◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
あらすじ
珱嗄の策略により、腹黒爺木原幻生の思惑が全て完封。爺の武器と盾であるエクステリアと御坂妹は第一位と五位が警護中、そして珱嗄は打ち止め、第二位と共に爺を確保しに動きだした!
◇
珱嗄と打ち止め、そして第二位である垣根帝督は車で移動していた。何故飛ばないのか、何故跳躍で移動しないのか、そういった疑問は当然だろうが、これは一種の余裕だ。ほぼ全ての思惑を全て完封し、思い付く限りでは手の返しようが無い状態である木原に対して、急ぐこともないのだ。
ということで、タクシーの狭い空間の中、珱嗄達は余裕淡々と談笑していた。
「で、今どういう状況なんだ?」
「今から捕まえに行く爺……木原幻生は、どうやら御坂美琴を素体にレベル6を創るつもりだったらしくてな……とりあえずそれを暇潰しに阻止してたんだ。で、思ったより根深い闇に浸ってるイカれた奴みたいだから捕獲しに行こうぜ、って事になった訳」
「なるほど……これ絶対俺いらないよな」
「でも人数がいれば変に逃げられた時の逃げ道を防げるだろ?」
「なるほど、お前徹底してその爺を捕まえるつもりなんだな……恨みでもあんのか?」
「いや、会った事も関わった事もないけど?」
「あ、同情心が沸々と湧いてきた」
垣根と珱嗄の会話は、他人が聞けばとりあえずどこぞの爺さんをこの不良共が虐めようとしているんだなと判断するだろう。パーカーの男の膝を枕に寝ている少女が少し場違いだが。
とはいえ、その爺は前代未聞の極悪かつ腹黒爺だ。正義の反対はまた別の正義、珱嗄達だけが正しいとは決して言えないだろうが、それでも大多数の……少なくとも学園都市に存在する230万の生徒達にとっては、珱嗄達が正義なのだろう。
「それで、何処に向かってんだ?」
「さぁね……第五位のしいたけによれば、どうやらこの先にある研究施設に木原幻生は現れるらしいけど?」
「ふーん……で、その携帯はなんだ?」
「あ、今から電話するから待って」
「……」
珱嗄はそう言って携帯番号をアドレス帳から引き出し、電話を掛ける。その相手先は、麦野だ。
「あ、麦米ちゃん? 悪いんだけど、○○○って施設に至急向かってくんない? 爺確保です」
『あー……今仕事中なんだけど』
「すっぽかすか手っ取り早く潰すかしてさっさと来い」
『私一応アイテムのリーダーなんだけど……』
「頼んだよ」
珱嗄はそう言って電話を切った。そして次に、電話に出ないだろうと予想して御坂美琴にも同じ内容のメールを送った。同じく一方通行、食蜂操祈にも同様に同じメールを送る。
エクステリアや御坂妹の警備も必要なので、ここは新しい人員を増やすことにする。アイテムの絹旗、滝壺、フレンダの三人である。
「メール送信、と……あ、フレンダちゃんから返信来た……母親が危篤? 知るか、トドメ差してとっとと来い」
「いやそれは酷くね?」
「あの子に両親はいない。嘘吹いても無駄だ」
「…………馬鹿なんだな……そのフレンダってやつ」
「基本アホの子なんだ。容姿は整ってるし、きっとその筋の人には大人気だぜ」
アイテムのメンバーは基本的に容姿は整っている美少女揃いだ。しかも、個性的かつ被りがないというのも魅力だろう。しかしまぁ、それでも到着まで時間的にも余裕がある。
珱嗄と垣根は、差し当たってどんな女の子が可愛いのかを口論することにしたのだった。
◇ ◇ ◇
一方その頃、木原幻生はというと、珱嗄達が向かっている施設に向かっていた。
勿論、彼自身現状をちゃんと把握している。自分の思惑が何者かによって全て封じられたという現実を。それでもなお、敵地へ赴く様な真似をしているのは、そうしなければ自分のやっている闇の部分が露見する可能性があるからだ。
予定していた視察施設に赴かない、となればそれなりの理由が必要になる。それ位なら簡単に見繕って誤魔化せるだろう。だがしかし、それでもやましいことをしている以上穴は必ず生まれる。
それを、ここまで自分を完封する相手が見逃す筈が無いのだ。故に、ここは向かうしかない。向かって、正々堂々逃げ果せるしかないのだ。
故に、彼は車の中―――歯噛みしていた。追い詰められていた。
「く………困ったねぇ……」
膝の上に肘をおいて、顔の前で手を組む。焦った表情には汗が一筋流れ、そして貧乏揺すりも激しさを増していた。どう考えても現状を打破する方法が思い浮かばない。どうしたものかと考えていく内に、少しづつ珱嗄達と木原幻生の距離は少しづつ狭まって行く。出会うまでは、もう数時間と掛からないだろう。
「どこの誰が邪魔しているのかも分からないし……エクステリアとの接続も……仲介人も連絡が取れない……手札が全部持っていかれた気分だよ……全く、どうすればいいのやら」
最後の最後、木原の武器は最早対能力者の音響武器―――能力無効化音声であるキャパシティダウンの強化改造バージョン位のものだ。
「………」
最早言葉は出なかった。黙して、ただ対面の時を待つのみ。
黒幕と人外。両者の対面はすぐそこまで迫っていた。