◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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VS島風沙耶 2

 珱嗄は基本的には無害、自分から何かしらのイベントを起こすことがあまりない故に、人畜無害で他人をむやみやたらに傷付けたり、意味も無く殺したりなんかしない。自分の力を良く理解し、自分の為に、自分の主義主張に沿って、正しく振るっている。たまに酷い位鬼畜な所業で他人を弄ったり、からかったりするけれど、それだって基本誰かが傷付いたり、禍根を残す訳ではない。

 

 だからこそ、珱嗄がかなりのドSだということを把握している者はそういない。珱嗄は基本通常時は一般人程度、もっと言えば一般人以下の気配しか発していない。珱嗄が普段から気配を隠していなければ、その化け物染みた威圧感から多くの人を気絶させてしまうのだ。故に、初見で珱嗄を見て、弱そうと思うのは仕方が無いことである。とはいえ、その第一印象は大抵直ぐに覆されるので意味は無いのだが。

 初見で珱嗄を只者ではないと察せる者は、戦闘に通じている者や、そこそこ裏の世界にその身を置いている者だけだ。

 

 さて、ここで話を現実に戻そう。現在、珱嗄の前には平莱小学校の三年生、島風沙耶が対峙していた。生意気に吊り上がった瞳と、相手を見下したように歪んだ口元、そして何より自信たっぷりと言いたげな仁王立ちは、どう見ても女王様系の女子だ。そしてその言葉遣いも、相手を思いやらない罵倒がほとんど。徹底したドSロリだった。

 

 

 でだ、

 

 

 ここで、珱嗄というドSと、島風沙耶というドSが対峙し、対決する訳だが虐める側と虐める側が対立した時、果たして勝つのはどちらなのか。それは、やはり力と力の大きさで決まる。その性質で対立し、純粋に力の大きさが勝負を決める。

 そして、その力が大きいのはどう考えても、どう考慮しても、どう譲歩してみても、どう贔屓しても、珱嗄だ。どんな能力だろうが、如何様な戦い方をしようが、覆らない力の差がある。

 

 故に、此処から先は珱嗄の一方的な虐めでしかない。虐める側が、いつも通り虐め、虐める側だった者がいつもと違って虐められる。それだけのことだ。

 

「アンタ、名前は?」

「珱嗄さんだよ。様付けで呼べちんちくりん」

「馬鹿じゃないの? アンタこそ頭を垂れて島風様と呼びなさいよ、ソレが礼儀でしょ? 分かる? この豚が」

 

 にやりと笑ってそう言う島風と、それを飄々と受け流す珱嗄。

 

「人間と豚の違いも分からないのかぁー……随分と頭の悪い子供だな。幼稚園からやり直せば?」

「なっ……言うに事欠いて失礼な……炭にしてやろうかしら?」

「なるほど、お前の能力は火を扱うんだ? コレは良いことを教えて貰ったなぁ」

「~~! つくづく腹の立つ豚ね……! アンタなんて私の足元にも及ばない!!」

 

 島風はそう言って、その手に炎を生み出し凄まじく巨大な業火の塊へと変貌させていく。その大きさから推測するに、その威力はおそらく小規模な範囲を焦土に変えるだろう。

 

「それをどうするの? 花火でもしたいの? ごめんね、俺の常識が正しければ花火は夜にやった方が良いと思うなぁ………あ、ごめんごめん君は女王様(笑)だもんね、常人とは違うんだよね、昼間に花火をして虚しい気分を存分に味わうと良いよ。但しそれは一人でやってね、俺は君と違って忙しいからさぁ~~?」

「誰がこんな所で花火なんかやるかぁあああッ!!!」

 

 島風を煽る珱嗄。完全にキレた島風はその業火を珱嗄に向かって投げ付けた。その速度はけして遅くない。放った時には既に避けられるかどうかも分からない距離に近づいている程だ。

 

 だが、

 

「線香花火にしては大きな玉だな。でもハイ落ちましたぁ~」

 

 珱嗄はその業火の弾を『掴んで』、地面に叩き落とした。線香花火が地面に落ちる様に、巨大な業火の塊は儚く地面に落ちて行った。

 

「え? 嘘……?」

「次は俺の番だよな? えーと、なんだっけ最初にお前が言ってたなぁ……『跪いて足を舐めろ』だっけ?」

「っ……!」

「そのまま返してやるよ……俺の前に跪いて、足を、舐めてみろ」

 

 オウム返し。珱嗄の言葉に島風は一歩足を引いて歯を食いしばる。抵抗とばかりに珱嗄に向かって火弾を連撃するが、全て地面に叩き落としながら一歩一歩、近づいていく。

 島風にはその足音が、終わりへのカウントダウンのようにも思えた。しかし、許しを乞うような態度はプライドが許さない。私が最強で、私が頂上に立っているのだ。私が一番上で、それ以外は足蹴にするべき下等な存在。

 

「負けるわけには、行かないわ……!」

「へぇ?」

「アタシの前に跪いて、平伏せこの豚がッッ!!」

 

 炎を生み出し、全力で珱嗄へと接近する。零距離ならば、躱せはしまい。この一撃で、目の前の豚を地に墜としてやる。そう意気込んで、その小さな手に纏った火炎は、珱嗄の胸へと一直線に突き進む。

 だが、最初に言った。最初に決まっている。

 

「無駄だ、小娘が」

 

 珱嗄と島風では、力の差があり過ぎる。

 

「―――!?」

 

 珱嗄はその手を掴み、島風の足を払う。そして、彼女の身体は宙に浮き、くるりと回る。何が何だか分からない内に、彼女は地面にうつ伏せで倒されていた。目の前には、自分を見下ろす珱嗄の足下が見える。その光景は、自分にとって凄まじく屈辱的。

 

「さて、俺の足でも舐めるか? 小学生?」

「くっ……!」

「どんな気持ち? ねぇどんな気持ち? 豚とか貧弱とか罵ってた相手に平伏してるけど、今どんな気持ち?」

「く……ぅぅぅうう……!」

 

 ぐぐぐ、と顔を真っ赤にして悔しさに歯噛みする島風。その表情は、とんでもなく悔しそうだ。珱嗄はそんな彼女に満足したのか、パーカーのポケットからペイントボールを5個取り出す。まだ持っていたのか。

 

「顔真っ赤だよ? でもちょっと色が足りないな、ほらぐしゃー」

「ぶふっ!?」

 

 珱嗄はペイントボールを島風の顔面にべしゃっと叩き込む。真っ赤な顔は蛍光ピンクに染まった。

 

「もう一発」

「ふぎゅ!?」

 

 更に顔面にペイントボールを叩き込む。髪の毛までペイントボールで蛍光ピンクに染まった。

 

「さて、続いて……」

「え? え?」

 

 珱嗄は島風を持ちあげて、服の襟から体操服のお腹側に三つのペイントボールを入れる。そして、そのまま地面へと落とした。

 

「ぎゃふん!?」

 

 うつ伏せに地面に落ちると同時に、彼女の身体の下から何かを潰した様な音が響く。勿論ペイントボールだ。すると、彼女の身体の下から蛍光ピンクの液体がどろどろと流れ出て来た。上から見るとまるで自殺した人の様だ。

 そして、珱嗄はそんな彼女を見下しながら言いはなつ。

 

「女王になるには速すぎたな、お嬢ちゃん?」

 

 その言葉が最後、島風はうつ伏せのまま、ぽろぽろと涙を流した。但し、放送されているのでそれがバレないように、顔はずっと地面を向いたままだ。それはまるで、地面を舐めさせられている様で、より涙が溢れるのだった。

 

 

 


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