◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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ツッコミ人員増加

 エクステリアに辿り着いた食蜂達は、そこで保護していた御坂妹をとりあえず確保。

 食蜂操祈の大脳新皮質を切り取って培養、肥大化させた大きな大脳を目の前に、二人はそこそこ凄いモノを見た様な反応をした。食蜂操祈は馬鹿馬鹿しいと嘲笑した様な冷たい瞳を、一方通行は実験で見たクローンと同じものかと機嫌悪そうに舌打ちした。

 見てみる限り、そのエクステリアには特に何も外傷がなく、人気も無いので何かされた様子もない。だが、その内側がどうなっているかはまだ分からない。既に木原幻生による脳波の調律が行なわれているのかもしれないのだ。

 

 そこで、珱嗄が一方通行に言い渡した『頼み』が生きてくる。

 この培養・肥大化された巨大な脳は確かに凄まじいものだ。が、しかし。しかしだ、結局の所、これは脳なのだ。一方通行にとっては、最早眼を背けるようなものでもない、ちょっと大きな脳みそでしかないのだ。

 さて、ここで思い出してほしいのは、一方通行が打ち止めを救った時のこと。彼が取った『救出方法』のことだ。彼はそのおそるべき学園都市第一位の能力、『ベクトル変換』を用いて『打ち止めの脳の中の電気信号のベクトルを操作、脳の情報を改竄した』。

 

 

 と、いうことは?

 

 

『そのでっかい脳も脳の情報弄れば再調律可能じゃね?』

 

 

 これが、珱嗄の出した結論だった。

 

 また、この施設はエクステリアという『脳』を管理する施設であり、そういった脳の情報を管理する為の設備が充実している。

 それを使い、まず二人は食蜂操祈の脳の中の情報を解析し、何から何まで脳波、電気信号、脳の活動の隅々に至るまで調べ上げた。

 

「なんだか妙な気分ねぇ……」

 

 食蜂はそう言って、苦い顔をした。普段脳の中を覗くのは自分だったので、記憶や感情では無いとはいえ、こうして脳の中身を覗かれるというのは、中々気分が良いとは言えなかった。

 一方通行もそれをなんとなく理解出来たので、作業はささっと済ませる。かなり専門的な機材だったが、一方通行もそれなりに実験関連に関わってきた存在、なんとなく感覚で使い方は理解出来た。

 

「まァ、これも必要なことだ、我慢しやがれ」

「分かってるわよぅ……はぁ、脳の中を弄るのに脳を覗かれるなんて……皮肉よねぇ」

 

 そう言いながら、二人は黙々と作業をこなす。そして、約一時間後、二人は食蜂の全ての脳データを調べ上げ、そして一方通行はさらっと丸暗記した。

 

「さて、それじゃあ始めるとするかァ……さくっと改竄してやンよ」

 

 一方通行はそう言うと、培養液を放出するチューブからケースの中に入り込む。一応酸素マスクを付けて入ったので、とりあえず窒息という意味では大丈夫だ。そして、そのまま剥き出しの手で大脳に触れた。

 

(……まずはデフォルトの反射を……解除……さて、今度は邪魔(天井)もいねェし……余裕だっつの)

 

 一方通行は覚えた食蜂操祈のデータと、エクステリアの中のデータを照合。すると

 

(ハッ……珱嗄の思った通りだなァ。ちゃっかり調律されてやがる……木原ってのは余程手の早ェ野郎みてェだな……だが、相手が悪かった)

 

 一方通行は木原幻生の運の悪さに同情する。珱嗄を相手にしてしまえば、最早彼自身も勝てる気がしない。第一位が勝てる気がしないと太鼓判を押すのだ。ただの腹が黒いだけの爺に勝てるわけがないだろう。

 

(……データを照合し、木原のデータになっている部分を………第五位のデータに書き換える……!)

 

 食蜂はエクステリアの脳情報を管理しているモニターを眺めながら、珱嗄程とは言わないが、一方通行の出鱈目な能力に冷や汗を掻いた。見れば、次々と脳のデータが書き換えられていくのが分かる。脳の電気信号が、脳波が、活動量が、彼の能力によって変化する。

 そして、その変動が止まった時。そのデータは食蜂操祈の脳と同様のものへ、変わっていた。

 

「凄い……」

「っハァッ……どォだ、第五位。ちゃんと編集はされたか?」

 

 培養液の流れのベクトルを操作し、元のチューブから出て来た一方通行が聞く。食蜂はその問いに対して、引き攣った笑みで成功を示したのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「で、何の用だよ……!」

「そうカリカリするなよメルメン。たこ焼き、食う?」

 

 その頃、珱嗄は垣根帝督を呼びだしていた。どうやってかというと、彼に電話して、一回頼みを聞いてやるという条件を出したのだ。垣根は珱嗄の強さを知っている。故に、その条件は破格なものだと判断したのだ。

 

「いらねえよ……それで、本当に何の用だよ?」

「いやね、ちょっと妙な実験やってる爺がいるらしいからさ……暇潰しに潰してやろうと思って」

「へぇ……」

「それでどうも腹の黒い爺みたいでね……それならこっちもレベル5使ってやろうと思って」

「……オイ待て? お前まさか俺以外にも……?」

「ああ、今んトコ第一位と第五位を使って動いてる。別行動だけど第三位も同じ目的で動いてるから……お前も含めてレベル5は今4人かな? で、呼べば第四位も来る」

「お前どんだけ過剰な戦力で爺虐めてんの!? 老人愛護もたじたじだわ!」

 

 垣根が不機嫌通り越して驚愕の表情で突っ込んだ。一人の爺の実験を潰す為に、レベル5を4,5人投入する奴が何処にいるというのだ。しかも、結構上位陣を起用している。第一位から第五位まで、フル装備じゃねぇか。

 

「今んトコ向こうの思惑完封中」

「だろうな!! 最早俺に何をさせたいのかも分からねーよ!?」

「お前には張本人の爺を軽く拘束してほしい」

「いきなりクライマックスじゃねーか! まだ来たばっかの客にメインディッシュぶち込むなよ! まずは前菜だろうが!!」

「わはは、例えが秀逸だな。残念だが俺のフルコースはメインディッシュしかねーよ!」

「それは最早コースじゃなくね!?」

 

 珱嗄と垣根の掛け合い。垣根は珱嗄の行動のアグレッシブさに最早呆れかえる程だ。

 そして、珱嗄はひとしきり笑った後、垣根に手を差し伸べてゆらりと笑いながら聞く。

 

「で、手伝うの? 爺から逃げるの?」

「……そんな言い方されちゃあ断れねーな」

 

 垣根はそう言って、珱嗄の手を取った。

 

 


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