◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
翌日、珱嗄と食蜂は、最も大きく優秀な小学校である
恋人繋ぎという競技は、一日では終わらない。三つの競技を四日目から七日目に掛けて一つずつ取り行っていくのだ。場所は各競技毎、一日毎に変わるが、その最初の開催場所がこの小学校である。ちなみに、この平莱小学校というのは、校舎の広大さにおいて学園都市に存在する学校群の中でも上位に位置する学校だ。
大覇星祭において、学校同士は交流しながらも競い合う関係にある。その競い合いの中で、例年成績上位にその名を連ねる五校のことを『五本指』と称し、その五本指の学校には能力開発の領分でトップを誇る『長点上機学園』や、レベル5の三位と五位を生徒に持つ『常盤台中学』がその名を不動のものにしている。そして残る三本の指の一つに、この会場である『平莱小学校』も入っている。
学校の広大さと幼少期からエキスパート教育を施すことによってレベルアップを図る英才教育は、学園都市内でも脅威の実力を誇る。よってその学校の児童達は学園都市の生徒達に『
その理由は、平莱小学校には小学校故に制服が無いから。つまり、少年少女を襲って好きにしたい欲を持った者は、どの小学生もが畏怖の対象になったのだ。襲おうとした相手が平莱小学校の生徒だったら? と考えただけで、襲う気は無くなるだろう。
とまぁ、平莱小学校のこんな説明は特に覚える必要は無い。
この会場で行われる恋人繋ぎの競技名は『子守り』。子は宝、故に護るべしという平莱小学校の校長が掲げる理念を元に創られた競技だ。平莱小学校の校長は、入学式の演説で、「どんなに強力な能力を持った児童であろうと子供であり、子供の危機には真っ先に対峙するのが大人の役目だ」と説いているのだ。
ルール説明をしよう。
まず、この恋人繋ぎに参加する男女ペアは60組。前提として、平莱小学校の三年生の児童が一人ずつ付くことになっている。
そして、広大な学校で決められたコースにある障害物を越えて走るのだ。所謂、障害物競争である。但し、ペアに付いている児童は『無傷』でゴールしなければならない。
用意されている障害物には全て、ペイント弾にも使われる液体が使われている。もしも児童にその液体が一定以上付いていれば、そのペアは失格。恋人繋ぎ第一競技での得点は無しだ。そして、無傷でゴールしたペアには順位ごとに得点が加算されるのだ。
まぁ説明はこんな所である。
という訳で、珱嗄達のペアにも児童が一人付く。やって来たのは、二人共見覚えのある児童だった。
「あ! お兄さん達!」
「! え、貴方確か……借り物競走の時の!」
「確か長峰美紀ちゃんだったっけ?」
「はい! あの時はありがとうございました!」
そうやってきたのは、長峰美紀―――大覇星祭初日の借り物競走で珱嗄と食蜂に協力を求めた少女である。そういえば、彼女は平莱小学校の児童であることを実況が言っていた。と珱嗄は密かに思い出していた。
そんな珱嗄を余所に、食蜂は長峰美紀と軽い握手を交わしている。
「さて、と……お嬢ちゃん、お前はどんな能力を持ってるんだ? これから一緒に走る以上、戦力の確認は必要だ」
「えと、はい。私の能力はレベル3の『
「十分だよ。中々面白い能力だ」
珱嗄はそう言って、美紀の小さい頭にぽんと手を置いた。自分の能力が褒められたことが嬉しいのか、美紀はえへへと笑って頭を珱嗄の手の平に擦り付けた。まるで猫みたいだ。
反対に、それを見た食蜂は少しだけ微妙な顔をしていた。構って貰える美紀を羨む気持ちと、子供に嫉妬する自分に呆れるような気持ちが混じり合って、なんども奇妙な気分になっていたのだ。
「あ、そうだ! お兄さんとお姉さんの名前を教えて貰っても良いですか?」
そんな食蜂はさておいて、美紀はそう言う。そういえば、お互いに自己紹介もしていなかったなと思い、珱嗄と食蜂は苦笑した。そして、此方を見上げる美紀に対して出来るだけ優しく、自己紹介を始める。
「私の名前は食蜂操祈よぉ、しっかり覚えておきなさい?」
「俺の名前は泉ヶ仙珱嗄だ。好きなように呼んでくれ」
簡潔な自己紹介。美紀は二人の名前を何度か口の中でブツブツとつぶやいて、にぱっと笑った。
「はい、覚えました! 珱嗄お兄さんに、操祈お姉さんですね! 私は長峰美紀といいます、よろしくおねがいします!」
「はいよ」
「よろしくねぇ」
そして、自己紹介が終わったその時
「では、恋人繋ぎ―――第一種目を始めます!」
『リア充は死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』
アナウンスの声と、観客の煽り声が会場を包み込んだ。