◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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対御坂美琴戦

 珱嗄がアイテムに加入してからおおよそ三日。八月十九日のこと。

 

 その日、珱嗄はアイテムとしての依頼に初めて出動する事になった。やる事はただ単純にとある施設内で行なわれる密売を阻止し、その組織を殲滅することだが、珱嗄の仕事は麦野の気遣いで人殺しをすることのないであろう、監視だった。逃げ出す者の監視をし、無線機で麦野達殲滅組に連絡するということだ。

 

「はーい、麦野ちゃん達。敵さん車に乗り込んでくぜ?」

『ええ、こっちでも把握したわ。ただ、狙撃役や周囲の警戒役がいないのが気になるけど……まぁいいわ』

「頑張れ」

 

 珱嗄は無線を切った。そして、振り向き、嘆息して地面を転がる数体の人間に視線を向けた。それは、逃げる為の車周辺で待機していた狙撃と警戒役の構成員。一応殺しても問題ない様だったので、珱嗄は気晴らしついでに彼らを全員始末したのだ。麦野の気遣いは、無駄に終わった。

 

「さて……どんなもんかね」

 

 珱嗄の背後、脱出用の車が爆発する。フレンダの爆弾が車を吹き飛ばしたのだ。そして間髪入れずに鈍い音が響いた。これは絹旗の殴打の音。そして、最後に緑色の光が光り、そこら一帯が破壊された。これは麦野の能力、【原子崩し(メルトダウナー)】の攻撃だ。ここまでやれば、ほぼオーバーキル。密売組織は一人残らず命を落とす結果となった。

 

「ひゅー、派手だねぇ……ま、こんなもんか」

 

 珱嗄はそう呟いて、ゆらりと笑った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「結局さ、水着って魅せる為にある訳よ。だからプライベートプールで誰もいないなら高い奴買った意味ないってゆーか」

「でも市民プールや海水浴場は超混雑していて泳ぐスペースは超ありませんが」

 

 フレンダと絹旗はお互いまだ命のある構成員の無力化をしながらそんな話をしていた。無論、珱嗄も既に合流済みで、無力化された構成員をぽいぽいと投げ捨てて一ヵ所にまとめていた。珱嗄が構成員の3割を殺している事には4人とも気付かなかった。

 

「滝壺はどう思う?」

「ん……浮いて漂うスペースが有ればどっちでもいいよ?」

「あ……そう」

「というか、フレンダ。見せる相手なら珱嗄さんがいるじゃないですか」

 

 滝壺は珱嗄の方に視線を向けてそう言う。するとフレンダは少し照れ臭そうに珱嗄の方を見て言葉を詰まらせた。

 珱嗄はあんな性格故に、かなり恋愛事は少ないが、実の所中々整った顔立ちをしている。しかも、生きてきた長い年月と経験から、行動の子供っぽさとは裏腹に貫録を感じさせる雰囲気を纏っているのだ。加えて、気は利かせられるし、実力は申し分ないし、多芸だしで文句無しの優良物件だ。しかも、まだ分かっていないが珱嗄はその年齢故に女性の年齢を気にしたりもしない。まぁ流石に恋愛感情を持てる年齢は限られるが。

 

「お、珱嗄はその……アレよ! なんというか、ほら、ね?」

「ほらと言われても超理解できませんが」

「むー……絹旗だって珱嗄の事ちょっと気に入ってる癖に」

「なっ……だからあれは超誤解だって言ってるじゃないですか!」

 

 わーぎゃーと言い合うフレンダと絹旗。興奮しているのかその手の先では気絶した構成員の関節や骨がバキバキに折られていた。痛々しい。

 

「はーい、仕事中に駄弁らない。次の仕事よ」

「何?」

 

 そこに先程まで電話をしていて空気だった麦野が介入する。どうやら新しい仕事の様だ。

 

「謎の侵略者(インベーダー)からの施設防衛線!」

 

 麦野はそこそこ楽しそうに、そう言った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 御坂美琴の施設破壊行動は、かなり終盤だった。絶対能力進化実験に関わる施設は残り2つ。御坂美琴はレベル5の電撃能力者、科学のセキュリティで固められた施設はかなり分が悪く、今まで随分と破壊されていた。

 故に、アイテムに施設防衛を頼んだのだ。暗部は学園都市の精鋭の集まる組織、実力だけなら折り紙付きだ。しかも、金さえ積めば動いてくれるのだから、これほど便利な物はない。

 ここで実験を頓挫させるには、コストも人材も機材も大量に積んでいる。いまさら中止するわけにはいかないのだ。故に、研究者達は残り2つの施設に残るデータを他の施設に移動させ、再度実験を行えるように環境を移す事にしたのだ。

 

「侵入者は電撃能力者(エレクトロマスター)か……」

 

 珱嗄はそう居ながら内心で御坂美琴を思い浮かべた。知っている電撃能力者が彼女しかいなかったからだ。まぁ彼女をあしらえる珱嗄からすれば、それ以下の電撃能力者など敵では無い。

 

「ま、単騎で乗り込んでくるのなら楽に捻れるでしょ。ギャラも悪くないし、丁度いい仕事じゃない」

「超問題なのは、敵が襲撃する施設が2つあるってことですね」

「あ、じゃあじゃあ片方には私一人で行く!」

 

 フレンダがそう言って名乗り出た。その真意は、撃破ボーナス分のギャラを貰う為である。それを聞いた麦野と絹旗は、苦笑気味に肩を落とした。

 

「まぁいいわ。それじゃあ頼んだわよ……くれぐれも、早まるんじゃないわよ?」

「まっかせてよ!」

 

 意気込むフレンダ。そこからはトントン拍子に役割は決まり、フレンダを一つの施設に、他はもう一方の施設に行く事になった。とはいえ、麦野と滝壺は追々フレンダの居る施設の方へと援護に行く事になっているが。

 

「ああそうそう、珱嗄」

「何だよ麦野ちゃん」

「貴方はフレンダの方に行ってくれるかしら。援護とか戦闘とかは最低限でいいから、万一フレンダがピンチになった時用に付いといて頂戴」

「リーダーが言うのなら、そうしよう」

 

 珱嗄はフレンダの方へ付く事になった。フレンダは特に能力は持っていない、故に卓越した爆弾使いな訳だが、それでも相手が能力者となれば万が一の事を考えざるを得ない。5秒間とはいえ、防御性を見れば無敵な珱嗄を付けておくべきだろうという事だ。

 

「それじゃ、仕事を始めましょう」

 

 麦野の言葉を仕切りに、珱嗄達は移動を開始した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 アイテムの仕事が来た夜、御坂美琴はとある製薬会社に忍び込んでいた。目的は勿論、施設の設備及び過去の収集データの完全破壊。此処を潰せば残りの施設は一つ。全て潰せば御坂美琴のクローンが殺される事はなくなり、また実験も中止となる。満身創痍な身体はただそれだけの為に突き進んでいた。

 

「残りは後二基……何事も無く終われば良いけど……」

 

 施設内を走り、最奥のデータベースへと向かう。幸い、研究者の姿はない。このまま何も無ければ、彼女はデータベースを無事に破壊し、残る一ヵ所の施設を襲撃するだろう。

 だが、研究者達も汗水垂らして収集してきたデータの全てを簡単に失う訳にはいかない。故に、彼女を食い止める手段がアイテム。

 

 

 刹那、御坂美琴の頭上、天井に火花が奔り――――瓦礫となって落ちてきた。

 

 

「っ……!」

 

 だが、磁力で落下の軌道を逸らすことで事なきを得る御坂。内心、ため息を吐きながら、やはりそう上手くはいかないかと気を引き締めた。そして次の瞬間には敵、フレンダの次の手が打たれている。天井を崩した、壁なんかを焼き切るツールが火花を散らして彼女に迫る。見れば床や壁、果ては天井にもテープのりの様なツールが張り巡らされていた。そして、その火花の向かう先には……爆弾入りの人形

 

「なっ……爆弾!? っ……なんでこの手の奴はぬいぐるみに入れたがるかな……!」

 

 瓦礫を磁力で持ち上げ、爆風や熱の盾にし、走る御坂。次々と奔る火花と爆発する人形達。状況は、フレンダが御坂美琴の動きを読んでいた。

 

 

 ◇

 

 

「おっしいなぁ……いつもみたいなリモコン式ならやれてたのにぃ」

「どうよフレンダちゃん。敵はやれたか?」

「んーん、全然。どうやら今まで相手してきた能力者とはレベルが違うみたい」

「へぇ……ってあれは……」

 

 珱嗄はフレンダが導火線に火を付けて爆弾を遠隔で爆破している横で、御坂美琴の姿を見つけた。フレンダはレベルが違うと言ったが、確かにその通り。能力のレベルが違う。言ってしまえばレベル5だ、爆弾程度でやれるほど甘くはない。

 

「なるほど……あの子のやってたのはコレか……」

 

 珱嗄はゆらりと笑った。そして、フレンダの作っておいた爆弾入りの人形を投げて、御坂の通る道に張り巡らせてある導火線の上に置く。先程までなかった場所に急に現れた爆弾が、御坂美琴の不意を衝く。さらに、導火線の途中に置かれたので、その先にある爆弾も時間差で爆発するのだ。原作よりも厄介な敵となっている。

 

「フレンダちゃん。アレは多分相当な使い手だ、油断しない方がいいかも」

「分かってる訳よ! おりゃっ!」

 

 どうやら御坂美琴は近づいて来ている様で、フレンダと珱嗄は移動しながら導火線に火を付けて行く。

 だが、流石の超能力者(レベル5)。あらゆる爆弾と知略戦略が全て対処されてしまう。

 通路を崩壊させて足場ごと落とそうとしても、磁力で崩壊した通路の瓦礫を繋ぎ合わせて落下防がれちゃお手上げである。

 

「何アレ、ずっる!」

 

 当然、フレンダもそんな力技の対処法をされてはそう言いたくもなる。とはいえ、珱嗄としては見てて面白いので、良いのだが。

 

「どうする?」

「とりあえず……あそこに入って!」

 

 フレンダの指示のままに、かなり広めの部屋の中へ入る。薄暗く、道はなかった。つまり、袋小路である。勿論、御坂美琴も追ってきて部屋に入ってくる。結果、珱嗄達に逃げ場は無くなった訳だ。

 

「……慌てて逃げ込んだのか……それとも」

「―――どう思う?」

 

 フレンダは追い詰められた側の人間であるが、余裕を持ってそう言った。

 

 

 

 






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