◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄探しが始まってから1時間、制限時間も折り返しを迎えた所である。
アイテムの面々は珱嗄の放ったヒント持ちから色々とおちょくられながらも、なんとかそれぞれヒントを手に入れていた。
最初にヒントを手に入れたのは小萌の関門を突破したフレンダ。屋外にいるというヒントを得た彼女は、第七学区を駆け回ってとにかく珱嗄を探している。
次にヒントを手に入れたのは滝壺。
一方通行の関門である打ち止め探しを、彼女は自身の持っている能力を最大限生かして難なくこなしたのだ。体晶は使っていないが、御坂美琴のAIM拡散力場を記憶したことのある彼女なら難しい話ではない。
そうして得たヒントは、"珱嗄は何処かの店にはいない"というものだった。
フレンダのヒントと合わせれば、珱嗄は屋外にいて、尚且つ店のテラスや外に設置してあるテーブルなんかにはいないということになる。
そう考えれば、珱嗄は基本的に高い場所にいる可能性が高いと言えた。
そして次にヒントを手に入れたのは麦野である。
彼女が見つけたヒント持ちは、意外にも上条当麻だった。出会いは単純、曲がり角でぶつかって押し倒されたのだ。彼は買い物途中だったので、ぶつかった拍子に買い物袋を落とした。卵粉砕である。
不幸だと呟いた彼であったが、勿論、当然の様に押し倒した拍子に麦野の胸を揉んでおり、呟いたその言葉が麦野のプライドを大きく傷つけた。
「ぶち殺す」
「のわぁ!?」
「!? 私の"
いっそ殺す勢いで放たれた光線だったが、"
驚愕する麦野、戦慄する上条は見つめ合い、しばし無言の緊張感の中動けない。しかし数秒の後、はぁとため息を吐いた麦野が頭を掻くことでその緊張感は霧散する。
「……アンタ、珱嗄のこと何か知ってる?」
レベル5の攻撃を打ち消すなんて能力は聞いたことがないし、ましてそんな能力者が珱嗄と関わりのない人物だとは思えなかったのだ。
「え、珱嗄さん? もしかして、あんたが珱嗄さんを探しているっていう?」
「知ってるのね……ならさっさとヒントを渡しなさい」
「いやちょい待ち、ヒントを渡すには俺の出す試練を──」
「胸、揉んだだろ」
「御教え致します!!」
上条当麻に逃げ場はなかった。胸を揉んだ事実、それを盾に取られては試練も関門もあったものではない。結局彼女はなんの苦労もせず、社会の法を盾に上条からヒントをもぎ取ったのである。
そうして手に入れたヒントは、"珱嗄は広く、目に見える場所にいる"というものであった。
それをフレンダと滝壺の手に入れたヒントと合わせて考えれば、珱嗄は屋外で、店関係の場所にはいなくて、広く目に見える場所にいるということになる。
つまり、これで店舗、路地裏などの狭い場所、屋内の可能性がなくなったということになる。ますます高い場所や公園や広場などの広い場所の可能性が高くなった。
「ありがと、それじゃ」
「あ、ああ……」
麦野はそう言って上条にはもう用はないとばかりに捜索を再開した。
そして最後にヒントを手に入れたのは、やはり絹旗最愛である。
小萌に騙された後、一方通行に会ったものの打ち止めが見つかった後なのでヒントを貰えず、そのあと上条当麻とすれ違い、絶望の果てに出会ったのが御坂美琴──と一緒にいた白井黒子である。
白井黒子は前から走って来た絹旗に気付くと、最早何もかも終わったとばかりの表情をしていたので気付かってハンカチを渡したのだ。
「も、もし? 大丈夫ですの?」
「はぁ……はぁ……超大丈夫じゃないですが……ありがとうございます」
「はぁ……そうですの」
「珱嗄さん……超どこいったんですか」
そしてその際に絹旗が呟いた一言が、決定打だった。白井黒子もまた、ヒント保持者なのだ。
珱嗄が適当にばらまいたヒントを受け取った一人、それが白井である。故に絹旗のその呟きを聞いて、白井は思い至ったようにこう口にした。
「えーと、私その方の場所のヒントを持ってますの」
「マジですか!? 超教えてください!」
「は、はい……えーと、確かメールでは"何処かの屋上"とありましたよ?」
「超、ありがとうございます!!」
本当なら白井も何かしらの試練を与えるように指示があったのだが、あまりに絹旗が落ち込んでいたので、そんな気にもなれず正直に教えてあげた。元来、白井黒子は良い子なのである。
そしてヒントを得た絹旗はまるで水を得た魚の様に元気を取り戻し、再度捜索を開始する。ドップラー効果を残しながら走り去った絹旗を、白井は目を丸くして見送った。
その様子からは、流石の御坂美琴も一切口を挟めない勢いがあったという事実が感じられたのである。
◇ ◇ ◇
かくしてアイテム全員がヒントを得たわけだが──ここで1人、他の3人よりも一歩リードした者がいた。それは、一等最初にヒントを手に入れたフレンダである。
彼女は小萌からヒントを得て探し回っている内に、"もう1人"。ヒントを持っている人物を探し出していたのだ。
そう、彼女こそ珱嗄のばら撒いたヒントを持っている最後の人物にして、フレンダも初めて会話する麦野とは全く別のレベル5。
"
彼女の出す試練は、おそらくフレンダだからこそ突破出来たといえるだろう。そう、アイテムの中での共通認識でアホの子とされている彼女だからこそ、天才の裏を掻けた。
「じゃあ試練よ、私の質問に答えなさぁい」
「よし来た! 何でも来い!」
「貴方は珱嗄さんのこと、どう思ってるのぉ?」
「え? 珱嗄さん?」
この質問の意図としては、食蜂操祈にとってフレンダがライバルであるかどうかが問題だ。ライバルであるのなら、ヒントを渡すわけにはいかないという外道っぷりである。
しかも彼女は心を読める。この質問をすれば相手はその答えを頭の中に思い浮かべてしまうもので、彼女はそれを読むことが出来るわけだ。
そしてその思惑通り彼女はフレンダの思考を暴く──!!
──珱嗄さん? なんでここで珱嗄さん? でもまぁよく分からないけど質問だから答えるべきなのかなぁ……珱嗄さんか、珱嗄さんってなんだろう。あんまり考えたことはないけど、私としてはそんなに嫌いじゃないわけよね。背も高いし、気も利くし、強いし、気さくだし、絹旗が前に優良物件って言ってたけど、なんで珱嗄さんが物件なのかしら? あの時ばかりは流石に絹旗が馬鹿なんじゃないかと思ったわねー……っと珱嗄さんだった。そういえば珱嗄さんって何者なんだろ……いきなり現れたし、能力もよく分かんないし、レベル5いっぱい知ってるし、なんか無茶苦茶だし、んー、どう思ってるかって言われたらまぁアレだよね。無茶苦茶な人だけど、頼れる人っていうか、なんか味方にいると負ける気しない感じ? 絶対的な無敵感があるよね。
食蜂は思った、この子アホの子だと。
「あー……分かったもう良いわぁ……ヒントあげる」
「え? ホント!?」
「珱嗄さんは第七学区にあるセブンスミスト付近の高い場所にいるわよぉ」
「分かった! ありがとう!」
ライバルだと思うこともなくヒントを教えた食蜂。
フレンダは暗部の人間とは思えない純粋な笑顔でお礼を言って去っていく。食蜂はなんだか、フレンダが暗部の人間とは思えなかった。
「学園都市の暗部ってこんな感じだったかしらぁ……」
そして残り時間40分程──珱嗄の下へ辿り着くのは誰になるのか、食蜂も気になった。