◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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美紀の視点

 私の名前は長峰美紀。平莱小学校三年生、9歳、女。身長129cm、体重は恥ずかしいから秘密。好きな食べ物はチーズケーキ、嫌いな食べ物は特に思い付かないかな。

 私が学園都市っていう超能力の開発をしている街に来たのは、小学一年の最初から。平莱小学校が私の学園都市最初の学校生活の舞台。私は小学二年の頭、此処で『光力掌握』っていう能力を手に入れた。光を操る能力で、最初の判定はレベル2。最初は周囲を照らす位の光の球を作るのがやっとだったけど、時間が経つに連れて身体が成長するとそれも目に見えて成長していった。

 

 そして今、小学三年生になった私の能力は、レベル4。今では光を収束して光線を打つ事も出来る。先生には危険だから人に向けて撃っちゃ駄目だよ、って言われてるからあまり日常で使う様な機会は無いけれど、ちょっと前に私を誘拐しようとした男の人が怖くて、やたらめったら光線で攻撃しちゃったことがある。気が付いたらその男の人は私の足元で倒れてて、助けに来てくれた風紀委員のお姉さんが保護してくれた。

 その時に気が付いた。私の能力は、とっても危険なモノなんだって。人に光線を撃てば人の身体を簡単に貫けるのだから。しばらくはその能力が怖くて、能力を使うのが怖くなったけれど、先生と友達の励ましの言葉のおかげで、今はこの能力と上手くやっていけていると思う。

 

 で、最近大覇星祭が始まった。私はあまり運動が得意じゃないから、少しだけ憂鬱だった。出場する競技もあまり体力を使わないで済む競技を選んだ位だ。だって疲れるんだもん。

 私が出たのは、借り物競走。学園都市中から指定された物を借りて来て、ゴールするのがルール。これなら無理に走らなくても良いし、最悪ビリでも責められない。私が引いたのは『男女のカップル』だった。楽な物を選んだからってこんな仕打ちしなくてもいいじゃないですか、神様。

 

 でも、運が良いことに私は美男美女の恋人らしき人達を見つけることが出来た。片方は金髪で、あの常盤台の体操服、お嬢様っていう存在、片方は青黒いクセのある髪で、とても背の高いお兄さん。どことなく見た目以上の大人っぽい雰囲気を纏っていて、少しだけカッコいいなぁって思っちゃった。

 幸い、お兄さんたちは一緒に来てくれることになった。ほっと一息付いていると――――

 

 

 

 ――――そこが私の大覇星祭が劇的に変わった瞬間だった。

 

 

 

 気が付いたら私は空を飛んでいた。いや、金髪のお姉さんと一緒にお兄さんに抱えられて、空を駆けていたのです。

 広い広い学園都市が、一望出来る空を散歩のように駆けるお兄さん。貴方は一体何者ですか?

 

 でも、吹き抜ける風は気持ちよくて、お兄さんが楽しそうに笑っているから、私もついつい楽しくなって、競技の会場に向かって落ちていく時にはなんだか分からない内に笑ってしまっていた。

 お兄さんと手を繋ぎ、ぐったりしたお姉さんはお兄さんが背負って、一緒にゴールした。常盤台の超電磁砲と呼ばれている有名なレベル5、御坂美琴さんに勝ってしまいました。お兄さんのおかげとはいえ、とても嬉しかった。

 

 

 

 競技の後、お兄さん達と別れ、初日、二日目と大覇星祭は終わっていった。そして三日目、何気なくお兄さんを探している自分に気が付いた。つまらない大覇星祭で、お兄さんといたあの時だけがすごく楽しかったから、またお兄さんに会いたくなったんだと思う。

 そして、私は本当に運が良い。お兄さんはまた金髪のお姉さんを連れて私の前に現れた。あの時と同じ、楽しそうに笑みを浮かべて。私は嬉しくてつい、速くも無いのに駆け出して近寄って行った。お兄さんは私のことを覚えてくれていた。

 

 お兄さんの名前は珱嗄さん、そして金髪のお姉さんの名前は操祈さん。大覇星祭の特別競技、恋人繋ぎに抽選で当たって、参加しているらしい。

 平莱小学校はその広さから、会場に選ばれたのだろう。私は初めて平莱小学校に入って良かったと思った。

 

 

 そして、そこからの競技はやっぱり楽しかった。お兄さんが私とお姉さんを抱えて、一気に参加者の皆さんを突き放す。空中を駆けた時みたいに、地面を蹴る度に空気を切り裂いて進む感覚が、とても心地良かった。お兄さんの楽しそうな横顔と、広い背中に背負われている安心感が、とても心地良かったのだ。

 最初の障害物、ペイント液の雨だって、お兄さんの能力なのか私達の方を液が避けていく。邪魔するものなんて何もないかの様に、お兄さんは一直線に最初の障害物を突破した。その後、お姉さんと一緒に地面に降ろされた時、お兄さんの温もりが離れていくのが少しさびしい気がした。

 

 次の障害物、私と同じ平莱小学校の子達がペイントボールを投げてくる空間に辿り着いた。ここは私の力の見せどころ。光線を使えばペイントボール程度全部撃ち落としてやるんだから!

 でも、その間は私は動けない。でも、今はお兄さんがいる。私はお兄さんの肩車を要求した。お兄さんの役に立ちたくて、お兄さんに私の能力を見て欲しくて、お兄さんに笑って欲しくて、少しせっかちになっていたかもしれない。

 

 

 ―――恥ずかしいぃ……

 

 

 そう思ったのは、肩車をされ終えてから。自分の足の間にお兄さんの頭が挟まれている。しかも、この状況は中継で放送されているのだ。どうしよう、凄く恥ずかしい。少し前は男の先生に肩車されても恥ずかしいなんて思わなかったのに、お兄さんだと何故か恥ずかしかった。

 でも、今更降ろしてなんて言えない。それに、お兄さんはもう進み始めている。私は羞恥心を我慢をしながらも、光線で迫りくるペイントボールを全て撃ち落として行く。お兄さんが褒めてくれた。胸の内が暖かくなった。ぽかぽかした気持ちがどんどん胸の中を満たして行って、いつもより集中して光線を操作出来た気がする。

 

 そして、もう少しでこのペイントボールの空間を突破出来そうという所で、一組のペアに抜かれた。瞬間移動の使い手がいるみたい。こっちに振り向いて、とてもムカつく笑顔を浮かべて来た。お兄さんとは大違い。お兄さんが私の名前を呼ぶ。返事をすると同時に光線を撃ってしまった。人に向かって撃ったので、大分焦ったけれど、向こうにいた私の同級生の初瀬遊里ちゃんが防いでくれた。

 

 彼女は私達の世代の中でもかなりの実力を持つ少女だ。実は風紀委員の子でもあったりする。ああ、こっちを睨んでる………後で説教されそうだなぁ……。

 

 でも、お兄さんは遊里ちゃんの能力を見て面白そうに笑っている。少しだけもやもやした気持ちになった。私の能力よりも遊里ちゃんの能力の方が興味を引いたから、ちょっとだけ嫉妬しちゃった。

 でも、

 

「美紀ちゃん、とりあえず瞬間移動の方よろしく。光の速さより速く移動は出来ないだろ」

 

 お兄さんがそう言ってくれた。私の能力を頼ってくれた。私を頼ってくれた。だからもやもやした気持ちなんて一瞬で消えて、またぽかぽかした気持ちが胸を満たした。元気よく返事をして、私は瞬間移動のお兄さんに対峙する。

 

「あー……悪い、お嬢ちゃん。こりゃ勝てねーわ……次の瞬間移動までにはまだインターバルが必要だし、流石に光より速く移動は出来ない……降参だ」

「む……そうですか……」

 

 ちょっとだけ拍子抜け。やる気満々だったのに不戦勝だった。少し不満気味。

 でも、お兄さんの方を見たらそんな気持ちは吹き飛んだ。だってお兄さんは何時の間に隠し取ってたのか、ペイントボールを遊里ちゃんの顔に叩きつけていたから。蛍光ピンクに染まった遊里ちゃんの顔は、おかしくて笑っちゃった。

 

 お兄さんといると、やっぱり楽しい。胸がぽかぽかする。お兄さんと一緒なら、憂鬱だった大覇星祭も、悪くないかな。

 

 


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