振り払うように大きく叫んだ。

 その時、要の胸から強力な光が放たれる。

 

「っ!?何・・・これ?」

 

 光を浴びた要は、失いかけた五感を取り戻した。

 そして放たれた光はやがて収束し、要の手元にパクトとなって降りてくる。

 要がそのパクトを手に取った時、頭の中にイメージが流れ込んできた。

 要は悟る。これをなぞれば、ここから脱出できると。

 

「プリキュア!ホープ・イン・マイハート!」

 

 自然と口から出た言葉と共に、要は体に光を纏った。

 光はやがて雷鳴を呼び、青白い稲妻が全身を駆け巡る。

 そして要の身を纏う稲妻は、形を変えフリルとリボンで飾れたドレスへと変わった。

 そして要の髪が伸び、ライトブルーへと色を変え、ポニーテールへと結ばれる。

 ライトブルーを強調としたドレスを纏う戦士へと変身した要は、自ら名乗りを上げる。

 

「世界を駆ける、蒼き雷光!キュアスパーク!」

 

 要は3人目のプリキュア。キュアスパークへと変身を果たしたのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 気が付くと、要は校舎の中にいた。

 相変わらず人の気配はないが、ひとまず元の場所には戻ってこられたようだ。

 

「一体さっきのはなんだ・・・え?ええ!?なんやこれ!?」

 

 気が付くと要は身に覚えのないドレスを身に纏っていた。

 それだけでなく、髪もいつの間にか伸びているし、何より色が変わっている。

 

「いっ一体ウチに何が・・・?」

 

 さっきまでも記憶を振り返ってみると、何か物凄く恥ずかしいセリフと共に変身していたような・・・。

 

「ってそんな魔法少女ものじゃあるまいし。」

 

 どこまでが現実で、どこまでが夢だったのか困惑する要だったが、その時あることに気づく。

 

「・・・なんだろこれ?なんかエラく嫌な感じの雰囲気・・・。」

 

 気配が3つ、ここより少し遠いところから感じられた。

 2つは嫌な感じの気配、そしてもう1つは、自分に似た気配。

 

「・・・行ってみよう。何かわかるかもしれない。」

 

 今自分がどんな現状に立たされているのか確かめる為に、要は学校を後にしようし、

 

「え・・・?」

 

 目にも止まらぬ速度で走り出したのだ。

 

「ちょっ!ストップストップ!」

 

 自分のことなのにまるで他人事のように注意し出す要。

 何とか校門にぶつかる前に止まることが出来たが、急激な肉体の変化に理解が追いついていない。

 

「なっなんなん一体・・・?何であんな速く?」

 

 混乱しながらも冷静に状況を見極めようとする要。

 そう言えば変身したと思われた時、頭の中にイメージが流れ込んできたような気がする。

 

「・・・もしかして、ウチはもう、全部『知ってる』のか・・・?」

 

 頭に流れ込んだイメージを全て掘り返そうと、要はまず、自分の記憶を辿ることにしたのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 地面に叩き付けられた蛍は、辛うじて起き上がった。

 だが受けたダメージは大きく、足元がフラつく。

 

「リリスを倒したプリキュア、どれほどのものかと思ったが、期待外れだな。

 ソルダーク、トドメを刺してやれ。」

 

 蛍の目前にソルダークが迫る。

 このままでは負けてしまう。何とかして浄化技の使い方を思い出さないと。

 その時、

 

「ちょっと待った~!!」

 

 蛍の目の前を青白い光が横切った。

 光はそのままソルダークへぶつかり、ソルダークが後ろによろめく。

 

「え・・・?」

 

 何が起きたのかわからないまま、青白い光が蛍の前に降りたった。

 やがて光が収束し、目の前に1人の少女が姿を現す。

 自分に似たドレスに身を包み、自分と同じ力の波動を感じる少女。

 

「まさか・・・3人目のプリキュア!?」

 

 チェリーが驚きの声をあげる。

 

「3人目、新しいプリキュアだと?」

 

 サブナックも目の前の状況に驚く。

 閃光と共に現れた青いプリキュアは、蛍とサブナックを見比べて息をついた。

 

「は~、急に光に包まれたかと思えば、

 こんな魔女っ娘みたいな格好になって、いや~な気配を辿ってきてみたら、

 目の前には悪い面したおっさんと怪物、喋るぬいぐるみにお姫様?

 なにこれ?ファンタジー映画の世界にでも迷い込んだんか?」

 

 愚痴り終えた青いプリキュアは、そのままサブナックとソルダークを睨みつけた。

 

「まあ事情はさっぱりわからんが、これだけはわかる。

 あんたら、ワルモンやろ?」

 

「何?」

 

「この状況、どうみたってワルモンが、か弱いお姫様を襲ってるようにしか見えないけど?」

 

「何のことかわからんが、プリキュアであるなら叩くまでだ。ソルダーク!」

 

 ソルダークが青いプリキュアを目掛けて拳を振り下ろす。

 青いプリキュアは蛍を抱えてその場を離れた。

 

「わっ。」

 

「っと、大丈夫?お姫様?」

 

「はっはい・・・。」

 

 蛍は頬を赤くする。

 プリキュア同士とはいえ、『初対面』の女の子にお姫様抱っこされながら、お姫様と呼ばれるのは正直恥ずかしい。

 

「ごめんな。さっきこの姿になったばかりだから、ぜんっぜん事情がわからんの。

 だから後で話、聞かせてな?」

 

 ソルダークが再び蛍たちに迫り来る。

 

「まずは、あいつらを追い払わんと。あんた疲れとるみたいやし、ここで休んでて。」

 

「え?でも!」

 

「大丈夫。この力の使い方、大体わかってきたから。」

 

 そう言いながら、青いプリキュアは自分の手のひらから電気を発生させた。

 まさか、さっき変身したばかりと言うのに、もう力の使い方まで理解できているのか?

 

「それに、」

 

 今度は全身から電気を帯び始める。

 

「か弱いお姫様《ヒロイン》を助けるのは、主人公《ヒーロー》の役目ってね!」

 

 次の瞬間、青いプリキュアは、目にも止まらぬ速さでソルダークへ突撃、電気を纏った拳を叩き付けた。

 蛍の一撃では微動だにしなかったソルダークが怯み呻き声をあげる。

 何て重い打撃なのだろうか。

 青いプリキュアは一旦着地し、今度はソルダークへアッパーを繰り出す。

 ソルダークは倒れる直前で態勢を立て直し、青いプリキュアへと攻撃を仕掛けるが、高速移動する青い光を、補足することができなかった。

 

「どんくさいわ!」

 

 一瞬でソルダークの背後へと回り込んだ青いプリキュアが、そのまま高速の肘鉄をお見舞いした。

 電気を纏い、青白い光となって高速移動するその姿は、まるで生きた雷のようだ。

 彼女はこれが初めての変身だと言っていた。

 だがソルダークを前に逃げることしか出来ず、今でも力の使い方がわからない自分と違い、青いプリキュアはソルダークを相手に臆せず立ち向かい、自分の力を最大限に活用しているのだ。

 そしてソルダークが劣勢な状況になったのを見かねたサブナックが、ついに青いプリキュアに攻撃を仕掛けてきた。

 サブナックの拳を回避した青いプリキュアは、彼に拳を打ち付ける。

 サブナックは蛍の時と同じように、あえて一撃を受けて見せた。

 

「ほお・・・中々の拳じゃないか。」

 

「タフやな。おっさん。」

 

 直後2人は、目にも止まらぬ速度で打撃の応酬を繰り返す。

 2人の拳が正面からかち合い、ぶつかった力の余波が衝撃波となって周囲に拡散する。

 そんな中、青いプリキュアの背後をソルダークが取った。

 だがソルダークの気配に気づいた青いプリキュアは、高速移動で逆に背後に回り込み、ソルダークの巨体を蹴り飛ばした。そして青いプリキュアは、右手を横にかざし始めた。

 

「光よ、走れ!スパークバトン!」

 

 青いプリキュアの呼びかけと共に、一筋の光が走り、バトンへと形を変える。

 青いプリキュアが、新体操のようにバトンを振り回すと、バトンは徐々に短くなり、手のひらの中に納まった。そして手のひらから、青い電気がスパーク音と共に迸る。

 

「プリキュア!スパークリング・ブラスター!!」

 

 手のひらから発生した電気を全身に纏った青いプリキュアは、閃光となってソルダークへと突撃した。

 そしてソルダークを通過すると、上空から巨大な雷鳴と共に、青い雷がソルダークへと落ちてきた。

 

「ガァァァアアアアアア!!!」

 

 閃光が収まり、蒼いプリキュアが姿を現すと同時に、雷に包まれたソルダークは断末魔と共に消滅していった。

 

「3人目のプリキュアか、面白くなってきた。」

 

 その言葉を残し、サブナックは姿を消すのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 キュアスパークへと変身した要は、何とか怪物を退治することに成功した。

 あれだけ大きな怪物と戦うことに、恐怖がなかったとは言えない。

 当たり前だが、要は戦うスーパーヒーロー何かではない。正真正銘の女子中学生だ。

 それでも臆せず立ち向かえたのは、自分が怪物相手に戦う力を得たのだという実感と、あんな怪物を野放しにしておくわけにはいかないという、ちょっとした正義感に駆られたから。

 それと、

 

「あっあの、たすけてくれてありがとうございます。」

 

 こんな可愛いお姫様を前に、情けないところを見せては女が廃ると言うものだ。

 

「別にいいよ。あんた名前は?」

 

「えっと、キュアシャインって言います。」

 

「キュアシャインか。じゃあウチは、キュアスパークってことになるのかな?」

 

 あの時の自分が無意識にそう名乗っていた気がする。

 

「じゃあ?」

 

「いや、気にしないで。それより、これって一体どういう・・・」

 

「あっ、ちょっとだけまっててください」

 

 話を途中で切ったキュアシャインは、辺りを見回し始めた。

 やがてキュアシャインは、項垂れている一人の女性を発見し、その女性とひとしきり会話を終えた。

 会話の内容から察するに、悩みを抱えていた女性を励ましていたようだが、それがこのファンタジーな出来事と、どうゆう関係があるのだろうか?

 

「よかった・・・これで・・・。」

 

 力なく呟くキュアシャインの体が光に包まれる。そして光が弾けた後、

 

「え・・・?」

 

 要は言葉を失った。弾ける光の中、姿を現したのは蛍だった。

 

「あっ蛍。勝手に変身を解いちゃダメだよ。」

 

 蛍の近くにいた喋るぬいぐるみが注意する。

 

「ごっごめんなさい。あんしんしたら、ちからがぬけちゃって・・・。」

 

 この幼い口調、幼い仕草、紛れもなく蛍だ。

 

「・・・蛍?」

 

「え?あっあれ?なんでわたしのなまえを・・・?」

 

 要は蛍の前で変身を解いた。

 

「え・・・?えええっ!?もっもりくぼさん!!?」

 

「蛍、知り合いなの?」

 

「わたしのクラスメートだよ!なっなんでもりくぼさんがプリキュアに!!?」

 

 あっちもあっちで驚きを隠せてないようだが、それはこちらのセリフだ。

 あの臆病な蛍が、あんな怪物たちと戦っていたというのか。

 だが要へのサプライズはこれだけでは終わらなかった。

 

「チェリー?」

 

 突如男の声が聞こえた。

 3人とも声のする方へ向くと、そこには一人の男性が立っていた。

 身長は180cmくらいだろうか。

 ライトブルーを基調とした服と金髪のせいか、どこか明るい印象を与える。

 

「・・・あなたは?」

 

 突然声をかけられたチェリーは驚く。

 

「チェリーだよな?わからないか?俺だよ、ベリィだ。」

 

 ベリィの名を聞いた直後、チェリーの表情が一変した。

 

「ベリィ?ベリィなの!?」

 

「ああっ!ようやく見つけられた!」

 

「ベリィ!」

 

 1人の青年とぬいぐるみが同じタイミングで飛んでいく。

 そして次の瞬間、ベリィと名乗った青年が、ぬいぐるみへと姿を変えたのだった。

 

「え・・・?」

 

 要は目の前の状況に再び言葉を失う。

 

「良かったベリィ!無事だったんだね!」

 

「そっちこそ!ここまで来た甲斐があったよ!」

 

「うわああん!ベリィ!」

 

 察するに感動的な再会シーンなのだろうが、要にはその光景に涙を流す余裕はなかった。

 人間がぬいぐるみになってぬいぐるみが飛びながら喋りながら再会を喜びあう。

 どこからツッコミを入れたら良いのだ?

 

「ひっ人がぬいぐるみになったあ!!」

 

 結局そんなベタなツッコミしか思い浮かばず、

 

「ふたりめのようせいさんだあ!!」

 

 蛍の妖精という言葉に更に困惑し、

 

「これで、後はレモンさえ見つかれば全員揃うよ!」

 

「ということは、キュアブレイズとアップルさんもこの都市に?」

 

「うん!2人で頑張って探そうね!」

 

「ああ!」

 

 そんな要の心境を余所に、未来へ希望を見出すぬいぐるみもとい妖精たちだった。

 絶句する要。目が点になる蛍。そして戯れる妖精2人。

 常識外れの世界へ飛び込んだ要の初体験は、最後の最後まで常識が通用しなかった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 図書委員の仕事を一通り終えた雛子は、真っ直ぐ家まで帰宅した。

 雛子は時折、1人でいたいと思う時がある。

 そして今日がそんな気分だった為、要を待たずに帰宅したのだ。

 だが玄関前まで来たとき、雛子は家の前にぬいぐるみを見つけた。

 

「あら?」

 

 誰かの落とし物か?

 しかしぬいぐるみを自分の家に持ってくるような知人がいただろうか?

 雛子はそのぬいぐるみを手に取ってみた。

 体毛は黄色。見た目は熊に近い為、テディベアのようだ。

 だが手に持ったぬいぐるみは、妙に生暖かかった。

 体毛も作り物とは思えないほどの手触りだ。

 しかし雛子は、それ以上に重大なことに気が付いた。

 ぬいぐるみの口から、明らかな寝息が漏れていたのだ。

 口元に手をやると、微かな吐息がかかる。

 試しに胸の当たりに手を置いてみると、僅かな脈動が感じられる。

 

「なに・・・これ?」

 

 蛍と要の知らぬところで、雛子もまた、常識外れの世界へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

 

「これでのこりのプリキュアはあとひとりだね!」

 

「ウチがキュアスパークで、蛍がキュアシャインだから、あと1人はキュア何になるんだろ?」

 

「ん~っと、キュアぴかぴか?」

 

「いやないわ。」

 

「キュアぴかりん!」

 

「可愛らしいな!いやそうじゃなくてもっとカッコよく!

 キュアスーパーウルトラアルティメットスパーク!みたいな!」

 

「あっそれカッコイイ!」

 

「ってボケ倒すなあ!ツッコミ入れんかい!!」

 

「2人とも、騒がしいわよ。一体何の話?」

 

「ギクッ!雛子!?」

 

「ふっふじたさん!?」

 

 次回!ホープライトプリキュア 第4話!

 

「みんなを守る!水晶の戦士、キュアプリズム!」

 

 希望を胸に、がんばれ、わたし!


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