◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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統括理事会理事長

 絹旗最愛のいる施設へと向かうボックスカーの中、珱嗄はふと不穏な気配を感じて閉じていた瞳を開いた。視界には、自らが気絶させて横にしている滝壺理后と、隣で珱嗄の肩に頭を乗せて仮眠を取っているフレンダがいる。ボックスカー周辺の気配を探っても、特にこれといった反応はない。

 だが、珱嗄の右耳に装着された無線機、これからノイズが鳴り響いた。

 

「………」

『ザ――――ザザ……! やぁ、泉ヶ仙珱嗄君。初めまして、私は学園都市統括理事会、理事長……つまりは学園都市のトップの、アレイスター・クロウリーだ。よろしくお見知りおきをと言った所かな?』

「へぇ、学園都市のトップか。校長先生と呼ばせて貰うわ」

『ふむ、まぁこの学園都市を一つの大きな学校と見るのなら、私は校長に値する訳か……それもまた良いだろう』

 

 通信相手は、アレイスター・クロウリー。学園都市統括理事長であり、未だ珱嗄の前には現れてはいないが、魔術を使う学園都市という科学サイドの反対側、魔術師の領域でその名を轟かせた最高の魔術師にして最悪の魔術師である。実年齢にしてみれば、並の人間の寿命などとうに超える年齢をしているのだが、まぁ珱嗄の過ごしてきた年齢と比較すれば特にどうとでもない些細な事なので、あまり気にしなくてもいい。

 珱嗄はそんなアレイスターに対して、いつも通り、軽快に会話を続けた。

 

『さて、何の用かと疑問を抱いているだろうから、単刀直入に言わせてもらおう。私は君がこの学園都市になんの前兆も無く、いきなり姿を現した事を知っている』

「ああ、まぁ見てたもんね」

『おや、気付いていたのかな?』

「まぁこんなあからさまな視線を感じる街だしな」

『普通の人間なら気付けない筈なのだが……まぁいい。私の要求は一つだ。君に、学園都市の能力開発を受けて貰いたい』

 

 アレイスター・クロウリーの考えは、原石である珱嗄に能力開発をし、あわよくば多重能力者(デュアルスキル)を作りあげようという物。イレギュラーな珱嗄だからこそ、実験の価値があるのだ。

 

「へぇ……なるほど。そういう事か。いいよ、受けてあげよう。それで、対価としてお前は俺に何を差し出すんだ?」

 

 珱嗄は、神様が言っていた言葉を思い出した。自分が与える能力以外に、もう一つ能力を手に入れる事が出来るかもしれないと言っていた、神の言葉を。おそらく、これがそのもう一つの能力を手にする機会なのだろう。

 そして、珱嗄はゆらりと笑いながらアレイスターに問う。その依頼に対して、お前は何を差し出すのかと。珱嗄自身の身体を弄らせるこの依頼に対して払う対価は、なんなのかと。

 

『ふむ……金では納得しては貰えないだろうな。では逆に問おう、君はその対価として何を望む?』

「言い値で良いって事か。なら俺は、お前の首でも貰おうかな?」

『………私としてはそれは困るが……本気か?』

「冗談だ。お前の首なんて、いらねーよ」

 

 珱嗄がケタケタと笑うと、その表情を『滞空回線(アンダーライン)』で見ていたアレイスターは、何十年振りか、はたまた初めてか分からないが、久しく感じていなかった恐怖を感じた。ぞわりと鳥肌が立ち、背筋が震える。画面の向こう側の珱嗄は、ただ笑っているだけ。それはもう心の底から楽しんでいる様に笑っているだけだ。それだけなのに、アレイスターは素直に珱嗄を怖いと感じたのだ。

 

「そうだな……それじゃあ一つ頼みを聞いてもらおうか」

『……何かな?』

「俺の行動に文句を付けるな。手を出してくるのは良いが、その時俺は俺の娯楽の為に―――お前という害虫を殺してやろう」

 

 珱嗄の言葉は、本気だった。蚊を潰す様に何かを壊し、宝物を小箱に仕舞う様に何かを護る。珱嗄の行動は何より薄っぺらい。やりたいからやる。やりたくないからやらない。邪魔だから潰し、有益だから護る。

 だからこそ、怖い。何も知らない無邪気な赤ん坊が、世界を壊してしまう爆弾のスイッチを手に笑っている様な感覚が、アレイスターが感じたのは、そんな純粋な恐怖感だった。

 

『……いいだろう。私は君の行動に最低限口出しはしない事を約束しよう。ただ、私にも私なりに求めるものがある。その為に君が邪魔だと感じた場合は、私も君を私の為に排除しよう』

「いいね、面白いぞお前。そうなった時が楽しみだ」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑う。

 

「ああ、とりあえずレベル5勢と……幻想殺しはぶっ殺しても良いって事で良い?」

『おい待て、要求を聞こうじゃないか』

「冗談だよ。じゃあね校長センセ」

『ちょ――――』 

 

 珱嗄は返答を聞かずに無線を外した。一応配布された機材なので、破壊すれば無駄金が掛かりそうだという判断だ。金に不足はないが、意味の無い所でお金を使うのはちょっと避けたい。

 

「さて………能力開発の場所を知らないからどうにも出来ないけど……ま、何れ迎えが来るでしょ」

 

 珱嗄はそう言って嘆息する。珱嗄の冗談に慌てるアレイスターの声は、中々に滑稽な物があったと満足気に笑った。珱嗄とアレイスターの交渉戦は、珱嗄の圧倒だった。

 

 しばらくして後、御坂美琴と麦野沈利の戦いがそろそろ決着が付きそうという中で、珱嗄達は絹旗の居る施設に辿り着いた。フレンダを起こしてボックスカーから降りる珱嗄とフレンダ。滝壺は未だに気絶しているので、とりあえず寝かせておく事にした様だ。

 

「よー最愛ちゃん。珱嗄さんが来ましたよー」

「超腹立つ登場をどうも。こちらは既に仕事は終えたので、特にこれといった援護は超必要ないのですが」

「えー……それじゃあ結局私達はどうする訳よ?」

「とりあえず、麦野に超連絡しておきます」

 

 絹旗はそういって、麦野に電話する。電話の向こう側では超ハイテンションな麦野が御坂美琴を追い詰めていた様だが、自分達だけで捕らえた者達を移送しても良いとの事で、作業を進める事になった。

 ちなみに、フレンダは麦野から直々の伝言で、『オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね』だそうだ。

 

「みこっちゃんはどうなったかねぇ……ま、ヒロイン補正でどうにかなるでしょ」

 

 珱嗄はそう言って、くつくつと喉を鳴らす様に笑った。

 

 


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