◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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原作12巻で珱嗄がやってた事
日常編 睡魔の罠


 さて、イタリアから上条当麻達と共に帰ってきた珱嗄は、時差ボケもあってアイテムの拠点にて寝ていた。

 今の珱嗄の肉体は、神様が手を加えたのか知らないが睡眠や食事を必要とし、疲労もしっかり感じるようになっている。故に、人間を越えた体力を持つ珱嗄ではあるが、『アドリア海の女王』を壊滅させた時の疲労は結構身体に負担を掛けていた様だ。

 

「あーつっかれたー……って、あれ?」

 

 とそこへ、アイテムの仕事を終えて一人帰ってきたフレンダが入ってきた。どうやらかなり疲労しているようで、気だるそうな雰囲気と共に大きな溜め息を吐いている。そして備え付けのベッドへと飛び込もうとしたところ、珱嗄が先に寝ているのを見つけた。

 珱嗄は基本的にアイテムの仕事をぶっちぎっているのに、何故か第一位を倒したりレベル5に数多くの知り合いがいたりとアイテムの名を向上させる要因となっているので、アイテムのメンバーはそんな珱嗄に何も言えなかったりする。実際、アイテムの名前を出しただけで仕事がスムーズに進んだこともしばしばだ。

 

 だが、今のフレンダはベッドが使われていることに対して苛立ちを覚えていた。折角寝っ転がってダラダラしようと思ったのに、と珱嗄を恨めしそうに見ている。そしてそうしている内に、うつらうつらと眠くなってきて、睡魔がすぐそこまで迫っているのを感じた。

 意識が朦朧としてくると判断力が鈍るとはよく言った物で、花の乙女である彼女は、男である珱嗄が居るにもかかわらず、ベッドで寝る珱嗄の隣に潜り込んだ。珱嗄は掛け布団を使っていなかったので、もぞもぞと自分に掛け布団を掛け、丸まって規則正しい寝音を立て始める。

 

 傍から見れば男女が一つのベッドで眠っている光景。誰かが見れば勘違いしそうだった。

 

「んー……むにゅ……」

 

 すると、フレンダは身動ぎして更に勘違いされそうな体勢にもつれ込む。近くに人肌があったからか、珱嗄の身体に抱き着き、黒いタイツに包まれた自称脚線美を絡み付かせる。

 普段ぬいぐるみを抱いて寝ていたからか、抱き癖が付いていたようだ。

 

「はぁ……ただいま超戻りました……って……い、一体何が……!?」

 

 とそこへ、これまた疲れた様子の絹旗最愛が帰ってきた。当然、ベッドで眠るフレンダと、彼女に抱きしめられながら眠る珱嗄を見つける。先程までの疲れなど吹き飛んだ様に衝撃が走った顔をする。気が付けばアイテム内で恋人関係が出来ていたなど、驚愕のニュースだ。

 

「な、何故珱嗄さんとフレンダが超抱き合いながら寝てるんですか……!?」

「んー……す、好きぃ……」

「好きって……フレンダ……!? まさかもう大人の階段を超登ったんですか……!?」

 

 驚愕に驚愕を重ねる絹旗。同年代のフレンダが自分よりも先に大人になったという事実(勘違い)が、彼女の心を打ちのめした。がくっと膝を着く絹旗。

 と同時に、彼女の心の内に嫉妬と悔恨の思いが生まれる。ぐぬぬぬぬと拳を握り、恨めしそうにフレンダを睨みつける。この悔しさをはらさでおくべきか、と。

 

「こうなったら……わ、私もおと、大人の階段を……今ここで!」

 

 顔を真っ赤にして、フレンダとは反対側の珱嗄の隣へと寝っ転がり、珱嗄に抱き付く。フレンダへの嫉妬と暗部にいることによってほぼ諦めている恋愛への羨望が、絹旗を動かした。

 ドキドキと激しく動く心臓の鼓動と、顔に立ちこめる熱が頬を赤く紅潮させる。珱嗄の身体は逞しく、自分とは違ってがっしりした感触と匂いに『男』を実感した。

 

 そして、ぎゅっと目を瞑り、心臓の音を聞いている内に―――

 

 

 

 ―――彼女もまた、フレンダ同様眠ってしまった。

 

 

 

 それからしばらくして、三人が眠る部屋にやってきたのは滝壺理后。普段通りのぽやぽやした雰囲気を纏いながら、部屋に入ってきた彼女は、珱嗄を挟んで眠るフレンダと絹旗を見て、くすりと笑った。

 仕事ではかなり残酷なことを平気でやってのける彼女達だが、背の高い珱嗄を挟んで小柄な二人が珱嗄を抱きしめながら寝ているのをみると、まるで父親に甘える娘達のように見えたからだ。

 

 元々珱嗄の放つ大人っぽさや、二人との体格の違いもあるのだろうが、滝壺にとってその光景は中々に微笑ましい物に見えたのだ。

 

 そして、彼女もまた、暗部にいるからかそんな平穏で温かい光景に少しだけ焦がれた。

 

「私も」

 

 故に、その温かい光景に自分も入りたくて、ベッドの上に上がる。三人が寝ているからかなりスペースは占められてしまっていたが、滝壺は珱嗄の頭を自分の太ももの上に乗せて、壁に寄り掛かった。

 このベットは部屋の隅に寄せられており、片面が壁にくっついている。そしてフレンダと絹旗の頭は珱嗄の肩の横になっていたので、珱嗄の頭周辺には人一人が座れるスペースがあったのだ。滝壺はそこに足を伸ばすようにして座り、壁に身体を寄り掛からせて、珱嗄の頭は自分の太ももに乗せたのだ。

 

「おやすみなさい」

 

 滝壺はそう言って、自分も温かなまどろみの中へと身を任せていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「なんじゃこりゃああああああああ!!!!!」

「うわわっ!?」

「なんですか!?」

「んー……?」

 

 そして二時間後、最後に戻ってきた麦野の叫び声によって、全員が眼を覚ます。珱嗄を除いて。

 

「え? え? 何? 麦野?」

「アンタ達何やってんのよ! アイテムの拠点で酒池肉林ってかァ!? あァ!?」

「え? 何言って……あっ」

 

 フレンダは自分が珱嗄を抱きしめていることに気付いて赤面する。

 

「超違うんです、私はフレンダが大人の階段を……!」

「その割には手を離さねぇな?」

「ち、違うんですよ? 別に逞しいとか落ちつくとか超そういう訳では……!」

 

 絹旗は言い訳しようとしたが、珱嗄に引っ付いたままなのを指摘され、赤面し、慌てて珱嗄の身体から離れる。

 

「あ、お帰り麦野」

「お前が一番謎だよ滝壺ォ!!」

「なんか良いなぁって」

「意味不明!!」

 

 滝壺は眠気眼を擦りながらのほほんと返す。

 

 そして、そんな騒ぎをしていると、一番最初に寝ていた珱嗄が眼を覚ました。

 

「ふあ……何、どうしたの麦野ちゃんそんな騒いで」

「てめぇが一番どうしたんだよ!! なんで私以外のメンバーといちゃいちゃ寝てんだコラァ!」

「……ああ」

 

 珱嗄は状況を悟った。そして悟った上でゆらりと笑う。

 

「麦野ちゃんも入りたかった?」

「ぶち殺すぞテメェエエエエエエエ!!!!」

 

 

 

 今日もアイテムは平和だった。

 

 

 


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